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防衛戦

 別働隊が思ったよりも遠い位置にいて、一日と少しの猶予が与えられたのは、かなり大きかったな。この貴重な時間を俺たちは一瞬たりとも無駄にするわけにはいかない。

 あの後、捕まえたオークとの手段を選ばない話し合いは滞りなく進み、貴重な情報が幾つか手に入った。


 まず、島の東側はこのオークたちが治めているということだ――自称だが。

 圧倒的な数に、団結力。そして、この島の住人の中では知能が高い種族。身体能力も決して弱い部類ではない。そんなオークたちはこの島で勢力を伸ばしているそうだ。

 生まれも育ちもこの島のオークたちは、東部から西へは決して近づかないことを厳しく定めているそうだ。俺がヘルハウンドと戦った場所は島の西ではなく、中央部にすら到達していない。

 どれだけ広いんだこの島は。

 それだけの知能があるのであれば、交渉が成立するかと淡い期待を抱いたのだが。オーク曰く、


『毛のない猿と何故、交渉をしなければならない! 貴様らが全ての財産とそこのメスを差し出すのなら、男のみは生かしてやろう』


 とのことだ。交渉決裂どころか、会話すらまともにする気がない。

 規模は分からないが島で育ち島しかしらないオークたちにとって、自分たちより弱い存在は貢がせるか滅ぼす。強そうな相手には近寄らない。そういう考えが定着している。

 そして、俺たち人間は強そうな相手には見えないので蹂躙する対象とのことだ。


 このオークだけの偏った考えかとも思ったのだが、桜さんの『精神感応』に心の奥底まで覗かれた結果、このオークの考え方が群れでの常識という結論に達した。

 相手の弱点や行動パターン。生活習慣までも全て明らかにされたオークを見つめ、桜さんの能力の恐ろしさを改めて実感している。

 嘘が全く通用せずだんまりも無駄。『精神感応』の情報収集能力は他の追随を許さない。味方で本当に良かった。嘘と罠と奇策を用いる俺にとって、敵に回せば最も厄介なスキルかもしれない。





「敵兵、北東距離5キロ。その数……今から数えるから、しばしお待ちを」


『土屋さん、締まりませんよ』


 桜さんが俺の隣で肩を落とし、ため息を吐いている。

 そんなことを言われても『捜索』はポイントが無数に見えるだけで、その数が表示される訳ではない。一体ずつ、いちいち数えなければならない。


「あー、たぶん124だ。ただ、オークの上位種であるハイオークが更に十数体いるのは覚悟しておいてくれ」


 あのオークから聞きだした情報なのだが嘘偽りはない。桜さんが同時に心を読んでいたからだ。

 その桜さんは今、一緒に見張り台に立っている。役目はもちろん連絡係。


『各自配置につきました。まだもう少し時間が掛かると思いますので、各自チェックをよろしくお願いします』


 桜さんは連絡兼参謀ポジションが板についてきている。

 元の知力が高かったので呑み込みも早く、頭の回転も早い。ジャージがスーツで眼鏡でも掛けていれば似合いそうなのだが、今の姿の方が桜さんらしくはあるか。

 見張り台から伸びた糸は仲間が潜んでいる場所に繋がっていて、全員がその糸を掴むか体の一部に括りつけている。


『全員から返事がありました。問題ありません』


 こういう場面で桜さんの能力はかなり優秀だ。この防衛戦も桜さんがいなければ成り立たなかっただろう。


「最終確認をしておくよ。危なくなったら住居側の塀にある隠し扉から即行で逃げること。その際に俺が時間を稼ぐから躊躇わず振り向かず真っ直ぐ逃げる。いいね」


 ゴブリンの集落は西南北が森に面し、東面に崖がある。斜度が70度はありそうな崖なので、飛行能力でもない限り崖下から敵が登ってくることは、まずない。

 非常時には崖に採集してきた植物の蔦を垂らし、逃げる手はずになっている。

 桜さんは少し不満げにこちらを睨んでくるが、その視線は無視することにした。

 渋々ながらも全員に俺の言葉を伝えてくれたようだ。


「桜さん何度も言っているよね。俺一人ならどうとでもなるって。この場で一番レベルが高いのは俺だから」


『わかっています。わかっていますけど……』


 何度も話し合ったのだが、桜さんは今だに納得がいってない。

 心配してくれるのは嬉しいが、正直俺一人ならオークの群れ相手でも逃げ切れる自信がある。むしろ誰かに残られた方が生き残るのが難しくなる。

 それを桜さんも理解しているのだが感情はまた別なのだろう。


「じゃあ、当初の計画通り偵察に行ってくるよ」


 ポイントで確認するだけでは、やはり不安がある。

 相手に気づかれるわけにはいかないので、あまり近寄ることはできないが、この役割を任せられるのは俺かサウワということになるだろう。

 まあ、危険度が高すぎるので俺がすることとなったが。

 サウワは自分が行くと言ってきかなかったんだよな。


『無茶はしないでくださいね』


「了解」


 見張り台から下りていく桜さんと視線を合わせ、笑みを返す。

 桜さんは「ご武運を!」と俺を送り出してくれた。





「視力系のスキルが欲しいところだな」


 大木の上で気配を殺し、眼下を通るオークの群れを観察している。

 別働隊のオークは捕えたオークと見た目はほぼ同じなのだが、簡素だが皮鎧や鱗を張りつけたような鎧を装着している。全員が槍やつるはしの様な武器を携えているな。

 隊列が乱れることなく二列で拠点に向かって行軍している。ゴブリンたちとは違い統率のとれた兵隊と呼んでも差支えがない。


 最後尾には他のオークと比べて頭一つ背が高く、オークから緑の色素をかなり抜いた肌色をしている魔物たちがいる。

 顔はほぼ同じなのであれがハイオークで間違いないだろう。

 着ている物も段違いだ。首から下を完全に覆う鉄製らしき鎧に、手にしている槍もオークが持つ武器よりも高性能なのだろう。

 オークの兵が持つ木の棒に穂先をつけただけの武器とは違い、そんなに凝ったつくりではないが、武器屋とかに並んでいても違和感のない外見をしている。

 こちらが『気』の能力を使い相手の力量をある程度測っているのだが、オークの兵士を上回る気を感じる。流石にゴブリンジェネラルは下回っているようだが。


 ハイオークらしき魔物が12。その中でも、かなり気になる個体が4体いる。

 格好が他のオークやハイオークと全く違う。皮をなめしたロングコートのような服を着こみ、頭にはフードを浅く被っている。そして、手にはゴブリンが持っていた棍棒をかなり細くした杖らしきもの。

 見た目だけで判断するなら典型的な魔法使いの格好なのだが……共通語が話せるだけの知能があるなら、魔法スキルが使えて当たり前か。捕まえたオークから聞いておけばよかったな。


 魔法使いっぽいオークは他の個体より知能が高い可能性がある。罠に気づかれる前に何とか処分しておきたいところだが、迂闊に手を出すと警戒されてしまう。

臨機応変にいくしかないか。便利な言葉だな臨機応変。

 計画に乱れを感じるが全てが予定通りにいくわけがない。俺たちは頭の切れる有能な軍師ではなく、戦いに関しては素人同然なのだから。

 オークの群れが足下を通り過ぎ、その背が去るのを見送ると、俺は敵に気づかれぬように迂回し、帰り道に小細工をしながら拠点へと戻った。





 見張り台に登り糸を掴み、桜さんと連絡を取り、全員に敵が目前まで迫っていることを伝える。

 見張り台に姿を隠したまま『捜索』のポイントでオークの位置を確認すると、門まであと100メートルの位置に群れの先頭がいた。

 内開きの門扉は開け放っておき塀にくっつけているので、直ぐに門扉の存在に気づくことは無い筈だ。

 今までなかった門扉が増えていたら警戒されるおそれがある。

 見張り台については、ゴブリンたちが作りかけていた物が集落の隅に転がっていた。以前はあった可能性があるので、大丈夫だとは思うが。

 集落の入り口から俺たちの拠点まで伸びていた大八車の跡は、もちろん消している。ゴルホの『土使い』様様だ。

 もし事前に気づかれたら、門扉を閉じて拠点から逃走すると決めている。


 敵も門扉を目視できる位置まで到達したか。

 今、天気は曇り。時間は手元の腕時計で5時。この異世界では、少しずつ太陽が沈み始める時刻。冬場の日本と同じ感覚だろう。

 丁度いい時間帯だ。オークは夜目が利かないらしいから、罠にはめるにはもってこいだ。途中、通路に倒木や落石を配置し、時間を稼いだ甲斐があった。

 見張り台の覗き穴からオークたちを見てみるが、入り口にゴブリンがいないというのに別段気にした様子がない。

 これも聞きだした情報通りだ。ゴブリンは日頃からいい加減でさぼることが多く、空が暗くなると皆眠りにつく。オークたちはそう理解し、気にしていない可能性が高い。

 もしくは、この島は弱肉強食を絵に描いたような世界だ。ゴブリンたちのような弱い魔物は、襲われ全滅しても不思議ではないと思われているか。


 そんなことを考えている間に、オークの先頭が入り口を抜けた。

 俺たちの住んでいる家は敵が強襲してきたときのことを考慮し、集落の奥の壁際に並べている。太陽が沈みかけていることもあり入り口からは確認しづらい。念の為に瓦礫や資材を家の前に並べて目隠しをしているので大丈夫だろう。

 集落のど真ん中の空き地には魚や果物を大量に積んでおいた。わかりやすいように大量の薪に火をつけ目印も置いた。

 捕まえたオークがゴブリンは毎回貢物をこうしていると聞いておいたので、いつもより少し量を増やし、俺の釣った魚もおまけでプレゼントしておいた。

 これに目が眩んでくれればいいのだが。


 ゴブリンたちが寝ているように見せかける為に、ジェネラルが暴れた際に壊れた骨組みだけの粗末な小屋も、ある程度だが再現している。その作業を一手に担ったのは……罠でも大活躍な蓬莱さん、お疲れ様でした。

 小屋の下には適度な長さに切断した丸太を配置し、毛皮を掛けている。この明るさならゴブリンが寝ているように見える……と思いたい。


 オークは集落の中を見回すと、さほど気にした様子もなく貢物へと躊躇いもなく進んでいく。

 このオークの群れには油断がある。捕えたオークが物心つく頃にはゴブリンたちから貢物を搾取していたようで、長年当たり前のように行ってきたことにより、一連の作業のようになってしまっている。

 普通ゴブリンが眠っていたとしても、これだけのオークが行軍すれば足音も金属鎧のこすれる音も相当なものだ。誰も起きてこない方が不自然なのだが。


『土屋さん。オークたちが「あいつらまた寝てやがる」「まあ、物さえあればゴブリンがいようといまいが、どうでもいい」とか思ってますよ』


 入り口から貢ぎ物置き場までの間に糸を地面に這わしているので、そこを踏んだオークたちの考えを桜さんに読んでもらっている。


『ありがとう桜さん。そのまま、相手の考えを読んでいてもらえるかな』


『了解しました!』


 今回、連絡用の糸と集落への細工用に相当な量の糸を使っている。裁縫用の糸はほぼ使い切っている。使用後の回収を忘れると酷い目に遭いそうだ。

 部隊全員が集落の中に入ったのを確認できた。

 半分以上が貢物へと群がり、鎧を身に着けず軽装な連中が、背中に担いだ大きなずた袋に詰め込んでいる。ハイオークと鎧を着た何名かのオークは貢物の果物類に噛り付いている。

 魔法使いっぽいハイオークは貢物には近寄らず、オークの兵士に何か指示を出しているようだ。


『土屋さん! あのフード被ったオークが小屋を調べろと指示出しています!』


 焦る桜さん声を聞き、最後の確認をする。

 門扉付近にオークはいない。少し離れた場所にオークの魔法使いらしき個体と兵。貢物の周辺にハイオークと兵。

 ここら辺が限界か――やるぞ!


『罠を起動後、蓬莱さんに門を閉めるように指示を!』


 俺は全力で発動していた『気』を完全に消した。


「ブヒュウウウウアアアア!」


 何かが崩れる音とオークの叫び声が混ざり合い、夜の静けさに包まれていた集落に轟音が鳴り響く。

 貢物が置いてあった一帯の足元が崩れ、半径20メートルの範囲が完全に陥没している。

 その深さは5メートル程度だが、穴の底には先端を凶悪に尖らせた木製の杭がずらりと並んでいる。

 穴に落ちたオークの大半が杭の餌食となっている筈だ。

 この仕掛けは単純なもので、ただの大きな落とし穴だ。ただし、穴が崩れないように板を組み合わせて置き、少々の重量では壊れないようにしていた。

 だが、あれ程のオークが乗れる程の耐久度はない。そこで、俺が糸から気を流し込むことによって板を強化していた。そして、『気』を完全に消した結果がこれだ。

 レベル5まで上がっているとはいえ、広範囲に流し続けたので疲労感がかなりある。それでも『消費軽減』のスキルのおかげでまだ余裕が残っている。


『いきます!』


 住居である小屋に隠れていた桜さんから火矢と、モナリナの火球が穴の中へと放り込まれた。

 穴の底には良く燃えそうな枯葉や枯れ木が敷き詰められている。食用油でもその上に撒こうかと思ったのだが、食用油は沸点が高いらしく少々の火では燃えないそうだ。

 三国志とかでよく見られる火計とかは、きっと可燃性の高い油を使用していたのだろう。ガソリンがあればもっとよかったのだが。

 ただ、モナリナの火球は威力、火力共に尋常ではないのでそれだけで充分なのだが。


『私の火矢いらないような……』


 桜さんの呟きが直接心に響いたが聞かなかったことにしよう。

 穴に落ちた仲間の断末魔を聞き、自分たちが罠にはめられたことにようやく気付いたオークたちが一斉に集落から逃げ出そうとするが、既に門扉は閉められている。

 騒ぎに乗じて蓬莱さんが閉じてくれたようだ。外からかんぬきをしているので、幾らオークとはいえそう簡単には壊せない。


「それに――」


 門に群がるオークたちの一団の姿が消えた。門の手前にも落とし穴を完備しておいて正解だったな。

 前方のハイオークと兵士たちは穴に落とされ、逃げ場のない地獄絵図と化している。

 門に密集していた兵士たちも同様に落とし穴の餌食となった。

 これだけの規模の落とし穴をゴルホ一人で殆どを掘ってくれた。かなり魔力を消費したようで、作業の途中で気を失ってしまったが、ここまで立派な穴ができたのは間違いなくゴルホのおかげだ。


 これだけ大量の土砂を移動させられるということは『土使い』のスキルが最低でも3はあるのだろう。属性魔法の基準は分からないが、あの威力だ。あっちも3はあると思われる。

 俺がゴルホに頼んだのはある程度の土の除去と、落とし穴を作る部分の土を柔らかくしてもらうこと。この二つだ。

 無理をさせ過ぎてしまったことに関しては、後で幾らでも反省しよう。

 ちなみに残った土は権蔵君や手の空いている人に死ぬ気で頑張ってもらった。


「残りは魔法使いっぽいのと残りのオークか」


 ここまでは順調すぎるぐらいだ。この攻防だけで相手の7割近くを排除できた。残りの杖を持ったハイオークが4、鎧を着たオークが30ちょい。

 前も後ろも封じられたオークたちが取れる手段は左右へ逃げるか留まること。

 だが、この状況で逃げ出さない図太い神経がオークたちにあるのか。答えはNOだ。


「ブヒュルルルグルウウゥゥオゥ!」


 何かを叫びながら、取り乱した兵士たちが左右へと走るが、途中何かに躓き地面に倒れ伏す。足元に張っておいた糸に引っかかったのだろう。

 倒れた場所にも糸を張り『気』を通しているので、鎧で覆われていない顔や手に無数の傷が付いている。

 何とか立ち上がろうともがいていると更に傷が増え、それでも何とか体勢を整えたオークに、幾つもの布袋が投擲される。

 それをくらったオークたちは体が滑って上手く立ち上がれないようで、その場で何度も転倒している。サラダ油を全身に浴びてかてかと光るオークは、かなり不気味なものがある。

 そんな彼らに追い打ちとしてまたも布袋が投げつけられた。


「ブシュルッ! ブエシュルゥ!」


 ぶつかり解けた布袋の口から大量に流れ出したコショウが、オークの巨大な鼻孔と目に潜り込み、くしゃみと涙を誘発している。

 これも全て蓬莱さんが所有していた『調味料一式』のおかげだ。この一式驚いたことに、こちらが想定していた量を遥かに上回っていて、油はドラム缶一個分。コショウは大きめのバケツ二杯分はあった。

 それでも足りないので、蓬莱さんには申し訳なかったが『調味料一式』を補充してもらい、充分な量を確保してもらった。


 踏んだり蹴ったりのオークに止めの一撃として、とある仕掛けを解除するように指示を出す。

 俺は物見小屋から対面方向にある、集落の塀の中で不自然に一本飛び出ている長さの杭と物見小屋に蔦を繋いでいた。

 そして、その蔦には一本の巨大な丸太がぶら下がっていて、今は塀の上に乗っているのだが、それを仲間が押してくれている。

 ピンと張っていた蔦に手を添え『糸使い』を発動する。蔦は俺の意思に従い適度に弛むと、地面へ近い位置に蔦を下ろす。そして『気』を通し強度を上げると、蓬莱さんお手製の滑車からぶら下がった丸太が恐るべき勢いで、地面でもがくオークたちに突撃した。


 一本目の丸太が三体のオークを再起不能にしたようだ。

 同じ仕組みの罠をあと五本用意していたので『糸使い』による微調節もあり、次々とオークたちが吹き飛ばされている。

 それでも、何とか生き残ったオークと魔法使い風のハイオークだが、オークの肉体的特徴である大きな鼻と目に入り込んだコショウがかなり厄介なようで、目をこすり鼻水を垂れ流した状態で、哀れな姿になっている。

 魔法使い風ハイオークが3、オークが残り11か。


「桜さん、残りを殲滅するよ!」


『うおおおっ、コショウ玉を喰らえっ! あ、はい、伝えます!』


 穴に落ちたオークにダメ押しとばかりにコショウ玉を投げつけていた桜さんが、全員に最後の指示を伝える。

 俺は伝令が行き渡るより早く、集落内に張り巡らせていた糸を回収し、その糸を魔法使い風オークの首に括りつけた。

 このハイオークたちはオークに指示を出しておきながら、自分は少し離れた場所で目鼻を擦っていたので狙いやすい。

 首元を押さえ、もがいている魔法使いの背後に回り込むとその首をミスリルの鎌で掻っ切っていく。このハイオークが本当に魔法使いだとしても、不意を突き至近距離で襲えば問題はない。


 あっさりと一番の心配事項であった魔法使い風を倒すことに成功し、安堵の息を吐いた、その時、


「ブルフォォォ!」


 俺の近くまで忍び寄っていた槍を持ったオークが俺に穂先を突き出そうとしている。

 ちっ、やばいか。俺は慌ててその場から飛び退ろうとしたのだが、くそっ足元が滑るっ!

 ばら撒いた油に足を取られバランスが崩れてしまった。

 槍の穂先が迫るのを黙って見つめるしかできない俺の眼前で、槍ごとオークの体が横にぶれる。


「ブギュルイイイイイッ!」


 側面から水の連弾を喰らったオークだったが、大した威力ではなかったようで体を揺らした程度だったのだが、何を思ったのか槍を放り出し全身を掻いている。

 特に糸で傷つけられた細い傷跡に手を当てて、悲鳴を上げていた。

 水弾が飛んできた場所に目をやると、そこには水の弾丸を無数に宙に浮かせているモナリサと、足元の大きな壺から白い粉を取り出し、水の弾丸に流し込んでいる桜さんの姿があった。


「塩か」


 モナリサの水属性魔法の弾丸に塩を混ぜることにより、塩分を含んだ水弾は相手にぶつかり弾け、糸により裂傷を負ったオークの傷口に塩が入り込んだのか。

 そりゃ、痛いよな。

 もはや、戦闘に集中できる状態ではないオークの残りを、遠距離からの魔法と矢。

 そして、俺が糸で動きを封じ、権蔵君と蓬莱さんが倒していくという一方的な殺戮が続けられるが、数分後には抵抗するオークがいなくなり、この戦いの幕が下りた。


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