ミラのメイドinヘヴン!
私の名前はミラ・コンティネント。
年齢は12才……いや、この間13になった。
今の職業はローゼンフェリア王国次席女王補佐官という役職についている。
補佐官といってもやることは多様に渡り、普段は事務員みたいな者だが、そんな物は首席補佐官がいるので、私はもっぱら平時は戦闘訓練に集中している。
自分で言ってしまうのは気が進まないが、私はあらゆる任務をこなす。
要人暗殺、要人誘拐、必要があれば目的のスキャンダルを握り、依頼者に提供したりもする。
そんなあらゆる事をこなす私の今回の任務……それは……
「ジャジャジャ〜ン、これがミラちゃん専用、萌え萌えメイド服です!」
栗色の髪を背中辺りでリボンで縛った、碧い瞳の見知った女が私に馴れ馴れしい笑いを浮かべている。
ローゼンフェリア王国女王メリエルの双子の妹、プリエルである。
その手には黒と白を基調にし、所々にフリルの着きまくったメイド服が持たれているのだ。
そう今回の私の任務は……
「ドキッ☆ミラちゃんのメイドでラブ×2ご奉仕、三泊五日! 全て捧げちゃうSP、湯けむりポロリもあるよDX!!」
そう叫ぶプリエル。
……って、おい!
何なんだ? それは?
ラブ×2なんて、約束した覚えはないし!
全て捧げちゃうなんて言ってないし!
湯けむりポロリなんてしないし!
SPとDXが被っちゃってるし!
三泊五日って、車中泊みたくなってるし!
とりあえず、間違いをいちいち指名していたら、
「ドキッ☆ミラちゃんのメイド」
だけから、どんなオプションが追加されるか不安なので、私はプリエルの襟を両手で吊り上げるだけに抗議行動を留めておく。
優秀なハンターは余計な事はしない物だ。
「とりあえず、ヴィスパー君を御主人様って呼んで、事情を知ってる私とカナミちゃん以外には絶対に事情を話さないで! もし聞かれたら、この茶巾袋に入っている返答をする事! 1人にばれる毎に延滞料金がかかりますからね!」
そう流暢に、そして尊大に説明をするプリエル。
どうでもいいが、お前、今、襟首掴まれて吊られてるんだからな?
こいつ、まさか気管で呼吸してないんじゃないだろうな? エラ呼吸か?
それに延滞料金って何だ? 今すぐ返却出来ないのか?
「ハイ、これが事情を聞かれた時の返答用の答えが入った茶巾袋よ、聞かれる度に一枚引いて、書かれた通りに嘘だとばれない様に答えるのよ」
そう言って、カナミが茶巾袋を私に手渡し、
「いやぁ、一週間考えたのよ、辛かったわ」
と、なぜか、爽やかな笑顔を見せてくる。
くだらん事やってないで内政しろ!
「じゃあ、ミラちゃん、今は朝6時半だから、7時から始めるよ、まずは語尾に〜にゃん☆、って付けていこうか! ああ、早くその露出狂みたいな変な服脱いで、かわいいメイド服に着替えてね〜!」
プリエルはそう言って、ニコニコ笑ってくる。
いつか、叩き殺してやるにゃん☆
こうして、私の新たなミッションが始まったのだ、私に失敗はない!
やり遂げて見せる!
いや、見せるにゃん☆
2
朝の7時。
私はヴィスパーの部屋の前に立っていた。
ふと、妙な気配を廊下の角から感じたが、見ない事にする、どうせプリエルなのだ。
『しっ、失礼します、御主人様』
そう告げて、ドアノブを回したが、鍵がかかっている様でドアは開かない。
ノックしようと手を上げたが、そこに……
「ダメッ、メイドがノックで御主人様を起こしちゃ、萌えがないでしょ!」
慌てて、プリエルが駆け込んで来る。
『だ、駄目か? じゃ、窓から潜入するしかないか』
「バカッ、窓から潜入するメイドはいないよ! ドアから行きなさい!」
なぜか、理不尽に叱られているような気がしてならないが、仕方がない。
私は針金を取り出し、鍵穴にそれを差し込んだ。
「よしよし!」
満足げなプリエルだが、何に満足したのかは、わからないし、別に知りたくも無かった。
ヴィスパーの部屋に潜入……いや、入った私は朝日が差し込むベッドに歩み寄る。
暗殺ならば数秒後には終了なのだが、今日はそうはいかない……きっと、今、任務を暗殺に切り替えて良いと言われたら、拒否しないだろう。
そんな命令転換が出たらすまないな……とか考えていたが、そんな命令は出る事なく、私はヴィスパーの寝ているベッドの前に立った。
『御主人様、朝ですよ』
盛り上がったベッドに声をかけるが反応はない。
……死んでるのか? ヴィスパー、死んでいるのなら、許してやる!
死ぬなら今日だ。
私はそう願ったが、やはりヴィスパーは死んではいなかった!
ゴソ、ゴソ……
毛布が動き出す。
「……!!」
私は思わず身構えてしまった。
すると、ベッドの横から、にゅっ、と黒髪の少女が寝ぼけ眼で顔をだしたのである。
黒真珠のような瞳と私は目が合い、私は事態が把握出来ずに混乱してしまう。
「……」
黒髪の少女ローゼンフェリアはベッドから、スルッと出て来ると、テクテクとプリエルが覗き込んでいるドアに向かって歩いて行ったかと思うと、ピタリと足を止め、私に振り返る。
『ど、どうした?』
ローゼンフェリアがヴィスパーの許可を得て部屋に入っていたなら、勝手に部屋に入っておいて、先客にどうした? 何て言うのは、人の家に無断侵入して家人にいらっしゃい、というのと大して違いないかも知れないが、私にはそれ以外の言葉が浮かばなかった。
振り返ったローゼンフェリアはクスリと笑い、
「その服、いつもの服よりもセンスいいよ」
と、告げるとビックリ顔のプリエルの横を通り抜けて廊下に出ていった。
ローゼンフェリア……お前も私のターゲットに今日から入ったからな、覚悟しておけよ。
「あ〜、すごいスキャンダル見ちゃったね、私がお姉ちゃんだったら、この場所が軽い処刑場となっている所だったよ」
廊下を歩き去っていくローゼンフェリアをプリエルは見送りながら、頬の汗を拭う仕草をする。
お前がメリエルだったら私は今、こんな恰好でここにはいない!
それに軽い処刑場ってなんだ、軽いって!
「さぁ、早くヴィスパー君を起こして!」
ローゼンフェリアの登場に面食らった様だが、あくまでもこの行為を止めるつもりのないプリエル。
仕方がない、従って続きをやろう。
私はヴィスパーが寝ているであろうベッドを揺すった。
「ご主人様、朝ですよ」
そう声をかけるとヴィスパーは、
「う〜ん」
と、声を上げて起き上がった。
起きなければよかったのに……
死んでいたら、よかったのに……
「ミ……ミラちゃん?」
案の定、ヴィスパーは驚いている。
しかしながら、事情は話せない、私はニッコリ笑って、
『起きましたね、ご主人様、お早うございます』
そう挨拶した。
ど……どうだ?
メイド服だぞ?
カワイイだろ?
キュートだろ?
抱きしめたいだろ?
朝だし、身体が起きなくても何かが起きるだろ?
もちろん、後ろのふたつをやったら死んでもらう。
「ミラちゃん? い、一体どうしたのさ?」
ヴィスパーはあからさまに赤面している、偽善者の極みみたいな奴だ!
コイツのベッドにはさっきまで9才の少女が一緒に寝ていたのだ、そんな犯罪者に赤面されるいわれはないぞ!
化けの皮を脱いで襲いかかってくれば正当防衛で首を苅れるのだが……
『そんな事はいいんです、それよりご主人様、起こしに来た時にローゼンフェリアちゃんがベッドから出てきたんですよ? これはどういう事ですか?』
とりあえず、さっきローゼンフェリアが出てきた理由を聞く。
鍵をかけた部屋で9才児とベッドを共にしていたなんて、普通の理由じゃ納得出来ないぞ!
「僕はなんでミラちゃんがそんな恰好で僕を起こしているかの方が不思議でならないんだけど……」
ヴィスパーは頭を掻きながら言った。
『その説明はしますから、なんでローゼンフェリアちゃんがいたのか説明してください! そうでないと私……ご主人様に安心してご奉仕できません』
「いや……別にご奉仕してくれなくても構わないんだけど」
もっともな意見だ……しかし、私は一流の暗殺者だ、ロリータの逃げ口上など通用しないのだ!
『良いから教えてくださぁぁぁぃ』
私はベッドで身体を起こしたままのヴィスパーにのしかかる。
どうだ?
理性が飛んでしまいそうだろう?
爆発してしまいそうなんだろう?
でもしたら殺す!
「お、重いよ、ミラちゃん、違うんだ、ローゼンフェリアはよく夜中に勝手に入って来ちゃうんだよ」
お、重いだとぉ!
こ、殺す、殺す、殺してやるぅ……後で。
今は忠実なメイドを演じていてやる!
『何ですか、鍵をかけてたじゃないですか! 部屋に鍵をかけて9才とベッドインですか? ノクターン行きますか? エロい瞳のローゼンフェリアって題名変えますか? メリエルさんに通報しました……』
「ちょ、ちょっと待ったぁ〜、僕は部屋に鍵なんてかけてないよ、ローゼンフェリアがきっとかけたんだよ、あと訳の解らない事はいわないで、どこかの巨大掲示板方式でのメリエルさんへの通報は勘弁して! 無実、無実だってばぁ」
まるで命乞いのような様子を見せるヴィスパー。
ふと、窓の方に目線を移すとなぜかプリエルが何かボードを出して、私に指示している。
「早く食堂に!!」
ボードにそう書いてあるので仕方なく……
『さぁ、朝食ですよ、ご主人様!』
「ち、ちょっと?」
そう言ってヴィスパーの言葉も聞かずに、寝間着のまま食堂まで強引に引っ張っていく。
ヴィスパーのロリコン疑惑を解明したかったが、仕方がない……続きはメリエルに通報して先方にお願い申し上げよう。
食堂にやってくると……予想はついていたが、私のメイド服は皆の注目の的である。
朝の食堂はやはり混んでいて、私の恰好に視線が集まるわりには私と視線を交える者はいなかった。
意気地無しどもめ!
ヴィスパーは私から離れたがっているが、離す訳がない、この恥は一蓮托生なのをまだ理解していないのか、こいつは?
『さぁ、ご主人様、早く座ってくださいましっ!』
ヴィスパーを1番目立ちそうな場所に座らせる、お前も一緒に恥をかけっ!
「ちょっとミラちゃん、意味がわからないよ、何で君が僕のメイドなのさ?」
赤面し、周りの視線を気にしながらオタオタするヴィスパー。
その時である。
食堂の窓の外からプリエルがニタニタしながら、ボードを上げた。
「今だ、巾着袋を開けてトラップカード発動!」
と、書いてある。
そういえば理由を聞かれた時にはカナミの作ったカードを引いて、その通りに答えなければいけないんだったっけ……
まぁ、トラップとか書いてるのが気になるのだが、私はヴィスパーに背を向けてカードを巾着袋からドローした。
……って、ドローって何だ?
ドローの意味はわからないが私は巾着袋から一枚のカードを引いた。
そこには……
「SADAME」
と、だけ書かれていた。 一体、どうするんだ?
しかし、私は冷静に任務を遂行した。
『ずばりSADAMEですにゃん☆』
「え?!」
ヴィスパーはうろたえた様子を見せる。
意味を教えて欲しい顔だが、その義務は無い! と言うより私にもサッパリわからん。
「ミラ、あなた何を遊んでいますの?」
そこに現れたのは見事な金髪ロール、ネシア・ウェスティンである。
話によるとこのロールは毎朝付き人が2時間かけてセットするらしい。
要するに朝から暇な奴である。
『私は遊んでなんていない、ご主人様にお使えするメイドだ』
「…………」
私の見事な返答に対し、返って来たのは鋭い視線だけである。
ネシアはまるで会話がなかったかのように私達から離れたテーブルに座って食事を始める。
……おそらく、それが模範解答だ、世の中は自分の理解を越えた事態もあるのだ。
そうなったら、どうしようもない、無視して自分の生活を守る。
逆の立場なら私だってそうする、京兆だってそうする。←理解しなくていい、今、理解を越えた事柄は無視していいと告げた筈である。
「ヴィスパー君、お早う」
やって来たのはリキュエールだ。
こいつはヴィスパーと同じく基本的にはお人よしの扱い安いタイプの人間だ。 メイド姿の私に対しても予想通りに驚いてくれて、
「カ、カナミちゃん、その恰好は何かの罰ゲームですか?」
と、実は鋭い指摘で驚いてくれた。
『いや、罰ゲームなんて、とんでもない、メイドを馬鹿にしてるのか?』
「え? ヴィスパーくん? どういう事?」
私の言葉にリキュエールは?マークを三つも使ってヴィスパーに振り返った。
「いや、リキュエールさん、僕もさっぱりなんですよ、ミラちゃん何だか……」
「あ、そうなんだ? でもミラちゃんのメイド姿可愛いよね?」
リキュエールが私を見て笑うと、
「それは僕も思いますよ、滅多に見れないし、普段もこんな恰好してたら可愛いらしいですよね」
「そうですね」
そう言い合いながら、人を無視して笑う2人。
お前ら結婚式直前のカップルか? 結婚しろ! 結婚してしまえ!
「ところでミラちゃんはなんでそんな恰好しているのかな?」
首を傾げるリキュエール、やはり……その質問はするよな……誰でも。
諦めた様子で窓をみる。
「トラップカードをDRAWしてください」
というボードを持ったプリエルがいる。
あいつ、どこから人の話を聞いてるんだ?
どうでもいいか……なぜかあいつの事はみんなが無視している様子だし。
私は仕方なくトラップ? カードをDRAWした。
「愛の奴隷」
カードにはそれだけが書かれている。
……あると思っていたよ、こーゆーの!
読んでいたよ、こんな事は……!
逆に言えば、魏延が俺を斬れる者がいるか! と、叫んだら、斬れと、書かれていた方が何をしていいのか迷う所だ。
『私はご主人様の愛の奴隷でごさいます、身も心もご主人様の物』
私が妖しい瞳でヴィスパーの首元に手を回しながら答えると、リキュエールは真っ赤になって、
「そ、そうなんですか?」
と、慌ててヴィスパーに確認をとる。
「違いますよ、朝から何だかミラちゃんがおかしくって……」
激しく首を振るヴィスパー、こんなに可愛いメイドをおかしいといえるお前がおかしいわ!
『まぁ、ヒドーイ、ご主人様のばぁかぁ〜!』
私は調子に乗って、ヴィスパーに抱き着く。
「わわ、ミラちゃん、やめなって!」
『何を言ってるんですか? ご主人様の為に私がご奉仕してるんじゃないですか、ねぇ』
リキュエールに視線をうつすと、彼女は、
「あ、あ、あああう」
と、口をポッカリと開けている。
面白過ぎる反応だ。
更に遊んでやろう。
『大好きですっ、ご主人様、ご奉仕、ご奉仕!』
「あうっ、あうあうあうあ〜」
面白すぎるな、リキュエール。
もう少しサービスしてやるぞ!
私はヴィスパーの頬に軽くキスをして、
『今夜もご奉仕です』
と、ウインクする。
参ったか?
窓の外のプリエルも見ているか?
あれ?!
窓の外のプリエルもリキュエールと同じ様な顔をしているぞ?
驚くと言うより……何だが、見てはならない物を見たような表情だ。
「ヴィスパー君、ミラちゃん……後ろ……」
リキュエールが震える指を上げた。
……どうやら、私は不覚にも背後に迫る驚異にも気付かずにこんな無邪気な事をしていたのか……
「いや、これはですね」
ヴィスパーは私に抱き着かれたまま、苦笑いしながら頭を掻き振り返る。
今、振り返られるとはヴィスパーも案外勇気があるものだ、少し見直した。
しかし、ヴィスパーが振り返るという事はすがりついている私も振り返るという事だった……
「何がどうなって、そんな事になっているのか……教えてもらえるかな?」
予想通りだ……
そこには、鬼の形相をした、まさにこの国の女王様が立っていたのだ。
私はもちろん……女王様にわかる様に窓の外に視線を向けた。
もちろん一蓮托生だ。
「ご機嫌よう、お姉様」
プリエルはそんなボードを出していた。
……往生際がいいのか、悪いのか分からん奴だ。
罰ゲームの呆気ない幕切れだった……すると、黒髪に黒い瞳の少女がテクテクと歩いて来て、
「やっぱりミラはその格好の方が普段の変な服よりも似合うね」
と、笑った。
これを機に世紀の暗殺者ミラ・コンティネントの戦闘服がメイド服に変わった……などという事実はない事は歴史が証明している。
民明書房刊
「萌える!冥道のススメ」より抜粋。
↑理解を越えた事は無視しても良い事だ、むしろ、こんなオチは無視してもらいたいのが、今の正直な気持ちである。
「黒い瞳のローゼンフェリア外伝 ミラのメイドインヘヴン 完」
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