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黄金の時代  作者: 木村 洋平
トレマルク王国編
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敗者の意地

コーレリクスとの話は思いのほか盛り上がった。


この地の世界情勢について彼の主張を交えてそれとなく聞くことが出来た。マリウスとデパンの知られざる一面も分かった。そして何よりも、意外な形ではあったがトレマルクの国王であるコーレリクスの人となりを知ることが出来たため、ヴァラルにとっては中々の成果であった。


彼によると現在のトレマルクを含めた各国では魔物の対処に四苦八苦しており、互いに同盟を組んで事にあたっているのだという。たまに魔物の討伐事案でライレンやバルヘリオンと諍いが起こることもあるが、それでも表面上は事なきを得ているという。


(成る程、魔物という脅威が図らずも彼らの結束を固めているのか……皮肉なものだな)


ヴァラルはコーレリクスの話を聞いてそう思いを巡らせたのだった。



そして二人の話が一段楽したところで国王の部屋の扉がノックされる。


「失礼します!!例の準備が整いましたので、至急お越しくださいとのことです!!」


「ご苦労、下がってよろしい」


「はっ!!」


「……ああ、もうこんな時間だったのか」


コーレリクスと騎士との簡単なやりとりを聞いてヴァラルは窓の外を眺める。


外はすっかり日が沈み、インペルンではたくさんの明かりが灯っている。どうやら本格的な夜が到来したようだ。


「ヴァラル、この後の予定は何かあるのかな?」


「そうだな……とりあえず街に帰って宿でも探すつもりだ」


ここでの用事はひとまず済んだ、後は今晩寝るところの確保である。だが、今から探しに行って見つかるだろうか、多少の懸念が彼の中をよぎった。


「それだったら丁度良い。先程の二人の健闘を祝して、これから夕食会を行うのだ。是非ともお主に参加してもらいたい。それと今日はここへ泊まるといい、元々そのつもりでマリウスはおぬしを呼んだのだろう。何、遠慮することは無い」


どうもヴァラルとガナードの戦いは余程コーレリクスの心を打ったようで、急遽宴の席を設けたことからも、彼の熱心ぶりが窺い知れたのだった。


「まあ、良いだろう」


食事の場所と寝床をあっさりと確保できたヴァラルは特に異論は無く、その提案に乗るのだった。


◆◆◆


どよどよとざわめきの声があたりから聞こえてくる。


会場にコーレリクスと到着した際、ヴァラルは周囲の視線を独り占めすることになった。いきなり姿をくらましたかと思えば国王とのお出まし。流石の急展開にデパンとマリウスは驚きを隠せずにいたようで、その見慣れない驚きの顔にヴァラルはしてやったりという気持ちになった。


けれど、その後は状況が一変。あの試合を見ていた貴族達の面々から散々質問攻めにあったのだが双子は我関せずと高みの見物。まるで手助けをしようともしない二人にヴァラルは辟易としながら、彼らをあしらい続けるのだった。


「……ふう」


そして現在、コーレリクスの手助けにより彼はひとまず落ち着くことが出来た。折角の主賓だというのに彼の気をそぐような真似は慎めとの一声により、普段の晩餐会の様相を呈するようになったのだ。


あいつらとは違ってなかなか出来た国王だとワイングラスは片手に会場をうろついていると、ふと見知った顔が見えた。


ソイルとグレインである。


「よう、二人とも」


「おっとと……貴方ですか」


「噂をすれば何とやら、か」


ヴァラルが声を掛けると、ソイルはグラスを取りこぼしそうになり、グレインは彼の到来を予期するかのように呟いた。


「何だよ、お前らもか」


「いやいや、今の貴方がそれを言いますか?」


ソイルもどうやらギャラリーの中に混じっていたらしく、グレインと同様ヴァラルの実力をその目で確認してしまったようで、そんな噂の張本人であるヴァラルの無頓着ぶりにあっけにとられていたのだった。


「そうだぞ、おかげでこっちも大変だったんだ」


グレインはため息をつき、愚痴をこぼした。なんでも以前ヴァラルと知り合いだったということが周囲に知れ渡り、さっきのヴァラルのように色々と大変な目に遭っていたようだった。


「それは不幸だったな。けど、俺が普段どんな目に遭っているかというのを知ることが出来たんだ。中々貴重な体験だったろう?」


「……多少の苦労は理解できましたけど、冒険者をやっていた私にとって瑣末なことです。むしろ、貴方こそもう少ししっかりしないと……ああ、それとグレインから聞きましたよ。彼女の件、本当にありがとうございました。最後まで気がかりなことだったので」


「俺も気にはなっていたからな、礼を言われるほどのことじゃない」


「そうですか……いやはや、貴方には最後まで世話になりっぱなしですね……ところで一つお聞きしたいのですが、どんなやり方であの状態のセレシアさんを宥めたんですか?ちょっと想像がつかないのですよ、私は」


「おおっ!確かにそれは聞きたい。一体何があったんだ?」


「それは……まあ、色々あったんだ。色々とな」


ソイルとグレインは問いただす。彼の言うことだ、セレシアが元に戻ったのはきっと本当のことなのだろう。だが、どうやって?ヴァラルのしたことに二人は興味津々だったが、当の本人ははぐらかした。


あんな出来事を逐一語れば何を言われるかわかったものではないし、彼女のイメージを出来るだけ壊さないようヴァラルは一人頑張っていたのだった。


「そうですか……確かに少々不躾でしたね。この話は聞かなかったことにしてください、ヴァラル」


「まあ、言いたくないのならそれでもいいか」


そして、二人もまた一波乱があったことを彼の態度から察し、素直に話を引っ込めた。こういった素直な態度は悪くない、その場を立ち去り彼はそう思った。


◆◆◆


「あんたがヴァラルだな?」


宴もたけなわに盛り上がり、酒が会場の全員に回り始めた頃、マリウスやデパン、ガナードと話をしていたヴァラルの下へ一人の貴族の男が近づいてきた。コーレリクスから執拗な接触を控えるよう忠告されていたはずなのだが、そんなことはお構いなしのようだった。


「ん?ああ、そうだが。ところであんたは誰だ?」


「……」


しかし、貴族の男はヴァラルの事をじろじろ見るばかりで、彼の言葉を無視していたのだった。


「タルセン、人にものを尋ねるときは自分から挨拶するのが礼儀だよ」


「デパン、公爵である僕に何を言っているんだい?少しは立場を弁えるんだな」


「それは父君の話だろう?君はまだ正式に家督を継いでいない、それを鑑みても彼に失礼じゃないのか?」


「ふん、マリウスか。国王陛下から気に入られたからといっていい気になるなよ。お前だってまだ国王になったわけじゃないんだからな……」


タルセンと呼ばれる貴族の男はまるで親の敵を見るかのように言い放つ。どうやら双子との間で何か因縁があるようだ。


「タルセン殿、言葉が過ぎますぞ。仮にもエールバス家の次期頭首、そのような態度では誰もついては来ませぬぞ」


「……それを奪ったのはこいつらだ。それにガナード、あんなに無様に負けておいて何言ってるんだい?」


その瞬間、辺りの空気が張り詰めた。あまりの物言いに腹を立てたのか、主にガナードの部下である騎士達から発せられ、まさに一触即発の状態であった。


「……なんだよ。文句があるのならでて来いよ!!」


自信満々に周りに告げる貴族の男。身なりはしっかりしているが、どうも口が悪い。彼とはあまり関わりたくないものだとヴァラルは静かにその光景を眺めていた。


「その辺にしたらどうだ、タルセン」


「へ、陛下……」


すると騒ぎを聞きつけたのか、コーレリクスがその場へ現れる。やはり一国の王だけあって威厳に満ちたその声でタルセンを宥め、不穏な雰囲気を一瞬にしてかき消したのだった。


「折角客人がいる中でわざわざ争いをけしかけることも無かろうに。少しは慎みも覚えることも必要だぞ?」


「は……申し訳ありません……ですぎた真似を……」


「……余ではなくガナードに言うのだ、タルセン。かのものは騎士として立派に戦った。それを辱めるということはこの国を侮辱するのと同じことになるのだぞ?」


「は、は……」


タルセンは苦虫を噛み潰したかのようにガナードに謝罪、その後は、この場を直ぐに立ち去っていったのだった。


◆◆◆


「不愉快な思いをさせてしまったようだな、ヴァラル」


「コーレリクスか。いや、俺は気にしてないから別にいいんだが……いきなり何だったんだ?やたらマリウスとデパンに絡んでいたようだが、何かあったのか?」


「ああ、それはね……」


マリウスやデパンの仲は周知の事実だ。けれど、それを快く思わない者達もこの国には当然いる。


このトレマルクも一枚岩ではない、彼らの国民に対する人気ぶりに嫉妬し、反発する者がいた。その筆頭が彼、タルセン・エールバスだ。


彼は塩や香辛料を独占的に販売する権利を有していたエールバス家の嫡男であり、トレマルク王国ではかつてエールバス公爵家が台頭していたのだった。


その力の源は利権による財政的な余裕、公爵家という血筋。その二つによって大きな派閥を築いていたため、当時、コーレリクスの後を継ぐのは分家の頭目であるタルセンだと周囲から言われていた。


けれど、彼が生まれた一年後、国王にマリウスとデパンの双子が誕生したことにより、彼はその歯車を大いに狂わされた。


最初の頃は余裕があった。何せ貴族の大多数が味方についていたし、タルセン自身は政治に関する能力があまり無かったのだが、周りの者たちがそれをサポートしていたため、事なきを得ていた。


だが、双子は成長するにしたがってめきめきと頭角を現すと共に徐々に人は減っていった。当然だろう、一つ理解したことを五にも十にも発展させる二人の前に、大人たちは皆賞賛の拍手を次々と送ったのだから。そして、その才覚は他者を引き込み、いつの間にか彼の周りには誰もいなくなっていた。


そのため、今では見る影も無くしたエールバス家は双子に対し、並々ならぬ憎しみを抱いていたのだ


「父親のカンバルトは、僕が次期国王に指名されるとショックを受けて病床に伏せったまま。母親はそんな夫を見かねて失踪。気の毒といえばそうなんだろうけどね……」


「……あいつも随分と大変なんだな」


「けれど、どうもここ最近何かを企んでいるような気がするんだ……ヴァラル、君も気をつけるんだよ?」


「おいおい、何でそこに俺も含まれるんだよ」


話を聞く限り、タルセンはデパンとマリウスの二人に恨みを持っているはずだ。なので自分は全く無関係である、デパンの突然の忠告にヴァラルは反論した。


「何を言ってるんだ。彼が最初に声を掛けてきたのは私達ではなく君だよ、ヴァラル。彼には色々と黒い噂があるからね。十分気をつけることに越したことは無いだろう?」


タルセンはどうやら影で色々な悪事に手を染めているようだった。それも双子のような悪戯の類ではなく、その手の裏の輩と手を組んでいるようで、一筋縄ではいかない相手であることをヴァラルに伝えるのだった。


「忠告は受け取っておく。だがな、デパン。あいつと俺は今日が初対面だ、それに俺は恨みを買った覚えは無い。今のところは心配無用だ」


「そうだといいけどね……」


最後まで疑問に満ちた声でデパンは考え込むのであった。


◆◆◆


「で、あんたは一体誰だ?」


「……」


晩餐会が終わり、マリウスとデパンに案内された客室でヴァラルはくつろいでいると、突然扉が叩かれた。


そして現在。顔を布で覆い隠した見るからに怪しい風体の男がヴァラルの目の前に立っていたのだった。


すると、その男が一通の手紙を渡してくる。


裏をひっくり返し、差出人の名は何も書かれていなかったが、誰が送ったかは火を見るよりも明らかであり、


(……)


ヴァラルは目の前の男と同様、何も言えなかったのであった。


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