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夏休みは宇宙人に侵略されました 作者:天崎 剣
15/21

15◇緑の正体

 緑の群れは、俺を窮地に追いやった。
 一挙手一投足で感動されては、とてもじゃないが、生活できない。あくびをしても、背伸びをしても、ヤツらは感動するのだ。
 とてもじゃないが、俺だけではどうにもならない。誰かに助けを求めるべきだ。
 隣の絵理のことが、ふと頭に浮かんだが、ヤツの家族はスピーカー型、緑の宇宙人が大量発生していることが知れたら、大変なことになるのは目に見えてる。父ちゃんと母ちゃんは、
「いくらぬいぐるみの形になったからって、うちの財政では、この人数は、ちょっと……。お隣の橋田さんなら、ウチよりずっとお金持ちだから、ご飯も何日か、食べさせてもらえると思うのよ」
 というが、飯の問題じゃない。メンタルの問題だ。

 俺は、覚悟を決めて、メールを打った。送信先は、司と修正、勇大、そして稔。仲の良い四人なら、そして、トリビーを一度でも見たことのあるアイツらなら、相談に乗ってくれるに違いないと、いちるの望みをかけて。


「これは……すげーなぁ」
 午後、母ちゃんが買い物に出かけて静かになってから、四人は連れだって訪ねてきた。
『佐名田家はエアコン禁止らしい』と、暑くなってから、全く寄りついてくれなかった友達が、久々にやってきたことになる。春以来かな。わざわざ暑い家には寄りつかないのが人の常。俺だって、エアコンの効いたところで遊びたいもん、気持ちはわかる。
 自家発電……発電方式は謎だが、電気代を気にしなくてもよくなって、エアコンガンガン入れてたんで、「お前んち、涼しいな」と言われたのが、ちょっと嬉しかった。
 それはさておき、司たちは、俺んちの現状に、そろって目を丸くした。
 リビングダイニングの空間という空間に、緑のぬいぐるみが浮遊しているのだ、無理もない。
 しかも、緑のヤツらときたら、司たちを見るやいなや興味を示し、そろそろと寄ってきては、何かを確認して、「なるほど」「へぇ」などと、感嘆のため息を漏らしていた。
「これが二十四時間続いている様子を想像してみろ」
 リビングのL字型ソファに腰掛けた四人に言うと、皆一様に首を横に振った。
「だから、気をつけろって言ったんだよ、孝史。わかっただろ、これで」
 秀生が、眼鏡の縁を掴んで、鋭い目線を向けてくる。
 いや、お前の忠告は、確か宇宙人が侵略者だったらっていう、前提の話で、ぬいぐるみの増殖じゃなかったような記憶があるんだが。
「スゴイねぇ、これ、一体、いくらで、売れる?」
 稔は相変わらず、金のことしか考えてなかった。呼ぶべきじゃなかったな、知恵も貸してくれなさそうだし。
 でも、仲間はずれにすると、『どうして、ボクだけ、呼ばないんだよ。アレか、孝史は、ボクのことが、嫌いなのか。もしかして、ウチの、両親が、国家公務員なの、ひがんでるのか』って言うから、呼ぶしかない。誰がひがむよ、国家公務員ごときで。それが幸せの指標とは限らないだろって、思わないのか。そりゃ、俺んちよりはずっと金持ちだろうけど、その割に、お前はいっつも金のことや食い物のことばっか考えてんじゃん。……って、ああ、これも禁句なんだよな。思わず口から出そうになった。
 平和に暮らしていくためには、不平不満を言わないのが処世術、と。せっかく築き上げてきた友情らしいものも、ちょっと間違えばすぐに崩れてしまう。人間関係ほど修復が難しいものはない。だから、自分と考えや生き方が100%合わなくても、グッと堪えるしかないわけだ。
「金なんかになるかよ。ただのぬいぐるみにしか見えないんだぜ?」
 冷蔵庫から出した冷えた麦茶を、氷の入った人数分のグラスに注ぐと、カチカチッと、氷の割れる、小さな音がした。緑星人らは、これがたまらなく面白いらしくて、部屋中から集合してくる。あっという間に、ローテーブルの上は、緑のぬいぐるみで一杯になった。
 勇大が水滴の付いたグラスを手にした瞬間、緑星人らは、一斉に勇大を注目する。視線を浴びすぎて、居心地悪そうに飲んでいる勇大を横目で見ながら、稔は、渇いた喉を潤そうかどうか迷っているようだった。
「一週間、だっけ。孝史んちだけじゃ、どうにもならないのか」と、司。
「どうにもならないから相談してるんだよ。俺だって、自分で解決できるようなら、そうしてる」
「『地球見学ツアー』が何か、トリビーからちゃんと聞いたのか? 本当に見学してるだけか? 見学して、それを足がかりに侵略しようとしてるのかもしれないぞ」
 オカルトマニアの秀生が、またアホなことを。
 しかも、緑軍団の目の前で、言うことか。ぬいぐるみに見えるけど、一応宇宙人なんだぜ?
 つい半日前、人間の姿で現れたこともあって、俺は無意識に、緑軍団に気を遣っていた。

「侵略など、しませんよ。我々は純粋に、この星を見学に来たのですから」

 突然、緑の一団から声が上がった。
 緑スーツだ。
「この星は、我々とは違う進化を遂げようとしている。原始文明の発展した星々を回って来たのですが、これほどまで興味深い文明は初めてなのです。そのユニークさを肌で体感したくて、こうしてやってきた、それだけのことです」
 高さ十五センチのぬいぐるみが喋ると、どうも説得力ないが、緑スーツは真剣だ。
 すうっと、一体だけ宙に浮かび上がって、俺たちの注目を集めた。
「弟は、先遣隊として、この星に潜り込みました。たまたま、この家のタカシという少年の世話になり、とても満足しています。原始文明とは思えない、思いやりの深さ、心の温かさは、感動ものだと弟に聞き、私たち家族は興味を確かなものにしました。たった一週間ですが、静かに滞在させていただきたいのです」
 緑軍団の一斉の拍手……じゃなくて、「ぱちぱちぱち」の合唱。フェルト地の手じゃ、音鳴らないからな。
「そういうことですじゃ。お願いできませんかのぉ」
 緑ローマ人の黒人じいちゃんが、ローテーブルの上、秀生の真ん前までよろよろと歩み出た。
 茶色のフェルト地に黒の刺繍糸で縫い付けられた瞳は、なぜか潤んでいるようにも見えた。
「そんなこと、言われても、俺んちはトリビー一匹で精一杯だし……」
「あ!『匹』って言ったね、『匹』って! もう、ボクのこと、完璧に小動物扱いしてるでしょ!」
 にょきっと、俺の右肩から、トリビーが顔を出した。
 いつの間に。緑軍団と一緒になってて、見つからないなと思ってたら、そんなとこに隠れてたのか。
「小動物……っていうか、なんていうか、ぬいぐるみ……」
「だから、これは仮の姿だって」
「じゃあ、本当の姿はどんなだよ。見せてくれたこと、ないじゃんか」
「い……いや、それはその。何ていうか、見ない方が良いっていうか、見せてはダメっていうか」
 トリビーは、ばつが悪そうに、俺の背に隠れた。どんだけ嫌なんだよ……。やりたい放題やっておいて、どこまでも他人行儀な宇宙人に、俺はもやもやを募らせていた。
 見かねて、他のぬいぐるみより一回り大きな緑キングが、声を上げる。
「息子よ、私が代わりに説明しよう」
「うう、お父様……」
 どんだけ言いにくいことなのかわからんが、この、威厳があるようなないような父親が、説明するのだとしたら、本当に大それた事情があるのかも知れない。俺は、人間の姿だった緑キングを思い浮かべ、ソファの上でキリッと背を正したが、他の四人は、なにやってんだと小馬鹿にしたように、背を丸めたまま、耳を傾けた。

「我々は、特定の姿を持たない、『不定形生物』なのです。夜中に訪問したときは、てっきり、息子はこの星で一番の文明を持った生物――地球人類に擬態しているとばかり思っていたので、そのように変化して、この星に降り立ちました。ところが、いざ来てみると、小さく丸い、このような姿になっていた。タカシ君とやら、息子は、そなたに迷惑かけまいと、小さなこの姿に擬態していたのだ。わかってもらいたい」
 肌色のフェルト地に縫われた青色の刺繍糸は、たぶん真剣に話してくれてたんだと思うが、どうも、白ヘルメット付きだと間抜けに見える。声は渋くて良い感じなのに、なぜか緊張感に欠けるんだよな……。
「あ……あのォ、もしよかったらァ、その、『地球人のような姿』になってもらうことって……」
 肩をすくめ、恐る恐る言ったのは、勇大だった。
 ヤツめ、何を血迷った。俺は目で、『ヤメロ。なぜそんなことを訊く』と合図したが、勇大には通じない。
「ちょ……ちょびっとだけ、お父さんだけでもいいからさァ」
 右手で何かをつまむような仕草、目を細めて、必死に頼んでいるつもりらしい。
「いいだろォ?」
「賛成。俺も、見てみたい」
 サッと右手を挙げたのは、秀生。
「俺も」
「ボクも」
 司と稔も、続けて大きく手を上げた。 
 緑キングは、俺たちの様子をじっとうかがい、しばらく黙ってから、「ならば」と、俺の期待を裏切って、例のあの儀式を始めた。
 右手を高く掲げ、耳障りな意味不明の言語でホンニャラホンニャラ~。緑のぬいぐるみたちは、慌ててローテーブルから飛び立つ。そんで、「フュー!」
 白いヘルメットの上部、黄色の丸アンテナがピカッと光り、緑キングのぬいぐるみは、光に包まれた。
 俺の頭の中で、国民的魔法少女アニメの変身シーンBGMが展開される。ヤバイ、これはヤバイ。俺だけがそう思ってしまうのは、実にヤバイ。
 俺はとっさに叫んだ。
「日曜日午前八時半!」
「何?!」
 チラッと、四人が俺を見る。俺は、いいからキングを見ろと目で合図。これで、俺の意図が伝われば、苦しみを分かち合える!

 キングを包んだ光は、徐々に膨張していった。夜中とは逆の動きだ。膨らんで膨らんで、筋肉質な、大男の姿まで光がふくれあがる。
 最初に白ヘルメットが現れ、緑のマントがバサッと視界をふさいだ。くるりっと時計回りに回転し、ひららんひららんとテンポよく衣装が一部ずつあらわになっていく様子は、プリキュ……ゲフンゲフン、魔法少女にしか見えないが、ゴ、ゴツイ……。身体は逆三角、腕はムッキムキ。オリンピックの体操選手か砲丸投げ選手か? ああ、次に現れたのはピッチリ白タイツ。ムチムチのおっさんの足、つま先までピンと伸びてるよ、なんだこの全く嬉しくない光景。そして、黒い、口ひげが、キラキラリンと効果音付きで登場だぁ~。
 ズサッと重たい音がして、ふと顔を上げると、ローテーブルの上に、緑色のハートのキングが腕組みして突っ立っていた。バシャ、ガチャンと、五人分の麦茶がこぼれるわ、床に落ちるわ散々だ。白ヘルメットの下から、人情味深い青い瞳が覗くものの、彫りの深い白人の大男は、狭い俺んちには不釣り合い。
 さっきまで緑キングを小馬鹿にしていた勇大や秀生も、口をあんぐりとさせている。司と稔に至っては、頭の中が真っ白で、気を失いそうなくらい驚いてる。
「これでいかがかな」
 ぶっとい声に、ただ無言で頭を上下させる四人を、俺はほほえましく見ていた。
 だって、やっと同じ体験できた。俺だけが貧乏くじ引きまくってたみたいで寂しかったんだよね。これで、運命共同体だね!

「ああ、お父さんお父さん、降りて降りて。ああああ、タイツが麦茶で濡れてるじゃん。こんなとこで変身しちゃだめじゃないか」
 んんっと咳払いして、ローテーブルから降りるよう促すと、
「おお、失敬した」と、案外すんなり降りてくれる。図体はデカイが、中身はほとんどトリビーと変わりないことを、俺は知っている。
 台所からいそいそと台ふきを持ってきて、サッサッとローテーブルを拭き、床にこぼれた御茶と、キングの足を拭いてやると、「いやはや、申し訳ない」キングのおっさん、頭をかいて謝ってくれた。かなりシュールだ。
 そうして、すっかり周囲がキレイになると、キングは改めて俺たちの前に仁王立ちする。
「このように、我々『トリビー星人』は、如何様にも姿を変えることが出来るのだ。わかっていただけたかな」
「ぱちぱちぱちぱち」
 と、ここでまた、緑星人らの大合唱。
 ……ん? ちょいと待て。
「なんだその、『トリビー星人』って。トリビーは、トリビーって名前じゃなかったっけ?」
「そうだよ。トリビー星人の、トリビー。ベジータ星の王子、ベジータってのもいたじゃない。アレとおんなじだと思って!」
 トリビーがひょこっと、俺の肩から飛び出して、キングの肩に飛び移った。
 頭のハゲたサイヤ人……のことを、思い浮かべた。ああ、アレとおんなじかぁ……、って、
「ん? 王子?」
「王子ってわけじゃないけど」と、トリビー。
「我々は、もっとも勇気のある一族の男子に、母なる星の名前を授けるのですよ」と、キング。
 勇気のある……、コイツが……?
 半信半疑で、俺たちは、キングの肩で楽しそうに、足をぷらぷらさせる、ぬいぐるみ姿のトリビーを見つめた。どう考えても、どう転んでも、勇気なんかないような。むしろ、人様に迷惑かけても図々しく状況を楽しめる、凄まじく楽天的な脳みその持ち主なんだろうな、と、その程度にしか。
「ああ~、トリビーが勇者レベルの扱いをされてるってのは、何となくわかった。それよりさ」
 だんだん、この異常事態に慣れてきた秀生が、人差し指で眼鏡をクイッと動かして、自分に注目を集めようとする。
「――『見学ツアー』の、真の目的は、何? ただの観光じゃないんでしょ。侵略じゃないとしたら、一体、何のために、太陽系のこの星まで、やってきたんだよ」
 秀生の、あまりにもまともな質問は、キングの変身シーンでどぎまぎしていた俺たちの心を、一気に冷却させた。
 たぶんそれは、俺もずっと気にかかっていたことで、でも、言葉として口から出てくることはなかったこと。
 高度文明を持った不定形生物が、俺んちに一体何の用で現れ、滞在を続けているのか――。
「……どうやら、話さねばならぬようだな」
 緑キングは、トリビーと顔を合わせ、互いにうなずきあった。
 そして、なぜか床に正座すると、神妙な面持ちで、俺たちをグルッと見渡した。
「そなたたちが、信頼できる地球人であると信じている。その上で、我々の境遇をお話ししたいが、よいか」
「もちろん」
「大丈夫です」
「誰にも言いません」
「俺も」
「ボクも」
「わ、私も――!」
「ボクもー!」
 ……あれ、返事する人数が、増えてる?
 バタンと、リビングのドアが開いた。見慣れたツインテールと、半袖半ズボンの小学生が、なだれ込む。……絵理と、壮太じゃないか。
「お前ら……聞いてたのかよ」
 ガックリと肩を落とす俺の気持ちなどいざ知らず、
「まぁまぁまぁ、お隣のよしみで、聞かせておくんなさいよ」
 雰囲気ぶちこわし……。って、よく考えたら、勝手に人んち入ってきてるし! いつものことだけどさ!
 仕方なく、ダイニングテーブルから椅子を二脚引っ張り、ソファの隣に置く。
 俺、司、秀生、勇大、稔、絵理、それから壮太と、トリビー、キング、残り二十二体のぬいぐるみが、ローテーブルを囲った。
「それでは、よいかな」
 緑キングは、いっそう神妙な面持ちで、長い長い、話を始めるのだった。
空想科学祭FINAL
空想科学祭FINAL参加作品です。

俺とアイツの超トンデモ夏休み
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