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妖刀村雨

「ふふふふふっ! あの人は私だけを労り、私だけを頼りにしていればいいの! それ以外の人間なんて、私がみんな排除してやるわ! あははははははっ!」


 縁野が腹に手を当て何が楽しいのか、大声で痛いことを叫びながら、狂ったように笑っている。

 あれか、独占欲の強い人が恋愛をこじらせて、おかしくなったのか。こういうのを、ヤンデレというのかね。リアルで初めて見たよ。

 俺たちの存在に全く気付いてないな。今なら何をしてもバレなそうだ。

 勝ち誇り、悦に浸っている縁野を眺めながら、俺は大きなため息を吐いた。


 冷静さを取り戻した今、自分の愚かさに泣きたくなった。思い返せば、油断しすぎだろ俺。

 何で屋城の言うことを真に受けて、素直に信じているんだ。嘘を言ってないような気がして、あまり疑いもせず、何か攻撃的な手段に出ようという気が完全に失せていた。

 相手は外道な手段で女性を支配下に置き、俺の仲間を問答無用で傷つけた奴らのリーダーだ。本当に想定外だったとしても、上の立場である屋城には責任がある。

 それが、相手の言い分を信じきって、尚且つ精神系スキルに長けているであろう相手の手を取り、握手に応じるなんて無謀にも程がある。もしや――あの精神状態も『平和』スキルの影響なのか?


「これからも、ずっと、あの人の傍にいるのは私だ――け?」


 独白を叫んでいた縁野がようやく俺たちの存在に気づいたようで、驚きのあまりあんぐりと大口を開けている。そういう顔もできるのか。


「え、あ、え、何で……転移が防がれた!?」


「いや、転移は成功している。周り見てごらん」


 きょろきょろと辺りを見回している縁野が風景の違いと、俺に蹴飛ばされて地面に転がった状態で、同じように周囲を観察している権蔵の姿が目に入ったようだ。


「おおっ? 何処だここ?」


 一人だけ、全く状況が理解できない権蔵が、ぼーっとした表情で辺りを眺めている。

 前方に木々が密集した森の入り口があるが、何処かは不明だな。


「権蔵、ややこしくなるから、後で説明するよ」


 申し訳ないが、権蔵には傍観してもらおう。


「ここは、島の西南端!? 何で私まで!?」


 あの時、手が触れ『転移』を発動させる寸前に『一緒に飛べ!』と『精神感応』で強い思いを送り同時に『同調』も使い、道連れにした。それだけのことだ。

 しかし、今、聞き捨てならないことを口にしたな。島の西南なのかここは。


「さあね、あんたがミスったんじゃないか」


 手の内を明かす必要はないので、とぼけておく。


「な、な、何てこと……また、この地獄にくるなんてっ!」


 縁野は頭を抱え、膝から崩れ落ちた。絶望を見事なまでに体で表現しているな。

 この場所に飛べたということは、印をつけた場所だということだ。つまり、縁野は一度ここに来たことがある。

 あの様子が大袈裟なものでないというなら、この場所は本当に地獄なのかもしれない。


「さて、嘆き悲しむのは勝手だが、そろそろ説明を願いたいのだが」


「はっ! リーダーに纏わりつく邪魔な虫を処分しようとしただけよ! あんた達みたいなゴミが傍にいたら下等な臭いが移るじゃないのっ!」


 見事なまでの豹変ぶりだな。権蔵がドン引きしているじゃないか。

 椿にしろ、この女にしろ、裏表がありすぎる女性ばかりと出会ってしまっている権蔵の将来が心配になる。

 まあ、桜やサウワのように裏表が無さすぎるのも、どうかと思うが……女性不信にならないでくれよ。

 今の発言を信じるなら、独断専行か。

 この女は問題外だが、屋城とならまだ共同戦線を結ぶことは可能だな。この事実を突き出し、こちら側が圧倒的に有利な条件を受け入れるのであれば。


「そんなことはどうでもいいが、その取り乱しようから見て、転移が最後の一回というのも本当か」


「そうよ! あと一か月経たないと、転移はもう使えない! あの人のところに戻れないの! どうしてくれるのよっ!」


 知るか。そもそも、自分が蒔いた種だろう。そんな地獄に人を送り込もうとして、何を言っているのだか。

 いっそのこと、注意力が散漫になっている今、ここで倒してしまい経験値になってもらった方が生存率も上がる気もするが、彼女にはまだ使い道がある。

 この場所を唯一知る存在だ、道案内と情報収集に使える。


「なら、力を合わせて生き延び、元いた場所にどうにか戻るしかないだろ」


「協力しろと? 嫌よ、何であんた達なんかと。私は透過がある限り、傷つけられない。残念だったわね。私だけは生き延びて、あの人の元へ絶対に帰ってみせる!」


 強い決意を口にするのは勝手だが……そう、上手くいくかな。


「確かに、逃げるだけなら一人で充分だろうけど、どうやって生き延びるつもりだ――食料は?」


「食料ぐらい、このアイテムボックスに……な、ない! 私のアイテムボックスは何処!?」


 周囲を懸命に捜索しているが、見当たらないようだ。


「あ、すまない。さっき奪っておいた。今、この中にあるよ」


 そう言って俺の腰にあるアイテムボックスを指さす。

 ここに転移したばかりで驚きのあまり、隙だらけだった彼女の腰に糸を回し、盗んでおいた。


「う、嘘つかないで! そもそも、アイテムボックスにアイテムボックスは入れられない!」


「そうだな。レベル1のアイテムボックスでは無理だ。だが、レベル3まで上げると可能なんだよ」


「え、アイテムボックスってレベル上げられるの?」


 意外な盲点だよな。あの教室で一回調べた筈なのだが、蓬莱さんのアイテムボックスを見るまで、俺もすっかり忘れていた。

 これも、蓬莱さんから託されたアイテムボックスがあったからこそ、できた芸当だ。死してなお、我々に力を貸してくれている蓬莱さんには、今でも頭が上がらない。


「か、返しなさいよ!」


「この危険地帯を無事抜けたら返してやるよ。それが交換条件だ。それで、俺たちを殺そうとしたことも水に流してやると言っているんだ、優しいだろ?」


 悔しそうに歯ぎしりしている彼女を正面から見据える。

 隣に立つ権蔵は会話を聞いてようやく状況が掴めたようで、面白いぐらいに表情をころころと変えている。


「何があるかわからない状況で、食料も無しに生き延びられるか試してみるのは……あんたの勝手だが」


 権蔵も文句の一つも言いたいだろうが、空気を読んで黙ってくれている。

 俺を睨みつけたまま、歯を食いしばる彼女は、どれだけの時間そうしていただろうか。重々しく口を開くと「わかったわ」とだけ呟いた。

 こうして、信用ならない案内人を手に入れることができたのだが、前途は多難だ。

 彼女を近くに置くことがどれだけ危険なことなのかは、重々承知しているが、おそらく彼女は直接俺たちを殺す手段を所有していない。


 ここからは、憶測と可能性の問題なのだが、あの『透過』スキルには重大な欠点が存在すると見ている。相手の攻撃を完全無効化できるスキルがあれば『転移』に頼らなくても、俺たちを殺す手段は幾つもあるだろう。

 それが残り一回という貴重な転移を使い、わざわざ離れた場所に送るという面倒な手段を取ったのが証拠のようなものだ。

 『透過』発動中は攻撃系のスキルが使えない。もしくは、攻撃に関する行動を一切禁じられるぐらいのデメリットがあっても不思議ではない。

 今度、敵に回るようなことをしでかした時には、容赦なく処分させてもらうが。


「お互い不満はあるが、ここからは運命共同体だ。まずは、情報提供をお願いするよ」


「ったく、しょうがないわね」


 まさに渋々と言った感じで、縁野が面倒臭そうに説明を始める。


「ここは島の最も南西に位置するわ。少し西に進めば海岸がある。私が異世界に転移して、初めに降り立った場所よ」


 この場所が彼女のスタート地点だったのか。

 素朴な疑問が頭に浮かんだので、取り敢えず尋ねてみた。


「イメージでは島の西は強力な魔物の巣窟なのだが。よく、生き延びられたな」


「透過と転移と……運よ。レベルが低かったから短い時間しか発動できなかったけど、上手い具合にはまってね。初期の段階でかなりの大物を倒せたのよ」


 確かに透過はかなり強力なスキルだ。使い方によっては、大物を倒すことも可能か。


「話の腰を折って悪かった。続きを頼む」


「あんたのイメージは間違ってないわよ。強力な魔物がそこら中にいて、弱いものはそいつらに見つからないように息を潜めて生きる。それがこのエリア」


 島の東寄りから始まった俺は、まだ運が良かった方なのだな。


「ここで気を付けるべき敵は全てと言ってもいいけど、桁違いに強いのは羽の生えた巨大なトカゲ――って説明はいらないわよね。ドラゴンよ。透過で姿を消していたのに、こちらの存在に気づいていたようだし、攻撃は当たらなかったけど生きた心地がしなかったわ。現地人の団体もドラゴンに襲われて壊滅していたわよ」


 それはサウワも遭遇したドラゴンのことだろう。むしろ、そうであって欲しい。何体もそんな魔物が存在していては、生きる希望が根元から崩れてしまう。


「他には巨人や二足歩行の狼、巨大過ぎる熊、何種類もの動物を混ぜたような魔物……キリが無いわ」


 話を聞くだけで憂鬱な気分になるな。

 島の西側に足を踏み入れるのは、一年後の船が来る時期が迫り、かなり強くなってからにするつもりだったのだが、その判断は正しかったのか。今更だけど。


「あ、そうそう。他に厄介な魔物が残っていたわ。ドラゴンじゃないけど、巨大なトカゲで足が八本あるの。ほら、あそこにいるでしょ」


 話の途中で体を透明化して、縁野は俺たちの後方を指差す。

 ゆっくりと後方に振り返ろうとした権蔵の頭を鷲掴みにして、強引に首の動きを止めさせた。


「ぐおっ、何すんだよ!」


「振り返るな、権蔵。 目を閉じろ」


 何でこの至近距離まで気が付かなかったんだ。俺の『気』には背後に迫る大きな生き物の命の光を感じていた。

 色や詳細は気では知ることができないが、大きさやフォルムなら把握できる。

 全長、5メートル以上。足が八本ある何かが地面を這い、高速でこちらに移動してきている。おそらく、俺たちの存在に気づいているのだろう。


「あ、振り返らないんだ。ちょっと、試してみたんだけど、大正解よ」


「当たり前だ、この魔物……バジリスクだろ」


「バジリスクって、あの石化させるやつか!」


 俺は目を閉じたまま、後方へ振り返った。

 視線があった相手を石化させる能力を持つ魔物。とさかのある蛇だという説もあれば、鶏のような姿という説もある、有名どころの化け物だ。石化といえばバジリスクかメデューサが真っ先に思い浮かぶ。

 確か吐く息に毒も含まれているのだったか。

 相手との距離は50メートルあるかどうか。『気』の大きさからして、油断ならない相手だ。そして、何よりも石化能力が厄介過ぎる。

 『気』で目を閉じた状態で戦える俺はまだましだが、視線が合えば石化させられるので、権蔵にはまともに戦うことすらできないだろう。

 目と目が合わなくても、見られただけで石化するという話もあるが、それならここら一帯は石の世界となっている筈だ。


「私は透過があるから、あの石化は通用しないわよ。そもそも、相手に見られることが無いから」


 だから、こいつだけ余裕綽々なのか。試したことがあるみたいだが、俺が死んだら自分も飢え死にする確率が高く……ああ、死んだらアイテムボックスだけ奪う算段か。っと、そんなこと気にしている場合じゃないな。

 糸をバジリスクの進路方向に張っているが、気を通しているというのに簡単に引き千切られていく。時間稼ぎも碌にできていない。

 一番強度の高い釣り糸を使いたいところだが、毒で溶かされる可能性を考えると、俺の生命線でもある最強の武器を迂闊には使えない。釣り糸はあくまで攻撃用だ。


「ここは、逃げたいところだが」


「あら、逃げるの? こいつはこの森じゃ弱い方よ?」


 縁野は無視するとしても、目を閉じた状態の権蔵を連れて逃げるには辛すぎる。

背を向けていれば目を開けていてもいいが、万が一だが目が合ってしまえば、石化を戻す手段が無い。

 それに、こいつから逃げている最中にもっと強い敵に遭遇すれば、それこそ終わりだ。

 ここは、腕試しもかねて――


「土屋さんよ、ここは俺にやらせてくれ」


 権蔵が俺を押しのけ前に進み出る。


「相手と視線が合えば石化するんだぞ。わかっているのか」


「ああ、わかっている。それを理解した上で、俺に任せて欲しい」


 慢心しているわけでも、自棄になっているわけでもなさそうだが……何か策があるのだろう。ならば、ここは任せてみるか。

 糸でいつでも手出しできるようにはしておくが。


「権蔵、頼んだぞ」


 肩を叩き、俺は後方へと退いた。


「あれ、あの子だけで戦う気。ちょっと無謀じゃない?」


 小馬鹿にした声が何処からともなく聞こえてくるが、俺は無視した。

 そっと薄目を開け、バジリスクが向かってくる方向からは目を逸らし、権蔵の様子を窺う。

 権蔵は居合の鞘に刀を収めた構えではなく、妖刀村雨を鞘から抜き、その刀身を日の元に晒した。

 刃は青白く輝き、その表面は薄らと水を纏っている。


 『妖刀村雨』切った相手の血や油も、刀身から溢れ出る水が洗い流すと言われている。南総里見八犬伝に出てきた刀。

 村雨を権蔵は正眼に構える。すると、刀から蒸気のようなものが立ち昇り、辺りに霧が漂い始めた。


「水を操る力か」


 その霧が荒れ地に立つ俺たちの姿を覆い隠す。『気』を発動しているので、俺にはバジリスクも権蔵の動きも気の流れで理解できる。

 これ以上は目を開いていると危険だと判断し、完全に瞼を閉じた。

 ここからは、生命の輝きが浮かび上がった光の動きと、音で状況を把握するしかない。

 八本脚のバジリスクが、俺の張った糸を蹴散らし、森の切れ目から飛び出してきた。そこから先は何もない荒れ地で、10メートル程度しか離れていない場所に、ぽつりと権蔵が立っている。


「あら、死ぬ気なのかしら。目を閉じて、バジリスクと戦うなんて」


 石化の影響がない縁野はじっくりと戦いを観戦しているようだ。

 バジリスクが頭を後方に仰け反らせているのが、気の動きでわかる。あれは、何かを吐き出す前の予備動作かっ! そうなると、毒の息!?


「あ、毒の息を吐いた!」


 何で嬉しそうなんだこいつは。

 権蔵が腕を軽く横に振ったのがわかる。


「へええ、霧が密集して毒の息を防いだわ!」


 縁野が実況してくれるのが地味にありがたいが、もどかしい! この目で確認できないので、大体の様子しかわからない。

 毒の息が通じなかったことで、直接攻撃に切り替えたようだ。バジリスクが正面から突進していく。

 それを、体のブレがない動きで、軽やかに権蔵が避ける。


「何あの動き。今、体が横に滑ったような……何かのスキルかしら」


 古武術の歩法は初めて見る相手には、スキルと勘違いされる動きだよな。体を動かさずに前後左右にずれたかのように見えたのだろう。

 時折、硬い物がぶつかり合うような音がこちらまで流れてくる。


「ちっ、硬えなっ」


「うわぁ、凄いわねあの子。目を閉じて避けるだけじゃなく、避ける際に同時に切りつけている」


 初めは冷やかすような声だったのが、今は本気で感心しているらしく、縁野の声が徐々に真剣味を帯びてきている。

 権蔵が切りつけたであろうバジリスクの足から、気が少し周囲に流れているのがわかる。だが、傷が浅いようで相手の動きが鈍くなることもない。


「良い刀みたいだけど、それでもあの鱗を完全に切り裂くのは不可能みたいね」


 今、権蔵が避けられているのは、あの霧が俺の気やサウワの闇属性魔法と同じように、感覚を補うセンサーになっているのだろう。

 このまま持久戦に持ち込む手段もありだとは思うが、至近距離で戦い続けるには、視界を閉じたままというのは相当のプレッシャーになる。それに、毒の息にも注意しなければならず、現在進行形で精神もかなり削られている筈だ。


「勝負をかけるしかねえかっ」


 突進を避けた権蔵は、その場から大きく後退り、一度大きく間合いを取った。

 そして、村雨の刀身を鞘に納める音がした。その瞬間、肌に感じていた湿気を感じなくなり、薄目を開けると霧が完全に晴れていた。

 ここで、居合の構えなのか。

 ジリ貧になるのは見えていたが、だからといって霧を無くしてしまえば、権蔵は敵を察知する方法が殆どなくなってしまう。

 今までの攻撃方法のように突進をしてくるなら、権蔵が持ちうる最高の攻撃である居合に託すというのは、悪い方法ではない。

 だが、博打要素が強すぎる。ここは、手を差し伸べ――


「土屋さん。手は出さないでくれ」


 俺の心を読んだかのようなタイミングで、権蔵が釘を刺してきた。

 声には揺らぎがなく、自分の勝利を確信しているかのように感じられる。

 信じるしかないか。権蔵がやるというのであれば、仲間として信じよう。


「あれ、助けないんだ。無謀だと思うけど」


 縁野の言っていることの方が正しいかもしれない。でも、それでも、俺は権蔵にこの戦いを託す。

 バジリスクも霧が消えたことに気づいたようで、辺りを見回しているような頭の動きをしている。そして、その頭が権蔵へ向くと気迫を感じたのだろうか、身を低くし、いつでも飛びかかれる体勢になっている。

 まだ、距離はあるが、あの巨体だ。数歩踏み込めば、権蔵を捉えられる。

 このまま、頭から突っ込めば居合の一撃で――そう願った俺を嘲笑うかのように、バジリスクはその場で頭を後方へ仰け反らせた。


 毒の息を吐く気か!

 やばい。音や気配で何とか相手の行動を察知しようとしている権蔵には、この動きは見えていない。刀身が鞘に納まっているので霧も操れず、毒をもろに受けてしまう!


「へっ、何あれ!?」


 何を見たのかは知らないが、驚嘆する縁野の声が聞こえたかと思うと、小さく鞘鳴りが響き、何か重いものが地面に落ちた音がした。

 巨大な気が霧散していくのを感じ取った俺は、バジリスクが倒された事を確信し、瞼を開いた。


「秘技――水月」


 顔の上半分を失ったバジリスクをバックに振り向いた権蔵の額には、第三の目――邪気眼が開いていた。

 邪気眼で相手を見ていたのか。

 邪気眼は普通に視力があり物を見ることが可能らしく、以前、覗き行為未遂でゴルホとサウワに捕まり、首から下を地面に埋められた時のことを思い出していた。

罰として更に目隠しをされて一晩放置という刑を執行された際に、こそっと第三の目を開いていたのを目撃したことがある。


 眼球があるように見えるが、実際は本来の目とは機能が異なるらしく、相手の邪悪なオーラを見ることができるそうだ。それどころか、魔法や魔力といった不可思議な力も見ることがきるらしい。

 本来の目ではない邪気眼で相手の目と視線があっても、石化能力は発動されずに視界の確保が可能になる。そこまではわかるとしても……どうやって倒したんだ。


「権蔵、間合いの外にいたバジリスクをどうやって斬った?」


「んー、妖刀村雨の刃を水でくるんで、居合の抜刀で高速の水を飛ばしただけだぜ」


 簡単に言ってくれるが、村雨の水を自在に扱える能力と、居合の目にも留まらぬ抜刀速度があってこその技だ。

 権蔵の奥の手か。飛距離はわからないが、中距離は楽に補える攻撃手段であり、破壊力はご覧のとおり。かなり強力な技だな。


「で、水月ってなに?」


「げっ、聞いてたのかよ……」


「なあ、水月って、水が月のように三日月状の形で飛ぶから……なんて、安易なネーミングじゃ」


 権蔵が目を逸らした。


「あ、もしかして村雨に予め記憶されていた技名だったのか」


「そ、そうだぜ! うんうん、まあ、単純だよな技名」


 確実に嘘だなこれは。肩を落として少し落ち込んでいる権蔵をこれ以上いじるのはやめておくか。

 しかし、権蔵は本当に強くなった。出会ったころは、正直、欲望に走ったダメ人間だという認識だったのだが。


「貴方たち、もしかして、かなり強いの?」


 色素が半分程度だが戻ってきた縁野が、真剣な表情でこちらを見ている。


「当たり前だろ。俺は今の戦いでレベル41だぜ」


 自慢げに胸を張り、刃を鞘へ収めた権蔵がニヤリと笑った。


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