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猥談とアイテム

 拠点に戻る前に『捜索』で探索し続けている、鈴方雪之丞――つまり、蓬莱さんの反応がないか何度も確認するが、やはり何処にもポイントは存在していない。

 元の拠点でもギリギリ届く範囲から調べたのだが、やはりポイントはなかった。瀕死でもいいから生き延びていないかと淡い期待を胸に抱いていたが……現実は残酷で厳しかった。


 拠点に戻ると、既にサウワとゴルホも戻ってきていて、蓬莱さんお手製の保存庫に薪や日持ちのする食材を運び込んでいるところだった。

 権蔵君と桜さんは邪魔にならないように敷地の隅に転がされている。また気を失ったようだ。今度は精神力の枯渇で倒れたみたいだな。


「ただいま」


「おかえりー」


 二人が声を揃えて返事をする。

 もう夕方なので、そろそろ晩御飯の準備をしようか。

 今日は魚の煮つけでも作ろうかな。魚はアイテムボックスに山ほど収納しているので、量的にも問題ないだろう。うちには育ち盛りの子供二人に、大食いが二人いるから食材の消費量がとんでもない。

 そういや、元拠点に置いてきた完全食の種はどうなっているだろうか。最近芽が出てきたところだっただけに、勿体なかったな。


「ふおっ? ああ、いい匂いが……」


「動きたくないのに、体が反応しちゃう……くやしいっ」


 二人とも目覚めたか。最近、料理に対する反応速度が目に見えて上がってきている。

 まだ体が完全には言うことを聞かないのだろう。ずりずりと地面を腕の力のみで、ほふく前進の要領で進んでくる。

 飢餓状態で目を輝かせ涎を垂らした二人が迫る光景は、できの悪いホラー映画のようだ。ゴルホもサウワもその姿に若干引いている。


「子供たちが怯えるからやめなさい」


 二人の襟首を掴み立たせると、いつもの席に着かせる。

 そういえば、桜さんは姉妹の血で一度染まったジャージを今も着ている。

もう二度と着ることはないかと思っていたので、無理しないで新しい服を作るよと切り出したのだが、


「いいんです。これは、彼女たちとの絆でもありますから」


 と、静かに首を左右に振っていた。

 あの日から、桜さんが一番変わったかもしれない。いつものように何処か抜けた感じも、明るさも以前と変わらないように見えるのだが、俺の目には少し無理しているように見えている。


「どうしたのですか? 早く食べましょうよ。お腹ペコペコですぅ」


 今の話し方も、ほんの少しなのだが違和感がある。時間が解決してくれるといいのだけど。


「そうだぜ。暗くなる前に食っちまわないと」


 手早く片付けるか。順番で入浴する時間も考慮しないといけないからな。





 サウワと桜さんが一緒に風呂に入っている間に、俺たちは寝床を整えている。ゴルホは一応見張りとして、風呂の周辺で警戒してくれている。

 毛皮を床に敷き、毛布代わりの毛皮も綺麗に並べておく。この人数だと少し窮屈なのだが、贅沢を言える状況ではない。対応策として俺だけ床ではなく、お手製のハンモックで地面から離れ眠ることにしている。


「唐突だが土屋さんよ」


 珍しく権蔵君が真剣な面持ちで、声を潜め切り出してきた。


「女性が裸体を無防備にも晒している状況で、覗かないのは失礼に値すると俺は考えるのだが、どう思うかね」


 無理のある変な口調になっているな。

 妙な敬語を使っているのが、更なる違和感を与えてくれる。


「どうも思わない。一時的な欲情に身を任せて、今までの信頼を裏切る気はない」


「あんたな……本当に男かっ! あるだろうこう、滾るものが! 別に手を出したいわけじゃないんだ。こう、これからの一人でする行為のおかずというか、その為のリアルな映像を目に脳に焼き付けておきたいだけなんだよ!」


 熱弁を振るっているな。男として言っていることはわからなくはない。

 ましてや、彼はまだ十代の最も性欲を持て余している時期だ。この島にはパソコンもなければエロ関連の媒体もない。あ、いや待てよ、一つあるじゃないか。


「どうせ、そのスマホにエロい動画や漫画とか入れているんだろ? それを使えばいい。風呂に入る前に、綺麗にそこを洗ってから入ってくれよ」


 本来ならスマホの貴重な電池をそんなことに使うべきではないが、今は充電を気にする必要がなくなっている。

 実は権蔵君が太陽光発電の携帯充電器を所有していたからだ。

 何故、都合よくそんなものを持っていたのか。それを知ったとき、当然その疑問が頭を過ぎり彼に問いかけた。


「え、最近は震災とかいつ何時、どんな災厄が待っているかわからないだろ。だから、念の為に、これを肌身離さず持つことにしてんだよ」


 と、意外としっかりした一面を見せてくれたのだが、その時の言動が少し怪しかったので、手を打っておいた。

 俺の隣にいた桜さんに権蔵君へと伸ばしていた糸の端を掴ませ、目配せして心を読ませたのだ。

 そして、彼が立ち去った後に桜さんが教えてくれた事実はこうだ。


「あの、ええと、これ言っていいのかな……授業中にテロリストが乱入してきて、長期籠城戦になったり、世界中にウィルスがばらまかれてゾンビだらけになった場合や、突如、異世界に送られた時の備えだったなんて、言えるか。だそうです」


 あ、うん、そうか、うん。

 確かにそういった題材の小説や漫画で充電できればかなり便利だよなと思った場面が何度もあった。それを見越しての行動か。

 普通ならちょっと痛い子なのだが、キミの妄想力に今はただ感謝だ。


「――っておい! 自分から聞いといて何ぼーっとしてんだよ。俺のスマホにそんな映像は殆どない! むしろ、飽きた!」


 殆どか……飽きたのか……。まあ、その若さだ。そういった問題も切実だよな。


「椿さんといたときは、あの人の色気と着衣状態でもにじみ出るエロさに、お世話になったから良かったんだけどさ」


 そんなことを語り始められてもな。青少年の生々しい性への葛藤、それも男の話を聞かされても俺はちっとも嬉しくないんだが。

 まあ、椿さんがエロかったのには男として同意しよう。


「桜姉さんは、寝起きは頭ぼさぼさで体も凹凸が殆どないし、いつもジャージで色気が微塵もないけどさ、一応、女だろ」


 桜さんに聞かれたら怒られるぞ。


「見飽きた映像よりも、生々しいリアルを目に焼き付けたい! わかるよな! なあ!」


 俺を説得しようと必死だな。

 周囲が暗くなっているとはいえ、権蔵君にはスキル『夜目』がある。覗く行為に支障はない。


「心情的にはわかるが、ダメだぞ。桜さんもああ見えて女性なんだ。覗かれたら傷つくからな」


「あんた、ほんっとに固いよな。実は性欲枯れているんじゃないのか? 本当は、やせ我慢しているだけなんだろ? なあ、素直になろうぜっ」


 性欲が枯れているか……友人にも言われたことがある。

 あからさまな女子からの誘いを断ったり、性欲に流されそうになる場面で何度も踏みとどまってきた。

 この歳だ、経験がない訳じゃない。それなりには、やってきた。

 若い頃は失敗もして痛い目も見てきた。その経験があったからこそ、今はこうやって理性が頑張ってくれている。

 年長者が年下より優れているポイントは経験だ。


「なあ、なあ、なあ、一緒に覗くのが無理なら、見逃すだけでもいいからっ」


 少し哀れになってきたが、だからといって桜さんもそうだが、今はサウワも入浴中だ。この野獣に妹のような存在である、サウワの裸体を晒すわけにはいかない。

 どうにか、話を逸らすか。


「ふむ、じゃあ権蔵君に一つ質問だ。キミはお互いに好意を持っている相手と、深夜に飲み会……は、権蔵君の歳じゃ変か。カラオケボックスで盛り上がり、かなり遅い時間帯になった。このカラオケボックスの近くにはラブホテル街がある。土曜の夜、キミは友達と遊ぶから今日は友達の家に泊まるかもしれないと、母親に伝えている」


 いきなり妙な話を始めたので、最初は訝しげにこちらを見ていた権蔵君だったが、話の内容に興味が出てきたらしく、腕を組んで頷いている。


「彼女の方はさりげなく「今日は友達の家に泊まるって言ってるから、オールでもダイジョブだよ」と言っている。さあ、そこで問題です。貴方はここでどう思い、どういった行動をとりますか」


「そりゃ、カラオケ切り上げて、ホテルに連れ込むだろ。お互いOKなら問題ない筈だよな……経験ないけど」


 最後の小さな呟きを聞き取ってしまったが、それは触れないでおこう。


「てか、その場面で手を出さないのは男じゃねえだろ。相手にとっても失礼だし、男だって抑え切れないだろ」


「知っているかい。これがね、二十半ばを超えて三十に近くなると、このまま楽しい状態で終わらないかなって、考えるようになるんだよ。ストレートに言うと、この後のセックスが面倒に感じるようになるんだ」


 権蔵君が信じられないと、眼球が飛び出そうなぐらいに目を見開き、口を限界まで開けている。驚愕を顔面で表現しているな。


「う、嘘だろ? ほら、エロいおっさんとかが、若い子に手を出して問題になったりしてるじゃねえか! 年とっても男は性欲が尽きない――」


 そう言って引き下がろうとしない権蔵君の肩に、俺はそっと手を添えた。


「それはね、新鮮味があるからだよ。夫婦間でセックスレスになるのも、マンネリになってしまい意欲が失せるからだ。人は良くも悪くも慣れる生き物だよ。あとは、二十代半ばを超えると、老化により単純にそういうことを頻繁にする気が無くなる」


「やめろおおおっ! そんな現実なんて知りたくなかったっ!」


 この溢れんばかりの性欲が失われるという現実を、男として生物として認めたくないのだろう、頭を抱えている。

 まあ、実際はまだ元気なのだが。

 今の話は会社の先輩が良く話していた内容だ。設定年齢を十歳ほど下げているが。

 当時二十歳になったばかりの俺に、三十後半の先輩がしみじみと酒の席で語っていて、少なからず動揺したものだ。

 権蔵君が石床に頭を突き、手を何度も床に叩きつけている。思っていた以上の衝撃を与えたようだ。


「私もそんなこと知りたくなかったです……だから、土屋さんは私に……」


 いつの間にか寝床の入り口にいた桜さんが、権蔵君と同様に驚いた表情でこちらを見ている。

 何か誤解された気がする。いや、確実に誤解されたな。

 このままでも問題はないのだが、男として桜さんに既に枯れた男だと思われ続けるのは流石にどうかと思ったので真実を語ったのだが、暫くは疑いの目で見られることになる。

 ちなみに権蔵君は覗こうとしていたことがばれて、それを容赦なく共通語でサウワとゴルホに伝えられ、二人の好感度がかなり下がった。


 権蔵君が寝床の隅で毛布を被った状態で丸まり、いじけている。そっとしておこう。

 そんな彼に女性二人からの冷たい視線が突き刺さっている。ゴルホは興味なさげに、いつもの無表情で毛布の上に座っているな。

 ぎすぎすした空気の中で寝るのも嫌なので、俺は話題を振ることにした。


「最近は体とスキルを鍛えることばかりしてきたから、今日は寝る前に蓬莱さんが残してくれたアイテムの確認をしようと思う。灯りは、権蔵君の充電器を使ってスマホ充電していたから大丈夫だよ」


 露骨な持ち上げ方だが、少しは権蔵君をフォローしてやらないと。

 全員が興味を示したらしく、円陣を組むように円形に並んで座っている。円の中心のスペースに蓬莱さんの生徒手帳を置いた。


「まずは特に検証するまでもないアイテムの確認からしようか。調味料、調理道具、毛布、傷薬はそのままだ。あと、アイテムボックスはレベル5だから最大25種類まで入れられるので、かなり便利になっている」


 すっかり忘れていたのだが、アイテムボックスはレベルを上げれば収容種類が増える。実は生徒手帳のアイテムボックスの文字に触れるとスキルポイントを消費して、レベルを上げることが可能だ。

 蓬莱さんはこれを利用したのだろう。


「頑丈な斧は言うまでもないけど、蓬莱さんが愛用していた斧だ。筋力が20以上必要なだけで、装備レベル指定もないから、武器として使ってもいいし、木の伐採や薪割りにも使わせてもらおう」


 糸が通用しない硬い相手に使えるかもしれないな。ミスリルの鍬と鎌の方が威力は高いが、農耕具より見栄えがするからな、こっちの方が。


『あの、ギリースーツって何ですか?』


 子供たちにもわかるように『精神感応』で桜さんが問いかけてきた。


「ええとね、兵士が森や草原に溶け込めるように作られた、擬装用の迷彩服だね。出してみた方が早いか」


 アイテムボックスから抜き出し、目の前に置く。

 そこには巨大な草の塊のように見えるギリースーツがある。

 結構防熱性もあるので、寝袋代わりに使えないこともない。


「ゴルホ、気に入った?」


 熱心にギリースーツを見ていたゴルホは俺に振り向くと、何度も頷いている。

 この子がこんなに興味を示すなんて珍しいな。


「これ、ゴルホ、あげる」


 そう言って、ギリースーツを差し出すと、目を輝かせ抱き付くようにしてギリースーツを受け取った。


「自動演奏のギターは自分が頭に思い浮かべた曲が自動演奏される機能のようだ」


 ギターを取り出し、某有名RPGの街で流れる曲を思い浮かべ、小さな音量でギターに演奏させる。一度演奏を始めると触れていなくても大丈夫なので、寝床の隅に立てかけておく。


「魔法のロープは長さが30メートル程度の一本のロープ。触れていれば自在に動かすことができる。頑丈さも中々のものだよ。魔法の水筒は水が減ることのない水筒。お湯もでるけどね。最近はこの水を使って料理やお風呂の準備をしてもらっている」


 ロープは相手を束縛するのにも、高いところに結び付けて登ったりと使い勝手がいいようだ。

 水筒はかなり役立っている。青色の魔石で水を溜めることができたが、十回も使うと壊れてしまうので、この水筒の存在はかなりありがたい。


「魔法の地図は拡大縮小が自在な地図」


「なら、俺たちのいる島から大陸までの距離とかわかるのか?」


「わかるよ。俺も真っ先にそれを調べたからね」


 地図を床に置き、今は島の全体図が表示されている地図に人差し指と親指を置く。そして、その指を摘まむような動作をして地図の上を滑らすと、島が小さくなった。

 地図自体はA4の紙とほぼ同じ大きさなのだが、その地図一杯に広がっていた島が、今は親指程度の大きさになっている。

 その周辺には海が広がっているだけで、大陸はおろか島さえも存在しない。


「何もねえな……」


「不自然なぐらいに何もないですね」


 二人の呟きを聞きながら更に島を縮小する。今度は米粒大の大きさになった。地図の真ん中にある点が俺たちのいる贄の島だ。

 周囲には相変わらず何もない。

 二人が完全に黙り込んでいる。自力でこの島から脱出するのは無謀だと悟ってくれたようだ。

 更に、更に縮小すると、地図の左端と右端に大陸線が見える。西と東、島からほぼ同じ距離に大陸が存在するらしい。


「まあ、地図はこんな感じだね。興味があるなら後で貸すからじっくり見たらいいよ」


 一旦、地図をしまい次のアイテムに話を移す。


「ここからが問題のアイテムなんだが、まずは韋駄天の靴かな」


 アイテムボックスに手を入れ、目的のアイテムを掴む。一瞬、指が弾かれるような感覚があるが、力を込めれば問題なく掴むことができる。

 取り出された『韋駄天の靴』は見た目、土色のブーツといった感じだ。先端が無駄に少し尖っているが、他は靴の側面に水色の線が三本走っているデザインで、派手でもなく地味すぎるわけでもないといった印象だ。


「これって履くことができるのか?」


 権蔵君の疑問はごもっともだ。そこで俺は、いつもの装備条件に目を通し口にした。


 『韋駄天の靴』(装備レベル30 素早さ40 器用度30以上必要)


 となっている。


「あれ、土屋さんレベル29でしたよね、もう少しでこれを履けるじゃないですか!」


「昨日30レベルに達したから、実は今でも履けるよ。だけど、まだ所有者権限を変えていない。みんなからの意見も聞いておきたかったからね」


 桜さんは今の口調からもわかるように、俺が履くことに賛成のようだ。ゴルホとサウワも頷いているので、所有権を認めてくれている。

 残りは権蔵君なのだが。


「それって、能力はどうなってんだ?」


「精神力と体力を消費して一時的にだけど、素早く動くことが可能ってなっているよ。あと、壊れにくく劣化しないそうだ」


 説明を見る感じ、かなりの高性能なのだが、体力と精神力をどれだけ消費し、能力がどれだけ上がるかは試してみないと何ともいえない。


「正直興味あるけど、今は使える人が使った方がいいよな。俺には妖刀村雨がいてくれるから、別に羨ましくないっ」


 ギリギリと歯を噛み鳴らしている状態でそう言われても説得力がないのだが、ここはありがたく貰っておこう。


「次は魔王のローブだな。見た目はフード付きの黒いローブ。内側は血のように真っ赤に染められている。とまあ、これも見てもらうか」


 アイテムボックスに突っ込んだ指が、鋼鉄のような肌触りの何かにぶつかった。それを掴むと、アイテムボックスを逆さに向け、全身全霊の力を込め一気に引き抜いた。

 腹の底まで響く振動が寝床を揺らす。漆黒のローブの裾が、石の床に軽く突き刺さった状態で雄々しく立っている。

 ローブと呼ぶより、フード付きのコートに近い。


「おおおおっ、かっけえ!」


「なんか、禍々しいです……」


 暗黒と呼ぶにふさわしい色彩のローブからは黒い蒸気のようなものが、にじみ出ている。


「これ、やみぞくせい」


 闇属性の使い手としてサウワにはわかるようで、立ち昇る黒い蒸気を指さしている。


「この魔王のローブは、あらゆる属性の魔法、状態異常を無効化し、斬撃を弾き、打撃を吸収するとなっている。おまけに、着ているだけで闇属性の威力が強化されるそうだ。おまけに破損しても自動修復機能付き」


「うおおおおっ、いいじゃねえかこれ!」


 色めき立つ権蔵君の脳内では、魔王のローブを着て邪気眼を発動させ、妖刀村雨で敵を切り刻む自分の雄姿が流れているのだろう。

 サウワも興味があるらしく、じっとローブを凝視している。


「あ、装備レベル1000いるから」


 その一言で権蔵君が膝から崩れ落ちた。世の中……特にこの異世界はそんなに甘くないんだよな。

 能力に満たない者には着ることができず、このようにただの鉄板のような状態のままとなる。


「最後の一つは、逆錬金の釜だ。これは、釜に放り込んだものを元の状態へ分解し戻すとしか、説明で書かれていない」


 つまりは、ミスリルの鎌を入れれば、ミスリル鉱石と柄に使われている皮に分けて戻るということだと思う。

 貴重な材料を手に入れる為に使えるのだろうが、その材料を活かす生産系の能力がないので、今は使い道に困ってしまう代物だ。


「あと、この逆錬金の釜。一回使うと消滅するらしい。スキルポイントを消費しても復活しない。使いきりのアイテムだな」


 なので、試すこともできない。一応一つだけ使い道を見つけたのだが、それも博打要素が強いので、やるかどうかはもう少し検討してからとなる。


「ざっとこんな感じだよ。もし、使いたい物があるなら遠慮なく言ってくれ。貸し出すから」


 と話を締めくくるように言ったのだが、誰も聞いてはいなかった。

 恨めしそうに魔王のローブを眺めている権蔵君とサウワには俺の言葉は届いていない。

 ゴルホはギリースーツを着こんで、部屋の隅に佇んでいる。どこかのマスコットキャラにこんなのいたな。

 桜さんはずっと演奏を続けているギターに触れようかどうか迷っているようで、近づいては遠ざかるを繰り返していた。

 ……よし、寝よう。


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