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第二十五話 二人でおうちに帰るために

 リザ視点です!


 このままじゃ負けてしまう。きっと陽太くんがやられてしまうのも時間の問題です。全ては私が……私が自らのスキルの発動ができなかったせい。陽太くんは念じれば出来たと言っていましたが、先程からどうやっても出来そうにありません。何故……何故なんですか!このままじゃ私は陽太くんの力になれない。それどころか、このままじゃ陽太くんが死んでしまうかもしれない!そんなのは絶対嫌です。でも……。



 「っるああああああ!!」



 陽太くんの全力の拳がアレに炸裂します。そしてそこから右足、また右の拳、そして左足での回し蹴りと、様々なコンボを叩き込みますが、それでもアレはまるで何事もなかったかのようにビクともしません。悔しいですが、やはりどうやってもこのままじゃ陽太くんに勝ち目はなさそうです。ですがそれにしても、



 「つ、強いっ」



 ここで勘違いをしてはいけないのが、決して陽太くんは弱くなんかないということです。先程から見ていても、相手に叩きつけた攻撃による衝撃がここまで飛んでくるほどのダメージの重さ。それから恐らく逃げない私からアレを遠ざけるために移動してくれたのでしょうが、その時の足の速さ。あれは新幹線なんかと同じくらいの速さだったのではないでしょうか。これもまた軽く爆風が起きましたし。おうちで陽太くんに戦えるのか、なんて聞いた私が恥ずかしいです。



 もちろんその後、私は帰路に着くのではなく、陽太くんを追いかけてようやくここまで追いつきました。戦いが起きている周辺では木々がなぎ倒され、地形は変化し、それはそれは酷い惨状でしたが、なんとか陽太くんはまだちゃんと生きていてくれました。



 ですが、状況は最悪と言っても差し支えありません。誰がどうみても強すぎる陽太くんですが、それを上回るアレは、やはり陽太くんの言っていた通り化物そのものです。私の目からはアレがこの状況を楽しみ、遊んでいるように見えます。そして最悪なのはもう一つ、もう一体の化物の存在です。こっちは陽太くんの戦いをただ見ているだけで私の方を見向きもせず、戦いに一切手出しはしていませんが、気まぐれに手を出されてはホントのホントに私達には一切の勝機がありません。



 「陽太くん……」



 私は祈るようにその名を呼びます。彼は一人ぼっちだった私の前にやって来てくれたヒーローなんです。きっと負けっこありません。こんな状況であっても彼はきっとどうにかしてしまって、また私の前で笑顔で――。



 ドガアアアアアアンッ!!



 「――え?」



 突如巻き起こる轟音。舞い上がる土煙。そして、その中心。今まではなかった、ちょっとしたクレーターの中心に、一つの小さな影。そして視界を遮るものがどんどん薄れていき、私の目に映ったのは……



「ひっ、陽太くんっ!」



 陽太くんを中心に起きた爆発のような現象。それはどうやら戦いも興醒めとでも言うかのようなアレの一撃が陽太くんに直撃したからでのようでした。



 私は急いで倒れている陽太くんのもとへ駆けます。



 「陽太くん!陽太くん!」


 「な、バカ……なんで逃げてないんだよ……俺の命費やしてまで稼いだ時間は、どうなるってんだ……」



 倒れたまま首だけを動かして、傍に来て座り込んだ私の方を見た陽太くんはまるで、自分の命なんてどうだっていいとでもいうかのようなことを言います。そんなこと、あっていいはずがありません。



 「なんでそんな風に最初から自分の命を投げ打って戦うんですかぁ……。まだまだ生きようって、二人で乗り切ろうって!そんな風に戦ったって良いじゃないですか。なんで……なんでまた私を一人にしようとするんですかぁ」



 気が付くと陽太くんの顔にあポタポタと水滴が滴り落ちていますが、そんなことは気になりません。驚いたような顔をして、少しニヤッとした陽太くんが口を開きます。



 「ぷぷっ……。そうかあー、でも俺の覚醒した神魔眼を発動しつつ全力でいってこの様だぜ?正直頼りの綱はやっぱり我らがリザ様しかいないいんだけど……?」



 またいつものようにおちょくってくるような態度です。でも、心なしかその発言に私は少し元気を取り戻した気がします。だから私は、



 「ふざけないでください。――ですが、私も最善を尽くしてみるので、あと少しだけ持ちこたえてください。私がスキルを発動するのに、頼れるのは陽太くんしかいないんですから」



 こう返させてもらいました。またも驚いた顔をする陽太くん。ですが、その表情はこんな状況にあってもなんだか少し楽しそうです。



 それにしてもさっきからこっちを見るだけでまだ手を出してこないアレら。一体何をしているのでしょう?タイミングを伺っている?何かを待っている?それとも……



 「じゃ、頑張るかぁ……」



 少しキツそうにその体を起こし、立ち上がると陽太くんはそう言って、ンッと私の頭に手を置きました。――って、てててて手ぇっ!?なんてことを!自分でも顔が紅潮しているのがわかります。



 「な、ななな、なんですかいった――」



 私が陽太くんに断固抗議しようとしたところ、私の声を遮って彼は一言、短く、けれど重く言いました。



 「頼んだ」


 「――――はい」



 私はもう、こう答えるしかありません。彼の命を任されたのです。彼の未来を託されたのです。これでもういよいよ失敗は許されません。必ず成功させないと。それから陽太くんはもう一言私に伝えていきました。そして早速臨戦態勢に入り、アレへと突撃していきます。私もスキルの発動を試みます。念じる。念じる。念じる!



 「るああああっ!」



 陽太くんの雄叫びが聞こえてきます。急がないと陽太くんが無事じゃすまないかもしれない。そんなのやだ。一緒に、一緒に帰るんです。そのためにも!



 私は陽太くんがさっき教えてくれたアドバイスを脳内で反芻します。それは、



 「大切なのは多分、イメージだ」



 というもの。――イメージ。『レベル吸収ドレイン』におけるイメージともなると、やっぱり相手から何かを吸い取る感じのものなのでしょうか。なんだか想像しづらそうですね……。ですが、出来る出来ないの問題以前に、私はこれをやらなくてはならないのです。私は目を閉ざし、今言ったイメージを膨らませます。



 相手から……アレからレベルを吸い取るイメージ。相手の得た経験、知識を奪い取るイメージ。――確かに難しいですが、だんだんと自らのスキルを手繰り寄せているような気がします。これならいけそう、そう思った時。



 「ぐあああっ!」



 陽太くん!私は思わず目を開き、そちらへ目を向けてしまいます。そしてそこには蹂躙された挙句またも地面に叩きつけられた陽太くんの姿が。しかし、



 「俺を気にかけてくれるなら……早くスキルを叩き込め!!」


 「は、はいっ!」



 いけません。思わず注意を逸らしてしまいましたが、私の今の使命はアレにスキルを発動する事。そしてそれの準備は実はもう殆ど出来ていました。だからもう後は陽太くんの言う通り、叩き込むだけ。よし。



 「喰らいなさい!」



 ――『レベル吸収』!!私は頭の中でそう唱えます。



 すると、アレの中からツルン、と魂のようなものが出てきました。そしてそれはこっちに……って!こっちに来てる!



 「いやあああ!」



 逃げ出そうとする私ですが、それは私を逃がしてくれることはなく。物の見事にそれは私の中へと入っていくのでした。


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