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転移者と贄

「あ、あの、土屋さん、そろそろいいのでは」


 桜さんが指差す方向に目をやると、少し焦げかけている魚がいた。


「ごめん、ごめん。もういけそうだね。じゃあ、取り分けるよ」


 昨日皿代わりに使っていた、ただの丸太の切れ端だった木を削り、作り上げた木製の皿に魚と包丁で切り分けた肉を並べる。

 一応、箸代わりの小枝を二本渡すが使い方がわからないようで、楊枝のように肉に突き刺して食べている。

 一生懸命、肉や魚に噛り付く姿を見つめながら、俺と桜さんも一緒に食事をすることにした。


 まともな食事を暫くしていなかったのだろう、口いっぱいに頬張って何度も忙しなく咀嚼しては呑み込み、また口いっぱいに放り込む。

 このままではのどに詰まりそうだと、お手製の木製のカップ……というよりお椀と呼ぶに相応しい物に水を注ぎ、少女の前に置いた。

 丁度タイミングが良かったらしく、奪い取るようにカップを握ると一気にその中身をあおる。感心してしまう食べっぷりだが、俺と桜さんが初めて魚を食べた時も、客観的に見たらこんな感じだったのだろう。


「あの、すみません。おかわりいただいても……異様にお腹が空いていて……」


 恥ずかしそうに皿を差し出す桜さんに、怪しい肉を焼いたものと魚を追加で皿に盛る。隣のサウワも物欲しそうな顔をしていたので、同じように追加でよそってあげた。

 美味しそうに食事を続ける二人を眺めながら、自分の計算ミスに気づいてしまった。

 桜さんが昨日とは比べ物にならないぐらい食欲があるのは、今日色々と動いたこともあるだろうが、それだけではない筈だ。おそらく、筋力のステータスレベルを2倍に上げた影響だ。

 エネルギーの消費量が倍増するという説明書きの通り、桜さんは同じ運動をしてもカロリーの消費が増えてしまっているのだろう。俺は『消費軽減』のスキルがあるので、むしろいつもより少ない食料で満腹感を覚えることができている。


 さっきまでの考えではステータスレベルを3に上げる予定だったが、これは控えた方がいいかもしれない。食料の確保も問題となっている現在、餓死というシャレにならない結末が待っていてもおかしくない。

 次から次へと問題が浮上してくるな。だが、今はまず、この子のことからか。


「桜さん、申し訳ないけど、サウワから一緒にこの島に来た子供たちがどうなったか訊ねて、聞き出して……いや、心を読んでもらえるかい?」


 サウワが嘘を言っていると疑っているわけではない。言いたくないこともあるだろうし、思い出したくもない事もあるだろう。それに、口で説明しきれないこともある。

 正しい情報を得るには、心を読むのが手っ取り早く確実だ。


「……はい。そうですね。やってみます」


 俺が何を言いたいのか理解してくれたようで、一瞬嫌そうに眉根を寄せたのだが、すぐに思い直してくれた。

 桜さんが他の子供たちの事を仄めかすようなことを言い、サウワを慰めるように頭を撫でている。頭に触れているのでそこから心を読んでいるのだろう。

 桜さんの表情がころころと変わり、喜怒哀楽の全てを順番に顔で表現しているかのようだ。途中からは感極まった桜さんがサウワを抱き締め、その胸の中でサウワが気持ち良さそうに目を細めている。

 サウワと出会ってから桜さんが慈愛溢れ、魅力ある女性に見えてしまう瞬間があるのだが、きっと気のせいだろう。


「何か今、凄く失礼なこと考えませんでした?」


「キノセイデスヨ」


「なんで片言なんですか。あ、サウワちゃんが眠っちゃったので、毛皮のところで寝かせてきますね」


 サウワをお姫様抱っこで持ち上げ、拠点の奥へと桜さんが引っ込んでいった。ああやって、持ち上げられるのもステータスレベルを上げた影響か。


「はぁ……」


桜さんたちの姿が見えなくなった途端に、無意識の内にため息が漏れてしまった。生き延びることだけを考えて、この異世界では生きていこうと考えていた。それなのに、二人には失礼だが戦力としては頼りない桜さんと少女が俺の枷となっている。


 甘いよな。本当に。


この状況を春矢に見られたら指差して笑いながら、嫌味を言い続けられそうだ。むしろ、春矢ぐらいの力があればこの状態でも問題なく生き延びられると思うが。

 ただでさえ、厄介な現状だというのに知ってしまった新たな情報。

 贄の島に多くの子供。桜さんはできるだけ助けてあげたいと言い出しそうだよな。

 俺も人道的には賛成なのだが、状況が状況だ。助けたところで養えるのかという疑問。そもそも、生き残っているのかという現実もある。


 ここに助けた人を集めるとしても、子供ならあと二人ぐらいが限界か。それに助けたところで、俺がつきっきりでいるわけにもいかない。

 他に力となる転移者を味方につけ、安全な場所を確保。最低限この二つを何とかしなければならない。


「昔から散々言われてきたんだけどな」


 ドライに見えて実はお人好しだ。そんな性格だと貧乏くじを引くことになるぞ。もっと我儘に自分勝手に生きたらどうだ。

 友人や家族からの苦言やアドバイスが頭をよぎる。

 彼らの言う通り何度も痛い目を見て、何度も後悔してきた。


「わかっている、わかっているよ」


 皆、俺を心配して言ってくれていた。

 でも、俺がこんな性格だからこそ、親身になって心配してくれる友人ができたのだと思っている。

 最近では親友と呼べる存在がなく、友人すら殆どいない人も多いらしい。

 当たり前だと思う。自分から困った人には手を伸ばさないのに、自分が困った時は手を差し伸べて欲しい。そんな人間を誰が信用し、友人になりたがるのか。


「土屋さん、どうしました?」


 思いに耽りすぎていたようで、桜さんが接近していたというのに全く気付かなかった。


「ん、今後の事を考えていただけだよ」


「私や……あの子を助けたことを後悔……しています?」


 これからの心配が顔に表れていたのだろう、桜さんが暗い表情でその言葉を口にした。


「全然後悔していない……と言えるほど俺はできた人間じゃないよ。でもね、助けずに目を逸らしていたら、自分が許せなかったと思う。俺は助けられる人を見殺しにして、のうのうと生きていられるほど、神経が図太くないからね」


 冷静に切り捨てられる人というのは、精神の強い人だと思っている。罪の意識に苛まれることもなく生きられるのは、ある意味だが尊敬に値する。

 俺のような小心者は罪の意識をずっと持ち続け、事あるごとに思い出し後悔するのだろう。


「自分の手が届かない場所で死なれるのは、いいんだ。最善を尽くして人を助けられなかったのは、諦めもつく。でもね、助けられたのに助けなかった、これだけはダメだ」


 この意固地なまでの考えは、一生治らないのだろうな。

 後悔はしたくない。新たな人生で人を超えた力を手に入れた。なら、この力を俺なりの我儘で使っていきたい。


「桜さん、他の子供たちもできる限り助けよう。色々と苦労させるかもしれないけど、一緒についてきてくれるかな」


 俺のその言葉を聞いた桜さんの双眸が大きく開き、口元を手で押さえた。そして、心の底から嬉しそうに笑うと、大きく頷いた。


「はい! 一生懸命頑張ります!」


 信頼できる仲間とこれからは慎重に、我が儘に、大胆に、計画的に、臨機応変にいこう。矛盾だらけだが、その方が自分らしくていい。

 人の心は数学じゃない。答えがでなくて当たり前だ。

 それに、学生時代苦手だったからな数学。赤点常連には正しい答えが導けなくても仕方がないさ。


「サウワちゃん、ずっと緊張して疲れ果てていたのでしょうね。熟睡していますよ」


 ずっと魔物が闊歩する島を子供が生き延びてきたんだ、肉体的にも精神的にも限界が近かったのだろう。


「暫く寝かせてあげようか。これからの計画をざっと考えてみたんだけど、聞いてくれる?」


「はい!」


「まず、サウワが起きたら、あの子の実力を見せてもらう。一人で一週間も生き延びたのだから、身体能力が優れているか、何かしらの力を所持している可能性も――」


「あのっ、その事でちょうどお話が」


 桜さんがおずおずと手を挙げ、何か意見があるようだ。

 会話に割り込んできたということは、今の話題に関連したことなのだろう。断る理由もないので、桜さんに主導権を譲ることにした。


「ええと、サウワちゃんと雑談して得た情報と、心を読んだ時に知ったことがまだありまして。先にそれを伝えておきますね。かなり巨大な船できたようで、船底には同じ境遇の子供が鮨詰め状態で押し込まれていました。ええと、100は超えていると思います」


「100か……かなりの数だね。島にいる俺たち転移者と同じぐらいか、それを超えるか」


 もっとも、この島に転移者が全員いることが前提だが。大陸のどこかに飛ばされた転移者だっているかもしれない。

 ただ、転移者殺し推奨のような悪意しか感じられないシステムだと、この島に全員飛ばされている気がしてならない。


「それで、この島の海岸付近に降ろされて、一週間分の食料と水を渡され。その時に短剣も貰ったようです。それで、初めは子供たちの殆どが一緒に行動していて、何人かは勝手に一人で飛び出したり、数人でチームを組んで出ていったようですが」


 わけも分からず、こんな場所に連れてこられたら集団行動をとるのが普通だよな。単独行動や離脱したグループは、それなりに腕に覚えがある連中かもしれない。


「サウワちゃんがいたのは50人以上いた最大規模のグループで、年長者数名が場を仕切っていたようです」


「年長者というのは何人で何歳ぐらい?」


「ええとですね、上は十五、六といったところですね。サウワちゃんのお姉ちゃんが丁度その年らしくて、見た目がそんな感じだったそうです。それぐらいの年代が十人。それより少し若いぐらいの子供が二十人ぐらいの編成で、サウワちゃんぐらいの歳の子が残りといった感じです」


 思ったより年齢層が高いな。てっきりサウワぐらいの子ばかりを集めたのかと、勝手に想像していたのだが。

 高校生ぐらいの年齢であれば、身体能力もそれなりにあるだろうし、ゴブリンぐらいなら問題なく対応できそうだ。


「二日目までは年長組の活躍により、何度か襲われましたが魔物も撃退できたそうなのですが……三日目に……ドラゴンに襲われ、ほぼ全滅した……そうです」


 ドラゴンっ!? この島に、いるのか。

 ファンタジーの魔物と言われて真っ先に頭に思い浮かぶ強大な魔物――ドラゴン。説明するまでもない有名すぎる魔物だ。


「この島にドラゴンが」


「はい。炎を吐き、巨大な体躯から伸びた尻尾と鉤爪で、成す術もなく仲間が殺されていったと教えてくれました」


 桁外れな強さも実装済みか。どれだけ絶望を上書きしてくれるんだ、ここは。


「はぁ……悩み事が増えるばかりだな。それで、その後は?」


「サウワちゃんはその場から何とか逃げ延びることができたのですが、他の生存者たちとは散り散りになってしまい、どれだけ生きているのか何処にいるのか全く分からないと、言ってました」


「サウワたちがいた場所は、この島の西の方?」


「そこまではわかりませんでしたが……海岸付近をこちら側に真っ直ぐ逃げてきたようなので、おそらく西側だと思います」


 子供の足とはいえ五日かけて進んできた。となると、かなり離れていた場所だと思う。なら、ドラゴンと遭遇する確率も少ない……そもそも、ゴブリンが集落を築けるぐらいだ。島のこちら側はそこまで強力な魔物が存在しないのかもしれない。

 魔物同士のテリトリーがあり、棲み分けができている可能性もあるが――これは希望的観測だな。


「西にはあまり行き過ぎない方がいいな。生存者を探すにしても、自分たちが死んでは意味がないから」


「はい、無謀と勇気は違いますもんね」


 となると、北東は春矢がいるから除外。東はある程度は調べているが、島の最東端に辿り着いたわけじゃない。まだ先がある。

 だが、島に連れてこられた子供たちを救う気があるなら西側だよな。サウワが真っ直ぐ西から来たというなら、北西辺りを調べるのが妥当か。


「あの、土屋さん。土屋さーーん! サウワちゃんの実力についてなんですが!」


 熟考しすぎていたようで、桜さんの何度も呼ぶ声に気が付かなかった。


「ああ、ごめん。何かわかった?」


「はい、その、サウワちゃんは闇の魔法が使えるみたいです」


「……えっ? サウワって魔法使えるの?」


 ちょっと驚きすぎて素になって聞き返してしまった。まさかの魔法使いか! いや、冷静に考えるなら現地人に魔法が使える人がいて当たり前だな。スキル表に存在していたのだから。


「みたいです。この島に連れてこられた他の子も、魔法が使えたり何かしらの能力――たぶんスキルを持っていたそうです」


 サウワが言っていた検査をされたというのは、スキルを所有しているかを調べる物だった可能性があるな。スキル持ちだけが選ばれ、この贄の島に送られた。

 でも、何故だ? 生贄はスキル持ちじゃないとダメだとかいう決まり事でもあるのか。


「何でスキル持ちを選んだんだ。そうしないとダメな理由でもあったのか……」


「あの、私も疑問に思ったので、そこ聞いてみたんですよ」


 どうやら考え事が声に出ていたようで、桜さんが話に乗ってきた。


「何でも。スキルを持つ者は贄として上等らしいです。スキルを持たない者より価値のある魂で、それを喰らう者に力を与える効果があると、船で偉そうな人が言っていたみたいですよ」


 何となくだが、これまでの情報でパズルが組み合わさってきたな。


 俺たちが転移する数日前のタイミングで島に放たれた子供。


 転移者を殺せばスキルポイントと経験値が与えられるシステム。


 現地人にもスキル所持者がいて、喰らう者に力を与えるという話。


 これから導き出される答えは――


「桜さん。サウワから得た情報に、神のお告げや神官といった単語は出てきませんでしたか?」


「あ、はい。土屋さんなんで分かったんですか。なんでも、子供たちをこの島に運ぶきっかけは、神からのお告げだそうです。女神からこの世界の教皇に神託があったそうで。贄の島に生贄を運ばなければ災厄の魔物が目覚めるとか、どうとか」


 ほんと、嫌な予感の的中率が高いな……ったく、最悪な気分だ。


「あの、あの、私何か変なこと言いましたか……怒っているみたいですけど」


「いや、違うんだ。この島を遠くから眺めている存在に対して、腹が立っただけだよ。桜さん、これは根拠のない憶測だから、それを前提にして俺の考えを聞いて欲しい」


「は、はい、なんでしょうか」


「たぶん、この子供たちは俺たち転移者に与えられたボーナス……経験値の美味しい敵という立ち位置だ。この子たちを殺せば、おそらく転移者を殺した時と同じように経験値とスキルポイントが手に入るんじゃないかな」


「えっ、えっ! な、何で!?」


「何でだろうね。実は軽いノリで悪意のある誰かが、話を盛り上げる為にしているだけなのかもしれないよ」


 ただの憶測だが、自分で口にした言葉が妙にしっくりきた。

 転移者を強くするという目的で放たれた子供たち。返り討ちに遭う者もいるだろうが、倒せば転移者の糧となる。

 そうすると転移者を強くして女教師もどきに何の得があるのか。

 本当に災厄の魔物がいてそいつを倒させる為に、俺たちを強くしていると言われたら納得がいきそうだが。


 こうなると割り切って子供たちを殺した者が更に力を得るということか。俺みたいな甘い考えの者は、益々不利になると。

 ただ、この子たちのレベル設定があるならたぶん低いだろうから、『奪取』スキルで奪えないことだけが救いか。

 無駄に考えすぎかもしれないが、この予想が当たっていたら最悪な未来が待ち構えていることになる。


「わからないな。わからないことだらけだ。でも、やるべきことは決まっている」


 生き残りの少年少女を探し、味方になってくれそうな転移者を見つける。あと、食料の確保も必須だな。やることは山積みだ。迷う暇があるなら体を動かした方がいい。

 サウワが起きてくるまでの間、俺は自分のスキルチェック。桜さんは畑の手入れと弓の鍛錬をし続けた。





「おー凄いな! サウワは!」


 あれから一時間が過ぎ、目元を擦りながら起きてきたサウワに魔法を見せてもらっている。

 手のひらから黒い影が飛び出し、それが伸縮性のあるゴムのように伸び縮みしている。太さはサウワの手首ぐらいで、長さは五メートルほどだろうか。手から切り離すと途端に消えてしまうそうで、俺の糸使いや鞭のように扱わないといけない魔法だそうだ。


 俺の糸の方が俊敏に動くのだが『闇属性魔法』の最大の売りは形状の変化だろう。

 球のような形にも、剣のような形にも自由自在にその姿を変えられる。夜は闇属性の魔法を纏い闇に溶け込んでいたので、魔物にも気づかれなかったそうだ。


「あの時は、どうして闇の魔法使ってなかったのかな?」


 俺の言葉を桜さんが通訳してくれている。桜さんの『共通語』がなかったら、こうやって会話すらできなかったのか。


「あのヘルハウンドという魔物は闇属性なので、自分の魔法が殆ど通用しなかったそうです」


 魔物にも属性があるのか。見るからに黒かったし、ヘルハウンドと聞いて抱くイメージは確かに闇属性だな。


「闇属性魔法の持続時間は?」


「攻撃で使えるように硬度を強くするには闇を凝縮しないといけないので、消費が激しくあんまり使えないそうです。ですが、夜の闇に溶け込むぐらいなら、暗くなってから明るくなるまでもつそうです」


 それはかなり便利だな。そこまで長く効果を発揮できるなら方針を変更するか。

 その後、闇を凝縮して鞭の様な形状をとり威力を見させてもらった。

 闇属性の作りだす闇には重さが存在せず、剣のような形状になったのを触れさせてもらったのだが、硬い発泡スチロールのような感じがした。

 強度は中々の物で、大木に渾身の力で叩きつけても壊れることもない。刃状の部分の切れ味は包丁には劣るが、それなりの切れ味はある。


 試しに斧の形に変形してもらい、まき割りに使わせてもらったが充分な威力を発揮してくれた。ただ、闇の斧に細く糸のように伸びた闇があり、その先はサウワの手へと繋がっている。


「サウワの能力は凄いね。本当に助かるよ」


 何故か少し不貞腐れている桜さんに通訳を頼むと、それをきいたサウワは嬉しそうに笑ってくれた。

 あの笑顔を見るだけで心が癒される。これだけでも助けた意味があったよ。


「土屋さん。何かサウワちゃん相手だと異様に優しくないですか」


「子供だからね。可愛いし」


「くっ、私のヒロインの座がっ」


 タオル代わりに使っている裁縫用の布を噛みしめ、桜さんが身悶えしている。

 何か戯言が聞こえた気がするが触れないでおこう。


「サウワちゃん! 私負け……ああ、可愛いぃ。もう、負けで良いかも」


 びっと指を突きつけた桜さんを下から上目づかいで覗き込んだサウワの表情にやられたらしく、途中で台詞を変えサウワに抱き付くと頭を撫でまわしている。

 何だかんだで仲良しになってくれたよかったよ。仲間の相性が悪くて空気が重いなんて展開だけは御免こうむりたい。


「よっし、じゃあ二人とも今日の予定を聞いてくれるかな」


 駆け寄ってきた二人に説明をすると、サウワは素直に頷き、桜さんは抵抗したものの、最終的には渋々ながら了承してくれた。


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