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黄金の時代  作者: 木村 洋平
魔法皇国ライレン編
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決闘


(よくもまあそこまで言えるもんだな)


エアハルトとセブランの言う通り、家柄を含めここではかなり優秀な部類なのだろう。とりまきを大量に引き連れているし、言葉の端端から二人のプライドの高さが容易に伺える。


だがそれでも言って良いことと悪いことがある。今まで指摘できる人がいたのかいなかったのか、それらを強引にねじ伏せたのかは知らないが、最後の一言にヴァラルはむかついた。


「お前ら――」


「よくもまあ、そんなことを言えたものじゃな」


すると、ヴァラルが苦言を呈そうとしたとき、彼の横にいたリヴィアが自身の言葉を代弁するかのように言い出した。


……かなりむかむかとした様子で。


「おい、リヴィ――」


「何ゆえ彼らはおぬしらにそんなことを言われなくてはならぬのじゃ。感謝されることはまだしも、馬鹿にされる謂れはないわ」


「……」


ヴァラルは自分の言いたかった事を彼女に丸ごと言われたのかすっかり勢いが削がれ、エアハルトたちは何で彼女がこうも突っかかってくるのかよく分かっていないようで、戸惑いの表情が浮かび上がっていた。


「で、どうして彼女が怒っているんだい?」


「馬鹿ね、エリック……ヴァラルがリヴィアの護衛でここに来てること、彼らはまだ知らないはずでしょ?自分の護衛が貶されたんですもの、当然だわ」


「ああ、そっか。だからなのか」


「まあ、俺自身のことはそこまで気にしてないんだけどな。むしろ別のところで――」


「何よ、まだ何かあるのかしら?」


「……何でもない」


彼女は冒険者という役割から始まり、それがこの国においてもどれだけ重要な存在なのか一気にまくし立てる中、エリックとニーナ、ヴァラルはそんなやり取りを交わしながらリヴィアの徹底的な抗議を眺めていた。


それとは対照的に、エアハルトとセブラン側は最初は戸惑ったものの、皇女であるの彼女にも一歩も引かずに思うところを述べた。冒険者なんていなくてもライレンは魔法士だけでやっていける。何故そこまで彼らを擁護する必要があるのかどうか等、当事者というか、巻き込まれるべきであるはずのヴァラルを除いて、リヴィアとエアハルト・セブランの対立構造にいつの間にかなっていたのであった。


だが、母の代わりに政務を執り行うこともあるリヴィアは流石に弁が立つ。つい最近マリウスやデパンを相手にやりあったことから言葉の説得力が違う。世迷い事はばっさりと切り捨て、彼らの意見を逆手に取ったりする中自分の意見をさりげなく認めさせる等、徐々に有利になっていったのだった。


「……ぐっ」


「ほれ、我らは知識や技術を持ち合わせてはいても他国より人が少ないのは事実。まともに戦争となればこの国が疲弊することになるのは明白。一体どこに他国との関わりなくして存続できる国があるというのじゃ」


「だ、だが僕達は魔法士だ。その気になればいくらだって……」


焦りの色が見えるエアハルトをフォローするようにセブランは返す。しかし戸惑うようなその口調に先ほどの勢いは無かった。


「戦ってみなければ分からない、か。良いかのセブラン、魔法の力だけで全てが決まるとは大間違いじゃ。それだけで国の運営ができるほど、そう単純にはできておらん……ま、妾ならばお主ら二人がかかってこようとも全く問題ないがの?」


さっきのお返しといわんばかりにリヴィアは痛烈に二人を皮肉った。魔法の力だけではどうしようもないといっておきながら、自分は二人を相手にすることができると自信満々に。


このため――


「っ!言ったな!」


「それなら証明して貰おうじゃないか!」


エアハルトとセブランはリヴィアに『決闘』を申し込み、


「いいじゃろう」


彼女は不敵に笑い、それを呑んだ。



◆◆◆



レスレックでは『決闘』という一風変わった制度がある。


魔法士の卵である彼らでは意見の食い違いや話が平行線を辿ったとき、どちらの主張が正しいかこれで白黒はっきりつけようというもので、魔法攻撃による非殺傷での戦いのことを指す。


尤も、学生の間ではこれをスポーツとして捉える者が後を絶たず、しまいには決闘に勝つためにはどうすれば良いかを考える研究会までもが存在するなど、別の意味で人気となってしまった魔法競技である。


「で、だ。本当のところは?」


「うむ?お主が何を言っておるのか妾にはよく分からんぞ?」


レスレック城の外にある専用の屋外施設にて、簡単な魔法を試して指輪の動作確認準備をしているリヴィアにヴァラルは話しかけた。


「とぼけるな。あんなやっすい挑発をして……こうなることが分かってて言っただろう、お前」


「ああいった輩には一度痛い目にあったほうが今後のためじゃ。それにヴァラル、あのときお主が反論しようものなら、お主が決闘をする羽目になっていたかも知れぬぞ?妾の機転に感謝をしてほしいくらいじゃ」


『決闘』は殴打などの直接攻撃は禁止。


エアハルトとセブランのどちらかを相手にしたとしてもこのルールは冒険者生活を送ってきた彼にとってあまりにも不利。勢いあまって大怪我でもさせたらそれこそ大問題で、下手をすれば退学処分になるかもしれない(その場合は全力で擁護することは決めているが)そんな無駄かもしれないけれども万が一の事態を考え、彼女は先に手を打ったのだった。


「そのあたりは……まあ礼を言っておく。庇ってくれたことを含めてな」


「妾としては言葉だけではなくもっと具体的な態度で表してほしいものだがのう」


「何だよ、もったいぶって」


「例えばライレンに住むとか……」


「何でそうなる。そんなことできるか」


フォーサリア宮殿に滞在していたときもそうだが、事あるごとに彼女は自分を手元に置きたがろうとしていた。さっきはあれほど高説を垂れておきながらこの変わりよう。皇女と個人としての立場を使い分けているなと感心しつつ、何時ものことではあるが、彼女の誘いをヴァラルは断った。


「旅には休まる場所、拠点が必要じゃろう?いいではないか、この国に住んでも」


「そういう話はお断り。切り出すにしても、もっと時間を置いてからにしろ。まだここに来たばかりの奴に言っても意味無いぞ」


「むぅぅぅ!なかなかに強情な奴じゃ……けち!」


「はいはい」


こんなやり取りもここへきて何度繰り返してきただろう。リヴィアはヴァラルを恨みがましい目つきで見て、控え室を後にした。


(リヴィアには悪いが、俺にはもう帰る場所があるしな)


ただ、永住する気は全く無いのだが、ここへ訪れてからやるべきことが増えてしまったと彼は思っていた。


レスレック城にガタが来ているのだ。


さっきのぬかるみがそれを証明するように、長年きちんとしたメンテナンスを受けていなかったせいか、ヴァラルの目に付いたところだけでも結構なところでぼろが出始めている。


オーランドが在任中、ある程度の補強をしてくれていたという話は聞いていたため、城が崩壊するという最悪の事態は無いだろうが、根底の部分で対処がなされていない。そのうち部分的に崩れ落ちることで大きな被害が出る可能性がある。


(半年でここを出ることにはなっているが……)


日中は学生が大量にいるため、必然的に夜での作業となるだろう。ただ、ここで問題となってくるのはその作業量。


広大なレスレック城を深夜人知れずたったの一人で作業を行うとすると、結構な時間を要するかもしれない。下手をすればそれこそ年単位での作業となる可能性もある。



(……あいつらを呼ぶか?いやでも、こんなことで呼び出して本当にいいのか?相当忙しそうだったし。う~む、どうするべきか……)



彼は思案にふけ、契約更新をするかどうかを視野に入れつつ、とりあえず自分にできるだけのことはするかと決心するのだった。



◆◆◆



「どうだ?いけるか?」


「もちろんだ」


エアハルトとセブランは先に準備を済ませ、リヴィアよりも先に日差しの照りつけるフィールドに出て、彼女が現れるのをじっと待っていた。


元々『決闘』は一対一で行うものなのだが、今回はあろうことか二対一の変則試合。


魔法士同士の戦いは冒険者と大きく異なる。互いに近づく必要性がないため、ある一定の距離を保ちながら魔法を撃ち合うのだ。


そのとき重要となるのは攻守の切り替え。相手が魔法を繰り出してきたときは防護魔法の魔力障壁を展開しての防御や回避を行い、隙を見計らって反撃に出る。この繰り返しが一般的だ。


ただ、今回はそんなことを一々考えなくても良い。一人が攻撃に専念し、もう一人が防御に専念すれば良いのだから。


エアハルトとセブランの二人はレスレックの入学時点において上位五番に食い込んでいる。そのため、理論・実技ともに同学年では一歩抜きん出ており、入学試験中には試験監督たちに大層驚かれた。


そんな自分たちの決闘を受けるとは油断するにも程があり、いくら彼女でもどうにもならないだろうと二人は分析していた。


と、そんな中リヴィアが正面に見える扉から現れ、そのまま定位置についた。たださっきの自信満々な表情ではなく、随分と機嫌が悪そうだった。


「ずいぶんとご機嫌斜めみたいだな」


「何かあったのか?」


「気にすることはない。それより……」


――そんなにぼうっとしてて良いのかのう?


その声が二人の耳に届いたとき、リヴィアは駆け出していき、


『決闘』が始まった。





「ひょえ~流石リヴィア!やっぱり凄い!」


「あんな数の魔力弾(マジック・バレット)を片手で防ぐだなんて、ぜっったいに私には無理!本当に何なのかしら?彼女」


「いや、それだけじゃないよ。僕は彼女がまだ手加減してると見るね」


「どうしてよ?」


「……ほらっ!やっぱり!」


「わっ!まさかあれって……」


リヴィアとエアハルトたちの攻防はミドルクラスの新入生が行うようなものでは決して無く、ド派手な試合展開だった。


エアハルトが無数の魔力弾を打ち出し、リヴィアは右手に展開させた魔力障壁で防ぎ、すかさず左手で彼女の得意とする電撃の波動ライトニング・フォースを放つ。その姿はエアハルトを「馬鹿なッ!?」と言わしめ、とっさに前に躍り出て何とか防ぎきったセブラン、そして観客席にいる学生たちに衝撃を与えた。


二重詠唱(ダブル・スペル)だよ!」


複数の魔法をほぼ同時といっても良いほどの速度で唱え、行使するこの魔法は一流の魔法士にこの魔法ありと言われるほど汎用性が高く、そして強力なものである。


「……彼女に教えてもらおうかしら?」


「あ~ニーナ。たぶん無理」


だが、習得難度も恐ろしく高く、ハイクラスの学生たちの卒業課題として出されたこともあるという、ミドルに成りたての自分たちではとても扱うことができない魔法であることをニーナにそれとなく言った。


「……分かってるわよ!冗談に決まってるでしょう!?」


「結構本気っぽかったんだけども……って、ちょっとまずい!」


だが、エアハルトとセブランも負けてはいなかった。共に死角を作らないよう互いに攻守を細かく切り替え、リヴィアをかく乱し続ける。リヴィアはセブランの防御、エアハルトの攻撃を打ち崩せずにいるようだ。そして――


二人は息を合わせたかのようにありったけの魔力弾を展開させ、一斉にリヴィアに打ち込んだ。





「……どうだ」


「気をつけろ、ハルト。彼女のことだ、まだ何かしてくるかもしれないぞ」


もうもうと煙が立ち込める中セブランはエアハルトに注意を促す。


まさか多重詠唱を習得しているとは思ってもみなかった。父親がこの魔法を見せてくれなければ、今頃エアハルトはやられていて、そのまま自身も押し切られていただろう。


電撃の波動ライトニング・フォースだってそうだ。


リヴィアは難なく使っていたが、あれだって雷系統の魔法の中でも高位に属するものだ。


片手、しかも非殺傷設定されていてあの威力。


威力調整されず、両手でのリヴィアの本気の一撃は冒険者だけでなく、魔法士も太刀打ちできるかどうか。


「けれど、この勝負はもらった……」


あくまでもこれは試合。非殺傷という縛りがこちらに有利に働いた。セブランはフッと息を吐いた。


しかしその言葉がまずかった。


最後の最後でセブランもまた彼女のことを見誤る。


しばらくたっても何も反応がないため、彼がほんの少し本音を漏らした瞬間、


――甘いわ


煙がいきなり掻き消え、


リヴィアが目にも留まらぬ速さで二人に近づき、ほぼゼロ距離からの電撃の波動ライトニング・フォースを撃ち放ったのだった。



◆◆◆



「……エリック!エリック!何なのよ!あれっ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ!僕にだって何がなんだか……」


二人がどさりと倒れ、辺りに広がるのは静寂の後のざわめき。そのなかでニーナはエリックをがくがくと揺らし、戸惑うようにしてさっきの出来事を思い出そうとしていた。


魔法士があんな動きをするなんてエリックは聞いたこともなかった。いや、見たことも聞いたこともあるにはあるが、それはあの……


魔法付与(エンチャント)の類だな、あれは」


「「え?」」


するとそのとき、ヴァラルが二人の元にひょっこりと現れた。


「あの魔法は元々、武器に付与するものなんだけどな。……リヴィアめ、よくやる」


「ちょ、それってどういう……」


「落ち着け、ちゃんと説明する。要はだな――」


ヴァラルによると、彼女は自身の体に魔法付与(エンチャント)し、それで身体機能を大幅に向上させ、その余剰分の魔力で電撃を放ったのだと己の見解を述べる。


これによる主だった利点は身体強化の効果を擬似的に得られること、魔力を無駄なく運用することができることを挙げた。


「凄いじゃないの!それ!身体強化と同じじゃない!」


「けど、身体強化よりも危険だぞ?自分の体に完成した魔法を付与するんだ、暴発すれば大変なことになる。お勧めはしないな」


外から付与するのが魔法付与(エンチャント)、内から付与するのが身体強化。おおまかにいえばこんな感じだと彼は補足するのだった。


「そ、そう……」


「でもよく知ってるね。そんなこと」


「そこは気にするところじゃない、エリック」


そんなことを言っているうちに、エアハルトとセブランがう~んとうなり声を上げ、彼らの取り巻きたちがせっせと二人を担ぎ上げ、この場を後にする。あの様子だと数時間は痺れが取れないだろうが、翌日には治っているだろう。


一方リヴィアはというと、ヴァラルのところへと近づき、


――どうじゃ?妾の力はお主に引けをとらぬぞ?


唇に指を当て、悪戯っぽく呟くのだった。

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