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Phase12: 災厄北へ -last day 前-
函館の観光は他の観光場所と同様、各班の単独行動が可能であった。
私達も御多分にれず、勝手気ままに函館の街を散策していた。朝食をホテルで摂ったにもかかわらず、折角漁港に来たという事で海鮮丼を食したり、メモリアルシップ摩周丸内の観察をしたりと、函館を満喫しつつ午前中を過ごした。その際、摩周丸の甲板で東西コンビが某映画のワンシーンを再現しようと試みた結果、甲板から海へとダイブ寸前だった事は青春の一ページとして私の記憶に刻まれている。
昼食を軽めに摂った後、東西コンビの彼女達を含む一団と合流。一路、五稜郭へと歩を進めた。
その道中の事。

「旦那って西原君や東君と同じ班だったんっすね、ちょっとびっくりっす」

クリクリっとした瞳を向ける玉城。ポッキーを口に咥えたまま、器用に喋っている事の方が私としては驚愕に値する。

何故なにゆえそう思う?」

「うーん、や、まぁ何となく思ったんすよ。ほら、りゅう君って言えば、ハーレムの御目付役とか執事役とか言われてるじゃないっすか。執事役ってのは多分、北条寺さんと由宇ちゃんが言ってるからだろうけど」

そう言ってポッキーを上下に揺らす。
何の意味もない行動だろうが、その口元で揺れ動くポッキーをついつい眼で追ってしまう。

「だっからさ、修学旅行も稲川君に付き合って、ハーレムの管理をしてるのかなって。ほら、稲川君、一番最初に班決めした時はあんなに騒いでたけど、その後は何にも言わなかったじゃないっすか。こりゃー、またりゅう君が貧乏くじ引いたのかもねって皆で言ってたんすよ」

そんな事をクラス連中に思われていたのか。
クラス連中もハーレムの動向には気を使っていると見るべきか。結果として的は外しているのだが、目の付け所は鋭いという感想を持つ。それよりも、クラスの皆――とは言うものの、女子連中だけだと思うが――がそう思っている時点で、『何となく』『悟史と同じ班だと思う』では無い様な気がする。ある程度の確信を持ったクラスのコンセンサスではないか。突付くとまたぞろ面倒臭い事になるだろうと、沈黙を守る事にする。
余談だが、ポッキーの運動は上下から回旋運動へと移行している。クルクルと回るポッキーの先は見ていても飽きが来ない。

「まぁ、あたしとしては、こうなったんで大歓迎っすけどね」

「私は少人数行動の方が好ましいが」

「まーまー。大人数の方が何かと楽しいっすよ。ところで旦那、ポッキー欲しいっすか?」

「否、そういう訳ではない」

「ん? でも、さっきからじーっとみてるじゃないっすか。……ああ、そういう事っすか。しょうがないなぁ、ほいっ」

勝手に納得し、こちらにポッキーを差し出してくる玉城。差し出してくるといっても、自分の咥えているポッキーを顎を突き出すことで――しかも閉眼で――こちらに渡そうとしてくる。一体、どうしろというのだろうか。否、正しくは何を望んでいるのかは理解してはいるのだが、そのような破廉恥な事出来る訳が無い。

「ほらほら〜」

近寄ってくるな。
顔を寄せてくるな。
しかも、照れながら実行するな。
焦って飛び退きたいのをぐっと堪え、表面上冷静を装って玉城にデコピンをしておく。

「あうちっ! 何すんのさ、りゅう君。折角、ポッキーの食べさせっこが出来る所なのに」

「TPOをわきまえろ、風紀委員。他の連中が凝視している事に気付け! 通行人の好奇な視線にもっと敏感になれ!」

「……あ」

玉城がポッキーをこちらに向けてきた時から、クラスメートの視線がこちらにチクチクと突き刺さってきていた。しかも、軽蔑や嘲りといった冷たい視線では無く、興味深げにこちらを見守る生暖かい視線であった所が私としては悩ましい。ただ、物事には例外があって、後藤だけが修学旅行初日の夜に見せた、あの呆れた視線を送っていた。
見られている事に恥ずかしくなったのだろう、玉城は赤面しながらも、誤魔化すような笑みで視線を送っている友人連中に言い訳を言い始めた。言い訳が早口になっている事は、状況を肯定している事と誤解され易い為、必死の説得は無意味に終わるだろうと推測。
私はと言えば、特にコメントする必要も無いと判断したのでさっさと五稜郭の方に足を向ける。すかさず、東と西原が

「隅に置けねぇな、りゅう」

「ああ、玉城とそういう仲だったとは、知らんかったわ。道端でいちゃつくバカップルレベルまで進行してらっしゃるとは、俺らもまだまだ甘いなぁ」

「そうだよなぁ。流石に恥ずかしくてあんな事したことねぇよ」

「全く全く」

等と絡んできたのだが、これを一蹴しておいた。全く、何でもかんでも恋愛沙汰に結び付けるのは短絡的な思考と言わざるを得ない。それとも、青春真っ盛りな高校生思考とでも名付けておいた方が適切なのか。
結局、五稜郭に着くまで散々からかわれ、良い迷惑だった。とは言え、ハーレムの事とは無縁に、こうしてクラスメート達と盛り上がれた事は、私の『高校生生活』がクラスメート標準の『高校生生活』を送れている様で、自分の立場を忘れて楽しんでいた事は間違いが無い。


そして、それ故に
私は失敗を犯した。





日は厚い雲に覆われ、最高の散歩日和とは言い難いものの、暖かな空気は五稜郭跡地の散策にもって来いと謂えた。はしゃぎ回る連中を尻目に、私は周りの景色に目を向けていた。過去、ここで戦闘が実際に起きたのだとすれば、一介の兵士は何を思い、何を護る事を胸に秘めて、迫り来る相手に銃を、剣を向けていたのだろう。他人の胸の内、しかも時代背景が全く異なる兵士達の胸中等、私如きがうかがい知れる筈も無いが、思考は留まる事を知らなかった。
だがしかし、思考は止められた、一本の電話によって。

「どうした、悟史?」

『……』

「……」

『……んた……んだよ!』

こもった声と至近距離から聞こえる物が擦れる音。
間違い無く、問答無用で悟史の声であるが、何と叫んでいるのかは聞こえない。
私は何とか聴き取ろうと受話音量を最大まで上げ、耳を押し付けた。

『何か言ったらどうなんだよ! 如何して! うおっ!』

物に当たる音がする。微かに鳥の声と女の、そう……女の悲鳴。
瞬間、様々なケースを脳内で構築し、其々における対処法を考慮し、そして最悪ケースにならない事を祈る。


そして、それは儚く
祈りは無残に踏み潰される。


『逃げろ! 麗華ちゃん!』

悟史の声が私を焦燥へと駆り立て
同時に私の全ての感情を凍結させ、無感情にさせる。

緊急事態。最悪ケース。
通常策では程遠い。良策では生温い。適策では未だ足りない。私が執行すべきは最善にして最適の策。思考しろ。思考しろ。思考速度ギア無策ニュートラルから最速探索フォースへ。熟考しろ。熟考しろ。護衛対象の動向を予測し、未だ見ぬ殲滅対象を仮定し、最良の結果をもたらす過程を構築し後進する。幾重にも分かれるケースは排除せず、そのまま後進させ、現在地点に帰還させ、逆に前進させる。検討しろ。検討しろ。己のミスは護衛対象の危険に等しい。その重責を刻み込め。
携帯をイヤフォン・マイクへと接続切替、負荷バック排除パージ、最小限装備を装着。執行準備完了オールグリーン

今以て、悟史の居場所は分からず。携帯から届く悟史の会話を頼りに割り出すしか方法は無い。未だ行動を取れない事が歯痒くも、悟史の声に傾聴する。

『こっから先は……』

『……畜生!……』

『野郎!……』

そして

『……手前らみたいな奴はここで仲良く埋まってりゃいいんだ!』

鳥の声と『埋まる』という言葉と、頻繁に聞こえる何かにぶつかる音、それも石材と金属の音。
函館において、高校生が足を運ぶ場所の内、海に近い、墓地でしかもかなり密集している場所。そう、該当するとすれば、『外人墓地』が最適か。

私はその場を離脱、全速力で大通りへと駆けて行く。背後で後藤達が叫んでいたが、立ち止まって応える時間も惜しい。耳元では悟史の苦しげな息遣いが聞こえているのだから。私は彼らの声を振り切り、タクシーを呼び、乗り込む。すると、私と共に乗り込んでくるやからがいた。玉城だ。降ろしている時間は無い。

「くっ……外人墓地方面へ! 全速でお願いします!」

「運転手さん、お願い! 急いで!」

「り、了解」

タクシーは急発進する。

「玉城。何故付いて来た!」

「りゅう君。あたし達に説明もする暇も無い程に緊急事態なんでしょ? だったら、少しでも協力するっす。あたしだって風紀委員っすし、いざとなれば」

「風紀委員はあくまで学校内での役職だ。今回の事態には」

「人材派遣だって同じっすよ! 会長から依頼されてるらしいけど、やっぱりりゅう君だって単なる高校生でしょ! 学外とか学内とか関係無い!」

「……」

言い返す事は容易い。だが、それは玉城に依頼内容を教える事になる。
反論を考えている余裕は余り無いのだが、余りカスの頭脳で搾り出そうとする。そこに悟史の声が飛び込んで来た。息も絶え絶えに、搾り出すような声だった。

『りゅう。……ごめん』

「何故謝る」

『ゲホッ……やっぱり俺弱いわ。麗華ちゃんが……狙われたけど……時間稼ぎがせ、ゲホゲホッ……一杯だった』

「それで十分だ。彼女は? お前は?」

『逃げてると……思う。……俺は二人がかりで、ボコボコに……ゲホッ、やられただけ』

「十全だ」

『りゅう』

「なんだ」

『頼むっ! ゲホッ……麗華ちゃん達を』

「私を誰だと思っている」

『ハハッ……そうでした。俺はこの墓地で待ってるから』

「ああ、休んでろ」

通信を終える。
横で真剣に耳を傾けている玉城。大筋の話は理解されてしまったのかも知れない。だが、それだけならまだ到達していない。ならば、良いという事にしておこう。

「玉城。お願いがある」

「何すか?」

「このままタクシーに乗って、外人墓地まで行き、悟史の手当てをして欲しい。……運転手さん、幸坂との交差で一旦降ろして下さい」

「はい、良いですよ」

「りゅ、りゅう君! 独りで助けるつもりですか!? そんな相手さんが何人いるかも分からないのに!」

玉城と私はそれ程親しかった訳ではない。だから、私と一緒に居る時間も、悟史と比較してしまえば、月とすっぽん、それ以上に差が開いており、当然お互いにお互いの事を良く知っている訳では無い。
だから、だからこそ、ここでコイツに教え込んでおこう。
制服の内側に常に在る、薄い漆黒の手袋を嵌めながら、滅多に見せないかおを見せ付けて

オレを誰だと思っている」





……Phase12脱稿です。
後半から何だかシリアスですが、お付き合い下さい。
次回には終わる事でしょう……多分。

感想、誤字脱字等御座いましたら、ご一報下さい。宜しくお願い致します。


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