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軽快コメディシリーズ

BANZAI☆ロボット

作者:あゆ森たろ

 漫才師を目指す若き者たちがいた。
 生方うぶかたトシオと、オウ均道キントウである。2人はお笑いの登竜門と名高いオシモト芸能学院大学の1回生だった。

 ある晴れた日の日曜午後、自宅で昼すぎに起きたばかりの生方は、かけた覚えのない携帯電話の目覚ましアラームで目が覚めた……と思っていたが、どうやら自分の相方である均道からの着信音だったようである。

『ボケてまへんわ!』

 まだ敷かれていたままの布団の上で、バイブ設定にしていた生方のau携帯電話は、ブルブルルと震えながら主人を呼び出していた。『ボケてまへんわ』と着ボイスは約30秒ほどを繰り返している。ええ加減しつこいよとツッコミながら生方はそれを拾って電話に出た。

『なあトシオ。いきなりだけど、相談したいことがあるんだ……』

 まだコンビを結成して一週間と日もない、均道からの134回目になる電話。数えている生方もどうかと思うが、それだけ自分を信頼してくれるならまあいいかといつも放っておいたらこうなった。そろそろ、「しつこい」とでも言っておこうかと思っていた矢先だった。
 相談と聞いて生方は、またネガティブ病発症かと心中でため息をついていた。世の中の物が全て金だったならどうしよう、眩しくて眠れないと言われたことがあった、何処かがズレていた。
「15時に駅前で会おうって昨日言ったじゃないか。後で聞くよ。今じゃないとダメなのか?」
 生方は片手のスプーンでコーヒーの粉をカップに入れながら、均道の返事を待っていた。『……』暫く無言が続いたが、『……わかった。待ってる』とだけ言って電話を一方的に切る。「……何なんだよ?」と口を尖らせて生方は、電話をポーイと大きく弧を描かせて布団の上に投げ出していた。

(一体今度は何の相談なんだかな……)

 デニムのパンツにTシャツと、普段の格好に着替えた生方は玄関で靴の、解けていた紐を結ぶ。すると背後から、通りがかった母親が声をかけていた。
「あら? まだ家にいたの」
 不思議なことを言っていた。「ずっと家にいたけど」そのまま、疑問を返していた。
「あらそう? さっき誰かが出て行った気配がしたと思ったんだけど……きっと気のせいね」
 母親はそう言うと、廊下を進み奥へと消えていった。腑に落ちない顔を浮かべたが、一瞬だけにして生方は待ち合わせの場所へと歩き出していった。


 バスターミナルをすぎ、コンビニ、CDショップと並ぶ駅前の街路を道なりに歩くと、待ち合わせたファーストフード店『ノッテルヤン』に着いた。新製品である、特製ベーコンサラダもっちりチーズ南国風ふわふわ仕立てホイップクリーム激辛バーガーが単品だと平日割引で315円、ポテト+ドリンクのセットだと630円だった、しかし残念ながら日曜だったので、通常価格1,260円だった。価格格差が著しい。そして食べた評判は、誰でも同じことを言っていた。「カオス」。複雑だった。

 120円のハンバーガーをコーラSサイズと一緒に注文し、2階席にいた相方の均道の所へと戻っていった生方は、来てから暗い顔をずっとして黙って俯いている彼に仕方なく励ましの言葉をかけようと考えていた。一体何に悩んでいてどう励ますのか、皆目見当がつかなかったが。
 とにかく声をかけてみようと挑戦していた。
「笑わないから、言ってみそ?」
 生方なりに、気を遣っている。笑わないから……真面目に聞くぞと目で均道に言っていた。今日の均道は緊張のためか顔色が青く悪かった。そして喉が渇いているのだろう、何度も唾を飲み込んでいた。注文したトロピカルシェイクを口につけてはおらず、ストローも使用なくトレーの上に置いたままだった。
 肩までにつきそうなワカメ風のウェーブ髪は相変わらず、不精な髭は触るとチクチクして痛そうだった。裸足にスニーカー、見た目ラフな格好でシャツの後ろに『メカリズム』と太く手書き墨字で描いてある。

「昨日、家でお笑いのネタを考えていたんだが……」

 重い口を開いたかと思うと、均道は突然、涙を流し始めていた。

「ネタが全く思い浮かばない」

 テーブルの上で固く手を握る。

「俺には、お笑いなんてやっぱり無理なんだあああ!」

 そして突然、叫び出した。当然だが、周囲の注目を一斉に浴びていた。「落ち着けよ……」
 他の客が皆、彼らの方に集中したが時間が経つと元の何でもない風景に戻っていった。「落ち着けよ、な?」生方はこれで何回目だ、67回目だっけと忘れずカウントしていった。もう慣れっこだった。
「調子の悪い時とかあるだろ、それだけだって。気にすんな。他に何かあるんなら別だけど」
 うんざりを胸の中にしまい、下から覗き込んで様子を窺っていた。とても生方は優しくみえるが実は内心これでもうコイツとは終わるかなと将来のことを密かに考えていた。「トシオ」均道は、決心したらしく思い切った顔をした。

「実は俺、機械のカラダだったんだ」
「は?」
「見てくれ、トシオ。この血管を」

 言いながら、均道は手首を生方の前に差し出していた。四角い筋が入っており、小さな出っ張りをクイッと押すと簡単にフタが外れた。表面が皮膚のフタを開けると、中に見えていたのは血管や神経というより細い管の束だった。メイドインジャパン、国産であるらしい、そう書かれていた。
「えーっと」
 生方の思考力は低下、いや、停止した。そりゃないぜベイビー、生方の冷静なツッコミはあまり表には出ていなかった。約6分が経過、事実を受け入れた生方に、均道の囁きが耳に入っていった。
「ロボットの俺には、人を笑わすなんて無理かもしれない……」
 均道には、深刻な悩みだった。入学しておいて今更かよ。誰もがそう思うだろう、生方は唸り始めていた。「ううーん……」
 機械が人間を。
 何で機械が泣いたり毛が伸びたりしてるのだろう精密だからかということはさておいて、機械が人を笑わす。
 問題は至ってシンプルなのになァと、手元のハンバーガーを眺めていた。答えは……。

「そうか。そうだ……それを使おうぜ、均道!」

 何かを思いついた生方は、ポンと手を打った。「な、何なに」均道は横髪を耳にかけて、目をぱちくりさせて生方の方を見ていた。「お前がロボットだって売りにするんだよ」生方の提案は、均道に電気ショックを与えている。「えええええ」痺れて身動きできなくなってしまった。「eeeee」

「見たとこ俺ら普通の漫才師じゃないか。それじゃ売れない。世に出るためには、何でもいいからひとつでも個性が要る。面白えじゃねえか、ロボットの漫才、ロボットのボケ。俺がいくら強く叩いてもそうそう壊れないっていうのがまたいいな。気に入った! 頼むぜ相棒!」

 生方は段々とその気になっていった。均道の手まで握っていた。
「ト、トシオ……」
 自分を受け入れてくれたらしい生方に、均道は感動していた。本日初めての笑顔を見せ、待ち合わせた予定通りのネタ打ち合わせへと話は進んでいった。
 来月、お笑い漫才グランプリ予選が開かれる予定である。決勝すら手が届かないだろうとは思ってはいたが、それでもやるだけはやるんだと生方は均道に言っていた。まだコンビを組んでから実践さえ回数が少ない、そんな彼らが抱く野望。『ロボット漫才で成功する』。意外性で踏み込めと、生方の瞳は生き生きと輝いていた。
「意外性かぁ……」
「そうさ、俺らの名前を覚えてもらおうぜ」
 ネタを打ち合わせた帰りに、外に出た2人は道途中の自販機で缶ジュースを買って飲みながら、夕空に瞬く星の光を見つめていた。あれになろうぜと、肩を叩きあって笑っていたのだった。……


 そして予選当日がやってきた。野外に用意された舞台に、若手たちが続々と集まってくるのである。
 出場者は567組。ここから本選へ残れるのは、たった8組だけだった。生方と均道のエントリーしたコンビ名は『BANZAIロボッター』。最後のオチに、均道が実はロボットでしたー! と暴露するつもりである。そう打ち合わせていた。
「行くぞ均道」
「う、うん」

 予選は各ブロックごとに分けられ、Cブロックで出番は3番目だった。生方と均道がステージの隅で緊張しながら待っていると、すぐに時はやってくる……『エントリーナンバー361、BANZAIロボッターさんです、どうぞぉ~!』司会者のお姉さんが明るい声で手を振っていた。「ひいっ」「いくぞ均道、いけ」
 軽く肩を押されて、均道は舞台袖から出て行った。ステージの前には何百人もの観客と数人の審査員が、所狭しと期待で次の漫才を待っている。均道たちの神経質プレッシャーさなど知らないで、そして……。

 静かに、ネタは繰り広げられていった。何度も練習した通りに、均道がボケて生方がツッコんでいった。与えられた時間を消費していく、静かに……

 静かに。致命的である。観客が笑わない。風は、当たると激しく痛かった、ヒュルルルル。
「そういえば生方さん。ボク、あなたに隠してたことがあるんですん」
 均道は、最後のオチへと振りをかけていた。ついに来たかと生方は緊張しつつも聞き返していた。「はい、何や。はよ言ってみい」空気の重いこの空間から一刻も早く抜け出したかったのだろう、生方は焦っていた。「実はボク……」

 均道は、自分の頭を持って首から取った。びよーん、と、バネ1本で頭とカラダは繋がっていた。
「ボク、ロボットですねん」
「ぎゃあああああ」
 悲鳴をあげたのは、間近でそれを見た生方だった。何故なら、打ち合わせにはなかったからである。均道のアドリブは、人間の生方には衝撃で少々きつかった。夢に出てきてうなされよう。

 しかし予想外のことが起こった。観客に、生方のリアクションがウケたのである。厳しい事態から一変、場は、大きな笑いの渦に見舞われていった。
(いいぞ、掴みはオッケーだぜ、均道! ……やったな!)
 目配せで、生方は隣の相方を誉めたたえていた。すると。

「まだありますん」「へ?」「隠しごと。ボク、生方さんのこと、ラブ(愛)ですねん」
 視線をぶつけてくる均道に、生方の目は放せなかった。約60秒後、生方は声を上げて蒼白になった。
「はあああああ!?」
 ナイスリアクションは、観客をさらに笑わせていた。ははははは。そして。
「実はボクのカラダ、機械にする前の骨と肉を生方さん家の庭に埋めましてん」
「何やて!?」
 観客は笑い続けていた。
「明日はボクの一万歳の誕生日ですねーん」
 無理があった、だがもはや笑いの騒ぎは止まらない。


「素晴らしいオチだ……!」

 審査員のうちの、スーツを着た何処かの偉い異国の会長が椅子から立ち上がって、手を叩きながらエクセレントと生方たちを絶賛した。今回の大会スポンサーのひとりで、彼らはおかげで華々しく海外漫才師デビューを果たすこととなっていった。漫才というより、ロボットが子どもに受け入れられていっただけかもしれなかった。そして、150年の歳月が流れていった……


「あれはもういい思い出」
「そうですなあ、トシオさん」
 住み慣れた街の一角にあるパブで、2人はのん気に懐かしく昔を語り合っていた。

 2人のカラダは、何故か有線で繋がれている。


《END》


挿絵(By みてみん)



 どれも真実。

 ご読了ありがとうございました。作品に関しましてはまた後日ブログにて。
 企画について(今後予定など)は以下のブログ(PC用)です↓。
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 この話は、『空想科学祭2010』企画参加作品です。
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 ではでは。


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