感謝の言葉
「……ヴァラル、貴方のその気持ちは」
「言いたいことは分かってる」
ある意味予想通り、けれど予想外の答えにリリスは困惑すると、ヴァラルは小さく頷き返す。
リリスは自身に関する事を把握している。だからこそ、彼女は戸惑っている。
誰かを助けたいというヴァラルの純粋なる想い。それがとてつもなく大きな問題を抱えていることに気がついているのだろう。
「セランに言われたよ。己のしたことに自罰的だって。それはそうだ、あれは俺の所為なんだから」
「違う。ヴァラルのせいじゃない」
「きっかけを作ったのは俺だ。過程はどうであれ、それは変わらない」
リリスが首を横に振るが、ヴァラルはさらに否定の言葉を重ねる。
「俺がここで持てはやされるのは違和感があった。それで良いのかって、何度思ったのか分からない」
「当たり前。皆知ってるから」
「……そうだろうと思ったよ」
彼らの善意が、ヴァラルを思い悩ませる。
「けれどあの時は……あの時は無我夢中だった。それは覚えている」
救いを求める少女の叫びによって、彼の心に何かがよぎった。
もやもやとした言いようのない不快感、このまま見過ごしてしまえば絶対に後悔する。
「自分のしたことで何かが取り戻せるわけじゃない……なら、少しでも誰かの助けになれたらと思ったんだ」
それが、彼の行動原理。
ヴァラルの意識から自然と生まれた、感情の発露。
「……こうやって真正面から言われると、すごく複雑ですごく嬉しい」
僅かな沈黙が二人の間で流れた後、リリスが素直な感想を述べる。
「世界を救ったって周りから言われてるけど、ヴァラルって結構普通の人なのね」
「……知って損した気分だろう」
「ううん。むしろ納得した」
彼女はそう言ってソファーから立ち上がり、学長室の机に触れる。
「私たちは貴方の行動の結果ばかり気にしていたけど実は違う。本当は貴方のその純粋な気持ちに目を向けるべきだってね」
大災厄で失われたのは大勢の命だけではない。今まで持っていたあらゆる常識、良心までも荒廃させた。
自身が生きるためなら大人も子供も関係なく傷つけ、命を奪うことさえも厭わない。かの時代が終焉を迎えたことにより、世界は混沌と化していた。
「俺のような考えは誰でも持ってる。リリスだって、親の事を大切に思っていただろう? 似たようなものだ」
「ううん、私は両親の事で精いっぱい。見ず知らずの他人に考えを巡らせる余裕なんてまるでなかった」
そう、そこが決定的に違う。彼のような考えを持つ者が、あの時どれだけいた事か。
「……だから、貴方がここの人達の言葉を重荷に感じているのなら、私はこう言うべきね」
ヴァラルに背を向け、彼女は言葉を切る。そして、何かを決心するようにして、彼女はヴァラルと向き直った。
「世界を救ってくれてありがとう、なんてもう言わない」
赤・黒・白地を使った光沢ある洗練されたデザインの、彼女専用にあつらえた学長服。
「私達家族を助けてくれてありがとう、ヴァラル」
それがひるがえり、リリスはヴァラルに穏やかな笑顔を浮かべた。
「――」
ヴァラルは言葉に詰まる。
彼女の気持ちはありふれたもの。ほんの一瞬すれ違っただけの見知らぬ他人から親切にされた時のような、ごく当たり前の感謝の気持ち。
しかし、それがなによりも彼の心に響く。彼女から言われることで、ああ、これで良かったのだと心の底から思わせる何かがあった。
ヴァラルの頬には、いつの間にか一筋の涙が零れ落ちていた。
「よっ、終わったか?」
「こんにちは、お二人とも」
「その様子だと問題は解決したようですね、主」
学長室の外に出ると、ヴァラルとリリスの前には顔なじみの三人が現れる。ガルムとアイシスが扉の正面に立ち、セランが横の壁に寄りかかり、声をかけてきた。
「……どうした、三人揃って」
「どうしたじゃねえ!」
「ぬぐっ!?」
ガルムが近づいてヴァラルの首根っこを抱え込むと、彼は苦悶の声を上げる。
「水くせえなぁ!俺に何の相談も無しによぉ!」
「ガルム、その辺にしてください」
ずんずんと勝手に進むガルムに引きずられているヴァラル。アイシスはガルムをなだめ、ヴァラルの傍にかけ寄っていった。
「……私を試したの?」
「試す? はて、貴方が何を言っているのか私にはよく分かりませんねえ」
その三人の後をメルディナ魔法学院の学長と理事長がついていく最中、とぼけた様子でセランは返事をする。
「何でガルムとアイシスがいるのよ。あの二人も呼び出すとか、勘弁してほしいんだけど」
「主が心配なのは貴方だけじゃありませんから。一応、ね」
とはいったものの、彼女の力量ならばヴァラルの説得は容易であると分かっていたセランはあえて口に出さなかった。
「ヴァラルの事もそうだけど、ここに来るときは一言断ってからにして」
「彼らは私の友人です。いちいち気にしなくても良いじゃないですか」
「貴方は気にしなくても、私は気にするの」
普段表に出ることがなくなり、裏でビフレストの運営に徹するようになったセランに言われても説得力に欠ける。
優美な装いの彼女が黒く地味な出で立ちのヴァラルの傍に寄り添い、軽装の青年が騒いでいる。隣にいるキザな格好の青年もそうだが、ここにいる彼らは相当な有名人。丁重な対応をしなければ、何を言われるかわかったものではない。
セランもその辺り、少しは自覚してほしいものだ。
「……とりあえず、これで良いかな」
宙に映し出されたパネルを操作し、両親に連絡を入れ終わったリリスは安堵の表情を浮かべた。
「ほう。主の苦悩を解決したことに浮かれることなく、もう手配を行いましたか。見事な手腕ですよ、リリス」
「褒められても嬉しくない。ヴァラルが良い」
セランの見下ろす視線を、リリスは素っ気なく受け流す。
ほら見ろ、やっぱり試していたではないか。この男はそうやって、試練という名の悪戯を仕掛けてくるため、油断も隙もあったものではない。
「何を言いますか、憧れである主と二人っきりになったのでしょう? これも私の計らいがあったからこそ。感謝位しても良いのでは?」
「……む」
そう言われると、確かに認めざるを得ない部分もある。
ヴァラルの旅に同行し、手助けをした三人。確固たる絆を持った彼らがいたからこそ、アルカディアという理想郷が誕生した。
セランはヴァラルの抱える悩みについて、最初からアイシスやガルムに相談することも出来たはず。それをしなかったということは、二人と同等の存在として扱ったことになる。
「そうね、その点は感謝するべきなのかもね」
リリスが素っ気なくも、ほんの僅かだけ感情を込めた声でセランの言い分を認めた。
すると、こうして素直に改める部分はまだ可愛げがあるものだと、セランは満足そうに頷く。
「でもね、一言だけ言わせて」
しかし、これで終わったかと思えばそうはいかなかった。
リリスは短く言葉を切り、
「だったらどうして、ヴァラルが起きた後すぐに呼んでくれなかったのよ。私、前から頼んでたはずなんですけど」
彼を睨みつけ、不満の声を漏らした。
単に忘れていた、思い出した時も面倒くさいと思ったからだとは勿論、彼女に言えない。
セランは誤魔化すようにして肩をすくめた。
夕暮れに染まるビフレスト。沈みゆく夕陽に照らされるヴァラル達は、メルディナ魔法学院を離れ、ビフレストのとある巨大な建物の中に入っていった。
「でかい……」
屋内にいるはずなのだが、外と変わらない開放感があり、広々としている。
幻想的できらびやかな雰囲気に気圧されたのか、呆気にとられた調子でヴァラルはぼやいた。
「そう? ビフレストの建物は全部、ローレン城よりも低く設計されているんだけど」
「それはそうなんだが……なんだかこう、落ち着かない」
いくつもの階層に分かれ、高級感漂う店が見渡す限り立ち並ぶ光景は、そうそう慣れるものではない。
「ま、ここは結構有名な場所なので、主の気持ちも分からなくはないですよ」
学術都市『メルディナ』と同じようにビフレストを構成する商業地区『バートラン』
ユグドラシルやウトガルドからの物品が一堂に集まるこの地区は、アルカディアの住人が毎日のように行き来し、活気溢れる地区として知られている。
そして、そんなバートランに大きく構える商業施設『テンプトル・モール』に、五人は足を運んでいた。
「有名なのはセラン達だろう?」
「それは気にしないように。私達だって、なりたくてなったわけじゃないので」
五人が歩き通すだけですれ違った通行人がこちらを必ず振り返ってくる。しかし、セランは素知らぬ顔のままで全く気にしていない様子だった。
「なあなあリリス、もしかしてこの後は期待しても良いのか?」
「一応ね。あんまりうちの料理人困らせないでよ?」
「よっしゃっ!」
「……で、だ。あいつは何をはしゃいでるんだ?」
ガルムの異様な喜び様を見て、ヴァラルはどういうわけなのかセランに訊ねる。
「ああ、お気に入りの料理店を貸し切ってもらったようです」
「……貸し、切った?」
「最近ガルムは味にうるさくなってきましてねえ。しかも大食いなので余計に大変なのですよ」
彼がビフレストでのんびり暮らし始めて、グルメになったのは困ったもの。ガルムを満腹にさせ、かつ満足させるとなると、きっとそれ相応の店が用意されている事だろう。
「待てよ。ガルムのこだわりはこの際どうでも良い、俺が言いたいのはその前だ」
「というと?」
「さっきあいつのために店を貸し切ったとか言っただろう……一体どういうことなんだ」
「ああ、確かそんなことも言った気が……あ~いや、どうでしょう。やはり聞き間違えたんじゃないですか?」
「セラン。後で驚かせたいからって、わざと誤魔化しているでしょう」
説明しているようで全く説明になっていないと思ったアイシスが口を挟んだ。
「良いじゃないですか。その方が主も楽しめるでしょうし」
先に進み、ヴァラル以上にあちこちの店に興味津々なガルムと、それをしっかり見張っているリリスの二人がセランの目に入った。
「貴方が主様の反応を楽しみたいだけでしょう?そこ、間違えないでください」
「アイシスは時折、融通が利かないところがありますね」
「主様に関することは別です」
そう言って、ヴァラルの左隣にいたアイシスはコホンと咳払いをした後、口を開いた。
「あのですね、主様。実はテンプトル・モールに出店している店は全て、リリスの御両親が関わっているんです」
「これ全部……?」
「はい、そうです」
あちこちの店を所構わず見渡し、間の抜けた表情で確認をとるヴァラルに、アイシスは穏やかな笑みを返す。
「……冗談だろ?」
「アイシスが冗談を言うなんて聞いたことがありません」
「まあひどい。私だって言います」
ビフレストで最も格調高いと評判のテンプトル・モールは『ヴァルズリンク』と呼ばれる組織が管理・運営を行っている。
「始めたときは小さな雑貨屋だったんだけどね」
「でも度胸あるぞ、あの二人は。アイシスと俺ん所に商売で交渉しに来たのは、あいつらが最初だったんだからな」
アルカディアの発展と共にその規模は徐々に拡大し、今では圧倒的な資本力を誇る大財閥、ヴァルズリンク。
その前身となり、今も尚主要事業の一つとして各地域に展開する『ヴァルズマート』
日用品から高級品まで、アルカディアの様々な品物を取り扱い、商売の手広さからビフレスト他、ユグドラシル・ウトガルドの住人からも高く支持されている。
目的地に到着したのか、前にいたリリスとガルムが立ち止まる。そして、ガルムは目を向けるよう、ヴァラルを促した。
「ようこそ、ヴァルズマートへ」
「お久しぶりです、ヴァラルさん」
バートランで最初に誕生した、歴史あるヴァルズマート第一号店。それが位置するテンプトル・モール中央広場に、夫婦と思われる男女の姿があった。
マントを肩にかけた気品ある装いをした二人が、ヴァラルに近づいてくる。
「こうして顔を合わせるのは初めてでしたな」
「あの時は本当にお世話になりました、ありがとうございます」
ヘスター・ハイデルリンクとエイミア・ハイデルリンク。リリスの両親が両手を差しだし、ヴァラルを出迎えた。
吹き抜けの中央広場では彼らを一目見ようと、各階層で大勢の人だかりが出来ている。
ヴァルズリンクの創業者にして総帥の二人がいる。さらにヴァラル以外の四人を見かけたことで、さらにどよめきは増していた。
「あ、ああ……」
万感の思いを込めて、ヘスターがヴァラルの手をしっかりと握りしめる。
固く握手を交わした黒髪の青年は、驚きを隠せなかった。
少女の面影を残したまま成長し、艶やかで大人っぽくなったリリスを見たときと同じ位、ヴァラルは衝撃を受けた。
渋く、紳士的な男らしい体格となったヘスター。エイミアは凛々しい佇まいに磨きがかかった妙齢の貴婦人に。当時は自分と同じような若者であった二人の思いもかけない成長ぶりに、面喰った様子のヴァラルだった。
「娘はあまり連絡を寄越さないものですから、報せを受けた時は大変驚いた。いやはや、本当に参った」
「椅子から転げ落ちそうになっていたものね。あれは可笑しかったわ」
「そんなことがあったの? お母様?」
「ええそうよ。皆びっくりしていたんだから」
「エイミア……それは言わない約束だったろう」
父親の意外な姿を見たリリスと、茶目っ気に振り返るエイミアの二人にヘスターは決まりが悪そうに表情を崩した。
「ほほう、それは是非とも見たかったものです」
「これはセランさん、それにお二人もようこそいらっしゃいました」
エイミアはヴァラルのすぐ傍にいるアイシスやガルム、セランへ丁寧に会釈をする。
「メルディナでの街の建設はどうです。彼らとは上手くやれていますか?」
「特に目立った問題はありませんよ、セラン殿。ユグドラシルとウトガルドを交えての合同事業、順調に進んでおりますとも」
「近いうちに是非お越しください。歓迎しますわ」
リリスと同様、セランに堂々とした口調で対応するヘスターとエイミア。ヴァルズリンクというとんでもない組織を率いる長達だけあって、ただ者ではないなと思い知ったヴァラルだった。
「街づくりか……どんな街になるんだ?」
「平たく言えば、アルカディアの住人なら誰でも自分の店を持つことが出来る街ね」
「俺の所やアイシスの所でちょくちょくビフレストで店を持ちたいってやつが出てきてな、それをセランに持ちかけたんだ」
「そうしたら、あっという間に街を造ろうということになりまして……私やガルムも、基本的な所でお手伝いをしたんですよ、主様」
ヴァラルの単純な疑問に、リリス・ガルム・アイシスが順に説明を行う。
「へえ、なんだかんだで、うまくやってるんだな」
「不思議なことに、三区画の交流事業は最近自然と出来た風潮なのですよ。今思うと、主の目覚めと何か関係があるのかもしれませんね」
「……それは偶然に決まってる」
己の関知していない出来事について、セランはこうして誰彼構わず冗談を言う癖がある。なまじビフレストの管理者という責任ある立場なだけあって、軽口をたたくのも程々にしてほしいものだ。
とぼけた調子でいる彼を、ヴァラルは素っ気なく受け流した。
しかし、このような彼らの他愛のないやり取りも当事者以外、何を言っているのか分からない。
ざわざわと周りは以前にも増して騒ぎだし、今にも雪崩を打って押し寄せようとする勢いだった。
「……そろそろ移動しましょう。静かで良い店がある」
「さ、案内します」
ヘスターとエイミアがサッと先頭に立ち、道案内を申し出る。
目指す場所はテンプトル・モール最上階にあるレストラン。舌の肥えたガルムを唸らせる有名店であることは言うまでも無い。
ヘスター達が歩き出したことにより、見物人たちの間で道が広がっていく。
「ちょ、ちょっと!いきなり動かないでっ!」
急に動き出したため、慌てる女の声がヴァラルに届く。
どこかで聞いたことのある声だ。そう思った途端、一人の少女がヴァラル達の前に押し出された。
「大丈夫かな?御嬢さん」
弾き出され、倒れ込んだ少女に、ヘスターが紳士的な立ち振る舞いで手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます……って、あれ? 理事長先生、それに学長先生……?」
ヘスターの手を取った少女は、メルディナ魔法学院ですれ違ったあのラシーヌだった。彼女は虚を突かれた表情で瞬きを繰り返した後、
「何でここにいるんですか!?」
気が動転したように変な声を上げた。
「何でと言われてもねえ……彼女はただ両親に会っているだけですし、私も理事長以外の他の立場があるのでね」
「ラシーヌ、貴方私を何だと思ってるのよ」
「あはは……そういえばそうでした……すいません」
普段馴染みの無いヘスターやエイミア、ガルムやアイシスといったアルカディアのメンバーを一度に目にしたせいなのか、彼女の頭は一瞬にして真っ白になったようだった。
ラシーヌはバツが悪そうにして照れ笑いを浮かべた。
「ラシーヌだって悪気があったわけじゃないんだ、そのぐらいにしておいてくれ、リリス」
こんな大衆の面前で叱りつけることもないだろうと、ヴァラルはそっと彼女をなだめる。
「ううっ、なんて優しいんでしょうフェイタスさんは……でも私のことは気にしないでください。いくら理事長先生お付きの人でも、学長先生に刃向かえばとんでもないことになります。だから――」
彼を責めないでください、彼はまだ貴方の恐ろしさを知らないんです。
よく聞いてみると微妙に褒めていなかったりする懇願をリリスにしようとしていたラシーヌだった。
しかし、
「良いわよ、ヴァラルがそう言うなら」
「へ……?」
ラシーヌから素っ頓狂な声が漏れた。
黒髪の青年の一言によってあまりにも呆気ない調子で、真祖の姫君の機嫌が直ってしまった。
「あ、あの~。学長先生、私の聞き間違いですか? 今彼のことを、ヴァラルさんって言いましたか?」
メルディナ魔法学院始まって以来の才女である彼女が、こんな簡単な言い間違いをするなどにわかに信じがたい。
しかもその名前は教科書にも載っている、あの名前ではないか。
ラシーヌは恐る恐る、リリスに訊ね返した。
「……セラン。確か貴方、私の所に来る前に彼女とすれ違ったはずよね?言わなかったの?」
「内緒にしてもつまらないので、誤魔化すことにしました」
「呆れた……きちんと言ってあげればよかったのに」
またもやこの男は余計なトラブルの種を蒔いていたのかと、がっくりとリリスは肩を落とした。
「どういうことなんですか? この人、理事長先生のお付きの人じゃないんですか?」
セランを追求するラシーヌに、今度は何といって誤魔化すのだろうと、ヴァラルは大きくため息を吐く。
「ああ、それは嘘です」
「いっ!?」
ヴァラルの顔が、ぎこちなくセランの方へ向いた。
「私の隣にいる彼こそ、千年もの間眠りについていたこの国の主、ヴァラル。その本人ですよ」
「え、えええええ!?」
ここでそれをばらすのか。
ヴァラルと同様、アイシスやガルム、リリスの家族が一斉にセランの方へ振り向いた。
セランが発した衝撃の言葉にラシーヌ他、様々な人々から驚きの声が上がる。そしてすぐさま、ヘスターとエイミアが周りを落ち着くようにと説得し、彼らが騒ぐ姿を悪魔はほくそ笑んで観察していた。
「彼は最初から、この場で公表するつもりだったのね」
「いくらここの管理者だからって、やりすぎよ」
「俺しーらね」
彼の行動にはついていけないと、アイシスやリリスが愚痴をこぼし、ガルムは目の前で起こっている騒動を他人事のように眺めている。
自身の顔が引きつるのを実感するヴァラルだった。