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黄金の時代  作者: 木村 洋平
アルカディア編
4/79

ウトガルド


アルカディアを構成する三つの区画のうちの一つ、ウトガルド。

緑豊かな自然が集まるユグドラシルとは異なり荒涼とした大地が広がるこの場所は、かのメクビリス山脈が存在する区域である。

メクビリス山脈。寒暖の差が激しい気候、吹きつける強風。断崖絶壁の巨峰が連なるこの険しい山岳地帯は、アルカディアを物理的に守護する天然の要塞である。

そのためなのか、過酷な環境の中でもウトガルドに住む者は強靭な生命力を宿している種族が多く、彼らは自由気ままな生活を営んでいるのだった。

 

 

 

さすがにいないなと、メクビリス山脈のとある麓へと到着したヴァラルは辺りを見回して一安心した。

アイシスのように早く来られてはたまったものではない。万が一の事態に備えヴァラルはかなり前からこの場所へ訪れていたのだが、心配は無用のようだった。

 乾燥した風が頬を突き刺す中、ウトガルドの管理者であるガルムを待つ。だが、約束の時間をとっくに過ぎても一向に現れる気配すら見せない彼に、ヴァラルは段々と嫌な予感がし始めた。

 「……待てよ、確かあいつは」

 時間にかなり疎い所がある。

 言い換えればぐうたらで、怠け者。

 ガルムのルーズな性格をすっかり忘れていたヴァラルは、どうしたものかと荒野の大地で頭を悩ませていた。

 「おぉぉ~いっ!」

 と、そんな彼の下へ声がかかった。粗暴ながらも堂々とした若者の掛け声。紛れもないガルムのものだ。

 辺りを見渡すが誰もいない。しかし間延びした声はいつまでも続いているため、ヴァラルはまさかという思いで空を見上げた。

 男が、落ちてきた。

 衝撃で陥没する地面に、舞い上がる土埃。それを手で払いながら、ヴァラルは目の前に空いた大きなくぼみを呆れた調子で眺めた。

 「おお危なかった。ラルは時間にうるさいからな」

 のそのそとくぼみから這い上がり、自分が付けた愛称で話しかけるガルム。遥か上空から落下したはずなのだが、彼の体に傷一つついていなかった。

 「全然間に合ってない。遅刻だ遅刻」

 「へっ、そうなのか? ……あ~すまんすまん!」

 バシバシとヴァラルの肩を叩きながら、ガルムは軽快な笑顔を見せる。 

 「相変わらずだな、その呑気な所。こんなことでウトガルドは大丈夫なのか?」

 「大丈夫だ、心配いらん。何せ俺がいるからな」

 「どうしてこうも断言できるんだ……」

 自信満々に腕組みをするガルムに、アイシスとはえらい違いだとヴァラルはうめいた。

 「しかも、何でわざわざ空から降ってくる。普通に来れば済む話だろう」

 「それじゃあつまらん。こうやって登場した方が驚くんじゃないかっ、ということでな」

 「……こいつは本当に、何というか」

 そもそも、ガルムのこの姿は本来のものではない。

 彼は強靭な生命力を宿すドラゴン。しかも、その中でも特に強大な力をガルムは持っている。けれどこうしてその場の勢いで行動する彼のお気楽な精神に、調子を崩されるヴァラルだった。

 「ま、ここでのんびりしていても仕方ない。とりあえず移動するぞ。話は付けてきた」

 「ちょっと待て。移動するのは構わないが、ちゃんと説明してくれ」

 「今日の予定の事だ」

 こういう身勝手さも彼の特徴だと諦めて、歩き始めるヴァラルを余所にガルムは語りだした。

 「知っての通り……ってその辺を見りゃわかるが、ウトガルドにはこれといってめぼしいものは何にもない。だだっ広い岩だらけの土地にメクビリスだ、普通の連中ならまず引き返すところ。まっ、ユグドラシルやビフレストの方が断然快適だしな、当たり前だ」

 荒野の平原を歩く途中、ガルムはあっけらかんとした声がヴァラルの耳に入る。彼の言葉には悔しがる様子は微塵も無く、事実をありのままに認識しているようだった。

 「けど、このままで良いんだってセランやドワーフが言うんだよなぁ~。どうしてだか分かるか?」

 「これが理由か?」

 「おっ、正解」

 しばらくしてガルムが先導する先、メクビリス山脈の麓の岩肌には大きな洞穴にも似た坑道があり、入口にはいくつか注意書きが書かれた立て看板が掛けられていた。

 「ここは宝の山だとよ。ドワーフ達が喜んでたぜ、掘っても掘っても貴重な魔鉱石がわんさかでてくるってな」

 「へえ、凄いじゃないか」

 ウトガルドの住人であるドワーフ達。浅黒い肌と筋骨隆々とした体を持ち、口に髭をたくわえている彼らは、鉱山の奥深くに居を構えている。

 彼らの住まう土地には恵みがもたらされる。そんな言い伝えが残るほど、魔鉱石を加工する技術に長けた種族である。

 大規模資源採掘拠点(プラント)ウトガルド。メクビリス山脈地下深くに眠る無尽蔵の鉱物資源は、ドワーフ達の手によって大いにこの国の発展に関わっていた。

 「いや、俺も久しぶりに見たかったからな。もののついでって奴だ」

 「久しぶり? ……待てガルム、お前まさか――」

 「さってそろそろ行くかぁ! あんまり遅れるのもまずいからな!」

 ヴァラルの追及をかわし、ずんずんと歩を進めるガルム。その後ろ姿を見て、こんな調子でウトガルドは大丈夫なのか。よく今までやってこれたなとヴァラルは頭の痛くなるような思いをして、彼の後に続くのだった。




 「おいガルよ、いきなり現場を見せろだなんてどういった風の吹き回しなんじゃ……わしらにも都合があるのだぞ」

 ずんぐりとした、小柄ながらも筋肉質のドワーフが不機嫌そうにしている。

 『鉱精回廊』と呼ばれるウトガルド区画の中で最大産出量を誇る鉱山の中を、不機嫌そうな声が響きわたる。

 ここから採掘される魔鉱石は最高級の品質をもち、アルカディア内の施設や武具、魔法道具(アイテム)等様々な所で使用され、ヴァラルの住んでいるローレン城にも多く利用されている。

 坑道の出入り口付近にエドと呼ばれるドワーフがヴァラルとガルムを待ち受け、彼の案内の下、二人は歩き通していた。

 「たまには俺もやる時はやる所を見せないと、アイシスとセランに何言われるかわかったもんじゃないからな」

 「この際、あの二人にここを任せたらどうじゃ? その方が捗るとわしは思うぞ」

 「おいおい冗談きついぜ。それじゃあ俺の立場がなくなっちまう、勘弁してくれ」

 「だったらもっと威厳を持つことじゃな。ウトガルドのために」

 ふん、とガルムを流し見るドワーフのエド。アイシスやセランとは違う、ガルムの自由奔放さに文句を言いたかったようだった。

 「それでお客人、今日はこの中と工房を見せるということで良いのかな?」

 「ああ、よろしく頼む」

 「セランが寄越した客だエド、しっかりと頼むぜ」

 ヴァラルがこくりと頷く姿に、ガルムは調子を合わせる。

 「……珍しいこともあったものじゃ。ここしばらく、ビフレストやユグドラシルの来客は滅多になかった。品物は定期的に卸しているはず、何か問題でも?」

 今回ヴァラルはビフレストの住人という設定でこの場に居合わせることにしたのだが、それが却って疑念を抱かせた。

 「問題なんて分からない。ただ普通に見学したいだけだ。あまり気にしないでくれ」

 「……まあ良い。道に迷わないよう、気をつけることじゃ」

 ガルムにちらりと視線を向けるヴァラルに、エドは妙な違和感を覚えながらもひとまずは納得し、つるはしを抱え薄暗い坑道へと先導していった。



 「……ガル、お前さん何かしたか?」

 鉱山の中へ入ってからしばらくして、今まで無言だったエドが突如口を開いた。

 「質問の意味が分からん。俺は何もしてないぜ?」

 「……ならいい」

 「エドの奴、急にそわそわしてどうしたんだ?」

 「さあな……」

 エドはガルムの瞳をじっと見たかと思うと再び歩き出し、その本人は何がなんだかさっぱりだという表情をしている。

 しかし、ヴァラルはエドの言いたいことが少し分かったような気がした。

 騒がしいのだ、ここが。

 そこまで大きなものではなく、ささやき声のようなものが薄暗い坑道の中から聞こえてくる。

 その声に悪意は感じない。ただ、どうにも気にかかる。この坑道で採れる鉱石の解説を受けながら、ヴァラルは辺りの声に耳を澄ますのだった。

 

 


 「これは、何じゃ……」

 ヴァラルたちが一際大きな洞穴の内部に辿り着いたとき、エドが大きく口を開いて驚きをあらわにした。

 ここはドワーフたちの中継地点のようなものなのだろう、岩だらけのごつごつとした場所にテントが張られ、窪地に水が溜まっている。それだけならば特に驚くことも無かったのだが、今日は様子が異なっていた。

 空洞を構成している岩が色とりどりに光輝いている。それが辺り一面に広がりを見せて幻想的な雰囲気を醸し出し、夜空に浮かぶ星空のようだった。

 けれどこのような事態は今までに全く起きていなかったようで、他のドワーフたちはテントから飛び出し、一同困惑した顔つきでこの不思議な光景を眺めていた。

 「エドさんっ! 何が起こっているんですか!」

 「わしにも分からん……こんなことは始めてだ……」

 一人の若々しいドワーフがエドを見つけるなり言葉をかけてくる。彼はおおいに慌てていたが、年長者であるエドはこれまでの出来事を振り返り、何とか状況を把握しようと努めていた。

 「すっげえなあっ! こんなの見たことが無いぜ! 見てみろっ、お前の足元光ってるぞっ!」

 「む……? 本当だ」

 その一方、ガルムは近場の岩場を掘り返して宝石のような輝きを持つ鉱石を次々と見つけ出し、ヴァラルは足元の鉱石を拾い上げ不思議そうに観察していた。

 「何じゃあの二人は……」

 マイペースな行動をとるガルム達に何とも言えない気持ちになるエド。この事態がいかに重大な出来事かを理解していないウトガルドの管理者に、頭を抱えたくなった。

 そもそも、今日は珍しく客がいるというのに――

 「待て。そういえば……」

 エドの違和感がますます大きくなる。

 ガルムの連れてきた黒髪の青年。その足元にかけて、石はより一層濃い光を放っている。それでいて、自分たちの足元の光はぼんやりとしている。

 「……なあ、ガルよ。本当にお前さんは何も知らないのか? わしは今朝、お前が急にここへ来たいと報告を受けてからどうも怪しいと思っていたのじゃが」

 しゃがみ込むドラゴンの男に近づき、どんな嘘でも見逃すまいとする目で睨みつけるエド。彼のしかめっ面にガルムは思わず石を集めるのを止め、絞り出すようにして心当たりがないか考え出した。

 「んなこと急に言われてもよぉ、エドが知らないことをどうして俺が知ってるんだ。第一、それならあいつに聞いてみりゃ――あ゛」

 「ほうほう……その顔は心当たりがあるみたいじゃな。さて、とっとと白状してもらおうか?」

 ガルムがヴァラルの方へ向いた途端、変な声を漏らすのを見逃すはずも無く、じりじりとにじり寄るエド。その迫力に気圧されたガルムは、今にもその場から逃げ出しそうである。

 このまま騒ぎを放置するわけにもいかない。多分、この異常事態は自分のせいなのかもしれない。そう思い、事態の収拾を図るためヴァラルは二人の下へ近づいていった。




 メクビリス山脈の麓、鉱精回廊の比較的近くに居を構えるエドの小屋。質素ながら頑丈な造りのその中では、ヴァラルとエドがテーブルをまたいで向かい合っている。

 「全く、ガルの奴め。そんな大事なことを黙っていたとは……」

 「騙すつもりなかったんだ。あいつなりの気遣いだったということは分かって欲しい。エド、ガルムを責めるのならまず俺を責めてくれ」

 差し出された熱い茶に湯気が立ち込める。それに手を付けながら、これまでの経緯を説明したヴァラルはドワーフの彼に謝っていた。

 「……お主ならば仕方あるまいて。第一、折角その足でわざわざ出向いてくれたというのに、とんだ醜態をさらしてしまった。こちらこそ、申し訳ない」

 前もって来るとわかっていれば、万全の準備を整えてからヴァラルを迎えたのだが、ウトガルドで最初に訪れてくれた事に何とも複雑な気持ちでいたエドであった。

 「おいおいラルっ! すげえぞこれ! 見てみろよっ!」

 小屋の外からガルムの大声が二人の耳元に届き、途端に入り口の扉がバタンと開かれた。隣接する倉庫の一つからとてつもなく大型の剣を持ち出してきたガルム。手を放してしまえば、そのまま地面にめり込みそうなほど重量感あふれる特大剣を軽々振り回し、自慢げに二人に見せつける。

 自分の物ではないはずなのに、どうしてこうも図々しくいられるのだろう。謙遜という言葉を全く理解していないのかと、ヴァラルは思った。

 「エド、もしよければ倉庫を見せてくれないか?」

  そう心の中で愚痴をこぼしつつも、相変わらずなガルムにほんのわずか口元を緩めたヴァラルはドワーフに頼み込む。ちらりと見ただけでも、とてつもなく上等な剣であることはすぐに分かる。ガルムのように興奮まではしないものの、気になるものは気になるヴァラルだった。

 「良いとも。お主からすればまだまだかもしれんが、それなりの自信作じゃ。是非見て欲しい」

 そして本日の目玉であるドワーフの武具倉庫に、二人は足を運んだ。




 「おお、やっぱり綺麗だ」

 感嘆の息を漏らしながら、元あった場所に先ほどの武器を立て掛けるガルム。大型の倉庫のようなこの場所には様々な形の武器や、盾・鎧といった防具が所狭しと並んでいた。

 「すごいな……どれもこれも」

 軽く扱っただけでしっかりと手に馴染む。

 自身の顔が写り込むまでに磨かれ、研ぎ澄まされた刃。極限までに洗練された武具はある種の美しさを放ち、そのまま扱うのがもったいない程見事に作り込まれている。

 丁度近くにあった剣を手に取りながら、ヴァラルはエドの卓越した腕に感服した。

 「そうだろ~、エドはドワーフの武具職人の中でも超がつく程有名なんだぜ。しかもそれだけじゃない。ローレン城の改修にもドワーフが関わってるんだぜ?」

 「本当なのか?」

 「セランやアイシスにも聞いてみな~」

 ガルムがあちこちにある武器を振り回しながら自慢げに語る。

 「……もう言葉が出ないな」

 ヴァラルが千年間眠り続けた城――ローレン城は千年前からとてつもなく巨大だったが、目覚めた後はそれに輪をかけて大きく、そして豪華になっていた。

 都市が丸ごと入ってもおかしくないローレン城の内装が真新しくなっていたのはそう言う訳だったのか。

 武具製造に留まらず、建築技術にも力を発揮する天才的な職人――ドワーフの凄さを思い知らされるヴァラルだった。

 「気にすることはないぞヴァラル殿。こんな夢のような場所に住まわせてもらっているのだから、あれ位当たり前じゃ」

 「当たり前、か……毎日毎日、大変じゃないのか?」

 「大変? いやいや、そんなことは一度も思ったことはないぞ。石と共に生活をするのがわしらドワーフの生きがいじゃからな」

 口ひげをいじりながら、エドは的外れな質問だと豪快に笑い飛ばす。彼はここの暮らしにとても満足しているようで、その笑顔は非常に豊かなものだった。

 と、そのとき――

 ズズン、と三人のいる武具倉庫が揺れた。

 外から何かが着地したかのような地響き。突然の出来事にヴァラルの表情が固くなる。

 「お、こいつは」

 「まさか……」

 ガルムがぴんと閃いた表情で入口の扉へ顔を向ける。また、エドもこの振動の原因が何か知っているかのような、とてつもなく嫌な予感がするといった顔つきである。

 エドの工房兼倉庫にて、三人が面白いように別の反応を見せるのだった。

 

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