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海上戦

「よっと」


 投げつけられた槍を避けながら、マストの上へ上へと登っていく。

 マストのてっぺん近くに備え付けられている物見台には誰もいないので、そこに取り敢えず退避しておくことにするか。

 結構な高さがあるので、槍はもう届かないらしく一旦攻撃は止んでいる。


「さて、現状は……」


 後方から近付いている他の二隻は、こちらの騒ぎには気づいているようだが、加勢をせずに船を追うらしく船足が落ちていない。

 となると、まずは足止めか。

 マストの下から何体か登ってきているゴブリンらしき――じゃないな。奴らはダークゴブリンらしい。

 マストに備え付けられている縄梯子を、懸命に登ってきている敵へ糸を伸ばし『捜索』を発動させて、リストに載った名前を見ると、そう記名されていた。

 『捜索』のレベルが上がったことにより、今では糸を通じて『捜索』を発動させることも可能となっている。

 勿論、ついでに『精神感応』で相手の思考も読んでいるのだが『コロセ、コロセ』と物騒なことばかり呟いていて、何もわからず仕舞いだ。


 縄梯子を糸使いの能力で揺らしてみたり、脚に絡ませたりして時間を稼ぎながら、幾つかの糸をマストに這わせ、甲板へと降ろし目的の場所へ進ませておく。

 俺が滞在中の黒船を挟み込むように、右舷と左舷からほぼ同時に、もう二隻が追い越そうとしている。

 残りの二隻もダークゴブリンが乗っているようで、ちらっと視線は向けているが、お前たちで何とかしろと言いたげに視線を逸らし、世話になっていた船を追うつもりのようだ。


 なら、都合がいい。

 伸ばしておいた糸を操り――バリスタを二隻の船へ向けると矢を発射した。

矢を予め充填していてくれたので、狙いをつけ引き金を絞るだけで良かった。意外と楽に操れたな。

 糸の本数の関係上、十台のバリスタしか操作できなかったが、右舷と左舷に五本ずつの矢が飛び、運よく両方の船にいるダークゴブリンたちに何本か命中したようだ。


「グギョルガ!」


「ガリギョルグ!」


 射られた側が何かを叫んでいるようだが、何を言っているのかは全く理解できない。何度か聞いたゴブリン語に似てはいるが、何処か違う気がする。人間だって国が変われば、言葉は全く違うものになる。ゴブリンだってそうなのだろう。

 ただ、マストを登っている最中のダークゴブリンの心中を読み取る限りでは「裏切る気か!」「こっちは味方だ! 何をする!」と怒鳴られているようだ。

 素通りする予定だった筈の二隻が速度を緩め、この船に並んでいる。足止めとしては成功と言っていいだろう。

 フックのついた縄が何本も両脇の船から投げ込まれ、移乗用の橋も掛けられている。

 攻撃を受けた側は武器を手に穏やかではない雰囲気で、こちらの船に乗り込んできたな。

 こっちの船のリーダーらしきダークゴブリンは誤解を解こうとしているのだろう、武器を甲板に置いて向こうの船の代表らしき者に歩み寄り、何か言っている。


「さて、かき回すか」


 いきり立ち注意力が散漫になっている二隻の船のリーダーらしきダークゴブリンに糸を伸ばし、反りがある片刃の剣を握る手首に絡ませると――振り上げさせた。

 両者とも自分の腕が勝手に上げられたことに動揺しているな。不意を突かれ力が抜けている今のうちに、俺はその腕を勢いよく振り下ろす。

 その刃が向かう先にあるのは――弁明を続けていたダークゴブリンだった。

 耳をつんざくような悲鳴が響き、背中と胸元を切りつけられたダークゴブリンが、よろめきながらも何とかその場に立っている。

 今度は両リーダーが狼狽えた様子で、何か弁明をしているようだが、和解をさせるつもりは全くない。


 次に五体の船員の腕を操り、船に乗り込んできた向こうの船員を襲わせる。

 状況としては自分のリーダーがやられて、報復に出たように見えるだろう。

 攻撃した側が自分の腕が勝手にやったと訴えているようだが、そんな言葉が、この場で通用するわけがなく、斬られた側がやり返している。

 何とか状況を鎮めようとしている者も数名いるようだが、そこでダメ押しをしておこう。

 足元に忍ばせておいた、蜘蛛の巣状に張っている糸の上にいるダークゴブリンたちへ一斉に、


『裏切る気だ。殺さなければ殺される!』


 と『精神感応』で伝え、同時に『同調』を発動させる。


「後は少しちょっかいをかけながら待つだけか」


 下から流れてくる荒々しい声と剣戟の音を聞きながら、俺は物見台に背を預け座り込んだ。





 時折、思い出したかのようにマストを登ろうとする敵に糸を伸ばし、両手、両足首に糸を絡ませ操り人形のように動かしながら、戦況を更に悪化させる作業を続けていると、いつしか足元での騒ぎは収まっていた。

 弱々しくも微かに残っている気もあるが、大半の気は失われていて、覗くまでもなく壊滅状態であるのがわかる。

 それでも念を入れて、そっと眼下を覗き込むと、無数の屍が甲板を埋め尽くしていた。

 何体かは光の粒子となって大気へと溶け込んでいるが、新鮮な死体はまだ変化なく横たわっている。

 『気』と『捜索』により敵の生き残りを探ると、こちらの船の上には数体かなりの怪我を負っているが、まだ生きている者がいる。ここの甲板の真下と両脇の船には、内部に何十体か戦いに参加しなかった者が残っているようだ。


「悪いが手負いの者は始末させてもらうよ」


 丸太を括りつけた糸で、碌に動けないダークゴブリンの体を貫く。何体かはまだ動けるようだったが、疲労困憊の相手に負けるわけがない。

 丸太に気を取られている相手の背後に降り立つと、蓬莱さんの遺品である斧で真っ二つに切り捨てた。

 搦め手ばかりを使っているが、普通の接近戦もそれなりには鍛え上げている。相手が万全であったとしても、三体同時ぐらいまでなら余裕で捌ける実力差はあるだろう。

 甲板上に自分以外の動いている者がいなくなり、一息つきたいところだが、まだ船の内部に気を感じる。問題は、生命の気は確かに存在するのだが『捜索』のダークゴブリンには反応していないことだ。


「となると、別の魔物か」


 気の大きさで判断するなら、ダークゴブリンよりも弱々しい。だからと言って油断するわけにもいかない。

 この船には四十三、右の船に三十六、左の船も三十七といったところか。

 ありうるパターンとしてはオールを漕ぐ要員である船員――もしくは奴隷。ガレー船のオールの数が両隣の船は見える範囲に八本。向こう側面にもう八本。合計十六本に二人ずつ配置して、余った数がいざという時の予備だと考えるなら、おかしな話でもない。

 この船だけオールが多いので、数の計算としては成り立っている。


 気が少し小さいのも碌に食事を与えられていないか、ダークゴブリンよりも弱い種族なのだろう。これだけ甲板が騒がしいのに誰一人出てこないとなると、鎖で繋がれ動けない奴隷という線が濃い。

こればかりは憶測でなく、確認するしかないな。


 このまま、船内へ入る気は毛頭ないので、糸を伸ばして中を探っていく。

 甲板のすぐ下には大きな空間がある。船員の部屋とかは一切ないのか。直ぐにオールを漕ぐ大部屋だけのようだ。

 糸はかなり細い物を使っているので、気づかれた様子はないな。耳を澄ませても下から騒ぐ声は聞こえてこない。


 ええと、オールを握っているとなると船の側面を沿った方がいいか。ここが空いているからオールを出す場所か。この先にオールが……あったあった。で、伝って行くと……よし、誰かの手に行きあたった。

 巻き付けるのは流石に怪しまれそうだな。そっと、触れておくだけにして読み取るか。


『静かになってからかなりたつが、クソゴブリンどもが下りてきやがらねえぞ……どうなっているんだ?』


 間違ってもゴブリンと友好的な間柄じゃないな。

 精神感応は心の声を読み取れるのは便利だが、相手が何語を話しているのかが全くわからないのが問題だ。贅沢な悩みだとはわかっているが。


「おーい、誰かいるかー。共通語がわかるなら返事をしてくれ!」


 相手の反応を確かめる為に共通語で声を張り上げてみた。


『あれはゴブリンの声じゃない? 共通語も奴らと違って綺麗な発音をしている。何だ、何があったんだ? もしかして、助けがきてあいつらが殺されたのか?』


 共通語が通じる相手か。それに、やはり奴隷のようだ。好戦的でもなさそうだし、話も通じそうだな。よっし、ご対面といくか。

 意を決すると、俺はゆっくりと階段を下りていく。


「今からそちらへ向かう。俺はこのダークゴブリンに襲われ撃退した者だ。もし、こいつらに敵対している者であるなら、攻撃は加えないでくれ」


 相手を安心させる意味も込めて大声で伝えておいた。


『ゴブリンどもが死んだ! やはり、仲間が助けに来たわけじゃないのか……くそっ、生き残りはいないとわかっていたが』


 他の人にも糸を這わしているが、概ね同じ考えのようだ。何処かの集落か村かはわからないが、彼らに捕まり奴隷となっていたのだろう。

 階段を一段降りる度に異臭が強くなってくる。アンモニア臭……平たく言えば、糞尿の匂いが鼻孔を貫いてくる。

 階段を降り切った俺の視線の先に広がる光景は、悲惨なものだった。

 粗末な布を腰に巻いただけの奴隷たちが二人一組で並び、オールを手にしている。足には如何にも頑丈そうな鎖と枷があり、彼らがその場から動くことを禁じている。

 異臭の源は船底に垂れ流しになっている、糞尿のようだ。


 全員が決して肉付きがいいとは言えない身体つきをしているが、オールを漕ぐ作業に従事させられている為だろう。引き締まった筋肉が浮き出ている。身長は平均で160から170といったところか。

 何よりも異質な特徴が、その顔だろう。

 バッタの顔が乗っているのだ。人間と変わらぬ体の上にバッタの顔。それも、丸みのあるイナゴ系の顔ではなく、三角形の尖ったショウリョウバッタの顔がそこにあった。


 よく見ると口元だけが人間に近い口をしているが、それ以外は完全にバッタの顔。ご丁寧に頭の先に触覚まで付いている。顔の長さで身長が10センチ以上は高く見えているな。

 光があまり射し込まない空間なので、わからなかったのだが、よく見ると肌色も少し緑がかっているようだ。

 初対面の見ず知らずの相手に失礼だとは思うが、正直……気持ち悪い。

 元々、昆虫があまり得意でなかったというのはあるのだが、あの顔が人間サイズで人の体の上に乗っかっているというのは、かなりの破壊力を伴う。


「あんた……魔族なのか?」


 右手方向にいるバッタ人間……昆虫人間とでも言えばいいのだろうか。怯えながらも話しかけてきた。

 魔族と勘違いしたということは、この世界の魔族は人間に容姿が近いのか。


「いや、人間だよ」


 俺がそう発言した途端に、バッタ人たちが騒めき出す。


「人間だと? 人間がダークゴブリンを倒したというのか」


「いや、こいつは下っ端で魔族が上にいるんじゃないか」


「だよな、人間がそんなこと、できるわけが……」


 どうやら、この大陸では人間は弱者側のようだ。それも、心の声には若干だが侮蔑が混ざっている。この大陸では奴隷になっているバッタ人よりも、人間は低い立場らしい。

 ざわつくバッタ人を更に詳しく観察してみると、脚が異様に発達しているのがわかる。太ももの筋肉が胴回りと同等か、それよりも太いようだ。そこら辺はバッタの身体能力と似ている部分なのだろうか。


「どう思ってくれても構わないが。ゴブリンたちを殺したのは俺だよ。それも一人で」


 柄ではないが少し強めの口調を意識する。言葉だけでは信用しないだろうと『気』を全力で解放した。

 今彼らは俺から吹き出す気に圧倒され、上半身を反らし、全身に脂汗が浮き出ている。


「これで、少しは信用してもらえたかな」


 気の放出を止め、笑顔を彼らに向けると、全員が何度も激しく頭を上下させていた。

 相手に妙な考えを起こさせないように、こっちが強者であることを理解させることにする。初めての相手だ、心が読めるとはいえ優位に事を運んだ方がいい。


「す、すまなかった。我々は、見ての通り昆虫人であるバッタ族だ」


 そのまんまだな。と思ったが口には出さない。


「おま……いや、貴方は我々をどうするつもりですか」


「別にどうもしない。解放されたいのであれば、解放するよ。そっちの希望によるけどね」


 奴隷という立場の場合、何でも無暗やたらに解放すればいいというわけではない。その立場を受け入れている者だっているかもしれないのだ。

 もしくは、解放されたいと願ってはいるが、家族や身内の事を考えると解放されることを拒む者もいるだろう。

 奴隷だから助ける。解放してやるというのは考えが浅すぎる――この状況に追い込んだ俺が言えた義理ではないが。

 俺の言葉に再び彼らが騒めき始める。表情から感情を読み取りたいところだが、ああ、バッタの顔だ。としか思えない。


「そこの壁にかかっている鍵を取ってもらえますか。それが足枷の鍵なので」


 さっきから代表して話しかけてくる男……声と身体つきからして男だと思うが、その彼が壁際を指さす。

 心の声を聞く限り、解放された途端に俺に襲い掛かるという展開はなさそうだ。感謝している者ばかりで、敵対する可能性は無いだろう。


「ああ、構わない」


 俺は順番に鍵を渡していくと、気が急きすぎているのだろう、何度も鍵穴を外しながらも、何とか全員が足枷から解放された。


「ありがとう! 見ず知らずの人間よ!」


 俺との会話を担当していた彼が俺の手を取り、嬉しさのあまり手を上下に激しく振っている。

 気持ちはわからなくもないが、顔が近すぎて怖いです。少し下がってくれ。

 ちょっと偉そうな態度を取りすぎたかと反省していたのだが、助けられた感謝により信頼へ変わったようだ。

 解放されたバッタ族の面々と甲板に上がり、彼らはもう二隻の船へと別れて移動し、仲間を解放しているようだ。

 もう、手伝うこともないだろうと、相手の代表者らしき彼から情報を収集することにした。


「ええと、そういや名前を聞いてなかったな。俺の名は土屋という、キミの名前は?」


「ああ、すまない! 恩人に名乗っていなかった! 私の名はジョブブという。バッタ族の長をやっていた!」


 声だけで判断するなら、爽やかイケメンなのだが、どうにも顔とのギャップに慣れそうにない。


「じゃあ、これからはジョブブと呼ばせてもらう。構わないかい」


「勿論だとも、土屋……は様付けた方がいいかい?」


 威圧的な態度は、もう必要ないか。


「いらないよ。ジョブブに聞きたいことが幾つかある。まず、俺の事を語らせてもらうが、俺はこの大陸の出身ではなくて、灰色の大陸に向かう途中、ここに流されてきてしまった。だから、この土地について情報が全くない。よかったら色々教えてもらえないだろうか」


 転移者であることも触れずにおいた方がいいだろう。


「そうなのか! ああ、任せてくれ。そんなことで恩が返せるとは思えないが、何でも聞いてくれ」


 いい奴なのは言動で伝わってくるのだが、どうしても顔を直視して話すことができない。早いうちに慣れたいところだ。


「まず、ここは常闇の大陸で間違いないかい?」


「ああ、そう呼ばれているな。数百年前から魔族が幅を利かせている世界だ」


 でたな、魔族。さっきも俺と見間違えたぐらいだ。珍しい存在ではないのだろう。


「その魔族というのは、どういった存在だい? 俺を魔族と勘違いしたって事は、見た目は人間と同じだと考えられるが」


「そうだな。人間と魔族に見た目の差はない。ただ、人間に言わせると、魔族は容姿の整った者ばかりらしい。私たちには全く見分けがつかないがな」


 成程。俺もジョブブと他のバッタ族の区別が全くつかない。それと同じなのだろう。


「人間との決定的な違いは魔力の強さだ。闇属性の魔法を得意とし、他の魔法も自在に操る。不老であり、頭も良く、この大陸では力のある種族だ」


 人の上位版といった感じなのか。魔族と名乗るぐらいだから悪魔やそれに準じる存在かも知れないな。


「そして、俺たちバッタ族も含めた昆虫人や獣人を作り出した存在でもある」


「なっ……ジョブブたちは、魔族に生み出された存在なのか?」


 これは、意表を突かれた。昆虫人といった種族が当たり前に、この世界では存在しているのだろうと理解していたのだが、まさか作られた存在だったのか。


「そうだ。昆虫人も獣人も魔族が人体改造の一環として生み出した、実験体だ。人と昆虫や動物を掛け合わせ、優れた生命体ができないか調べる為。それだけの為に作り出された……命だ」


 辛そうに語るジョブブなのだが、やはり表情の変化は判別できない。

 しかし、中々性質の悪い種族だな。魔族というのは。


「じゃあ、ダークゴブリンも魔族の手によって――」


「それは違う。奴らは元々、常闇の大陸に住んでいた魔物だ。ここは闇を纏った魔物が住み、魔族の実験場である暗黒の世界だ」


 強力な魔物が住み、魔族が実験と称して生み出した多くの実験体が住む大陸。

 ロイルが贄の島の方が幸せだったと思うかもしれないと、表現していたのが今なら良くわかるよ。


「魔族、昆虫人や獣人以外はこの大陸の先住民だ。牛の頭をしたミノタウロスという魔物と牛人がよく似てはいるが、全く違う存在だからな」


 ミノタウロスと言えば、人の体に牛の顔でお馴染みの魔物だよな。


「それって、見分けがつくのかい?」


「そうだな。まず、牛人はミノタウロスに比べて頭がいい。昆虫人と獣人はベースが人間なので、人と変わらぬ知能を有しているそうだ。ミノタウロスは魔物なので、言葉を発することもなく、本能の赴くままに生きていると言える。あと、もう一つ決定的な違いがある」


 そこで言葉を区切ると、バッタの目がこちらをじっと見つめている。

 たぶん真剣な眼差しなのだろうが、俺にはその区別がついていない。


「死んだときに光の粒子となって消滅するか、死体が残るかだ」


 魔物であれば光となって消える。彼らは残り続ける。それが、自分たちが人間の遺伝子を組み込まれた存在である証だということか。


「そうか。次の質問だが、ジョブブたちは何故奴隷に?」


 答えにくい話かもしれないが、それを聞くことにより、この大陸での掟が見えてくるだろう。


「それについて語るには、我々、昆虫人について知ってもらわねばならない。昆虫人は獣人に比べ初期段階でかなり数が少ない。どうにも、動物と人間は似た部分があり、融合しやすく、昆虫と人は組み合わさりやすい部分が少ないからだという話だが。私には良くわからない」


 哺乳類同士と昆虫とでは異なる部分が大きいということか。俺も生物に関して詳しい訳じゃないが、言っていることは何となく理解できる。


「それに、我々は同種族でしか繁殖できず子も多く生まれない為、数が少ない。バッタの脚力により、跳躍力と蹴り技が優れているので、一対一であればダークゴブリンにも負けないと自負している。だが、奴らは万単位で存在し、一国を築き上げている存在だ。数の暴力に敵う訳もなく、我々は捕らえられ奴隷に落とされた」


 ここにはダークゴブリンの国が存在しているのか。

 また、ゴブリンと戦う日々がきたりしないだろうな。何かと縁があるからな。

 贄の島で充分にゴブリンは倒したから、出来ることなら、あまり関わりたくないというのが本音だ。

 さっきはまともに戦ってなかったから良かったものの……いや、待てよ。そもそも、まともに戦ったことが殆どないな。

 戦っている様子を観察していた感じだと、一体の強さはオーガの戦士よりは劣るが、オークよりは上といったところだろう。よくよく考えるとゴブリンにしては規格外すぎる強さだ。


「土屋! 助けてもらっておいて言えた義理ではないのは重々承知しているが、一つ頼みたいことがある!」


 真剣な眼差しを注いでいるらしいジョブブと、後ろに並んだ仲間のバッタ族の視線が俺に集中している。

 この先に続く言葉を予想して、俺は内心でため息を吐くしかなかった。


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