挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
夏休みは宇宙人に侵略されました 作者:天崎 剣
10/21

10◆新たな問題

 エアコン稼働するようになってから、あまりに快適で、リビングでゴロゴロして過ごすことが多かった。携帯ゲームやスマホをいじり、昼寝しては、またスマホをいじり、偶に冷蔵庫の中を見て、またゴロゴロ。ああ、夏休み最高。これで、宇宙人のくだらないいたずらさえなければと、日々を満喫していた俺も、そろそろそのグウダラ生活に飽きてきたところだった。
 隣の馬鹿姉弟も、偶にトリビーと遊びたがって邪魔しに来たり、俺のことを脅かそうと百円ショップで入手したパーティーグッズの動作確認に来たりはしたものの、俺にしては平穏な日々だった。そうさ、家が巨大ロボに変形する以上の驚きがあってたまるかってんだ。
 そんな毎日だったから、友達からのメールは新鮮だった。

「公園行ってくる」
 相変わらずのサラダそうめん食い終えて、俺は物置小屋から自転車を引っ張り出した。
 午前中の通り雨で濡れた庭には、くっきりと晴れた空が映った水たまりの絨毯が広がっていた。ピチャピチャと、サンダルで歩く度に、涼しそうな音がする。
 ただ、水たまりが気持ちいい空気を演出してくれるのは、あと数時間かもしれない。蒸発した水分が、サウナを作り出すのも時間の問題だ。
 せっかくだから、ちょっとでも涼しいうちに動かないと。
 公園は、自転車で十分ほど行った、街の外れにある。雨上がりの街を自転車が駆け抜けていく爽快感は、悪くない。ほとんど動かない盆地特有の空気も、気にならないくらいに肌を舐めていく。ちょっと温くて、ちょっと湿気のある空気だ。
 リュックにipodと3DSは詰めた。財布、菓子がちょっとと、タオル。集まるったって、暑苦しい公園で遊ぶわけでもない、そこからどっか、涼しいところでゲームでもするんだろう。
 トリビーのヤツは、母ちゃんに任せてきた……いや、もとい、押しつけてきたから、今日は気兼ねなく遊べるはず。帰ってきて、家の中が大変なことになってなきゃ良いんだけど、気にしたって始まらないしな。母ちゃんは洗脳されているからか、トリビーと仲良くやってんだ、押しつけられたからって、嫌な顔一つしないし、俺だって、たまに羽伸ばさないと。

 小高い丘の上にある公園は、家からはちょっと遠いが、見晴らしが良いのもあって、小学生の頃から格好の遊び場になっていた。天気の良い日はあっちこっちから子供が集まって、芋洗い状態になることもある。虫取り網を持ってかけずり回ったり、サッカーボールを追いかけたり、噴水で水遊びしたり。もちろん、遊具も取り合いっこ。今日も、涼を求めてか、汗をかきにか、たくさんの子供で賑わっている。俺も小さい頃から、よく両親に連れてこられていた。この町の子供なら、みんなが知ってる、憩いの場所みたいなヤツだ。
 背の高い木々が公園を囲うように生い茂っているせいか、住宅街よりも激しく蝉の声が響き渡っている。ジージー叫ぶアブラゼミの声も、家の中で聞くのとは大違い。ここで聞くとうざくないから、不思議なもんだ。
 青々とした桜の葉が丁度よく日陰を作っているところに自転車を止め、かごに入れていたリュックを担ぐ。大きな桜の陰にあるジャングルジムの方を見ると、丁度クラスメイトの司が手を振っていた。
「おう、司」
 俺も手を振って合図する。
 小さな子供に譲りなさいとばかりに、幼児を連れた年増の母ちゃんたちが白い目で見ているのも気にせず、中学生数人がたむろしている。
 司は、中学からの友達で、席が近いこともあって、まあまあ仲が良い友達の一人だ。心の友、心友というヤツにはまだ巡り会えてはいないが、そこそこ気が合うヤツなのは間違いない。
「あ、孝史、来たね!」
 アニメ声が聞こえた、と思うと、ひょっこり司の影から顔を出したのはツインテールの絵理だ。コイツも来ていたとは……、嫌な予感がプンプンする。胸元の開いた、派手な花柄のワンピース、似合っているかどうか疑問なところだ。思いつつ、胸には自然と目がいってしまう。Bカップか、Bカップ。
「今日は何、これからどっか行くの」
 ちょっと急ぎ足で、俺はみんなの所まで近づいていく。
 絵理と司、それから眼鏡の秀生と、イガグリ頭の稔、あとはチャラ男の勇大も、それなりに仲の良いクラスメイトだ。
 自転車から降りると、暑さが急に感じられて、汗が噴き出てきた。歩きながら、リュックのチャックを開け、タオルを取り出そうと……


 ん?
 なんかいる。


 じーっと、俺はしばらくリュックの中身を見ていたが、タオルを取り出し、またチャックを閉じた。
 見てはいけない見てはいけない。
「暑いから、涼しいとこに行こうとは思ってるけど、それよりさ、ロボットの話、聞いたぜ」
 俺は、汗を拭く手と、足を止めた。
 司がイタズラっぽい目をこっちに向けている。ぺろっと、舌なめずり。……ヤバイ、これは、何かよからぬことを考えている合図だ。
「今丁度、絵理とロボットの話してたところだったんだよ」
 ジャングルジムに寄りかかって、司は「なぁ」と、絵理に相づちを求めた。
 俺は思わず、絵理を睨み付けたが、ゴメンとばかりに両手を合わせてしゃがみ込み、司の陰に隠れちまう。

 ああ、大体、何があったか、推測できたぞ。
 恐らく、こうだ。
 司は元々、ものすごく自分勝手で、好き嫌いが激しいヤツだ。気が合うことは合うけど、機嫌をとりつつ、ちょうどいい距離を測りながら付き合う相手、と言ったらいいだろうか。秀生、稔、勇大の三人は、司と小学校が同じで、昔っからの友達らしい。三人とも、司の扱いには長けてて、やっぱり、いい具合に距離をとって付き合ってる感じだな。
 今月初めのロボット事件……、まぁ、俺んちが巨大ロボに変形して空飛んでたわけだが、それが一部で大騒ぎになってるのはよく知ってる。コンビニに行ったときも、近所でも、「アレは何だったのかな」みたいな話をしてるくらいだ。
 掲示板の書き込み、動画サイトへのアップロード、誰がどれにどう関わっているのかなんて、興味はないけど、それを目にしただけでも、いわゆる厨二心がくすぐられたのは確かだ。
 司たちも、きっとあのロボをどこかで目にした。
 直接見たのか、それともネットで見たのか、添付メールで見たのか、わからないけど。
 そうだ、メール。俺にも送られてきたメール、あれが、チェーンメールみたいに、あちこちから発信されてて、司たちのとこにも届いたのかも知れない。俺の、佐名田孝史の家がロボットに変形したっていう情報と一緒に。
 俺んちの隣の、絵理に先に確認をとって、それから俺を呼んだんだな。
 絵理のヤツめ、口止めしておいたのに、トリビーが橋田の家に行かなくなった腹いせか。……いや、違うな。絵理は、イタズラは好きだけど、絶対に仕返しはしない。
 リーダー格の司が、無理矢理口を割らせたに違いない。秘密をばらまくぞとか……そもそも、その秘密がなんなのかは考えつかないけど、あとは……なんだろう。思いつかないな。とにかく、このネット社会、中学生だって一人一台の携帯持ってるんだ、『メールで変な噂流されたくなかったら』って、脅迫されれば、『わかったよ、教えるから』って展開に、なるに違いない。
 中学生にとって、一番怖いのは、アリもしない噂を流されて、いじめに遭うこと。それだけは避けたいって、自己防衛に走るのは当たり前だ。

 言わなくても良いことまで喋らされたって、顔してるな、絵理のヤツ。
 なまじ隣同士だから、ゴタゴタはイヤなんだよって、いつも言い合ってるのに。
 責めたって……仕方ないか。

「ロボットって、何だよ。何戦隊?」
 俺は、動揺を隠すように、タオルで汗を拭き取りながら、わざととぼけてみせた。
 すると、勇大がお笑いタレントの真似して、手首をカクンと倒し、人差し指をぷらぷらさせながら俺に向けた。
「この間、ニュースでもやってただろゥ、新聞にも出てたしィ~。しらばっくれんなよゥ、孝史ィ。ロボットのこと、知ってるんだろゥ」
 学ランでやられてもムカつくが、緩いハーフパンツに少しデカ目のTシャツで、帽子のツバ斜めにしながら、ガニ股でヒョコヒョコ変な動きしながら寄ってこられると、なおムカつく。
 中身は良いやつなんだが、ラッパーになりたいとかで、普段から語尾が伸びてるんだよな、コイツ。大体、台詞に韻踏むとか、テンポよくするとか、そういう努力を日常からしておかないとラッパーなんてとうてい無理だって言ってんのに、相変わらず語呂考えてないなぁ。まずは、体育2の動きの悪さ、音楽2のリズム感のなさを何とかしようと思わないとお前は……、なんて、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
「知ってるも何も……」
 ふうっと、俺は視線を外して、少し強めに息を吐いた。
 落ち着け、落ち着け、俺。
 秀生たち三人が、まるで司の手下みたいに、俺を取り囲む。逃がさない、とでも言わんばかりに。
「俺はそのロボ、動画でしか見てないんだよね。何、司たちは見たの」
「見たよー。スゲーよなぁ。ああいう、ロボットに、一度は乗ってみたいって、誰だって、思うもん。良いよなぁ、ロボットは」
 イガグリ頭の稔が、わかってるんだかわかってないんだか、スローで喋った。コイツは、頭はてんで悪いが、気持ちは優しいヤツ。恐らく、司が何をしたいかも、イマイチわかってはいないんだろう。
「ロボットは、男のロマンだからな。ずいぶん乗り心地もよかったんだろう」
 そう言ったのは秀生だ。クラスで一番頭の良い、いわゆる秀才肌。なんでコイツが司とつるんでんだか……、もしかしたら、俺と同じ理由なのかも知れないなと、思っている一人だ。
 秀生はさすがに頭がキレるらしく、俺にロボットのことを認めさせようとする。『乗り心地』って聞かれて、『よかった』『悪かった』なんて答えたら、司たちの思うツボだ。
 ジャングルジムに手をかけて、眼鏡の中央をクイッと上げてみせる。挑発してるつもり、なのか。
「警戒してるのかよ、孝史。悪いけど、俺ら、いや、みんな知ってんだぜ、お前んちがロボットに変形したって話」
 司のダメ押し。
 絵理が喋ったのは、間違いないとみた。
「もし、俺んちがロボットに変形したとしたら、何なんだよ。一体それがどういうことか、どうせわかんないんだろうと思うけど、とても気持ちの良いもんじゃないんだぜ」
 俺は観念して、認めた。逆に、そうしないと、絵理のヤツがかわいそうにも思えたからだ。
 木陰で涼しいはずなのに、変な汗が次々に噴き出てきて、何だか湿っぽい。この、妙な空気のせいなのは、よくわかってる。
 イヤだな、何とか、この状況、抜け出したいな。
「宇宙人の力、だって?」
 秀生が、眼鏡と眉をクイクイッとわざとらしく動かした。
「君んちに宇宙人がいるって、聞いたんだけど、それ、ホントなのか」
 やっぱり、トリビーのこと、言っちまったのか。絵理に目線をやると、頭を両手で抱えて、また縮こまった。反省はしているらしい。
「あのね、秀生、お前が何を期待してるのかわからないが、お前の信じてやまないオカルト本や、オカルト誇張しすぎのハリウッド映画と、現実は違うんだぜ。そんなに宇宙人がほいほい、民間人と一緒にいてたまるかってんだよ。悪いけど、お前の定義するところの宇宙人なんか、この世にはいないと思うよ。目がデカくて、銀色で、ツルッとしてて、手足の長いヤツ、じゃないから。ウチにいるのは」
 ……って、あー、しまった。自分で肯定しちゃった。
 アタタタタ……、俺の、アホー……。
 思わずタオルで顔を隠したが、時既に遅し。
「そうだよ、トリビーちゃんを、グレイとかいうヤツと一緒にしないでよね。ちょーかわいいんだからっ!」
 ジャングルジムの中で絵理が、檻の中の猿みたいに格子掴んで『いー』の口をしている。
「『かわいいんだから』って、お前な、アレのどこがどうかわいいんだよ。緑星人だぞ。ただの緑のうざいぬいぐるみだぞ」
 もうどうにでもなれと、俺は絵理に向かって反論した。
 母ちゃんといい、絵理といい、女って生き物はどうにかしてる。アレがかわいい? 意味不明。理解不能。
「緑色のぬいぐるみが、家の中でやりたい放題、それが俺の現実なの。ロボットはその副産物だよ。騒ぎになって迷惑してんだ。マスコミが押し寄せてこないだけでもまだマシ……」
 と、そこまで言ったところで、秀生がまた眼鏡をクイクイ動かし、俺の後ろを指さした。

「君が言ってるところの、緑のぬいぐるみってのは、つまり……、それ、か?」

 それ。

 そ、れ……?

 右肩に目線を落とすと、リュックのチャックが、開いてる。
 さっき、タオル取り出すときに、閉めたんだけど。

 俺の視界のギリギリで、緑色の物体が不自然にフワッと動いた。
 そして、ジャングルジムから外に出た絵理の胸元へ、ダイブ――!!

「エリちゅわ~ん! ううぅ。久しぶりのこの感触ぅ~。Cはいいね、Cは。Aとは違うよ。むにゅむにゅー!」
「トリビーちゃん、超会いたかった! やっぱり、か、わ、い、い~~~~!!」

 男五人がポカンと口を開け、見守る中、ツインテールとぬいぐるみが感動の再会を果たしていた。
 ああ、俺が隠し通したかったモノが、ぜぇ~んぶ、無駄になったじゃねぇか……。
 ガックリ膝を落とし、地面に手をついた。
 俺の努力、意味なし。
 宇宙人に、警戒心なし。

「今ァ、Cとか、聞こえたよなァ。Cってなんだよゥ、Cってェ」
 勇大がなんか言ってる。
 俺もそれ、気になったけど、お前はまだ、Cが何だか知らなくて良いぞ。
「隠語、かな。絵理と、あのぬいぐるみにしか通じない、何かの」
 秀生、お前もしばらくは知らんでいいわ……。

 絵理がちゅぱちゅぱと、ぬいぐるみのほっぺたにちゅーを連発してるのを、うらやましそうに眺めてしまう……。
 他の四人にはぬいぐるみにしか見えないだろうが、あれはれっきとした宇宙人なわけで。何が絵理をそうさせるのか、理解できないが、とにかく、うらやましい。特に、C、のとこがな!
空想科学祭FINAL
空想科学祭FINAL参加作品です。

俺とアイツの超トンデモ夏休み
banner.gif拍手返事は小説家になろうマイページの活動報告にて
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ