表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の時代  作者: 木村 洋平
魔法皇国ライレン編
72/79

古代魔法


「理由位、説明しても良いんじゃないか?」


“……どういうことだ?いきなり何なんだ、こいつらは”


周りを宮廷魔法士達に取り囲まれる中、ヴァラルは平静を装いながら思考する。


さっきまで呑気であった彼だったが、発する声はどこか固いものとなっていた。


「言ったはずだ。最近連続で発生しているライレン研究施設への破壊、機密資料の漏洩。その容疑者として、冒険者のお前が挙がったのだ」


「よ、容疑者じゃと?」


「ええ、リヴィア様」


リヴィアに対し、うやうやしく返事をする宮廷魔法士の男。


が、そんなにこやかな対応もヴァラルへ顔を向けた時にはすっかり失せ、彼への眼差しはとても冷たいものだった。


「そんな報告受けておらぬ!何を勝手にしておるのだお主らは!ヴァラルはわらわの護衛、こやつがそんなことをするはずが無かろう!」


「おや、リヴィア様はご存じなかったので?……手違いがあったようですね、申し訳ありません」


“リヴィアは事前に知らなかった?……こいつらの独断か?”


彼女の剣幕にも動じず、上辺だけ取り繕って敬意の欠片も無い宮廷魔法士に、ヴァラルは不信感を覚えた。


「だったら、この場で説明するのじゃ。わらわにも納得できるようにな。ふん、どうせできないであろう――」


リヴィアは強がるようにして挑戦的に食って掛かる。


ライレンという国を支える彼らの実力は確かなものだが、その反面、不当処罰や誤認逮捕等、黒い噂もまことしやかに囁かれている。


宮廷魔法士達も一枚岩ではなく、そんな彼らを統制する意味でもリヴィアにも高い実力が求められ、専横を許すわけにはいかなかった。


「わかりました、良いでしょう」


「……何じゃと?」


しかし、リヴィアの言葉を待っていたと言うように、宮廷魔法士の男は不敵な笑みを浮かべる。


「これをどうぞ、リヴィア様」


「なっ、こ、これはどういうことじゃ……」


「先日、撮影されたものです」


彼から渡された一枚の写真に映し出される紛れもないヴァラルの姿。


しかも、撮影されたと思われる場所は破壊された施設周辺だった。


「こ、こんなもの、偽物じゃ!偽物に決まっておる!」


「リヴィア様、その真偽を確かめるためにも、我々は彼に同行を願おうとしているのですよ」


「う、嘘じゃ。そのように言いながら、結局ヴァラルを――」


「皇女様。例え貴女は信じたとしても、果たして国の者達はどう思うことやら」


“成る程……嵌められたか”


はらりと彼女の手元から写真が落ちることで、ヴァラルは事の経緯を把握する。


抗弁したところでどうせ意味は無い。


彼らにとって真偽など関係無く、己を無力化するためにやってきたのだろう。


ただ、写真に写る自身と瓜二つの人物。


それがいったい誰なのだと、ヴァラルは気になっていた。


「まさか、姿を自由に変える魔法があるとでも?ははっ!人体組成を組み替える魔法など、あるわけがないでしょう?」


リヴィア様はまだまだ夢見るお年頃のようだと宮廷魔法士は鼻で笑う。


皇女に対して、またしても失礼な態度だった。


「の、のうヴァラル。お主からも何か言ったらどうじゃ?こんなこと、やっていないのじゃろう?」

しかし、リヴィアは咎めるどころではなかった。


ヴァラルの考えなど知る由もなく、宮廷魔法士から動かぬ証拠を見せつけられたため、かなり気が動転しているようだった。


「ほ、本当のことを言うのじゃ……そうすればわらわは――」


「リヴィア、俺は――」


「拘束しろ」


「っ!や、やめっ――」


遮るようにして宮廷魔法士から発せられる、慈悲の無い命令。


ヴァラルがリヴィアへ何かを言おうとする前に、周りを取り囲む宮廷魔法士から光弾が発射された。


学生たちが行う決闘とはわけが違う強力な魔法。


それがヴァラルの下へ襲い掛かる。


しかし、彼に当たることはなかった。


一発も。


「ちっ!」


リヴィアのすぐ傍にいた宮廷魔法士が舌打ちをしながら、即座に杖をヴァラルへ向ける。


ヴァラルは寸前の所で床に這いつくばるようにして大きく身を屈め、直ぐに入口の扉とは逆の方へ、勢いをつけて駆け出していった。


ガシャンと大きく割れるガラス窓。


荒れ狂う冷たい風と、大粒の雪が部屋に吹き込んでいく。


ヴァラルは猛吹雪であるにもかかわらず、部屋の外へと飛び出した。


「くそっ、身体強化はこれだから厄介だ……奴が逃げた、直ぐに追え」


レスレック城の外壁を器用に飛び越えながら移動するヴァラル。


その姿をしっかり目を凝らして確認した後、宮廷魔法士の男は迅速に指示を飛ばす。


この悪天候だ、遠くまで逃げられまい。


もしかすれば、どこかで凍え死ぬ可能性だってある。


宮廷魔法士達はこのように考えながら、破壊された窓をそのままにしてヴァラルの部屋を退出していった。


「……ヴァラル」


破壊された床に散乱している、見るも無残な昼食の残り。


彼が授業で使っていたミドルクラスとハイクラスの教科書類も吹き散らかされ、もう二度と使われないことを暗に示しているかのようだ。


「あ奴は何もしておらん……絶対に何も……うっ、な、泣いてはいけないのじゃ……泣いては……わらわは皇女なのじゃから……」


身も震えるほどの冷たい風を受けつつも、リヴィアはそれらを一つ一つ、地道に片づけていくのだった。



◆◆◆



「どういうことですかっ!!」


朝の大広間に響き渡るマチルダの怒声。


彼女の片手には『リーディングタイムズ』がくしゃくしゃになる位強く握られており、その一面にはヴァラルが容疑者だとする見出しが大々的に記載されている。


これまでにないほど、マチルダは激昂していた。


「昨日いきなりやってきたかと思えば……何故彼がライレンで指名手配されなければならないのです!」


だが、そんな彼女とは相反するように、宮廷魔法士の一人は気圧されることなく言葉を返した。


「彼に不審な点があったからだ、マチルダ。我々にはそれが許されていることをお忘れか?」


「それは非常時における緊急措置でしょう!個人に対して行われるべきものではありません!」


「我々に命を落とせと?例え一人とはいえ、全力を持って事に当たる。あの冒険者には当然の処置だ」


「ヴァラルがあなたたちに逆らわず、大人しく捕まっておけばよかったと。要はそう言いたいのですね?ここが魔法学院ということも忘れて」


曲がりなりにも生徒である彼を大勢の宮廷魔法士で取り囲む。


しかも昨日の騒ぎはリヴィアもその場にいたという。


百歩譲ったとしても、マチルダにはとても理解しがたい。


「逃げだしたヴァラルに是非とも言ってもらいたいものだな。後ろめたいことがあるからこその行動に決まっている」


鬱陶しそうにレスレックの学生達を宮廷魔法士が睨みつけると、慌てて彼らはそっぽを向く。


マチルダと宮廷魔法士とのやり取りは大広間にいた学生達の注目の的となっていた。


「ああ、それとだ……しばらくの間、生徒・教師たちはここへ留まってもらうからな」


「なっ!!」


前もって決まっていたかのように言ってのける宮廷魔法士に、今度はマチルダ以外の教職員や学生達から驚きの声が上がる。


「初耳です!いきなり何を言っているのですか!」


「事情聴取のためだ、共犯者がいる可能性も考えられる。それにこの吹雪だ。どちらにせよ、ここに留まることに他はない」


「他の生徒まで疑うと言うのですか!?あなたたちは!」


「犯罪摘発に協力を、マチルダ」


含みを持たせるように笑みを浮かべる宮廷魔法士。


彼らの職務には配慮というものがなかった。


「正式な手続きも踏まず、リヴィアやオーランドにも一言も無しに……これ以上の横暴は……」


あまりにも自分勝手な物言いに、マチルダは思わず杖を引き抜こうとする。


彼らには口で何を言っても無駄だ。


それならば、こちらもそれ相応の対応を――


「アムンテル」


「っ!」


懐に手をかけたところで思わず手が止まる。


この男は今、あの魔法薬の名を言った。


「大変由々しきことだ。まさか皇女様がおられるこの学び舎で、あの魔法薬を調合した者がいようとは」


「……脅すつもりですか?」


はぐらかしてはいるが、この男は知っている。


ヴァラルがアムンテルを調合出来ることを。


「そんなつもりはないぞ、マチルダ……ただ、この事実が生徒達に明るみになれば大変なことになるに違いないだろうなあ。もし、彼に使われていたらと」


「彼がそのような真似を……」


耄碌もうろくしたな、マチルダ。魔法薬の権威であるはずのあなたが、ここまで彼をかばうとは……それほどまでに気に入ったか?ここにいる学生たちでは飽き足りなかったか?」


そう言って、マチルダへ近づく宮廷魔法士。


「っッ――!!」


教師に対する最大の侮辱。


魔法の扱いに長けている宮廷魔法士を相手に、彼女は今度こそ杖を引き抜こうとした。


だが――


「協力、してくれるな?」


この一言で彼女が逆上することを読んでいたかのように、宮廷魔法士はごく自然に杖を取り出し、隙を縫う形で彼女の脇腹に押し当てる。


すれ違い様に起こった、ほんの僅かな瞬間。


「……分かりました」


「それで良い」


宮廷魔法士は一言彼女に呟いた後、振り向きもせずそのまま歩き出していく。


敗者には服従がお似合いだと。


“オーランド……こんな時にあなたがいれば……”


マチルダは一人、彼の不在を嘆くのだった。




◆◆◆



数日が経過し、ヴァラルが連日の研究所破壊に関与しているとの報道は、エルトース・レイステル・イシュテリア生の間でも大きな関心事となっていた。


突然の事態に困惑する者が全生徒の半数程。


残った半数の内のほとんどが、それ見た事かと彼を疑い出した者。


それでも彼はやっていないと信じる者がほんの少しだけ。


「本当に兄弟がやったと思うか?」


「やっていない、とはっきり言えたら良いんだが、こうもはっきり写ってると……」


レスレック城の中をつかつかと歩き回るクライヴとロベルタも彼を信じるつもりいたが、時間が経つにつれて、どうしても疑わしく思ってしまうのだった。


「そんなわけないだろ!」


「そうよ!ありえないわ!」


後ろの方ではさっきまで無言だったエリックとニーナがロベルタに意見する。


「ヴァラルには襲う理由が無い!」


「写真はでたらめよ!」


冬の冷え込む廊下で、まくし立てるように次々と出てくる白い吐息。


二人の仲はいまだに最悪だったが、ことヴァラルの話題になると、途端に波長が合うように彼を擁護するのであった。


「エリックとニーナの気持ちも分かるが、今となっちゃ意味が無い。当の本人がいないんだから」


「それに掲載されている以上、偽造写真じゃないことの裏返し」


宮廷魔法士と大手新聞社リーディングタイムズ。


彼らなら偽造なのかどうか、すぐにわかるはずだった。


「やり口が強引すぎる所は気に食わないと言うか、かなり怪しいけどな」


「じゃ、じゃあ。この人は本物のヴァラルなの?」


「……分からないから、こうやって悩んでるんだ」


写真自体は本物。


改ざんの余地はない。


ならば写り込んだこの人物は?


足を止め、クライヴとロベルタはミドルの後輩二人に向き直った。


「変身魔法を使ったと言いたいんだろ?」


「え、ええと~……うん」


真面目な雰囲気のクライヴに、エリックは躊躇いがちに頷く。


すると、ロベルタからきつい一言が待っていた。


「無理だ、そんなこと」


「身長や体重、骨格や声まで変化させる人体の完全な模倣だ。治癒魔法がかわいく思えるくらいだ」


人体に直接影響を及ぼす魔法は高等魔法として非常に難易度が高い。


治癒魔法しかり、身体強化の魔法しかり。


本来あるべき形を歪めようとすればするほど魔力の消費量は増大し、リスクが伴う。


しかも過去に変身魔法を行おうとした者は皆、体の一部が見るも無残なものに変わってしまったため、ライレンでは異例の禁止措置を取る程の危険な魔法であった。


「成功者は誰もいない。今の魔法技術じゃ到底無理だ」


二人はそのうち、嫌でも実感するだろう。


魔法を学べば学ぶほど、それ以上に出来ないことが山のように存在することを。


ハイクラスに進んだクライヴは、初めて魔法が使えた頃の高揚感をすっかり失っていたのだった。


「……大昔の魔法なら?」


しかし、思わぬところから声がかかった。


「……何だって?」


「今の魔法じゃなくて、昔の魔法を使えたらどうなの?」


「フィ、フィオナさん!?」


フィオナ・スノウがいつのまにか四人の傍に近寄っていた。


彼女の目つきはいつになく真剣で、怖いくらいだった。


「……古代魔法のことを言ってるのか?でも、それは眉唾物の――」


「出来るかどうかを聞いてるの。あるかどうかは関係ないよ」


「うっ……」


彼女もこんな顔もするのだとロベルタは思わず言葉に詰まった。


それでも、とても魅力的なことには変わりはない。


「……まあ、出来るんじゃないか?」


「クライヴ、確証もないのにそんな曖昧なことを言って彼女を困らせるな」


「けどなあ、否定しようがないじゃないか」


遥か昔に失われた禁断の魔法。


歴史の闇に消え去った、封印されし魔法。


存在の是非を問わないのであれば、為し得ることは可能だろう。


「分かった。ありがとう、クライヴ」


「礼には及ばない――って早っ!?」


「どうしたのかしら?フィオナさん」


その答えを聞いて満足したのかフィオナはさっさとこの場を離れていき、その姿を眺めながらニーナは不思議そうに呟いた。


「いきなり古代魔法のことを聞き出したりして、何かあったのかしら」


「……もしかして」


――犯人が古代魔法を使った。フィオナさんはそう思っているんじゃないのか?


「まさか。誰が使えるんだ、そんなありもしない魔法を」


「でも……」


誇大妄想にも程があると、ロベルタの指摘にしょんぼりと落ち込むエリックだった。


「いや……あながちエリックの言ってることは間違ってないかもしれないぞ」


「まだ言ってるのかクライヴ……」


「どうせ外には出られないんだ。調べてみる価値はあるんじゃないのか?ほら、あいつに聞いてみるとかさ」


「……分かったよ」


こうなった以上、付き合うしかない。


ロベルタは相棒のクライヴの提案に乗り、


「僕もやるよ!」


「私だって!」


エリックとニーナも同調するのだった。




◆◆◆




レスレック城の上層に位置する実践魔法学の実技教室。


決闘場より小さく作られてはいるが、中は視界を妨げるようにして無数の柱や壁が立ち並び、複雑に入り組んでいる。


「……誰じゃ、わらわを呼び出したのは」


真っ暗な教室に足を踏み入れるリヴィア。


手元には急いで走り書いたような、紙の切れ端が握られている。


――二人きりで会いたい


差出人不明の謎の文面。


彼女は指定された実技教室にいたのだった。


「遅いぞ」


「ヴァラル!?」


奥の方から聞こえてくる不躾ながらも、なじみのある落ち着きある声。


この城から抜け出したはずのヴァラルが顔をのぞかせるようにして、リヴィアの前に姿を現した。


「な、どうしてお主がここに……」


信じられない気持ちでリヴィアは彼の下に近寄っていく。


何故戻ってきたのだ。


この城には宮廷魔法士達が大勢いるというのに。


「……別れる前に、お前にまだ言って無かったことがあるからな」


「な、なんじゃ?お主の言いたいこととは?」


「俺はな――」


――お前の事が好きだ


「なっッ!?きゅ、急に言われても……その、困る。わらわにも心の準備が……」


あまりにも不釣合いな突然の告白にリヴィアは気が動転する。


以前断られたせいもあり、彼女の頭はパニックになりそうだった。


「……俺は捕まるかもしれないし、その時になってお前に迷惑はかけたくない。だから今、伝える必要があったんだ」


「え……」


「俺の事は忘れてくれ。冒険者と皇女、最初から立場も違うんだ。かばい立てる必要も無い」


だが、すぐにリヴィアの表情は暗くなる。


彼は最初から、別れを告げるためにここへ来たのだ。


悲しげに伝えるヴァラルに、リヴィアは彼の体を揺さぶった。


「ま、待つのじゃ!わらわの気持ちを捨て置いて、お主はそんなことを言うのか!?そんなの卑怯じゃ!」


彼と気持ちを通わせたはずなのに。


こんな形での離別などあまりにも非情だ。


視界は薄暗く、廊下の松明がやっとのことでこの場所まで届いている。


リヴィアの目じりに、だんだんと涙が溜まっていった。


そんなリヴィアを、ヴァラルは黙って見つめて、


「そんなに寂しいなら……最後に思い出をやるよ」


リヴィアを壁際に軽く押し倒した。


彼女を優しく、傷つけないように。


「あっ……」


リヴィアはそれだけで、彼がこれから何をするか理解した。


綺麗な紫の瞳に映り込むヴァラルの整った顔。


それがだんだんと近づき、彼の手がするりとリヴィアの制服の中に入り込み、ボタンを一つ一つはずしていく。


リヴィアの目が潤み、頬が赤く染まる。


こんな形で彼と結ばれてしまうのがとても悲しかったが、それでも嬉しかった。


ヴァラルとリヴィアの両手が絡み合う。


手から伝わる彼の氷のような冷たい手。


それをリヴィアの体温で暖める。


“こんな別れ方も……”


ヴァラルの顔がすぐ傍まで近寄る。


次の瞬間には彼との距離が零になるまでに。


照れくささから、彼女はぷいっと視線を下に落とす。


手を使われれば直ぐに向き直ってしまうが、せめてもの意地悪。


そうして繋ぎ合わされたヴァラルの左手が外れ、彼女の視界に入り込み、


“なっ……”


リヴィアの脳裏に、強烈な違和感が走った。


本能が叫び、警鐘を鳴らす。


違う、何かが違う。


「くっ!」


自身の勘を信じて、ドンッとヴァラルを思いきり突き飛ばし、距離を取るリヴィア。


「……何か悪いことをしたか?」


不躾で落ち着いた優しいヴァラル。


「……お主、何者じゃ」


リヴィアは警戒を露わにする。


「俺は俺だ。何を言ってるんだ、リヴィア」


物腰の柔らかいヴァラル。


「違うっ!お主はヴァラルではない!」


さっと、自身の違和感を証明するように彼女は左手を見せつける。


薬指にあるのは、細やかな装飾が入った銀の指輪。


アーティルで彼とお揃いだと喜んだあの指輪。


「無くしたとは言わせぬぞ?わらわの知る限り、お主はずっと身につけておった」


フォーサリア宮殿の地下で酷く振られた時でも、その指輪は左手で光り輝いていた。


宮廷魔法士が訪れる前の自身の手料理を口に入れている間も、ヴァラルの薬指にはめられていた。


ヴァラルはいつも肌身離さず身につけていた。


それなのに、目の前のヴァラルの左手には何も無かった。


「ヴァラルを騙る偽物!何者じゃっ!」


リヴィアが左手を素早く男に向け、ライトニングフォースを放つ。


バチバチと放電しながら襲い掛かる、身も焦がすような一撃。



「あ~あ」



それを男は後ろの壁に素早く身を隠す。


「失敗失敗」


途端に響くヴァラルのものではない声。


「本当に残念だ」


彼とは正反対の、どこか陽気な声。


「これで上手く行くと思ったけど、手順を間違えたかな??」


男は再び姿を出す。


「お主はっ!?」


「やあリヴィア、こんばんは。わざわざ来てくれてありがとう。いや、ここはヴァラルみたいに返事すれば良かったかな??」


夜も深まった実践魔法学の実技教室に青年は笑う。


だが、この薄暗い場所ではとても不気味であり、底知れぬ悪意が隠された道化のようだった。


ダニエル・クラッセン。


思慮深く気品に満ちたエルトースの監督生で、史上初である学生の宮廷魔法士。


また彼は、


――在籍者がたった一人の、『古代魔法研究会』のメンバーであった


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ