「はぁ……」
彼は溜息を漏らした
夢もやりたい事も無い人生。彼にもかつては夢があった
しかし、今は夢を諦め、学校を卒業し、進学もせずに何をすることもなく毎日を過ごしている
夢がなければ働く気も起きないという彼は流行りのニートだろう毎日恒例のこれから先どうすればいいのかを悩んでいる最中、階段を上る音が聞こえる
「お父さんの転勤の事だけどあんたはどうすんの?」
答えは決まっていたようだ
「行かないよ」
父親が海外に転勤になり、母親も一緒にいくので彼はどうするのかを聞きに来たのだ
「そう……、出来ればあんたも一緒の方が安心なんだけど。」
「悪いけど、言葉もわかんないし、行ってもなんもやる事なさそうだから」
母親は皮肉を込めて言った
「こっちに居てもおんなじじゃない?」
「それは……」「まぁいいわ。ならあんたには親戚の家に預かってもらう事になってるから」
「えぇっ!?なんで?」
「あんたに家を任せられるわけないでしょ!小学生の子もいるからしっかり面倒みるのよ」
「ガキは嫌いだって知ってるだろ!?なんでまたそんなとこに……」
「でっかい子を預かってくれる家がそうあると思う?」
彼に選択肢は無かった
「どうも、よろしくお願いします」
「えぇ。自分の家だと思ってくつろいで下さいね。小学生の女の子もいるのだけれど、今日はまだ帰って来てないみたいね」
彼はしばらくお世話になる部屋に案内された
奥さんは笑顔で物腰が柔らかい人で彼は安心していた
しばらくして夕食を食べていると元気な声が聞こえた
「ただいまぁ〜。お、この匂いはカレー?あ、お兄ちゃんが今日から住む人だね?よろしくね〜」
「あ、あぁ……よろしく」
適当に相槌をうちつつ夕食を食べ終えて部屋に戻ると女の子がやってきた彼女は彼の落としたピック(ギターを弾く道具)を持ってきた
「これってギターに使うやつじゃないの?お兄ちゃんギター弾いてるの?」
「あぁ……もう辞めたつもりだったんだけどな」
彼は引っ越しの時、悩んだ末に持ってきていた
「なんで辞めちゃうの?頑張らないの?」
「頑張ったよ。けど駄目だった。俺にはセンスがないんだよ」
彼は中学からずっとバンドをやっていた。しかし限界を感じ、諦めた
「センスって何なの?先生が言ってたよ、諦めないで頑張れば夢は叶うって。あたしは大きくなったら女優さんになるんだよ。お兄ちゃんは諦めちゃうの?」「あぁ、駄目だったんだよ俺には」
「誰が決めたの?駄目だって」
「……」
「お兄ちゃんが勝手に思ってるんじゃないの?大人ってそんな簡単に諦められるの?」
「……」
「あたしは諦めないよ?諦めなければ絶対になれるって先生が言ってたから。私は絶対に……」
彼はギターを弾き始めた頃を思いだしていた。諦めなければ夢は叶うと信じていた時を。
彼は久しぶりにギターを手に取った |