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ハーレムな隣人
作:瀬戸 孝輝



Phase8: 災厄北へ -1st night 前-


その事に気が付いたのは、夕飯後のトランプゲーム『大貧民』に興じていた時だった。
荷物をそれぞれの部屋に置いて来た私達は一旦ホテルの大広間に集合させられ、これからの旅行スケジュールの変更を聞かされた。要点だけを言ってしまえば、今日組まれていたスケジュールは全てキャンセルされ、明日出向く先に『網走監獄』が加わり、その分の自由行動が多少削られるとの事だった。今日分のスケジュールさえ削れば良いのに、何故わざわざ自由行動を削ってまで『監獄』を眺めなければならないのか。多少疑問を持ったが、大した理由では無いと見越し、受け流す事にした。私の視野の片隅で、『氷の女』四条美代、『風紀の前鬼』平、並びに『防衛の後鬼』源がにやっと嗤ったのは気のせいだろう。
解散後、私は後藤達と共にホテル内を散策し、暇を潰していた。特に代わり映えのしないB級ホテルだが、無為に時間を過ごすよりかは、そうして非常階段の場所を確認したり、死角を発見したりする事の方が幾らかは有益だった。しかし、自分の事ながら、もう少し『高校生らしい』、或いは『青春謳歌してます』という様な思考は出来ないものかと呆れてしまう。
散策の途中、ブルブルと震えている子犬、ではなく悟史を発見したり、鬼すら裸足で逃走しそうな形相をした美女計三人程と遭遇したり、我がクラスの担任が朝霧と内緒話をしている所を目撃したり、慌てて弁解する朝霧を見て、後藤が『蕩ける馬鹿』然となったり、西原と東が彼女ガールフレンドに連行されて行ったりと、短い時間にイベントが集約していた。どれも傍観者として居られた事を神に感謝したい。
夕飯までの残り時間を、途中で合流し、『マル秘計画』について綿密に打ち合わせをするクラスメート達を眺めて過ごしていた。私は『マル秘計画』には、一切加担していないというポーズでもある。とは言え、誰もこちらを見ていない事と、第三者がこの光景を見ていない事から、無駄なことであるのだけれども。少し虚しくなった。当然ながら、悟史はここには居なかった。
その後、何事も無く夕飯が終了。とは言え、何も無かったと言える範囲は私の周辺であって、決して遠くに見えた悟史らしき物体等はその範疇に無い。煤けた姿を見るに、ブルブル震えて隠れていた事は単なる時間稼ぎにしかならなかったのだろう。見ていて少し目頭が熱くなった。合掌。
そして、腹ごなしとして、後藤達とトランプに興じていたのだが……


「それ出せるわ。Aのペアッと」

西原がクラブとハートのAペアを場に出す。東と後藤は揃って、カードが出せないとジャスチャを示したので、私は暫し自分のカード残り三枚を見て

「二のペア。勝利」

「って今悩む必要ねーぞ!」

「性質悪いわ。りゅう」

「師匠ー! そろそろ大富豪から落ちてくれませんかねっ! というか、俺からカード搾取するの止めませんかねっ!」

「「「それはお前が悪い」」」

「同時に言うなーっ!」

何度目か忘れたが、記憶する限りの間大富豪の座に座り続けている私。手札の引きがそこそこよいという点と後藤の的確なアシスト――自覚は無いのだろうが――のお陰で連勝街道を突き進んでいる。
今回のフェイズでも後藤は大貧民だったようで、散らばったトランプを集め、繰りながら、ブツクサと小言を言っていた。西原と東はそんな後藤を見てからかっていた。私といえば、このまったりとした、騒動の無い平穏な空間を存分に満喫していた。友人と駄弁り、遊戯に興じる。日常生活では決して味わえなかった平穏がここにはあった。正に桃源郷アヴァロン。素晴らしき哉、修学旅行。
平穏に満喫していた私は、自分としては有るまじき事に、先の事を見据える余裕を持っていなかった。否、そういった余裕はあったにせよ、心のどこかでその事を考慮するのを放棄していたのかもしれない。
それぞれにトランプを配布し終わった後藤が、ふと思い出した様に私に尋ねたのが素晴らしき平穏とのお別れだった。

「そういや、師匠。師匠って結局野宿する事になったんですか」

「そうそう。お前、本当に野宿するつもりかよ?」

「別に俺らの所に泊まったって何の問題もないんだろ? なら、りゅうは俺らの部屋に泊まればいいんだわ。つーか、元々そういう意味での班だろうよ」

「……その通りなんだが」

非常に言い辛い。本当に今更だが、今更ながら私はあの四条美代あほと同室で夜を過ごさなければならないのか。あれ程、真剣な表情で真剣な口調で説得された為、あっさりと受け入れてしまったのだが、拙い事態なんではないだろうか。

「何か顔が青いっすよ?」

「おいおい、何か怪しいな、りゅう。お前、荷物何処にやったんだ?」

「……委員会用の部屋だ」

「委員会用の部屋? 西原、そんなんあったっけ?」

「いや、知らんわ」

「嘘じゃないのか?」 

非常に拙い。後藤達に嘘を言う必要は無いのだが、しかし誤解を受けそうな予感がする。

「おい、俺らに嘘なんて付かなくて良いっての。朝霧の所に行こうが、他の女の所に行こうが、気にしねーよ。とは言え、俺の千沙子には手を出すなよ」

「惚気るなよ、東。あ、後、都子にも手を出すなよ」

「……惚気るな。私は嘘を言ってる訳ではない。会長にでも聞けば分かる」

「って事は師匠。生徒会長と同衾って事ですか」

コイツ、時々核心を突く。しかも、こちらが護りたい核心を。
我が高校の生徒会長様の正体を知らない東と西原は驚愕と、何故かこちらを心配するような表情を浮かべている。後藤に至っては、生徒会長の本質を知らない癖に驚愕もせず、苦虫を何匹も噛み潰したような渋い顔をしている。

「マジ? お前、それって外で寝た方が『凍死』しないで済むんじゃないのか」

「それって『氷の女』だから? まぁ、あの生徒会長なら有り得るかもな。寧ろ、寝てたら『何寝てるんですか』とか言って突き飛ばされそうだわ」

「『えーマジ寝てんの? キモーイ。寝るのが許されるのは副会長までだよね! キャハハハ』みたいな感じでさ」

「キャラ違うじゃんか」

ゲラゲラと笑う二人。忠告しておきたいが、そんな事アイツの前で言ったらシバかれる事請負だ、私が。しかし、これが一般生徒の生徒会長に対する率直な意見なのだから、もうちょっと好感度上昇の為にも対策を立てた方が良いと思うのは老婆心だろうか。
すすっと後藤が近付き、小声で話しかけてくる。

「師匠、映子はその事知ってるんですか」

「知らない筈。その必要も無いだろう?」

「いや、でも、まぁ……」

何が言いたいのか、ハッキリしない男である。
その時、ズボンのポケットで振動を感じた。携帯を開いて表示を確認する。

「でもさ、りゅうが居ないとなると、稲川の奴ヤバいんじゃないか?」

「それ、有り得るわ。明日の朝、アイツにあったら真っ白に枯れ尽きてたりしてな」

「……その悟史から緊急信号が来た」

「マジか! それ行かない方が面白いんじゃない?」

「一応、友人としては見過ごせないからな」

「あー、本当りゅうって御人好しと言うか出来すぎた友人だと思うよ」

馬の足には蹴られたくは無いが、と言い残し、私は悟史の部屋へと赴く事にした。本土決戦に向う戦士を送るが如く東西コンビはタオルを左右に振っていたが、後藤だけは呆れた目で私を眺めていた。





短いです。
もう一話明日掲載するのでご容赦を。











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