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拠点

 桜さんの後ろからこそっと顔を出したサウワは、蓬莱さんと権蔵君を見て怯えたように体を揺らしたが、その後ろにいる三人の現地人を見て目を見開いた。

 何かを叫んだのだが、相変わらず何を言っているのか全く理解できない。たぶん驚いて喜んでいる感じの声だと思う。

 サウワは桜さんを押しのけ、現地人三人へと駆け寄ると声を掛けあい、笑顔で手を繋いでいる。


「ええと、三人は顔見知りの様です。ドラゴンに襲われた時、散り散りになったメンバーだったみたいですね」


 桜さんが素早く通訳してくれる。


「サウワたちは積もる話もあるだろうから、その間にお互いの情報交換をしておきませんか?」


「そうだな。まだ良くわからないこともあるのでな」


 俺の提案に蓬莱さんも異論はないらしく、軽い自己紹介とこれまでの経緯について話し合った。





「まさか、他にも奪取が使える者がいたのか。それ故に岩村……ではなかったな。土屋殿も警戒していたのか」


 偽名であることをさっきの会話中に伝えたのだが、蓬莱さんは特に驚くこともなく、権蔵君は自分の事もあるので何も口を挟まなかった……どころか、羨ましそうにチラチラと視線を向けるのが、ちょっと鬱陶しい。

 ちなみに蓬莱さんが殿という大げさな敬称で呼ぶのには理由が有る。売れない芸術家時代にマネージャーポジションの友人が、個性を出す為に無理やり強要したらしい。それが癖となり今でも口に出てしまうそうだ。気に入らない相手には殿はつけないとのことだ。


「ええ、思っていたより奪取を選んだ人が多いのかもしれない」


 年上なので蓬莱さんには出来るだけ丁寧な口調を心掛けていたのだが、気にするなと言われたので他の人と同じ話し方にすることにした。


「そりゃ、奪取は流行っているスキルだったからな。小説で何度も見かけたことのある設定だし、殆どが強力なスキルとして書いてあるから、そりゃ欲しいだろうよ」


 言われてみればスキルを奪う系統の能力が多く見られていた時期があったな。


「ご――刹那君は奪取を何で取らなかったんだい?」


「んー、ああいうスキルが卑怯に思えたからな。相手が悪人だとしても、そのスキルは自分で鍛え上げた能力だろ。それを、何の苦労もしないで奪って俺つえー、なんてやっているやつはクズだろ」


 ああ、なるほど。こういう彼の真っ直ぐな考えは好感が持てるな。春矢とは一生分かり合えなそうだが。

 こういう考えだからこそ、椿さんのスキルを見てあれ程までに驚き、ショックを受けたのだろう。


「お互いの経緯が分かったところで、今後の方針を話す前に、わしからチュートリアルで得た情報を提供しようと思う。お主らがおそらく知らぬであろう、スキルとアイテムについてだ」


 蓬莱さんからの突然の申し出に俺は思わず身を乗り出してしまった。佐藤が得ていた『説明』4による情報が得られなかったことを後悔していたので、ここでの新たな情報提供はありがたい。


「まずは、スキルについてなのだが。生前、日本での生活で身に付いた技能に関連するスキルは成長度が早く、スキルを覚えやすい。例えば、わしは芸術家として木彫りの工芸細工も手がけており、スキル選びで木工を取得しておる」


 『木工』のスキルを持っているのか。あの丸太小屋もそのスキルの効果が発動されたと。なるほど、合点がいくな。


「木工はレベル1しか取らなかったにも拘わらず、初日で木を倒し小屋の作業中に2まであがった。更に二日目には消費ポイントが半分以下になっておったからの」


「新たにスキルを覚えるにしても、自分の能力に見合ったものを選択すれば、成長が早まり身につきやすいと」


「へー、オッサンのチュートリアルも結構使えるもんだな」


 あれ程馬鹿にしていたチュートリアルの情報に、権造くんは素直に感心している。


「うむ、まあな。そしてだ、どちらかといえば、こちらのほうが重要なのだが、スキル表から選んで取得したアイテムについてだ。土屋殿、アイテム欄のアイテムで使用回数が減っている物はあるかな」


「傷薬があと一つで、44マグナム弾は0になっているな」


 44マグナム弾は0になっているにもかかわらず、消滅せずアイテムボックス内に残り続けている。一応アイテムボックスに手を入れ、取り出そうとして見たのだが存在しない物が取り出せる訳もなかった。

 だが、何となく存在に触れたような感覚があり、アイテム権限の移行を促す文字が頭に浮かんだので、自分のアイテムにはしておいた。


「なら、まあ傷薬にしておくか。生徒手帳のアイテム欄に書かれておる傷薬の文字に触れ、補充と口にしてみてくれんか」


 言われた通りに従ってみる。


「補充……おっ!」


「どうじゃ、変化はあったか」


「今頭にアイテムを補充しますかという文字が浮かんだ。はいを選んでみる。ああ、なるほど、こういう仕組か」


 頭の切れる偽名佐藤が何故、回数制限のある使い捨ての武器を選んだのか疑問だったのだが、こういう抜け道があったのか。


「おい、なに一人で納得してんだよ。俺たちにも教えろよ」


「そうですよ」


 権蔵君と桜さんが身を乗り出し、俺に迫っている。


「ああ、すまない。回数制限のあるアイテムはスキルポイントを消費することにより、補充できるようだ。傷薬も100ポイント消費したら五つに戻るみたいだな」


 これでアイテムの使い道がかなり広がったぞ。傷薬が補充できるのは特にありがたい。それに、マグナム弾も増やせるのか……非常用の武器として持っておくか、戦力として問題のある桜さんに持たせるか、また悩むポイントが増えたな。

 ただ、スキルポイントを消費するので、使いどころを考えないといけない。


「蓬莱さん、かなり有意義な情報を感謝します。じゃあ、今度は俺が寝たふりをしていた時に二人が話していた内容で、気になることを伝えておくよ。説明のスキルを4まで上げると、スキルの取得方法を知ることができるみたいだ。俺は説明を3まで上げてみたけど、その情報はなかった」


「新たなスキルを得る方法か。それは重要だが、わしは説明2しかないぞ」


「あ、俺なし」


「私も蓬莱さんと同じで2までです」


 3まで上げるのに300ポイント消費。更に4に上げるには追加で2000ポイント。これだけのポイントを消費する余裕はないな。

 どうにか、俺がポイントを溜めて上げるのが一番建設的か。


「説明4は何とか俺が目指してみるよ。あとは、二つだけスキルを覚える条件は聞き出せた。隠蔽と消費軽減だけどね」


「あ、消費軽減欲しいです!」


「俺も!」


 二人が同時に手を挙げてアピールをしてくる。蓬莱さんに視線を向けると、


「わしは所持しておるよ」


 流石の回答だ。


「そうか、二人は消費軽減覚えたいのか……うんうん、いい心がけだ。俺も全力でサポートさせてもらおう」


「よろしくお願いします!」


「頼むぜ!」


 二人とも良い笑顔をするな。取得条件が(数回、気を失うまで精神力を消費し、更に数回、気を失うまで体力を消耗)というのを知ったらどんな表情に変化するのだろう。


「あとで隠蔽も試してみようか。他に話し合うべきことは」


「あの、あの、現地人の三人とサウワちゃんについてなのですけど」


 ああ、頭から抜けていたよ。新たな三人もサウワと同じく、何かしらの能力を有している可能性があるのだったな。


「じゃあ、説明よろしく」


「は、はい。ええと、私たちの仲間の褐色の女の子はサウワちゃんと言います。蓬莱さんたちと一緒に来た三名の内、女の子二人はモナリナ、モナリサという姉妹です。この三人は年齢12歳だと言っていました。そして、残りの男の子がゴルホ君は13歳です」


 サウワは褐色で年齢のわりに少し小柄な感じだ。鋭い目つきをしているので誤解されそうだが、素直で聞き分けのいい子だ。

 モナリナ、モナリサはそっくりな顔をした双子の姉妹。腰まである金色がかった髪を紐で縛っている。お姉さんがモナリナらしいのだが、妹のモナリサよりおっとりしている。妹は常に姉の前に立ち、キビキビとした動作で姉の面倒を見ているといった感じだ。


 最後のゴルホ君は短く切りそろえられた髪に目鼻立ちが整った顔。ここにいる男性陣で一番のイケメンだろう。寡黙で殆ど話さないらしい。桜さんの共通語に反応するので、言葉がわからないわけではない。


「ええと、この島に連れてこられた現地人の子はどういう子なのかは、説明したのでご存知だとは思いますが」


 そこで言葉を区切り蓬莱さんたちの反応を窺っている。二人とも覚えているようで、大きく一度頷いた。


「私たちと同じように何かしらのスキルを覚えています。サウワちゃんは闇属性魔法」


 何となしに権蔵君を見ていたのだが、闇属性魔法という言葉を聞き体が縦に大きく揺れた。『邪気眼』の使い手としては興味津々のようだ。

 待てよ……今、最悪な未来が頭をよぎった。俺が『説明』4を覚え、スキルの取得方法を教えたら、ほぼ100%の確率で権蔵君は闇属性を覚えようとするだろう。

 そして、邪気眼が闇属性を強化すると知ったサウワも邪気眼を覚えようとして、必然的に二人が仲良くなり、いつか二人揃って……。


「うおおおっ、俺の中の闇の波動が暴れ出しているっ!」


「サウワは自分の闇を抑え切れないっ! みんな逃げてっ!」


 とかやり出したらどうしてくれようか。サウワには権蔵君に近づかないように注意しておこう。うちの子に変な病気が伝染したら困るからな。


「ええと、土屋さん、土屋さん、話を聞いてますか?」


「ああ、すまない。続けてくれ」


 妄想の世界に飛んでいたようだ。話に注意しておかないと。


「モナリナちゃんは火属性魔法。モナリサちゃんは水属性魔法が使えます。ゴルホ君は土使いだそうです」


 魔法使いが更に二人追加か。

 サウワも闇属性魔法が使える。魔法が使えるというのはこの世界ではそれ程珍しいことじゃないのか?


「魔法使いが集まったのを偶然と考えるには出来過ぎのようだが」


 蓬莱さんも俺と同じ疑問を抱いたようだ。


「私もそう思ったので訊ねてみました。ええと、この世界では魔法のスキルの価値が高く、属性魔法スキル所有者もかなりの割合でいるそうです。それで、魔法の才能がある場合は、それを伸ばすことが義務付けられていると言っていました。この世界の能力による優先度といいますか、能力による差別があるそうです。頂点に魔法使いがいて、その下にゴルホ君のような属性の使い手。次にスキル所有者。最後に何のスキルも持たない人間だそうです」


「サウワたちは村から集められたのだろ? 魔法が使えるなら街とかで大切に育てられていそうなものだけど」


 そんな身分制度があるのなら、この子たちは優秀な才能の持ち主として豊かな暮らしが保障されていそうなものだが。


「それがですね。本来は15歳になると国民の義務として能力の検査をするそうです。そもそも、15歳以下の子供はスキルを所有していても発動させることができないと言っていました」


「ふむ、それは辻褄が合わぬな。サウワは闇属性を使えたようだが、まだ11なのであろう」


 蓬莱さんの言う通りだ。15歳以下が発動できないのであれば、サウワが年齢を詐称していない限り闇属性魔法は使えない。


「それなのですが、砦らしきところに集められて検査されたあと、巨大な魔法陣の上に立たせられ、スキルが使えるようにされたそうです。何でも慈悲の女神の力により才能を開花させる特殊な魔法陣だったと」


 また、あの女教師もどきが関わっているのか。才能を開花させたというより、その時に無理やりスキルをねじ込んだ可能性の方が高いと思うのは、俺の考え過ぎなのか。

 例えば強力なスキルの代表格である『時空魔法』に必要な属性魔法スキル所有者をこの島に放り込むことにより、転移者に覚えさせようという魂胆。

 ただの憶測なのだが、あり得ないと言い切れない自分がいる。


「お互いの伝えておかないといけない情報はこんなものかな」


 桜さんの話が終わったようなので俺がそう切り出すと、全員が頷いた。

 これから全員でこの島を生き抜く努力をしなければならないのだが、一つ大きな問題がある。


「ここでこの人数が暮らすのは無理があるな」


 今までの三人なら丁度いい大きさなのだが、寝床もこれだけの人数が入るわけにはいかない。


「ワシらが拠点にしていた丸太小屋に戻るのもありなのだが、この子たちの話によると西の敵は強力らしく、出来るだけ島の東側に住むのが良案のように思えるが」


 その意見には俺も同意したい。こちら側はゴブリンが大量発生しているが、ゴブリンジェネラルを倒した今、脅威がかなり薄れている。

 集落より東の方をまだ調べていないので、そちらに足を伸ばしたい気持ちもある。

 前から計画していたことを実行に移すべきか。


「皆さんに提案があるのですが……」





「ここを奪います」


 早朝に移動を開始した俺たちは森に潜み、息を殺していた。

 全員が俺の指差す方向に視線を向けている。


「土屋さんここって……」


「ああ、ゴブリンの集落だよ」


 春矢と共にゴブリンジェネラルを倒した、いわくつきの場所だ。

 丸太の塀に囲まれた開けた土地。これからの事を考えるなら最適な土地だろう。


「辛い思い出もあるけど、ここを取れたら以後の生活がかなり楽になると思う」


「はい、そうですね。私は……大丈夫です!」


 強がっているのではなく、ちゃんと心の中でけりが付いているようだ。今の桜さんなら、この場所でも割り切って生きていけるだろう。


「ここは、あんたらが言っていたゴブリンの集落か」


「今も敵は、ゴブリンはおるのか?」


「捜索で探ったところ、周辺にゴブリンのポイントはない。集落の中にはゴブリンが11体、ホブゴブリンが3体といったところだね」


 一応、生徒手帳と転移者の死体で検索したが、生徒手帳の反応はなく、転移者の死体は三体、あの後に隅の方に移動させ、埋めた時と同じ場所に反応があった。

 当時はレベルが足りなくてミスリルの鍬が使えず、浅く埋めた程度だったが、ゴブリンに死体を荒らされていないようで少しだけ安堵した。


「ここの襲撃でみんなの実力を見させてもらう。傷薬も五回分に増やしておいたから、大怪我でも治せる。安心して欲しい。俺もできるだけフォローするよ」


 ここでの戦いの目標は拠点を奪うことだが、もう一つ、仲間の戦力の確認も重要なポジションを占めている。権蔵君と蓬莱さんの実力もそうだが、子供たちの魔法スキルがどの程度なのか知っておきたい。

 桜さんの通訳により理解した子供たちが緊張した面持ちで頷く。ここで一週間生き延びてきただけのことはある。恐怖で体がすくむといった感じはない。

 俺の今の実力なら問題なくゴブリンを全て抹殺できるだろうが、それでは意味がない。

 こんな若い子を戦場に駆り出すというのは抵抗があるが、ある程度の力がなければこの島では生きていけない。

 怪我をしても大丈夫とは言ったが、危険な状況になったら即座に手助けするつもりだ。


「じゃあ、新たな拠点を貰いに行こうか」


 俺たちはゴブリンの集落へと進軍した。


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