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オーガとオーク

「ベヒモスを倒したぞー!」


「うおおおおおおおおおおおっ!」


 血に染まった大太刀を掲げたオウカに応えるように、オーガたちが歓声を上げる。

 ベヒモスの死体は未だに健在だが、少しずつ体から光の粒子が漏れ出ている。いずれ、完全に消滅するだろう。


「よっしゃあ! やったな!」


「ばっちぐー」


 草の塊からはみ出した手に権蔵が手を打ち合わせる。

 そこに居たのか……ゴルホが声を出す瞬間まで完全に姿を見失っていた。


「凄い凄い! やりましたね、紅さん!」


「お肉、何十人前……」


 桜もサウワも戦場からそんなに離れていなかったようで、ベヒモスが倒されたのを確認して駆け寄ってきたようだ。

 桜は心底嬉しそうに弾んだ声を出し、背中をばんばんと叩いてきた。

 サウワは光の粒子となり、少しずつ消えていくベヒモスの死体を見つめ指をくわえている。そんなに物欲しそうな顔するんじゃありません。


「被害も少なそうだし、思ったより上手くいって安心したよ。皆ご苦労様」


 何人か目潰し後の大暴れに巻き込まれたようだが、全員が仲間の肩を借り、なんとか立ち上がった。

 肩を抱き合い喝采を続けるオーガたちから少し距離を置き、俺たちは仲間内でお互いを称えあっている。


「相変わらず、土屋さんの作戦はえぐいが、効果は抜群だったな!」


「何したの?」


「そうか、サウワたちはわかんないか。俺が操る水に唐辛子の粉を樽一杯分混ぜて、ベヒモスの目にぶつけたんだよ」


 その威力を想像した仲間が全員、渋面になる。

 何故、一歩俺から距離を置いた。いいかい、諸君。勝つ為に手段を選んではいけないのだよ。と言いたかったが、もっと引かれそうなのでやめておく。


「ま、まあ、土屋さん、権蔵君、ゴルホ、お疲れ様でした」


「みんな頑張った。サウワも手伝いたかった」


 女性陣二人から労いの言葉を掛けてもらい、肩の荷が下りた気がした。

 やっと一息つけるな。俺たちも彼らの喜びの輪に混ぜてもらうか。

 今も歓声を上げ、オーガマスターとオウカを褒め称えているオーガの人垣に近づいていく。


「皆も行こうか。今後の話し合いは、後でゆっくりするとして、一緒に今は喜びを分かち合おう」


「そうだな! 今なら抱き合って喜んでも変じゃないよな!」


 気持ちはわかるが、いい加減、諦めた方がいい。そんなに鼻息荒く迫ると、本気で逃げられるぞ。

 邪な欲望がにじみ出ている権蔵は置いておくとしても、今は純粋に勝利を喜ぶ場面だ。

 浮かれすぎて俺たちの存在が頭から抜けているオーガの輪の中心にいるのは、止めを刺したオウカ。満面の笑みを浮かべ、陽気にみんなの称賛に応えている。

 直ぐ隣に立つリオウの首に腕を回して、元気にはしゃぐ彼女をリオウは黙って優しい目で見つめていた。

 少し離れた場所に立つオーガマスターは腕を組み「はっはっは!」と大声で笑っている。


「悔しいが、お似合いのカップルだな」


 今度こそ二人の仲を認めたようで、権蔵は大きく息を吐くと、少しだけ大人びた目線を二人へ向けている。

 この戦いでオウカが急激なレベルアップをしたことだろう。俺たちも協力したので少しはレベルアップが見込める。戦力がかなり強化されたのは間違いない。これで、オークキングとの戦いを有利に運べる。

 俺の狙いや思惑とは別に、活躍したオウカを純粋に褒めようと、もう一度視線を彼女へ向けた。


 笑顔で見つめ合うお似合いのカップルの顔が――宙に舞った。


 二人の頭が仲良く並んで、鮮血を撒き散らしながら吹き飛び、地面に転がる。

 どう……いう……ことだ。

 今、頭が……オウカたちが……。


「えっ」


 誰の声なのか判断もできない。自分の漏らした声だったかもしれない。

 勝利に酔い幸せの絶頂にいたオウカと、その恋人であるリオウの頭を失った体が、その場に崩れ落ちる。

 あまりの出来事に声を出すこともできず、呼吸すら忘れていた。


『いやー、素晴らしい戦いだった! 我も手を焼いていたベヒモスを倒してくれて感謝の言葉もない。おまけに大量の経験値までいただけるとは……礼を言うぞ。オーガにも使い道があるようで何よりだ』


 二人がいた場所のすぐ後ろに何者かが立っている。

 頭に直接響いてくる声。上から目線の威圧的な態度。そいつの真っ直ぐ横に伸びた手の指先から、赤黒い液体が滴っている……オウカとリオウの血か。

 俺はこいつを知っている。

 緑がかった肌に、口からチラリと見える二本の牙。革の鎧と簡素なズボンはオーガの兵が身に着けていたモノと同じだ。


「お前は――」


「オークキング貴様あああああっ!」


 俺が言い切るより先にオーガマスターが激昂して、瞬時に間合いを詰めると、巨大な隕石を振り下ろした。

 それをオークキングが手の平で受け止めると、体が一気に下へと落ち、地面がすり鉢状に陥没する。

 攻撃の余波により周囲にいたオーガと俺たちは吹き飛ばされ、転がりながらも俺は何とか体勢を整えて立ち上がった。


 どうなったんだ!?

 爆心地の中心へ視線を向けると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたオークキングが平然と隕石の武器を受け止めている。

 オーガマスターは全身の筋肉が膨張し、今の一撃に全身全霊の力を込めたのが見て取れる。今も武器を押し込み続け、みしみしと空間が軋みを上げる音が耳に届く。


『相変わらず、せっかちなご老人だ。何故ここにいるのだ、やら、質問はしないでいいのかね?』


「貴様を今ここで殺せば済む話だ!」


 両手で握りしめていた柄から左手を外し、握り拳をオークキングの顔面へ突きつける。

 怒りの鉄拳は相手の顔に届くことなく、空いているもう片方の手にいとも簡単に止められてしまう。


『やれやれ、昔は手も足も出なかったというのに、今は力関係が逆転してしまったようだ。老いとは惨めなものだ。いや、それとも我が強くなりすぎたのか』


「キサマ、キサマァァァッ!」


 歯を食いしばり全身の力を込めているようだが、オークキングはまるで子供の相手をしているかのように、大して力を込めていないように見える。


『やれやれ、聞く耳を持たぬか。どのような手を尽くし、ここにいるのか語りたいのだが。結構苦労したのでな。誰かに話したくてうずうずしているのだ……よっ!』


 オークキングは武器と拳を掴んだ状態から、オーガマスターの腹を膝で蹴り上げる。


「ぐおっ!」


 苦悶の表情を浮かべたオーガマスターの足が地面から離れた。そこで、オークキングは両手を放すと、その場で回転をし、オーガマスターの腹に回し蹴りを叩き込む。

 まるで、この世界には重力が存在しないかのように、地面と水平にオーガマスターの体が飛んでいき、遠くで何か重い物が地面にぶつかった音がした。


『まあまあの飛距離のようだ。都合よく気を失ってくれたか。そこの人間、久方ぶりだな。仲間の男にはかなり楽しませてもらった。さて、どれだけ警戒をしようと、万全の準備を整えようと敵わぬ、圧倒的な力を前にした気分はどうだ?』


 視線を向けられただけだというのに、全身が硬直し冷汗が体から吹き出しているのがわかる。何とか動く眼球で仲間の様子を確認すると、権蔵を除いた仲間全員が地面に倒れ伏し、ガタガタとその身を震わせていた。


「くそっ! 動けっ! 動きやがれっ、俺の足!」


 権蔵は歯を食いしばり、体の束縛から逃れようと必死になって足掻いているが、脚が小刻みに震え、力が入っていない。

 オーガたちは片膝を突いた状態で睨みつけているが、体の自由は完全に奪われてしまっているようだ。


『では、何故、我がこのタイミングでここにいるのか語らせてもらおう。貴様らがベヒモス討伐に向かうことも、転移者どもがオーガの村に移住したことも、全て知っておった。それは何故か、わかるかね』


 その質問は俺に向けられているようだ。あの人を小馬鹿にした目と顔が、嬉しそうに醜く歪んでいる。


「仲間が……オーガの村に潜んでいた」


 思いついたことを口にする。一番可能性が高いのはスパイが村にいて情報が筒抜けだった。そう考えれば、このタイミングで現れたのも納得がいく。


『惜しい、実に惜しいぞ。正解は連れ去られた……いや、連れ去ってもらった転移者二人の目と耳を通じて、全ての情報を手に入れていた。もちろん、スキルを使ってだが。これが正しい答えだ』


 そんなスキルが存在すると――いや、そのスキル一つ心当たりがある。

 島の北西にいる転移者のリーダーが所有しているスキル『契約』なら同じことができるか。


『糸使いよ、わかっているではないか。我も契約のスキルを所有しておる。精神を操り、無理やり契約を結ばせたのだよ。当人たちは覚えておらぬだろうがな。そういえば、この島の西にもいたな、同じスキルの所有者が。まあ、そういうことだ』


 精神をあれだけ上げたというのに、まだ簡単に心が読まれてしまうのか。


『そう悲観することは無いぞ。我の力を以てしても、貴様だけは心の奥底が覗けぬ。それは誇るべきだとは思わんかね』


 思わないな。


『ふむ、それはまあよい。話を続けるぞ。そやつらから情報を手に入れた我は、貴様らを遠くから鑑賞し、ベヒモス戦の終盤に差し掛かったところで、オーガの一人を殺し入れ替わっておいたのだよ。そして、隙だらけのこやつらをばっさりとな』


 地面に置かれた二つの生首を視線の隅に捉えると、鼻で笑う。

 大切な仲間になれたであろう二人を侮辱する言葉に、はらわたが煮えくり返りそうになるが、怒りで我を忘れては死を受け入れたのも同然だ。

 怒りの力でどうにかなる程度の差ではない。ここは、生き延びる為にも耐え、チャンスをうかがうしかない。


『結構、結構。今は耐えて隙を探す。良いと思うぞ。そこの小僧のように力の差を理解せず、立ち向かおうとする者よりはな』


「殺す……はぁはぁ……絶対にてめえは殺すっ!」


 権蔵は食いしばった歯から血が流れ、怒りに目が充血し、荒い呼吸と共に殺意が口から漏れ出ている。


「権蔵、今は抑えろ。立ち向かってどうこうなる相手じゃない!」


「こいつは! オウカを殺したんだぞ! 許せる訳がないだろっ!」


「俺だって許せない……だが、今じゃない。敵を討つのも戦うのも今じゃないっ」


 相手は俺たちに自慢話を聞かせたがっている。なら、少なくとも話し終わるまでは殺そうとはしない。


『ふむ、まだ話し足りぬからな、それまでは安心していたまえ。しかし、敵意や殺意を向けられるというのは心地よいものだな。あの醜い緑豚どもは従順な態度か怯えるばかりで、新鮮な感覚だ』


 自分もオークの癖によく言う。


『お、そうであった。貴様らは我をオークだと信じていたな。すまん、すまん。本当の姿をまだ見せていなかった』


 ……今、何を口走った。オークキングは今、何て言った。


『心の声を聞き逃すことは無いと思うが、もう一度言おう。我はオークではない』


 初めて会った時の印象も肌色と牙はオークのようだが、他のパーツは人間に近いとは思っていた。こいつまさか身体変化系のスキルを所有しているのか!?


『お、糸使い。貴様は中々鋭い。この姿はスキルにより変化したものだ。我は元々……人間だ。それも、転移者だ』


 そう、か。自分がオークじゃないと口にしてから、その発想は頭に浮かんだが、やはりそうなのか。

 70年前、転移者がこの島に現れてから頭角を現したオークキング。それが転移者の化けた姿であり、転移者として力を蓄えたのなら、このような強さを得るのも不思議ではない。


『あの春矢に会った時は、思わず笑ってしまったぞ。我と同じく奪取のスキルを所有しているのだからな。尤も、70年前も奪取使いと遭遇したことはあったが。やはり、狙うスキルは似てくるものだ』


 『奪取』スキルを持っているのか。いや、ここまでの強さを得て、多彩なスキルを使いこなしているのだ。奪取を所持しているのは必然か。

 それに、自分だけが強力なスキルを見つけて、周りを出し抜くという展開は普通あり得ない。誰かが使えると思ったスキルは、他の誰かも気が付くものだ。

 自分だけが特別な人間という発想は自惚れ過ぎだと断言できる。


『糸使いよ、その言葉は耳に痛いぞ。昔の我はまさにそうであった。自分が特別な存在だと信じ、奪取を使い同郷である転移者を殺しまくり、幾つものスキルを手に入れた。契約スキルも他の転移者から奪ったスキルだ。生き残りの転移者は全てこの手で狩るつもりだったのだが……オーガの村に転移者が逃げ込んだという事実は得ていたが、オーガマスターという目の上の瘤がいてな、どうにもならなかったのだよ』


 そして、力を得る為にベヒモスを殺した直後のオウカを襲い、更なる力を手にした。


『急激なレベルアップ直後というのは、力に翻弄され体が上手く動かせぬ。転移者のように生徒手帳で能力をいじれるならまだしも、魔物であるオーガたちには馴染む時間が必要となる。少々卑怯ではあったが、これも島を統一するという野望の為だ』


「統一してどうなる。その後は? 圧倒的な力を得て、何がしたい」


 問いかけに、オークキングは小首を傾げて目を見開くと、じっと俺を凝視した。

 あの瞳が俺の心を探ろうとしている。

 だが、今の言葉に深い意味など無い。島を占領してどうなる。俺のように、仲間と平穏に暮らすという目的もなく、統一して、その後どうするつもりだ。


『強くなり、弱きものを蹂躙するというのはオスの本能だ。日本の法や無駄な理性で欲望を抑え込む。この島でそんなモノは無意味だと、貴様も理解しているだろう』


「お前とは一生分かり合えないようだな」


『残念ながらそのようだ。さて、これからどうするか。予想を超えた能力の上昇を達成してしまったな。流石にベヒモスと言うべきか。それとも、このオウカのレベルが高いのか。圧倒的な力というものは、存外虚しいものなのだな。このまま蹂躙してやってもよいのだが、興をそがれてしまった。後は豚共に好きにさせ、見物といくか』


 オークキングは小さくため息を吐くと、すっと右腕を上げパチンと指を鳴らした。

 その瞬間、さっきまでは全くなかった魔物の気配が周辺に発生する。それも、尋常ではない数が。


「何だこの数は……100いや、もう一桁上かっ!」


『そちらが戦争を仕掛けてくると言っていたのでな、先に全てのオークを連れてきた。ずっと控えさせたのだが気が付かなかったようだな。まあ、高レベルの隠蔽を貴様らごときが見抜けるとは思っておらぬが』


 隠蔽スキルを上げれば、こんなに大人数の気配すら隠せるというのか。

 前にはオークキング、周辺には2000を超えるオークの群れ。

 今まで何度も絶体絶命の目にあってきたが、今がクライマックスのようだ。


『おーすまん。足掻くにしても今のままでは戦うことすらできぬな』


 体にのしかかっていた重圧が一瞬にして解けた。手を握り締め感覚を確かめるが、違和感はない。なら――


「何すんだ、土屋さん!」


 飛び出そうとした権蔵に糸を絡ませ、その動きを封じた。


「権蔵、この状況だ一度しか言わない。俺たち仲間を見捨てて自殺したいのなら勝手にしろ」


 俺の言葉に黙り込むと、権蔵は仲間をじっと見つめる。

 恐怖心を押し殺し、胸元を握りしめている、桜。

 真剣な眼差しでじっと見つめ返す、サウワ。

 相変わらずギリースーツを脱がずにじっと状況を見守っている、ゴルホ。

 糸を引き千切ろうと込められていた力が霧散していくのがわかる。張り詰めていた精神と全身の力が抜けたようで、権蔵は大きく息を吸い込んだ。


「すまねえ、皆。今は、何としても生き延びる場面だよな!」


 謝罪の言葉を聞き、俺は糸を解いた。


「絶対に脱出してみせるぞ!」


 全員が大きく頷き、拳を合わせる。

 仲間との意思の疎通は完了した。残るはオーガたちの挙動なのだが。


「仲間の仇!」


「許さんぞ、オークキング!」


「オウカ、リオウ、見ていてくれ!」


 体の自由を取り戻したオーガ数名が無謀にもオークキングに立ち向かっている。

 こちらが止める間もなく、接近したオーガたちが武器を振り下ろすより早く、首から上が吹き飛ぶ。

 その場から一歩も動かず、軽く腕を振るっただけで、オーガたちの頭は粉々に砕け散った。


『やれやれ。我は手を出さぬと言っておるのだがな。歯向かうようなら、容赦はせんぞ』


 続いて何人ものオーガが襲い掛かろうとしていたのだが、ひと睨みでその動きを封じられている。


「馬鹿者どもがっ! 貴様らは村に戻り、この現状を伝えよ!」


 周囲を取り囲んでいたオークの群れの一角から怒声と共に、オーガマスターが姿を現す。

 目の前にいるオークなど気にも留めず、雑草を刈るように無造作に振られた一撃で、上半身と下半身が分断されたオークの死体が幾つも散乱している。

 土と血にまみれたオーガマスターは、オークキングとオーガたちの間に立ち、巨大な隕石の武器を突きつけた。


「キサマの相手はわしだ! 聞け我が子供たちよ! この場は何としても生き延び、力を蓄え、復讐の時を待つのだ!」


 大気を震わせる大声に全身の筋肉が硬直する。だがそれは、オークキングの威圧のように不快な感覚ではなく、全身が引き締まるような思いにさせられた。


「友、土屋よ。お主らは、何処かに身を潜め生き延びてくれ。無事、この島を脱出できる日を祈っておるぞ!」


「オーガマスター……」


 その大きな背に守られ、俺は何も掛ける言葉が思い浮かばなかった。

 この場面で、頑張って、俺も力を貸す、なんて陳腐な言葉が吐けるわけがない。オーガマスターが思う存分暴れられるよう、邪魔にならないように離れること。それが今、一番重要なことだ。


「皆、出来るだけ、わしから離れろ……もう、怒りが抑えられぬ。わしの大事な孫、そして、可愛い子供たちを殺し、奪おうとするキサマを……憤怒に呑み込まれようと! この命が尽きようと! キサマだけは許さんっ!」


 怒りの感情が激流となり、オーガマスターの体を駆け巡っているのが『精神感応』の力により理解できる。怒りに身を任せ、命を捨ててまで対象を殺そうとする姿は、まさに鬼。

 その姿に狂気すら感じるオーガマスターの状態を見て、俺の頭にあることが思い出された。

 スキル『狂化』の取得条件。


(大切なモノを失い、我を失う程、怒り狂い、自分の命を捨てても構わないという心境に達したとき、会得できる)


 この狂化スキルだけは、一生手に入ることが無いように願っていたのだが……オーガマスターは今、その条件を全て満たしている。


「皆、オーガマスターから離れろ! あの手薄になった場所から逃げるぞ!」


 『狂化』発動時は敵も味方も区別がつかなくなる。命を懸けて敵を討とうとしている、オーガマスターに仲間殺しをさせるわけにはいかない!


『ほおおおう、これはこれは。あの男と同じか……いいぞ、いいぞ!』


 歓喜の声を上げるオークキングの声が背後から響いてくる。

 俺と仲間が先頭に立ち、オーガマスターが敵を蹴散らして飛び込んできたルートを逆走していく。後方からはオーガマスターへ何度も振り返りながらも、ついてくるオーガたちが見えた。


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[良い点] オウカ、リオウ…… マジかー あり得るとは思ってたけど鮮やかに決められてしまった
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