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夏休みは宇宙人に侵略されました 作者:天崎 剣
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17/21

17◇一週間

「孝史、司、秀生、勇大、稔、それから、ウチ。どう、六軒で一日ずつ、トリビーちゃんたちを預かるってのは。どうせ、目的もなく、ぷらぷらしに来ただけみたいだしさ、色々話聞いてみても、特にあたしたち地球人に危害加えることもないと思うし。一日ぐらいなら、何とか持ちこたえられるんじゃない?」
 絵理は冴えていた。
 なるほど、それは良いかもと、俺たちはみんなでうなずいた。
 ホントなら、絵理んちにはトリビーたちを行かせたくはなかったんだけど、俺も俺で、四六時中緑のぬいぐるみに囲まれてるのには堪えられず、二つ返事で賛成した。
「いい、約束よ。ひとつ、彼らに危害を加えない。ふたつ、やたらと人目に触れさせない。みっつ、彼らを売ろうとしない。――特に、稔! あんたんちはお金持ってんだから、買いたい物があるなら、小遣いで何とかしなさいよ! わかってる?」
「わ……わかったよ。じゃ、なくて、わかってるよ。そんな、酷いこと、するわけないじゃん」
「もし、マスコミに売りつけるようなヤツが、この中から出たとしたら……わかってるわね。しばくわよ」
 絵理女王様のおおせの通りに、俺たちは一日ずつ、順番でトリビーたちの面倒を見ることになった。
「最初は、ウチで預かるわ。次に司、秀生、勇大、稔、そして最後に孝史んち。このローテーションでいけば、少しは孝史の負担も減るんじゃない?」
「突然、緑のぬいぐるみを大量に持ち込むと、家族が不審に思わないか?」
 司には、『ぬいぐるみ』が引っかかるらしい。男子中学生の部屋には不釣り合いな物体だからな。
「俺んちィ、兄ちゃんとおんなじ部屋なんだけどォ、バレないように、できるかなァ」
 勇大には五つ上の大学生の兄がいる。年が離れてるのもあって、寝るとき以外は、ほとんど一緒にはいないようだけど。
「バレないようにするのが、最低条件よ。スポーツバッグにでも入れておいて、誰かが部屋に入ってきそうになったら、そこに逃げ込むよう、打ち合わせておくのね。動くぬいぐるみがいたら、誰だって不審がるもの。トリビーちゃんは、みんなにしっかりと、演技指導してね。いざとなったら、ぬいぐるみのフリを続けるのよ」
「アイアイマム!」
 ぴしっと、敬礼するトリビー。うっかり、『アイアイサー』と言いそうなところを、しっかり『アイアイマム』で答えている辺り、コイツの雑学レベルはかなりのものなんだが、一体どこでどう取得してきたんだ……。
 マジで、意味不明なヤツらだ。『遊びに行くなら全力で』って言葉がこれほどしっくりくるヤツらは、そうそういない。

 緑キングの話は、九割方嘘だと……耳にした。
 だったら、どこまでがホントで、どこからが嘘だったのか。
 トリビー星は存在していたのか。その星には、もう戻れないのか。宇宙をさまよって、この星に辿り着き、俺たちの遠い遠い祖先と出会った話、たくさんの知的生命体の話……、どれもが、どこかで聞いたような話だったけど、それでも、一瞬興味をそそられてしまった。
 だけど、こうして、宇宙船に乗ってやってきた事実は変わらない。
 宇宙船の中で、コイツらは、一体どんな風に地球を見ていたんだろう。そして今、見ているんだろう。
 宇宙に存在する無数の星の中から、地球を選び、こうして降り立った。その心境は、どんなものなのか。
 ロボットに変形させられた俺んちの中で、偶然にも地球を見下ろしたのを思い出す。暗い宇宙の中で、一際輝く宝石のような星だ。太陽系の中で、たった一つだけ、命を生み続ける星。
 砂漠の広がるトリビー星は、何色だったのか……、赤か、黄か、もしキングの話がホントなら、トリビーたちは故郷の星を見たことがないはずだ。自分たちの居場所を探す、長い長い旅を続ける彼らは、地球の美しさに、目を奪われたに違いない。
 そうして、もしかしたら、この星を終の棲家に選びたい、ずっと暮らしていきたいと思っていたのかも知れない。一人、地球に来て、俺と出会って、たくさん遊んだ気になって、家族とも、楽しさを分かち合いたいと思っていたのかも知れない。
 俺たちが思うのよりずっと、無邪気で、無垢な、緑の服着た変な宇宙人。そいつらとの出会いは、俺の心を、確実に成長させていた。


「じゃ、頼むよ、絵理。それから、壮太も。ロボットごっこは勘弁な。あんまり騒ぎになるようだと、マジでマスコミ押し寄せるから、注意しろよ?」
 午後四時、傾きかけた太陽が、山の稜線からせり出してきた入道雲の陰に、隠れそうになっていた。
 絵理んちの玄関まで、みんなで手分けしてトリビーたちを運んだ。『外に出るときはぬいぐるみのフリ』の練習かねて、段ボールでの移動だった。
「わかってるわよ。誰に口きいてんの? 孝史のクセに。見くびらないでよね」
 上から目線の絵理は、いつもより、頼もしく思えた。
 ぎゅうぎゅうに詰め込むわけにもいかず、ミカン箱が三個になった。トリビーの父ちゃん、キングも、ちゃんとぬいぐるみの姿になってもらった。
「これより小さいサイズになれるなら、かさばらなくて済むんだろうけど、そういうわけにはいかないんだよな」
 玄関にミカン箱を置きながら、司が言う。「だよな」と、うなずき合う俺たちの声を聞きつけて、ミカン箱の中から緑スーツが、ひょっこり顔を出した。
「変化と言っても、限りがあるのです。私たちが膨張したり、収縮したり出来る限界サイズが。この、ぬいぐるみの姿は最小サイズですよ。弟は、それを知っていて、この姿を選んだのだと思います」
『一族の中でもっとも勇気のある男子』――トリビーは、そういう存在だったのを、ふと思い出した。あらかじめ調査した上で、もっとも違和感ない姿になっている。俺たちに、迷惑をかけないために。緑スーツの言葉は、暗にそういうことだと補足しているようにも思えた。
「みんながバラバラに預かる方法もあるんだろうけどさ、やっぱ、一緒が良いんだろう? ちょっとしたお泊まり会だと思って楽しんでくれよな」
 俺は、そう言ってヤツらを送り出した。
 やっと、ゆっくり眠れると思う反面、急に心に穴が開いたような、むなしさに襲われた。


 その晩は、やたらと絵理の家が気になって、久々に自分の部屋で寝た。そこからなら、二階の絵理の部屋が見えるからだ。
 暑さが若干引いて、涼しい風が入ってきた。カーテンがフワッと風に揺られてなびく。時折、風に乗って、絵理の部屋の声が聞こえてくる。楽しそうに騒ぐ、絵理と壮太、そして、みどりのぬいぐるみたち。何をしているんだろうと、窓を開けて身を乗り出すが、さすがにカーテンの奥の景色まで見ることは出来なかった。ピンクのカーテンに透ける、小さな影。上下に動いたり、増えたり、減ったり。絵理の部屋なんか、幼稚園以来見たこともないが、中に入って混じりたいと、思ってしまった。
 馬鹿だな、俺。
 やっと、一人になれたんじゃないか。
 夜中にうろうろと自分の周りで遊ばれることも、ちょっと動く度に拍手が巻き起こることもない。いつもの、生活に戻っただけじゃないか。
 昨晩は一睡も出来なかったクセに、どうして、すぐに眠れないんだよ……。


 俺はずっと、一人っ子で、弟のいる絵理がうらやましかった。
 小さい頃は一緒に遊んでくれたクセに、弟が出来たとたん、俺は絵理の遊び相手から外されたんだ。馬鹿だって、思うだろ。でもさ、近所にいる同い年の子は、絵理ぐらいで、人見知りの激しかった俺は、なかなか、幼稚園でも小学校でも、友達らしい友達を作れなかったんだ。
 垣根越しに、弟と仲良く遊ぶ絵理の姿を見て、自分も一緒にと思っていたのに、グッと我慢していた。
『そうたは、まだ、ハイハイしか出来ないから、おうちの中でしかあそべないよ』
『そうたね、やっと、あんよしたばっかりだから、たかしとはまだあそべないんだ』
 絵理の断り文句は、嬉しそうに弾んでいた。俺より、弟の壮太のことが大事なんだ。当たり前だけど、それがどうも、悔しくてたまらなかった。
 壮太が四つくらいになってから、やっと、まともにあそぶことを覚えて、俺たちはまた一緒に遊ぶようになった。けど、その時俺たちは小学三年生、だんだん、男同士、女同士と、分かれて遊ぶようになってきた頃だった。
『遊ぼうよ』と言ってきた絵理と壮太に、『別にいいよ、他のヤツと遊ぶからさ』……なんて、ホントに仲の良い友達もいないクセに、言い返したこともある。今更、隣同士だからって仲良くされても、逆に、気を遣うだろ? 思春期に入りかけていた俺に、絵理と壮太の無邪気さは、チクチクと刺さっていた。
 俺の態度に不満を感じたのか、何かを察したのか、絵理は壮太と一緒に、イタズラを始めた。アマガエルや幼虫のおもちゃ、蛇のぬけがら、ミミズにダンゴムシ。女のクセに、絵理は何故か、虫や小動物をよく、イタズラに使っていた。あれは、俺に対する、一種の挨拶みたいなものなんじゃないかって、ホントは、気づいてたんだ。俺が、あまりに寂しそうだったから、きっと、ちょっかいを出していたんだ。反応を見て、喜んで、俺に、『また一緒に遊ぼう』と、言っていたのかも知れないって。

 そうさ、本気で俺に、嫌がらせしてたわけじゃない。
 ただ、気づいて欲しかったんだ。
『一緒に遊ぼう』
『ここにいるよ』
 絵理のイタズラはきっと、そして、トリビーのイタズラも――


 度の過ぎたイタズラは、何故か、次の司の家、秀生の家でも発揮されなかった。
 毎日、トリビーたちを段ボールに入れ、それぞれの家までは混んでいくのを日課にしていたが、
「まあまあ、面白いヤツらなんじゃない」
「興味深い話が聞けて感心した」
 ……俺との半月間がどれだけ凄まじかったのか、感じてもらうことは出来なかった。
「やっぱり、事前に調査していたみたいだよ、この星のこと。特に、目標と定めた日本については、昔っから色々データを集めていたっぽい」
 秀生は、どう緑軍団から引き出したのか、俺の知らない情報を、嬉しそうに喋っていた。
「どうやって調査していたのか、詳細は教えてくれなかったけど、今人気のアイドルや、話題の映画、スポーツの結果まで、何でも知ってた。驚いたね。電波を傍受していた可能性もあるけど、もしかしたら、お前んちに行くよりずっと前から、日本のどこかに忍び込んでいたんじゃないの? そう考えなきゃ、とても説明の付かないことが多いだろ」
 ――そうさ、どうして、俺と絵理のことを知っていたのか、まだ聞いていない。
 いや、どうせ聞いたところで、また、はぐらかすに決まってる。
 教えたくない理由、まだあるのかよ。俺には、言えないこと、まだまだたくさんあるのかよ。


 次の勇大の家でも、その次の、稔の家でも、トリビーたちは大人しかったそうだ。

 借りてきた、猫みたいに。
 ほんものの、ぬいぐるみのように。


 どうして、俺んちでだけ、騒ぐんだよ。
 どうして、俺と絵理の家にいるときだけ、やりたい放題だったんだ?


 俺は、無意識に、自分と絵理、トリビーの姿を重ねていた。

『遊ぼうよ』

 幼い日の絵理が、手を振っている。俺は、応えない。
 寂しそうに、垣根越しに絵理と壮太を見る、俺。暗い宇宙から、青く輝く地球を見下ろす、トリビー星人たち。
 どうにかして、一緒に過ごすすべはないのだろうか……考えた末に、イタズラを始める、絵理。そして、あの夜、網戸をこじ開けてやってきた、緑のぬいぐるみ。

 トリビーたちがいない間、俺は何度も、何度も、そんなイメージを繰り返し頭に浮かべていた。

『ボクらは、ただ、みんなでイタズラしに来ただけなんだもん!!』

 それが本当だとしたら、あの宇宙人たちは、なんて寂しい、哀れな存在なんだ……。
空想科学祭FINAL
空想科学祭FINAL参加作品です。

俺とアイツの超トンデモ夏休み
banner.gif拍手返事は小説家になろうマイページの活動報告にて
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