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一人きりで
作:ょっちゃん



燃える廃墟
嫌な臭いがする……


ガラガラと音を起て崩れてゆく様を一人の少女は見つめていた



手足は傷だらけで、にじんだ血が痛々しい。いつもならふわりと風になびく髪の毛も、汗と埃で顔にペッタリと張り付いたままだった。

紅蓮の炎

赤と言うよりもオレンジに黒を少し混ぜたように、どギツク明るい色をした炎が空高く舞っている
全てを被い尽す炎は圧倒的な存在感を放っていた


突如吹いてきた風に火柱は一層強く燃え上がる。


「っつ……」
頬の傷に、それは痛い。
拭った指に着いた血。それは目の前でゴウゴウと燃えたぎる火よりももっと赤く濃く、そして黒かった。
だけどその色はリアルに
「生」
を感じさせ





私は、生きている…


不意に肩に掛けられたジャケットの重さで、意識が戻る。
後ろを振り向くと、眼鏡を掛けた少年が微笑んでいた。傷だらけでボロボロなのに何故か大きく見えた。

真っ直ぐなその眼差しに、呼吸は少しづつ落ち着きを取り戻していった。


遠くでサイレンの音が聞こえる。






見つめあう事数秒。
先に動いたのは少年だった。
少女の頬に張り付いていた髪をそっと剥がす。
そして一言。



「泣けよ」



――――優しい口調 
ねぇ、どうして
どうしてこんなにも彼方は温かいの

工藤君……



彼の肩に寄りかかる。その瞬間、全身に温もりが伝わってきた。冷えきった心と体、全部をゆっくりと解きほぐしていく。
「……っぁ…」
上手く出ない声に苛立ちを覚える。吐き出したいモノが沢山あるのに。
悲しみも怒りも絶望感も、まだ黒だった時の自分も…

その全てを捨て去りたくて、声をあげ泣いた。
もしかしたら叫ぶに近かったかもしれない。



――彼の腕が彼女を包み込んでゆく

しっかり

しっかり、と

抱きしめる









『一人きりじゃ、堪えきれなかったの』

















気付けばあれから一週間。
時の流れはこんなにも速いものだっただろうか。
いつも通りの米花町、阿笠邸。
この家の主である阿笠博士は外出中の様だ。

ソファーに腰掛ける。隣にはコナン。子供二人には広すぎるリビングに時計のカチカチという音が煩い程響く。テーブルに置かれたコーヒーはとっくに冷めていた。

透明なビニール袋の中に、一粒のカプセル。赤と白の。それがコナンの手の中で握られていた。



「…話しはそれだけだから」

乾燥した唇の上下を少しづつ剥がし、やっとでた言葉。フッと息を吐いて目の前のカップに手を伸ばし、湯気の立たたなくなったコーヒーを口に運ぶ。飲み頃はとうに過ぎた。美味しくはない。
だが渇いた口内を潤すには丁度いい。ゴクリと音を起て体の中に落ちて行く黒い液体。
鼻から抜ける香り。
少し。少しだけ、気持ちが楽になった。



「………にしてもよ、解毒剤、結構早くできたな」


膝に肘をつき前のめりの体勢でビニール袋の中の
“解毒剤”を見つめながらポツリと呟いた。


「前に渡した試作品の時点で、八割方は出来上がってたのよ…。データが揃えば、そんなに時間はかからなかったわ」


ゆっくりとカップをテーブルに置く。カチっと硝子同士ぶつかり会う音がした。
その音に反応したコナンは一瞬視線を上げるが、直ぐに手元のカプセルへと戻す。

「へー…」



どちらも相手を見ない。
視界の隅に捕えるだけ。


「心配?」
「あん…?」

不意にかけられた言葉に反応し、コナンは丸まっていた背筋を伸ばしてこちらを向く。


「大丈夫よ。彼方が万が一、死んだなんて事になったら、
私もその薬飲んで後を追ってあげるから」


責任取るわよ、と口の端を少し上げて笑みを浮かべる。

「…縁起でもねぇ」

ハハハ、と乾いた笑いを響かせるコナン。
冗談だとわかっていても、ジワァっと掌が汗ばんでしまう。



「……」

窓に射しこむ夕日が穏やかで、頬が緩む。

「安心して。確実に元の姿に戻れるわ」
それに
――私だって死にたくはないし

そう小さく付け加えられた言葉。
えっ、と思わず彼女の方に顔向ける。
西日に照らされた横顔。
太陽の光を疎ましそうに目を細めていた。


「オメー…丸くなったな」

「あら?この年代の子達の平均体重より下よ」

若干、軽蔑交じりの目で見られたコナンは焦って弁解する。

「いや、そーじゃなくて!」



「…なんかさ、
……なんつーか、優しくなったな」
すごく真っ直ぐな瞳で。茶化す感じでもなく。
あまりにも自然過ぎてこっちが照れる。

「な、なによ…!?それ」

一気に血色の良くなった顔を見られたくなくて、髪の毛で隠した。
どうしてそう、サラっと言えてしまうのだろう。
不思議で仕方がない。
彼といると時々本気で調子が狂う。何故か交せないのだ。
だけど…、この空気は嫌いじゃない。

そっぽ向いて立ち上がりカップをキッチンに戻しに行く。
熱った顔をさりげなく手の甲で冷やした。
まだ感じる彼の視線が痛くて、顔を伏せたまま

「…そろそろ帰ったら?」

あぁ。返事が帰ってきた。



パタパタ、、
二つ分の足音が玄関へと向かう。速くも遅くもないスピードで。


『帰る』
彼は帰るのだ。自分の居るべき場所へ
元いた場所へ
私の知らない場所へ、と。
そんなのわかっていた事。




スリッパから履き替えた靴はお馴染のキック力増強シューズ。一年も経つと流石に色あせる。
小さくなった彼を助け続けてくれたこの靴も明日からは思い出の品。



「ねぇ…」

爪先をトントンと床に打ち付けてるコナンの背中に話しかけた。

「さっき…、言ってたじゃない。…なんでそう思ったの?」

 “優しくなったな”

らしくない質問だと自分でも思った。
呆れられるだろう、最後の最後だというのに……
それでも、彼の口から聞いておきたかったのだ。あの時遮らなければ良かったと後悔したくなかったから。


「なんでっ、て言われてもなぁ…」

頭を掻きながら億劫そうに振り向く。
困ったなという感じで。

嗚呼、やってしまった。コクりと喉が鳴る。心の奥底で期待していた自分。
恥ずかしくて、恥ずかしくて…逃げ出したい気持ちで一杯になった。
きっと彼は何の気なしに言った。唯それだけだ。

頭を掻いていた右手がゆっくりと顎に移動する。暫くウーン、と唸っていた彼の口がいきなり開いた。

「なんとなく!」


それは、あまりにも唐突な笑顔で。
は?
と思わず言いそうになってしまった程。
訳が解らない。
困惑気味の私に彼は、またニッと笑って見せた。

やはり理由なんてなかった。だけど聞いて良かった。彼の笑顔を見ることが出来たのだから。
それで良いじゃないか。

胸の奥がキュゥっと掴まれてる様で痛くてしょうがないけど…


   この人には、かなわない


「…んだよ?」

あまりにも長いこと彼が笑顔でいるものだから、それに吊られたのか噴き出してしまった。
だが漏れ出た息は重たかった。

「ふふっ。…別に」
ハァと息を着くと、目が合いまた沈黙に。優しい彼の顔は私の目尻を下げる。
‥生意気そうに笑ってた少年がトーンを落として言った。



「そうやって笑ってろよ」





またあの時と同じ目。
粉塵舞い散る組織の工場の前で、黒い呪縛を解いてくれた少年。前だけを見つめるこの(ひと)に何度、私は助けられただろう。


目だけ金縛りにでもあったかの様に、瞬きもせず見つめあう。
躊躇いがちに出した両手が彼の指に触れた。ビクッと反応する体を前に進める。右足。左足。
一歩づつ踏み出せばもう彼の息遣いを感じる事のできる距離。


――!


急に我に帰った。本当、触れるか触れないかのギリギリの所で立ち止まる。あと数センチ。
何故ここまで来て踏みとどまるのだろう。

あの時のように体重を前に掛ければ彼はきっと受けとめてくれる
でも…、それは私が求めているモノではないから
これ以上彼のなかに入ることは出来ない
そう絶対に



玄関のガラスが紅色に染まっている。
次期に太陽は隠れ代わりに闇を連れてくる。


無理な体勢で止まったためグラつく足。踏ん張らせて、なんとかバランスをとっている状態だった。左足の踵を浮かせ、重心をずらすと楽になった。
その継、後ろに移動しようとしたその瞬間。

有り得ない
先程までそう思っていた事が起こった。





背中に回された腕に引き寄せられ
私は彼に
抱きしめられていた



重なる体。心臓はドキン、ドキンと刺す様に脈打つ。首にかかる息は生暖かい。だらしなく垂れ下がった腕に力をいれるがどうしたらいいかわからなかった。



戸惑う少女をより強く抱きしめる少年。
“苦しい”
そう思うと同時に彼女も同じ様に抱きしめていた。


彼のコートをぎゅぅっと掴む。離れないように。





「く、どう…くん」


やっと出た声は小さく霞れていた。

彼の肩が上下に動く。それを追い掛ける様に動く彼女の肩。ちぐはぐだった呼吸が段々と合わさり。そして重なった。血管を流れる血液の音も、吐息もなにもかもが一緒。そのリズムが心地良くて頭がボーッとしてくる。



  このまま、彼方と…ずっと…



 堕ちていきたい。沈んでしまいたい。






目を瞑ると暗闇の中映し出されるのはコナンの事ばかり。偽りの姿で過ごした日々は全部、本物だった。その全てがキラキラと輝いていて切なさを増す。
温かくて。温かくて。
苦しい。

唇を強く結ぶのは溢れ出る記憶に蓋をするため。これ以上、流れる映像を視続けていたら全て忘れてしまいそうだったから。





パッと開いた眼前に飛込んで来たのは、醒める程の赤。まるで一週間前のあの日の様。
鼻の奥が痛い、目が熱い、そろそろ限界。

彼の背中に巻き付けていた腕を解く。耳が擦れ、髪が頬に触れ、繋がっているのはこの小さな手だけ。


彼の心音が私の体に響かなくなった。


息を着いた後、何か言いたそうなコナンの目を見てから繋がれた手に視線を落とした。
絡まる指をギュっと握る。
それと同時にコナンの口が開いた。


「灰原、…俺っ……」





「ありがとう」





彼女の細まる目の奥の瞳がどうなっているかは、正直よくわからなかった。
けれどもこの笑みは嘘偽りがあった出来ないだろう。
心の底からにじみ出てくる様なそんな笑顔だった。
この突然の感謝の言葉と笑顔に、驚き戸惑うコナン。言おうとしていた言葉はどこかに吹っ飛んでしまった。出てくるのは、喉の奥で潰された声と抑えた吐息だけ。
瞬きを数回して顔を伏せる。



繋がっていたはずの指と指はいつの間にか離れてしまっていた。





「……ぁ…、そん…じゃ…」

「…えぇ」






バタンっと音を起て閉まるドア。
玄関のすりガラスに映る彼の影は、立ち止まる事も振り返る事もなく薄くなっていった。


黙ったままの少女。背を向け歩き出す少年。
離れてしまった二人にもう一度はない。



代わりに入ってきた冷たい風。彼の残した温もりを確かめる様に両腕を抱きしめる。






流れた涙を拭わずに



彼方のいない道を進んで行く





『一人きりで』




初めましてっ
ょっちゃんと申します。
ここまで読んで下さったみな様!本当にありがとうございましたっ
感謝感謝でいっぱいです!!


もし17、18の少年少女が相手の体温(温もり)を知ったらどうなるか?
をテーマに今回『一人きりで』を書きました。


よく解らん!

読みにくい!

など思われた方も多いと思います。すみません。。
次回はもっと読みやすさを心がけます!


それではっ失礼します。













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