音楽の授業が行なわれている音楽室。
「今日は教科書P50の曲の練習をしてください」
先生の指示のあとそれぞれのパートごとに集まる。
「アルト集まって」
一人の女子生徒・・江本亜紀・・が声をかける。大体7人ほどが集まり、曲の練習を始める。全員が半円形になる中、一人の女子生徒・・小宮真奈美・・だけが離れた場所に立つ。
「小宮さん、もう少しこっち側に来たら?そのほうが皆と合わせられるんじゃない?」
半円の端の方にいる生徒・・野田珠代・・が小宮が離れすぎなのを見て言う
「え・・・いいよ別にCDやんなきゃいけないし。でもありがとう野田さん」
小宮はいつもの様に無愛想に答えたが、小さい声で礼を言う。もっとも野田には聞こえてないが・・・
小宮には歌う時に癖がいくつかあり、全て小学校の時に身についたものだ。たとえば正面ではなく少し上の方を見ながら歌ったり、口と耳に手をあてて音の確認をしたり。いつも何気なくやっている動作が今回の事に繋がるとは全く思っていなかった。
歌い始め、いつものように小宮が手をあてて音を確認していると、
「まだそんなのやってるの?ださくね?」
江本が歌ている途中にもかかわらず言って来る。それを小宮は無視するが手をぐっと握り怒りを堪えるこの方法は尊敬している小学校の音楽の先生に教わったものでいつもこれで音をとる。江本もやっていたのにそんな事を言った為、危うく切れそうになるのを抑える。
(切れた時点で俺の負けなんだから、切れちゃいけない)
必死にそう思い、感情をコントロールする。こう言うときにだけ一人称が「俺」になる。しかし、江本は更に追い討ちをかけるように、
「いつも思うんだけど、おまえきもいよ。そう思うよね、ね」
そう言って、周りの生徒に尋ねる。周りの生徒はどうすれば良いか困って微かに小宮のほうを見るが、小宮の目は虚ろだった。
小宮の中では5年前の事と重なっていた。
4年生の時訳もわからずに虐められていた。その時キモイといわれ、ばい菌のように扱われた。
そして一人の友達だった子が、
「小宮ってきもいよね。皆そう思うよね、ね」
そう行っているのが聞こえ周りの子も、
「うんそう思う」
そう答える。
一瞬感情を抑えられず、そして意識が飛ぶ。ただ唯一はっきり覚えているのは、持っていた教科書を握り締め、振り上げた教科書をそいつに叩きつけたという事だけ
バシッ
その音で意識が戻る。自分でも何がなんだかわからずとりあえず目の前を見ると呆然と立ち尽くす、江本と自分の事をあ然としてみている同パートのメンバーがまだぼやけた視界の中に写った。
呆然と立ち尽くす江本を見た瞬間消えた怒りが再び込み上がる。
(去年、虐められた時近くにいながら薄笑いを浮かべ黙って傍観してた。助けようともしなかった・・・そのくせこいつは友達だよとかいってきやがった・・・)
再び教科書を振り上げようとした時、
「ちょっ・・小宮さん」
野田に声を掛けられ振り上げかけていた手を下ろす。教科書を見ると所々折れ曲がり皺になっている
急に幾筋もの涙が流れる。気づいた時には声を出さずに泣いていた。涙が止まらない。
誰も声を掛ける人はいない。ただ一人泣いていた。
別に声を掛けてくれる事を期待していたわけではない。このクラスで小宮の事を心配する人なんて
誰一人としていないのだから。
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