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甘さと判断

 少女への変化が解けた太った男とレザージャケットは横並びで土の中に埋めておく。

 そして、少し離れた場所に向き合う様な形で、痩せた男も同様に首から下を地面に突っ込んでおいた。

 もちろん、触れる前に全員が気を失っているか確認する為に、糸を伸ばし『精神感応』で調べることを忘れていない。

 今の状態で心を探ったところで、何も見えないのでやはり起こすしかないか。

 万が一の事態を考慮して、桜とサウワは見えない場所へ移動させておく。ゴルホは直ぐ近くに潜んでいる。


「じゃあ、起きてもらおうか」


 アイテムボックスから『魔法の水筒』を取り出すと、頭へ冷水をぶっかけた。


「ふへっ!? え、えっ、ど、どうなって」


 虚ろな瞳が俺と権蔵の姿を捉えると目に光が戻り、自分の置かれている状況を一瞬にして思い出したようだ。


「ど、どうする気だ。俺を敵に回すとリーダーが黙って――」


「黙れ。こっちが質問した時だけだ。口を開いていいのは」


 権蔵がすごむと自分の立場を理解したようで、頬を引きつらせながら口を噤んだ。


「じゃあ、まずキミたちの生徒手帳が何処にあるか教えてもらえるかな」


「こ、このズボンのポケットにある! ここから出してくれたら渡――」


「言い忘れていたが。嘘を吐いた場合、俺と同じように片目を貰うからな」


「い、今のはなしだ! 本当はリーダーが全員の生徒手帳を持っている!」


 この情報はやつらの会話から得ていたが、改めて確認させた。地中の体には糸を巻き付けているので、今の発言が嘘でないことがわかる。


「じゃあ、キミの名前……は、どうでもいいか。まずは、ベースのレベルを。次にステータスとスキルを教えてもらえるかな」


 俺は笑顔を作り丁寧な口調で優しく話し掛けている。

 ドラマの受け売りだが、こういった尋問では脅し役と優しく接する聞き役に別れた方が、相手は口を割りやすいそうだ。


「レベルは24」


 少しだけ自慢げな顔つきになったな。だが、これは嘘か。レベルは22と。微妙にサバ読んでいるぞ。


「す、ステータスは平均的に上げて、レベルも2だ」


 なるほど、筋力だけ数値を大目に振ってレベルも3あると。嘘を吐こうとすればするほど、頭でその事を考えてしまうので、逆に読み取りやすい。


「スキルの方は? レベルも一緒にお願いできるかい?」


「スキルは怪力がレベル……2だ。あと、格闘が2で、回復力3も持っている」


 三つのスキルは確かに所持している。が、レベルが嘘か。順番に4、3、4となっているな。それに、まだ他にスキルがあるな。

 ええと、『共通語(会話)』1『消費軽減』3。これはまあ、順当なところだな。『説明』がないのに消費軽減をしっかりと取っているのは運が良かっただけなのか。判断が難しいところだ。

 そして、もう一つ隠しているスキルがあった。


『恫喝』


 心の声はこの能力について「くそっ、相手が俺よりレベルが下なら、言うことを聞かせられるが、こいつら発動したところで効果がなさそうなんだよな。女たちにも効かねえし」と愚痴を漏らしている。

 自分より弱い者に対して効果があるスキルか。奥の手かと思っていたが、どちらかというと今のような誘拐に向いているスキルのようだ。

 まあ、桜さんはああ見えて、こいつよりレベルが高いから効果が無かったのだろう。

 この男は俺たちの脅威にならないと結論を下す。となれば、ここからは、尋問に集中して根こそぎ吐いてもらおうか。


「じゃあ、次にあそこで埋まっている二人のレベルと能力教えてもらえるかい?」


 そこで、木陰に隠れているサウワに合図を送ると、二人に被せていた闇属性の目隠しを外してくれた。


「吉田! 五十嵐! おい、起きろ! も、もしかして死んでいるのかっ。嘘だよな、おい! 助けてくれっ!」


 ピクリとも動かず、目も閉じた状態の二人を見て、男がパニックに陥っている。

 自分がこうやって生きていることに、何処か安心していたのだろうか。もしくは、俺たちには転移者を殺す覚悟がないと、見くびっていたのかもしれない。


「安心してください。彼らは……まだ、生きていますよ。今はまだ。貴方が嘘を吐いたり、情報を教えてくれない場合、処分した後の代わりが必要ですからね」


 まるっきり悪役の台詞だが、自分で口にしてみると少し心地よかった。意外とSっ気があるのだろうか。


「は、話す、何でも話す! あ、あいつらのレベルは知らない! スキルも知っている範囲なら何でも言う!」


 驚くほど簡単に口を割ってくれた理由は単純だ。

 身動き一つ取れず首まで埋まったシチュエーションと、背後で俺の愛用している両刃の斧を素振りしている権蔵の存在が大きい。

 そこからは、ベラベラと訊いていないことまで暴露しながら、快く情報を提供してくれた。


 少女に化けていた男は五十嵐と言い、重度のオタクで二十代半ば。

 スキルは知っているだけだと『肉体変化』『声真似』『探索』『麻痺』『絶倫』だそうだ。何だろう。スキルを見ただけで相手の性格が手に取るようにわかる。

 騙して麻痺させて、やりたいことをやるというスタイルか。救いようがないな。


 レザージャケットは吉田。本人曰く、地元では有名な悪らしい。

 魔物を従えるスキルを所有しているらしく。少女に化けた五十嵐を襲わせていたのも、吉田の能力だったそうだ。

 他は自ら明かすことがなかったが、たぶん『短剣術』と足が速くなる系統のスキルを所有していると思う。と言っている。メンバーの中でも随一の足の速さを誇るそうだ。

 吉田だけは逃げられないように注意しないといけない。


「ここまで、話したんだ! 殺すとは言わないよな! 俺たちは今まで誰も殺してない!」


 それは……嘘か。リーダーに出会う前にこいつは現地人を二人殺し、欲望を満たしている。本当に救いようがない。


「確かに。じゃあ、後三つの質問に嘘を吐かず、正確に答えてくれたら、命を取らないことは保証するよ」


 その言葉に目を輝かせ、何度も頷いている。


「まず、一つ目。キミたちの仲間たちの規模は? 転移者が何人集まっているんだい?」


「ああ。俺たちを含めて転移者は七名いる。現地人も六人いるけどな」


 思っていた以上に大規模なグループのようだ。

 こいつらの言動から見て、碌でもない転移者の集まりだと思うが、桜たちのように無理やり連れ去られた人もいるだろうから、そこの見極めも必要となるな。


「じゃあ、その人たちの能力とリーダーについて教えてもらおうか」


 リーダーと俺が口にした瞬間、男の顔色が変わった。


「仲間は、物作りと農業系に特化したのが一人ずつ。もう一人は……よくわからない。いつもリーダーに寄り添っている女なんだが」


 心に浮かべた映像は、眼鏡、スーツ、ポニーテール姿の女性だった。

 俺の好みに近い外見に思わず息を呑んでしまう。事務服に腕抜きがあれば完璧だったな。


「紅さん……今、少しだらしない顔になっていますよ」


 木陰から顔を半分だけ出して睨むのはやめてください。かなり怖いから。


「現地人は全員雑用係として使っている。食料の採取や、食事の準備だな」


 こうやって心を読んでいるのだが、この男、グループの女子供には手を出していないようだ。物理的な意味でも性的な意味でも。

 余程、リーダーが怖いらしい。女を独占しているのを羨ましく思いながらも、手が出せずにいるというところか。


「じゃあ、本命のリーダーについて教えてもらえるかな」


「ああ、リーダーは……リーダーは……あれ、リーダーってどんな人? えっ、嘘だろ……顔も声も思い出せないっ!?」


「くだらない嘘を吐くなよ! お前の目も俺と同じようにしてやろうかっ!」


「ほ、本当なんだ! 何度も話をして、顔も見ているのに、全く思い出せないっ!」


 頭を激しく何度も左右に振り、今にも泣きだしそうなあの表情が嘘だというのなら、役者にでもなった方がいい。

 ワイシャツが頭に思い浮かべた映像に、リーダーらしき存在の姿が映ってはいるのだが、全てに霞がかかっている。脳内で再生される声もワイドショーでボイスチェンジャーを通したかのような濁った声になっている。

 相手の記憶を操作するスキルがあるのか。


「権蔵。嘘を言っているようには見えない。やめるんだ」


 権蔵が相手の首に斧の刃を当て、今にも切り落とすような動作を見せていたのだが、止めに入ったことにより渋々ながら引き下がる振りをした。


「じゃあ、キミは用無しなので処分させてもらおうかな」


「は、話が違うじゃねえかっ!」


「俺の大事な仲間を傷つけ、怖い目に合わせた償いをしてもらわないとね。それに、こうやって言うことを聞けば、助けてやると約束した現地人を……どうしたのか、覚えているよね」


 顔面が蒼白になり、どうにかして逃げ出そうと暴れているが、首から下が埋まった状態で何かできるわけもない。ゆっくりと歩み寄る俺に、怯えた顔で「助けてくれ!」と懇願している。

 すっと、男の背後に回り込んだ権蔵が頭を鷲掴みにし、もう片方の手を顎に当て、無理やり口を開かせた。


「あがっ、ががががあ」


「あ、この薬ですか。ええと、成分は……聞かない方がよいかと。では、ご苦労様でした。自分のしたことを一生後悔しながらお休みください」


 アイテムボックスから取り出した薬を、抵抗し続ける男の口に放り込んだ。

 そして、飲み込みやすいように水筒から水を流し込み、口を閉じさせた。

 水ごと強引に飲まされた男は、吐き出そうと必死になっているようだが、徐々に薬が回ってきて絶望した表情のまま眠った。


「これで、少しは反省しただろう」


「少しどころかトラウマレベルだけどな」


 権蔵が憐れんだ表情で、泣きながら眠る男を見下ろしている。


「いいのかい。キミの右目を奪った相手だ。同じ目に合わせたいなら止めはしないよ」


「いいさ。正直、腹は立つが、んなことしても、目は戻らねえしな。それに、こいつらと同じになっちまう。まあ、あとは……隻眼ってかっこいいよな!」


 無理している感じもなく笑う権蔵の豪胆さに、感心してしまう。

 こいつは助かったな。権蔵の件はこれでいいにしても、もしも桜とサウワに手を出していたら、今、この手で殺していたと断言できる。

 結果論だが二人は無事でこうしているので、かなり迷っている。利用するにしても、この手札をどう活用できるのか。

 相手のリーダーが何を考えているのか掴めない部分があるので、残りの二人にも同様に尋問をやるだけやってみよう。





 三時間が経ち、昏睡薬の効果が切れたところで変身男五十嵐から起こし、尋問を開始した。

 そして、ある程度聞き出すと、もう一度眠ってもらうことにした。

 次にレザージャケットを叩き起こし、同様に情報を聞き出す。そして、用済みになると眠らせる。

 結論を言うと。ワイシャツ男と変わらない情報しか手に入らなかった。

 変身男は他に注意すべきスキルもなく、ネタが割れているので油断をしなければ敵ではない。

 レザージャケットは中々マニアックなスキルを所有していた。


 『調教』『使役』『服従』『催眠』『短剣』『鞭』『瞬足』


 と、かなり歪なスキル構成だ。この能力で魔物を使役することが可能らしい。

レベルの低い人間にも通用するようなので、捕まえた相手を捕縛し、拠点まで連れて行く役割を任されているようだ。

 情報をこれ以上、引き出すのは無理だろう。そうなると――


「助けるにしろ、始末するにしろ、こいつらをどうするかが悩みどころだな」


 いっそ殺してしまえば、経験値もスキルポイントも入り、今後の生活が楽になる。それは、間違いない。

 綺麗事が通らない世界だというのは嫌と言うほど思い知らされてきた。

 こいつらの能力を把握したとはいえ、敵に回すと厄介な相手だ。結果論で言うなら桜やサウワを犯しもせず、権蔵を殺しはしなかった。

 ただ、それはリーダーという抑止力が存在していたからで、それがなければ彼らは暴走し、あの場で欲望の赴くままに犯罪行為に手を染めていた。


「皆は、この三人をどうするべきだと思う?」


 折角、仲間がいるのだから、意見を聞いてみることにした。


「殺しておいた方がいい」


「逃げられると面倒」


 サウワとゴルホの意見は簡潔でわかりやすかった。

 やはり、仲間でもっとも冷静に現状を判断できるのは、サウワ、ゴルホの二人かも知れない。


「まあ、理想的なクズの発想だよな、こいつらの頭の中」


 権蔵の言う通り『精神感応』で頭の中身を覗いた感想は、クズである。

 小児性愛の持ち主とレイプ願望と誰でもいいからやりたいという、頭の大半が性欲で埋まっている三人組。奴らの取得しているスキル内容から心が透けて見える。

 そしてワイシャツと同様に、この二人もリーダーと合流する前に殺人にレイプと犯罪に手を染めている。

 異世界に落ちて一か月。権蔵のように少々、性欲が暴走するのはわからないでもないが、こいつらは根本から碌でもない人間だったようだ。


「悔い改めて、まともな人になるようなら助けるべきだと思いますが……」


 正直、その可能性は少ないと桜もわかっているので、そこから先の言葉が出ない。

 殺すのは簡単だ。そして、その選択が間違っているとも思えない。

 弱肉強食を体現する島で何を迷っているのかと、嘲笑う心が存在する。彼らを残しておいて、後々、後悔する事態になった場合、俺は自分が許せないだろう。

 実際、この三人は権蔵を死ぬ直前まで痛めつけている。傷薬がなければ、おそらく彼は死んでいた。

 彼らはその願望を実行に移す力があり、実際に実行に移している。ここは日本と違い犯罪行為を抑制する法も存在しない。リーダーの存在がなければ、今すぐにでも欲望を満たすのだろう。


「生かしておけば――俺たちの害になると思う」


 決断を口にした俺に、仲間たちは顔を見合わせ一斉に頷く。

 答えは出た。

 俺は今、一人で生きているわけじゃない。大切な仲間に再び危害を与える可能性がある存在を見逃すわけにはいかない。

 今回も甘い算段で仲間が窮地に陥ってしまった。ここは自分を殺してでも決断をする場面だ。せめて、眠っている間におくってやろう。


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