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防衛能力  ※

 誘拐事件は無事解決し、俺たちは帰途についた。

 後味のいい結末ではなかったが、今は仲間が戻ってきたことを素直に喜びたい。

 変わり果てた拠点に辿り着いたのが深夜。修復は明日に回すべきだな。

 周囲に敵がいないことも確認し終えた。心身ともに疲れ果てた状態なのでこのまま、泥の様に眠りたいところだが。


「何か温かいもの作りますね」


 桜がそう言って、サウワを連れて炊事場へと向かって行った。

 あの三人が暴れたせいで被害が出ているのは、畑の一角と塀。あとは、机と椅子を作り直さないと駄目か。

 簡易コンロに火を入れ、薪が弾ける音をBGMに今後の展開を思案する。


「まずは、明日から、壊れた物の修復を皆に頼みたい」


 炊事場にいる二人にも聞こえるように、少し大きめの声を出した。

 桜とサウワは振り返り「わかりました」「わかった」と返事をする。

 ゴルホと権蔵は黙って頷いた。


「俺は島の北西に行って来ようと思っている。でも、今回のように襲撃される可能性も考慮しないといけない」


 俺は敵を探知する能力に関しては中々のものだと自負している。

 なので、俺が守りに残れば防衛という意味では一番安心できるのだが……偵察や、隠密行動に向いているのも確か。

 それに今は聖樹との命を懸けた隠れん坊のおかげで、俺は『隠蔽』スキルを手に入れている。

 取得条件である(隠蔽は自分より格上の対象相手10メートル以内に24時間潜み続け発見されない)を達成したからだ。

 さっきは覚えたてでコツが掴めず自信が無かったが、今は結構馴染んでいる。もう少し使えば完全にものにできるだろう。


「防衛に関しては一つ考えがある。これを使えば、今まで以上に安心して拠点に住むことが可能となる筈だ」


 そう言うとアイテムボックスの中を弄り、かなり大きな物体を掴むと、周りに人がいない場所に移動して一気に引っこ抜く……には無理があるので、近くの木に糸を絡ませ自分の体を持ち上げると、アイテムボックスの口を下に向け、空中から地上に向けて、それを取り出した。


「な、なんだ……木?」


「木よね?」


 俺の取り出した一本の木をしげしげと見つめ、二人は眉をひそめている。


「果物なってない?」


「上に登ればギリースーツで隠れられる」


 サウワもゴルホも欲望に忠実なところは子供らしいんだが。


「これだけじゃわからないだろうから、まずは北の森で何があったのか説明するよ」


 タイミングよく桜たちがスープを持ってきたので、皆でそれを味わいながら、ここを旅立ってからの数日に何があったのかを語り始める。





「聖樹か。また厄介な相手と戦っていたんだな。根と枝が動く大木か……」


 権蔵は顎に手を当て、自分ならどう戦うか妄想を膨らませているようだ。


「紅さんは無茶しすぎです! 相手の考えが読めていたなら、そこは引かないと!」


 頬を膨らませ桜が俺を咎める。俺の行動ミスを責めているというよりは、身を案じて心配してくれているのだろう。


「流石、土屋兄ちゃん」


「ギリースーツなしでばれないなんて凄い」


 二人は純粋に俺の強さを称賛してくれている。

 仲間がこの二人だけなら、自分の実力を勘違いして調子に乗ってしまいそうだな。

 桜のように物怖じもせずに忠告し、自分の事のように怒ってくれる人がいて丁度いい。


「そこで、この木なんだけど、聖樹が死んだ際に唯一生き残ったドリアードの本体が、これだよ」


 あの時、俺はドリアードの一体に『精神感応』を使い交渉を持ちかけていた。その個体は聖樹を表向きは信頼して従っていたのだが、心の奥底に、この状況から逃れて別の世界も見てみたいという願望があるのを見抜いていた。

 ドリアードというのは植物である故に、無邪気で素直であり、自分の欲望に忠実な存在だった。そこをつき『同調』も発動させ、その一体を仲間に引き込むことに成功する。

 あとはレーズンを食べた振りをしてもらい、聖樹との戦闘に入った際にその場から離れ、聖樹との繋がりを絶ち、戦いが終わるまで潜んでもらっていた。


 何故、レベルの高い『精神感応』を所有していた聖樹相手に、この企みが見抜かれなかったのか。それは、『精神感応』を仲間との会話でしか使っておらず、自分の分身にも等しい存在であるドリアードの心を覗くようなことを一切しなかったのが、相手の判断ミスだ。


「あの、でも、ドリアードの木を持ってきたところで、どうしようもないのでは?」


 おずおずと手を挙げ桜が意見を口にした。


「確かに、ただのドリアード一体だけなら、周辺の木とリンクして監視能力が上がり、植物使いの能力を活かして相手の足止め、といったところだろう。それでも助かるけど、防衛能力としては、もう一歩足りない」


 俺がいなくても安心できるようになる為には、信頼できる防衛機能が必須となる。


「そこで……そろそろ、出てきていいぞ」


『んー、ようやく出番なのかな? おー、これが土屋のお友達か! 初めまして、ボクはドリアードのミトコンドリアだよ!』


 ぽんっ、というコミカルな音と共に現れた、中性的で子供のような外見のドリアードを仲間たちは興味深そうに眺めていたが、名乗りを聞いた途端に桜と権蔵の顔が渋面になった。


「その名前はどうなんだ……」


「これって、紅さんのネーミングなのですよね……」


 言いたいことがあるなら聞こうじゃないか。

 子供たち二人はミトコンドリアの意味を知らないので、そこに引っかかることは無い。


「まあ、そこはいいとして、このミトコンドリアと俺は契約を結んだ。精霊は人と契約を結ぶことによりお互いを裏切れない間柄になる」


 これも相手の心の中を読んだので間違いない筈だ。


「精霊との契約。凄い! 土屋兄ちゃん精霊使いになる!」


「精霊使い初めて見た!」


 この二人は精霊との契約というのを知っているらしく、目を輝かせ尊敬の眼差しが注がれている。

 精霊使いになった者は自分の精神力を消費して、対象の精霊を呼び出すことが可能となる。これからは、俺は自分の意思でミトコンドリアを呼び出せるようになった。

 ならば、精霊側のメリットはなんなのか。それは、契約者が呼び出した後であれば自由に動けるということだ。特に木の精霊であるドリアードは本体である木から一生離れられずに、生涯を過ごすのが普通だ。

その生活を退屈に感じていたミトコンドリアにとって、渡りに船の提案だった。


 俺はそれなりにレベルが高く、ミトコンドリアはそんなにレベルが高くないので消費される精神力も少ない。

 今も継続して精神力が減り続けているのだが、これぐらいなら気を放出している状態よりも負担が少ない。半日程度なら、出しっぱなしでも問題ない。

 だから、こうやって気楽に召喚もできる――今は。


『これで土屋とボクは一心同体。ずーっと一緒だね』


 何だろう、今の台詞に背筋がぞくっとした。俺に悪意のある言葉ではないのは契約者としての繋がりでわかるのだが。

 可愛らしい笑顔に見えるのだが、その表情が何故か少しだけ怖く思えてしまった。


「む、意外な伏兵でしょうか」


 桜がミトコンドリアを軽く睨み、何故か警戒している。


「とまあ、経緯はこんな感じなのだけど、ここからが防衛に対しての策なのだが……これをミトコンドリアに使おうと思う」


 俺が取り出したのは、聖樹戦で大活躍した『成長促進剤』だった。

 この薬剤の効果はリアルタイムで三日なのだが、回数を調整してドリアードを一気に成長させようと思っている。


「どれぐらい、成長したら聖樹の様な力が使えるようになりそうだ?」


『うーん、一万年ぐらいかな……数十万年ぐらい成長したら、聖樹様に匹敵する強さが手に入りそうだけど。でも、ボクが強くなりすぎると、土屋が召喚できなくなるよ?』


 そこが問題なのだ。あまり強すぎる存在になると、召喚した瞬間に精神力が枯渇し、俺は気絶する羽目になる。

 強力な精霊と契約し、並み居る敵をばったばったと倒していく――なんて甘い展開はこの世界では許されないようだ。

 それに精霊の能力が俺を上回ることにより、使役する側がいつの間にか使役されるオチになったら、泣くに泣けない。


「今、樹齢千年だったよな?」


『乙女に歳を聞くなんてっ!』


 腰に手を当て怒った振りをしているが、そもそも性別なんて存在するのか。


「ミトコンドリアはメスなのか?」


『え、ボク? 性別ないよー。どっちでもいいよー』


 じゃあ、ニューハーフとして考えておこう。


「まあ、取り敢えず一万年になるように計算して、ミトコンドリアの本体を成長させようと思う。育ちすぎて、精神力が足りなかったら、暫く召喚はできないから」


『えええええっ! じゃあ、今までと変わりないじゃん! ずるだー詐欺だー』


「駄々をこねるな千歳。男と女の駆け引きは騙された方が間抜けなのだよ、ふっ」


『あんまりよっ、ボクとは契約上の付き合いだったのねっ』


「貴様はもう俺から離れられない。せいぜい、役に立ってもらうぜっ」


『ううう、この鬼畜っ!』


 俺の足にすがり泣き崩れる振りをするミトコンドリアの調子に合わせておく。

 仲間が若干引いているが、あえて気にしないでおこう。殺伐とした展開があった後だ、場の空気を一変させるには、これぐらいのノリの方がいいだろう。


「兎も角、三日は成長を待たないといけないから、その間に拠点の修復と能力が上がった人は確認と鍛錬。これでいいかな?」


「ああ、構わねえぜ」


「はい、暫くはみんな一緒ですね」


「サウワも頑張る」


「草木と一体化するコツを教えてもらう」


『良く食べて良く寝ないと成長できないよね!』


 三日は拠点で過ごすことになりそうだが、やることは山積みだ。

 まずは拠点の修復。戦力の確認。

 後は、このミトコンドリアの加入が俺たちにとってプラスになることを祈るしかない。





 あれから三日経ち、拠点の修復は終了した。塀で囲っていた範囲をかなり伸ばし、かなり敷地が大きくなっている。

 理由としては新たな建造物の場所が必要になったことが大きい。

 何故、拠点に建物が必要になったのか。寝床がこの人数だときついというのと、男女別にした方がお互い気を使わないでいいだろうという判断による。

 寝床の入り口を防ぐようにして、一度元拠点に帰った時に分解し収納しておいた、蓬莱さん制作の小屋を新たに建て直している。そして、小屋の奥に扉を作り、寝床と小屋を行き来できるようにしておく。

 ずっと使用している寝床はそのまま女性陣の寝室となり、小屋を男たちの寝床とした。いざという時は扉を家具で隠し、女性に危害が及ばないように考えた。


 他に大きな変更点として挙げられるのが、敷地内の二本の木だろう。

 『完全食の種』に『成長促進剤』を調整して注ぎ、一気に育てた結果、立派な木が育ち切った。完全食の木には幾つもの実がなり、見た目はミカンのような柑橘系に見える形で、大きさはソフトボールぐらいだろう。

 ただ、色が食欲をそそらない。赤、青、黄色、黒と様々な色が並んで線となり表面を覆っている。その姿はお祭りの屋台で見かける水風船を連想させる。

 試しに、じゃんけんで負けた権蔵に食べさせてみた感想はこうだった。


「いや、何だろう。不味くはない、不味くはないんだが……健康にいいと聞いてなければ、食べたくない味だな」


 それを聞いて俺も試食してみたが、歯ごたえはリンゴに近い。それでいて、噛めば噛む程口の中に様々な味が混ざりあい、何とも言えない味わいになっている。


「たぶん、果物系だと思うので、何とか食べやすい味にならないか工夫してみますね」


 今のままでも食べられないことは無いが、美味しく食べられるのであればそれに越したことはない。桜に任せておけば安心だろう。


『ねえねえ、ボクにも食べさせてよ! ねえ、ねえってば、ねえ!』


 精神感応を使っているというのに、耳元で叫ぶように話すミトコンドリアを押しのける。

 俺が召喚したわけでもないのだが、自分の本体が拠点内にあるので、こうやって姿を見せることが可能になっている。


「しっかし、わかっていたとはいえ、大きくなったな」


 俺が見上げた先には巨木となったミトコンドリアの木があった。

 拠点の片隅に植えておいたのだが、この三日で幹の太さは数十倍に跳ね上がり、その付近の塀を作り直さなければいけなくなった。

 周辺の木々と比べても倍ぐらい背が高く、拠点を覆い隠す能力を見込んで育てた筈が、逆に目立ってしまっている。

 それだけではなく、大木と化した木の精であるミトコンドリアも大きく成長を遂げた。


 長く艶のある美しい翡翠のような髪に、同じく深い緑の光を秘めた瞳。中性的な顔は相変わらずなのだが、見た目の年齢が人間の十代後半ぐらいになっている。三日前までは10歳にも満たない外見だったというのに。

 服装は体が透けて見える薄手のワンピースのままなのだが、体つきが女性らしい膨らみを備えている。


「ミトコンドリア、その格好どうにかならないのか?」


『ん、この格好というかこれも体の一部みたいなモノだよ』


 シースルーのワンピースの裾を掴み、捲って見せる。生殖器が存在しないので、体に密着した肌色の全身タイツを着ているような感じにしか見えない。


「俺が作ったワンピースがあるからそれを着なさい。俺はいいけど、ここには性欲を持て余している若者がいるから」


 権蔵がちらちらとミトコンドリアを覗き見ている。ゴルホはできるだけ近寄らないようにして、視界に入らないようにしているようだ。

 桜やサウワと違い、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる体形が透けて見えるのは、彼らには刺激が強すぎる。


『よくわからないけど、わかったー。土屋のお手製なら着るよー』


 肉体が急成長したとはいえ、頭は子供のままだ。無頓着で無邪気な見た目は高校生女子。中々危険な香りがする。

 俺が指摘した声が聞こえたのだろう、権蔵の表情が「余計な事をしやがって」と語っていたが無視した。

 今日は全然、鍛錬に身が入っていなかったのでこれで集中できるぞ、よかったな権蔵。


「ここまでは、予定通りだな」


 拠点の修復、強化は完了した。

 目論見通り、ミトコンドリアも聖樹ほど広範囲ではないが、生き物を迷わす黒い霧を発生できるようになった。それも、対象を指定できるようで仲間には霧の影響を与えないようにさせている。

 防衛機能は考えうる限り最高の状態だろう。試しに俺が『気』を発動させないで霧の中を進めるか試したのだが、拠点にいつまで経っても辿り着かなかった。

 後は、自分の新たな力も確認できたので、準備は万端だ。

 さあ、仲間にちょっかいをかけてきた転移者たちの拠点へ、挨拶をしに行くとするか。


 レベル58

 ステータスポイント 0P

 残りポイント 5572P


 筋力 (24)96 

 頑強 (22)88

 素早さ(20)80

 器用 (23)92

 柔軟 (19)76

 体力 (25)100

 知力 (21)84

 精神力(50)200

 運  (16)64


『筋力』4『頑強』4『素早さ』4『器用』4『柔軟』4『体力』4『知力』4『精神力』4『運』4


『説明』4『消費軽減』6『気』6『糸使い』6『同調』5『捜索』5『斧術』4『精神感応』4『隠蔽』3『精霊使い(ドリアード)』3『木工』3


称号

『ゴブリンバスター』『ゴブリンキラー』『木こり』


アイテム

『アイテムボックス』『アイテムボックス』『アイテムボックス』『アイテムボックス レベル5』『ミスリル製の鍬』『ミスリル製の鎌』『完全食の種』『S&W M29』『ホルスター』『44マグナム弾 6』『食料飲料水一週間分』『文房具一式』『昏睡薬 1』『調味料一式』『調理道具一式』『頑丈な斧』『魔法のロープ』『魔法の水筒』『魔法の地図』『魔王のローブ』『ギリースーツ』『韋駄天の靴』『逆錬金の釜 1』『自動演奏のギター』『傷薬 5』『成長促進剤 5』『?????』

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[一言] 革ジャンとかは回収しておきたかったね
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