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黄金の時代  作者: 木村 洋平
魔法皇国ライレン編
61/79

アーガルタの来訪者


「……ここは」


「ようやく起きたか、このバカ娘」


「……母さん?」


白いタイルが敷き詰められたレスレックの医務室。


たくさんの白いベッドが並び、白いカーテンがそよ風にたなびく。


そんな午後の明るい陽射しの中、ベッドの上にカミラは横たわっており、隣には見知った人物が眺めるようにして座っていた。


カミラによく似た――ほんの少しだけ年を取ったショートカットの髪にさっぱりとした外見。けれど姉妹に見えてもおかしくないバイタリティ溢れた女性。


彼女はアイーダ・ハルネス。


治癒魔法士として活躍し、国内にいくつもの病院を持つカミラの母親である。


「どう?体調のほうは」


「……どうしてここに?」


家にいるよりも、病院にいる時間のほうが絶対に長い仕事の鬼がここにいる。


カミラは信じられなかった。


「どうしてって――そりゃあ、娘が倒れたって連絡が入れば心配するわよ」


「まいったね……てっきり父さんが来るかと思っていたよ」


「あら、そんなに信用なかった?私って」


「そこまでじゃないけど……ただ珍しいなって」


珍しいなんてものじゃない。


久しぶりに家に帰ってくるときも、親子らしい会話などしたことが無かった。


放任主義ここに極まれりといった家庭環境で育ったカミラにとって、こんなことは初めてだった。


「娘にここまで言われるようじゃあ、やっぱり親として駄目駄目ね、私」


「最初から期待なんてしていないから。安心して、母さん」


「……言うわね」


思えば、娘とこんな他愛のない会話をしたのはいつ以来だろうか。


よく思い出せない。


娘が倒れるという不測の事態で実現してしまったことに、アイーダも信じられない気持ちだった。


「あれ……そういえばさ、母さん」


「どうせ私なんて、仕事しか能が無いわよ……で、なにかしら」


「やけに来るのが早いね。もしかして、本当に心配かけた?」


窓の外では日が照っている。倒れたのは午前中の事であるから、知らせが届いた後、母はすぐに駆けつけてきてくれたのだと、カミラは思っていた。


「……まだ寝ぼけているみたいね。言ったでしょ?私はようやく起きたかって言ったの」


「それって……」


「一週間。ずっとあなたは眠っていたの。フィオナや冒険者の彼……いえ、それだけじゃない。皆心配していたわよ?そして、私もね」


「嘘……」


しかし、彼女の認識は間違いだった。


自分の服装を確認してみたらと、アイーダは目で訴える。


カミラの姿はいつものブラウスとスカートではなく、寝る前に着る清潔感あるパジャマだった。


「嘘って言ってほしかった?……私だって冗談だと思いたかったわよ。でも残念、本当の事よ」


カミラが倒れたのは、つい先ほどの事ではない。


一週間前の事だった。



「それで?あなたはこれからどうするつもり?いえ、どうしたいの?」


「……普段通りさ。授業を受けて、研究会で手伝いして……それから、それから――」


気を取り直すようにして、今まで送ってきた生活の風景が次々と流れていく。


朝起きて、支度をした後フィオナと朝食を食べる。


授業中、ヴァラルが教授をカチンとさせるようなことを言って、怒られているのを苦笑しながら眺め、

結局フォローする。


放課後は彼と共に、彼女の夢の手伝いをしに研究会へ。


一つ一つが尊く、大切な思い出だった。


「そう……ここでの生活はそんなに楽しかったのね」


「これからも私は続けるよ。だってさ、わたしはもう母さんや父さんみたいにはなれないんだ」


もう治癒魔法士にはなれない。


あの仕事は魔力を大量に使用する。


カミラは自嘲気味に呟いた。


「私はあなたに将来を強制した覚えはないんだけど……育て方、間違えたかしら?」


「それってどういう意味だい、母さん」


「言葉の通りよ。よくもまあこんなにまともに育ってくれたなって」


そう言って、アイーダは優しくカミラを抱き寄せる。


「……母さん」


おしゃれに無頓着なアイーダらしい、微かな消毒液の香り。


仕事にはとことんストイックながらもそれ以外はぐうたらな、紛れもない母のぬくもりだった。


「……でもね。大切な我が子だからこそ、言わなくちゃいけない」


けれど、ぬくもりはすぐに失われる。


アイーダの一言で。


――戻ってきなさい。あなたにはこれ以上、無理はさせられない


治癒魔法士として、家族として、愛娘に冷たい現実を突きつけた。




魔力欠乏症。


発症原因は不明。治療法もまだ確立されていない、魔法士特有の難病だ。


カミラがこの病にかかったのは、ハイクラスに進学した直後の事。


最初は、些細な変化だった。


毎年行われる健康診断にて彼女の魔力量が僅かに減少していたのだが、これはその日の体調による誤差の範囲。彼女が気に留めることはなかった。


しかし、これが事の始まりだった。


授業が終わるごとに動悸や息切れを起こし、しまいには魔法を行使するごとにめまいや吐き気に襲われるようになった。


そして、実家で精密検査を受けた結果、魔力欠乏症と診断されたのだった。



「ここまで酷くなるなんて思わなかったわよ……医者失格ね。もっと早く手を打つべきだった」


カルテを通し、娘に現在の状態をあらかた説明し終えるアイーダ。


魔力欠乏症は年数に比例して魔法士の魔力を減少させていくが、『プトレニン』という魔法薬によって症状を抑えることが出来る。


アイーダはプトレニンを定期的に支給していた。


一度たりとも欠かすことなく。


しかしカミラの魔力体質が問題になった。


彼女の体は、プトレニンの効果を知らない間に打ち消していたのだ。


「よりにもよって、あの薬に耐性がつくなんて……私達に対する当てつけね」


プトレニンの開発者は、皮肉にもカミラの両親だった。


娘を救おうという一心で作り上げたのに、それを自分が生んだ体に拒絶されるとは。


悔しさをにじませるようにしてアイーダは爪を噛みしめた。


「……」


「……ショックなのはわかるわ」


けれど、ここで負けては駄目だと励ますようにして、アイーダは今後の予定を話し始めた。


レスレックは休学。この場所を去るのは五日後。


彼女が眠っている間、諸々の手続きを済ませていたカミラの母だった。


「本当は今すぐにでも連れて帰りたいんだけどね……心の整理が必要だろうし、お友達との挨拶も済ませたいでしょう?それに、規定では自主退学になるんだけどアンリ教授がかけあって、休学扱いにしてくれるそうよ」


どっちにしろ、この場所にはもう戻ることはないだろうけどねと、花瓶の水を取り替えながら付け加えた。


「何か質問、ある?」


考え事が山のようにあるのか、ベッドの上で顔を背け、静かに物思いにふけっているカミラに対しアイーダが最後のまとめに入った。


「……研究会はどうするの?」


「当然辞めてもらうわよ。あなたは今それどころじゃないの……ったくあの婆さん、ちゃんと見ておいてくれって言ったのに、こきつかってくれちゃって」


「あの人ってそんなに強引だったんだ」


「そうよ、つんつんしてるだけだと思った?」


「いいや。薄々だけど心当たりはあったかな」


ヴァラルの一件からなんとなく想像がついていたカミラは、母の言葉に耳を傾ける。


「彼がいて助かったわ。優秀だし、何よりフィオナのお守りを任せられるし。これだけは婆さんを誉めなくちゃね」


「お守りって……いや、合ってるのか」


フィオナにはいらぬ苦労をかけられてきたが、どうにも怒る気になれなかった。


「ま、研究会の方は大丈夫でしょう。それよりもカミラ、あなたの本当の勝負はこれからよ?」


「分かっているよ、母さん」


母からショックな出来事を次々と突き付けられたにもかかわらず、いつもの落ち着いた表情で彼女は振り向いた。


――それはもう誰が見ても、冷静で知的なカミラ・ハルネスであると断言できるほどに


◆◆◆


「カミラ……」


「久しぶり、元気にしてた?」


「元気って、それはこっちの台詞だ」


アイーダが退出した医務室に、二人の訪問者がやってきた。


フィオナと、ヴァラルだった。


「ねえ、本当なの?学校やめるって……」


「退学じゃなくて休学だよ。ちょっと違うね」


「似たようなものだろう。こんな時に屁理屈こねるな」


「手厳しいね、ヴァラルは」


親友の休学という事実に困惑しながらも、何とかしようとするフィオナと、じっと何かを見定めるような目の青年に突っ込まれるカミラ。


今日の二人は、どちらもらしくない顔だった。


「今からでもどうにかならないの?休日家に帰って、戻ってくるみたいにさ」


彼女の容体についてアイーダから事前に聞いていたが、諦めきれないフィオナ。


レスレックに入学してから七年。元々彼女とは幼馴染であったため、ずっと一緒だった。


ハイクラスに進学した後も、未だ目に見えた成果は出ないものの、研究会を盛り立ててきた。


それなのに、こんなところで終わってしまうのは納得のいくものではなかった。


彼女の懸命な説得が何度も続く。


「あはは……さすがにストップがかかったみたいでさ、ごめん」


だが、カミラの言葉が無情にもそのすべてを否定する。


彼女が発病してから四年。特にプトレニンを受け付けなくなった最近の彼女の魔力量は加速度的に減少し、治癒魔法はおろか、魔法を発現させることも困難な状態となっていた。


「前々からわかってたんだ。無理だったんだよ、最初から」


「そんなこといわないでよ……」


夕暮れの医務室に、沈痛な空気が流れる。


親友の落ち着いた声がかえって、フィオナの気持ちを重くさせていた。


「でも、そうだよね。カミラにはカミラの事情があるもんね……」


「……ごめん」


一瞬、カミラの顔が歪む。


けれど、元の穏やかな顔にすぐに戻る。


「ふん、ならずっとそうしてろ」


だが、ヴァラルは見逃さなかった。


彼女の、今にも泣きだしそうな顔を。


「……そんな言い方、酷いじゃない。カミラ、病気なんだよ?」


「だからこそだ、フィオナ。こういう時に思ったことを吐き出せないようじゃ、いくら言っても無駄だ」


ヴァラルは逆境に立ち向かい、毅然とした意志で足掻こうとする者が好きだった。


どんなにみっともなくても良い。


泥臭くて笑われたって良い。


だが、カミラはどうだ。


フィオナの説得にはなんだかんだ理由をつけているが、結局彼女の心が最初から折れてしまっているため、聞く耳を持っていない。


しかも下手に理性的な分己の感情を制御し、本当の気持ちを無理やり覆い隠してしまっている。


そんな彼女など、全く興味が持てない。


彼はカミラをつまらなそうに眺め、この場を去って行った。


「……ごめんね。あれでも後輩君、カミラが倒れたとき、すぐここへ運んできてくれたんだ」


「……」


フィオナの優しい声が、医務室に響く。


――こういう時に思ったことを吐き出せないようじゃ、いくら言っても無駄だ


けれどヴァラルの放った一言によって、どこかぎこちなさが残るのだった。


◆◆◆


四日後、カミラがレスレックを去る前日。


レスレック城、下層の廊下では夕暮れに包まれていた。


太陽がゆっくりと沈む。


ガラス越しに映った影がそれに合わせ、ゆらゆらと陽炎のように踊る。


そんな己の影を何も思うことなく、カミラはただぼうっと眺めていた。


この四日間、振り返ってみれば不思議なもので、学生たちとの別れが不思議と辛くなかった。


ヴァラルに見放されたのが余程堪えたのか、もう何もかもどうでもよくなったカミラ。


何を言われても揺れず、他人事のように感じる。


彼女の心はすっかり麻痺していた。


――そんなときだった。


マントを羽織った一人の男がじっと眺めていることに気が付いたのは。


「誰?」


カミラは男に問いかける。


学院に在学している生徒の顔と名前を全て知っている彼女にとって、見覚えの無いものだった。


卒業生だろうか。


……それも変だ。


もしそうであるならば挨拶をするとか、何かしらの行動をするはずだ。


けれど、彼は一向に声をかけてこない。


ただ、何かを観察するようにして廊下に佇んだまま。


見たことの無い、不思議な雰囲気を持った男だった。


強いて言うのならば、ヴァラル。


顔も背格好も全然似ていないはずなのに、カミラは何故か彼の姿が思い浮かんだ。


すると、男はそんなカミラの姿にふっと笑い、肩にかかった髪を翻すようにして、廊下の角を曲がっていった。


ついて来いと、誘惑するかのように。


「……」


彼女はふらふらと誘われるように、歩き始めた。




男はひらりひらりと彼女の静止の声を聞かずに歩を進める。


カミラは必死に追いかける。


そして彼の影を追うようにして廊下を駆け、螺旋階段を下りた先には、


「開いてる……」


古い、とても古い、石の扉が彼女の前に道を示していた。


ふと我に返るようにしてカミラは辺りを見回す。


太陽の光が届かない、薄暗い空間。


ここはレスレックの立ち入り禁止区域に指定されている区画。


走っている間は無我夢中だったため、気が付つくことはなかった。


それでも、この場所は聞いたことがある。


レスレックには何かを守るようにして何年も閉ざされた扉があると。


その奥へ行けば、人知の及ばぬ大いなる叡智を手にすることが出来ると。


かつてレイステルの間で流行った噂話。


実際、何人かのレイステルの学生たちがここへ降り、何とかして開けようとしたらしい。


が、結局無理だったようで、その後オーランドから烈火のごとく叱られたそうだ。


にもかかわらず、そんな扉が何もしていないのに開いている。


「……」


本来ならば、ここで引き返すのが得策だ。


大いなる叡智など、誰かが作った与太話だ。


この先進んだところでそんなものがただで手に入る保証など、どこにもない。


そう、割り切ればよかった。


だがそれでも、


――最後、これが最後だからと


――心がすっかり疲れ果ててしまったはずなのに


何かに縋るようにして、彼女は扉をくぐったのだった。


◆◆◆


「……あふ」


「おや、ガルム。今頃起きたのですか」


「うっせえな……」


アーガルタにあるソファで読書しているセラン。


そこに、今起きたばかりなのか、ガルムが不機嫌そうに二階から下りてきた。


「今日この時間は下りてこないよう言ったはずなのですが」


「ん……ああ、そういえばそうだったな」


言われてみればそうだった気がする。


昨日の夜、セランがここに人を招くと言い出したことを、ガルムは思い出した。


カミラ・ハルネスがここを去るということを聞かされてからだったはずだ、セランがこの話を持ちかけてきたのは。


あの時のヴァラルは本当に驚いていた。


お前が彼女に興味を持つなんて、と。


「で、人を待っているはずのお前は、何のんきに本なんか読んでるんだよ」


「これですか?なかなか愉快な話ですよ」


才能豊かな主人公が挫折し、友の励ましによって新たな道を模索し始めたところで、最後の最後で再び挫折する物語。


セランは本の内容を簡単に解説した。


「……なんとも救いようのない話だな。しかもつい最近、どっかで聞いたような話だ」


「ガルム。この本の面白い所はですね、最後に挫折した主人公が何をしたか、全く書かれて無いんですよ」


「へえ、後のページが白紙になってら」


セランがページをめくると、最終章と題されているのに、それ以降の話が全く描かれていなかった。


「つかさ、これってもしかして……」


「はい、私が執筆しました」


「つまんねー」


呆れた顔をしたガルムは、すかさず酷評した。


「忌憚のない感想をどうも。けれど、このままつまらないままか、それとも面白くなるか……それは今後の展開次第ということです」


「……成る程、そういう訳」


セランの意図を理解したガルム。


要はこれからの彼女の行動次第で、物語の出来が変わるというわけだ。


ガルムは納得するようなそぶりを見せた後、


――出てきな。とっくにばれてるぜ、嬢ちゃん


うっすらと開いているアーガルタの扉を、ガルムは射抜くような眼光で凝視する。


途端に、扉から逃げるようにして気配が遠のいていった。


「……逃げたな」


「逃げましたね。どう考えてもあなたのせいですけど」


「知らん。俺は何もしてないぞ」


ただちょっと驚かせようと思っただけだ。


けれど、そんなガルムの言い訳にセランが耳を貸すはずもない。


そして、人が苦労してここまで誘い出したのにと、セランはぶつぶつ文句を言い、消えるようにして彼女を追いかけていった。


「……ま、頑張りな」


その光景を眺め、ガルムはぽつりと独り言をつぶやく。


セランの事だ、とことん意地悪をするに違いない。


それに屈することの無いよう密かにカミラを応援し、バリバリと頭をかいて二階の自室へと戻っていくのだった。


◆◆◆



「な、何だったの……あの二人」


覗き見をしていたことがばれ、またもや見慣れない男に一睨みされただけで、身の毛のよだつ思いをしたカミラは、さっきの入り口へ戻ろうと必死に駆けていく。


あそこには男が二人いた。


一人は自分を招いた男。マントを羽織った貴族のような上品な服を着た彼のことなど、見間違えようが

ない。


それともう一人。


戦いを専門とする、剣闘士のような薄手の服装の大男。


「オーランド校長は彼らを知っているの?それに、あそこは一体……」


大広間のような広い場所に本棚やテーブル、キッチンにソファ、二階に続く階段や暖炉。


その構造にどこか引っ掛かりを覚えるカミラ。


「そうだ、似ているんだ私たちの部屋に。でも、そうなるとあそこは……いやそれは無いっ!そんなこと……」


レスレックの寮は全部で三つ。


イシュテリア、エルトース、レイステル。


魔法史の教科書にもそう書かれているし、レスレックの常識だ。


なのに、あんな場所があるなんてどの文献にも載っていない。


……もしあり得るのなら


――レスレックには三人の他に、もう一人住んでいた?


そんな妄想ともつかない仮説を立てようとしたとき、


「……扉がっ!」


遠くに見える石の扉が音を立て、閉じていった。


「やれやれ、手間かけさせないでくださいよ」


「きゃああああ!!!」


セランが彼女の背後に現れ、逃げ出さないようがっしりと彼女の両肩をつかむ。


その突然の事態にカミラは甲高い悲鳴を上げた。


「ようこそ、にんげ――んん、カミラ・ハルネス」


「……だ、誰か」


セランは言い直したかと思うと、彼女の手を握り、礼儀正しく挨拶する。


一方、カミラはドクドクと心臓が激しく鳴り、魔法を使っていないにもかかわらず、病にかかったような悪寒が駆け巡る。


あの剣闘士の男もそうだったが、近くで見るとこの男の雰囲気もまるで違う。


それにあてられたのか、彼女の心をぐらぐらと揺らす。


「これぐらいで怖気づかないでくださいよ」


「あ、あああ……」


そうは言っても、無理なものは無理だ。


手から伝わり、肌を撫でる強大な彼の魔力。


魔力の乏しくなった彼女を恐怖させるには十分すぎるものだ。


体の震えが止まらないカミラの内には絶望の感情が渦巻き、思わずその場にへたりこんでしまうのだった。

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