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黄金の時代  作者: 木村 洋平
トレマルク王国編
37/79

王都インペルン


晴れやかな青空の下、インペルンに向けてすたすたと足を運ぶヴァラル。


セレシアと別れてから二日目、彼はなだらかに続く草原の道をただひたすらに歩いており、その旅は順調に進んでいた。


と思われたが、ヴァラルの心中では様々な思いで満ちていたのだった。


(しかし、あの街では色々なことがあったな……)


改めて彼はセクリアの街で起こった様々な出来事を振り返る。


最初の頃は冒険者という職業をあくまでも仮のものとして位置づけていた。しかも実際に仕事を請けてみると、どれもこれも彼にとって物足りないものであったため、これでいいのかと何度も依頼内容を確かめたほどだった。


(けれど、よくよく考えてみれば依頼に手ごたえのあるものなんて求めるもんじゃないな。やはり平和が一番だ)


そして、あの街ではセレシアたちのような立派な冒険者と出会うことができた。あのような冒険者達がヴァラルの前に現れるという保証はどこにも無いが、それでも暇があれば冒険者としてちょくちょく活動するのも良いなと彼は思っていたのであった。


(……まあ多少面倒ごとになったが、それでも問題は無いだろう。今のところ……)


そして、例の出来事でこれからの旅に若干の懸念を覚えつつ、トレマルク王都への期待を膨らませていくヴァラルだった。




「……何だ?」


ヴァラルが再びインペルンに向けて歩き出そうとしたそのとき、後方から馬のひづめの音が聞こえてきた。


(やけに早いな)


今まで何人かの旅人や行商人と会ったが、ここから響いてくる音はどこか急いでいるようだった。


そしてヴァラルの視界に段々と貴族が乗るような大型の馬車が現れ、そのまま通り過ぎると思ったら急停止し、彼の横にぴたりと寄せてきた。


「やあヴァラル。奇遇だね、元気そうで何よりだ」


「ってお前かよっ!!」


馬車の扉が開かれ、お付の騎士とともに現れたのはセクリアの街で(両方の意味において)散々世話になったあのデパンであり、ヴァラルは思わず呻く。全然奇遇でもなんでもなくデパンは彼を急いで追いかけてきたようで、馬達の息は荒れ、御者もどこか疲れた顔をしていたのだった。


「びっくりしたよ。急に街からいなくなるだなんて。別れの挨拶くらいしても良かったじゃないか」


「俺がいつ出ようが関係ないことだろう」


しかも彼女と街を出たときは早朝のことだ。というのも、街の人々にいちいち騒がれたくなかったし、デパンの屋敷に赴くのも億劫だったからだ。


そして、デパンがやたらなれなれしくしてくるのを見て、ヴァラルはまた何か厄介なことに巻き込まれるのではないかと肌で感じ取ったのだった。



「つれないねえ。君と私との仲だろう?もう少し優しくしてもいいんじゃないのかな?ほら、色々と世話を焼いたんだからさ」


「おい、どの口で言ってるんだ」


人がのんびり旅を続けようと思っていたのに、それが今ではSクラス。当初の予定を大幅に変更せざるを得なくなったヴァラルは、八つ当たりだと分かっていながら、もやもやとした気持ちを彼に対して抱えていたのであった。


「そんなに冷たいことを言わなくてもいいじゃないか。私は悲しいよ……うっうっうっ……」


「前フリはいい……それで?ここへ来た理由は何だ?」


落ち込んでいるふりをする彼を無視して話を進めるヴァラル。デパンの話に付き合っていたらあっという間に日が暮れてしまう、なので話を切り上げて早くこの場を立ち去りたかった。


「ああ、そうそう。ついうっかりしていたよ。はいこれ、君宛のものだ」


「手紙?誰からだ?」


ヴァラルはけろりと立ち直ったデパンから差し出された品質の良い一通の手紙に首をかしげる。


この世界に来てから彼の知り合いと呼べる者たちは数えるほどしかいない。てっきりローグからだと勘ぐったが、封蝋をみるとどこかで見たことがあるような紋章が描かれていた。


「トレマルク王家の紋章だよ、それ」


「……俺はそんなところに知り合いはいないぞ?」


狼をモチーフにした紋章はギルドの館で見かけたのを思い出し、デパンに尋ね返す。


「分かっている。私にも似たようなものが届いていてね、マリウス王子が君に会いたいようだ」


デパンは同じような封を切られた手紙を服の中から取り出し、ヴァラルに見せた。




――久しぶりに旧交を温めないか?噂の冒険者についても色々と聞きたいことがある。まだセクリアの街にいるんだろう?出来ることなら彼も連れてきて欲しい。



長々と畏まった文を要約するとこのように書かれていた。


「この道を歩いていることはインペルンに訪れるつもりなんだろう?ついででいいから立ち寄って貰えないか?」


「……機会があればな」


思っているよりも早く情報が伝わっていることに辟易しつつヴァラルはこう答える。


(しょうがない……こうなったらとことん利用させてもらうか……)


彼はSクラスが知れ渡ることを予期し、人付き合いを多少変えようと思っていた。勿論、そこまで大きく様変わりするものではない。ただ一般の市民達だけでなく、この世界においての貴族達や王族の考えを知っておく必要性を感じたため、この機に乗じて利用できるものはとことん利用しようと結論付けたのであった。


まあ、そうでもしなければSクラスなんかやってられないというのが本音であった。


「有難い。それが聞けただけでも十分だ。すまないねえ、本当に。ところでどうする?よければ送っていくけど」


体を馬車の方へ向けるデパン。席には多少の余裕があるようで、ヴァラルもインペルンへ連れて行ってくれるようだ。


「遠慮しておく。俺はゆっくり旅を楽しみたいんだ」


「そう?ならいいけど。それと途中で魔物に襲われないよう気をつけるんだよ、それじゃあまた」


「……これっぽっちも心配していないくせしてよく言う……ああ、そうだ。ついでにグレインやソイルに会っておくか」


勢いよく走り出し、一足先にインペルンへと向かっていった馬車を眺めつつ、ヴァラルはインペルンでの予定を考えていたのだった。


◆◆◆


そしてデパンと出会ってから四日が経過、彼はトレマルクの王都に到着する。


城塞都市インペルン。


王家の者たちが住まうウォストン城や、冒険者ギルドの本部が立ち並ぶここはトレマルクの中心地だ。デパン伯爵の統治するセクリアの街も中々のものだが、それでもインペルンとの経済規模は五倍ほど違うため、この場所がいかに巨大な都市であることが窺い知れるのだった。




「……ん?冒険者か?」


「ああ、そうだ。ここの滞在許可を貰いたい」


「ならばギルドカードを見せてもらおうか」


己の責務を忠実に全うするかのようにインペルンの入り口に立ちふさがる番兵の一人がヴァラルに尋ねる。


王国の首都であるインペルンは警備が厳重だ。通行許可証を貰った一部の者ならともかく、身分不詳の者を中に入れる場合には滞在期間やその理由、所持品のチェックをして、それで何の問題も無いと判断されれば、通行料を支払いうことで中に入ることが出来る。


そして、冒険者だと名乗るのならば当然ギルドカードを持っているはずである。


その場合、各地に備え付けられた専用の魔法装置で読み取ることで己の身分を証明するので、彼はそれを差し出すよう命じた。


「ほら、これだ。さっさと頼むぞ」


「……見かけないものだな……まあ良いか……」


一枚のカードを差し出し、番兵はそれを専用の装置に読み取らせる。


そして、機械的な音が鳴り、表示された情報が番兵に目にとまると、


「……っっ!!!ちょっ!!ちょっとまて!!」


彼を置いてそのままどこかへ行ってしまったのだった。


「……早速かよ」


冒険者となったことで、ヴァラルはすんなりとインペルンへ入ることができるはずが、


そうはいかなかった。




(……遅い)


あれから三十分、ヴァラルは門の隣にある番兵達の詰め所でひたすら待たされていた。その間特段何かされたわけでもないが、ちらちらと時折彼の様子を伺う番兵達の視線にむかむかしていた。


「それにしても、たかだかカード一枚に何びっくりしているんだか。俺には理解できないぞ」


ヴァラルはテーブルに足を組みながら自分のギルドカードを頭上にかざして呟く。



冒険者達の持つこのカードはクラスごとに色分けされており、Eクラスが紫、Dクラスが青、Cクラスが赤、Bクラスが黄、Aクラスが白となっており、一目見ただけで冒険者の力量が分かるよう工夫がなされている。(それもあくまでも目安ではあるが)


そして、モーロンから以前手渡されたカードの色はヴァラルの髪の色と同じ黒であり、この世界でただ一枚だけの特注品だ。そのため、番兵が見慣れなかったのも無理は無かった。


因みにこのブラックカード、ただのお飾りというわけではない。


四カ国にある全てのギルド関連施設の使用料は全て無料タダ。しかもそれらを利用する場合は常に最高のサービスが約束され、彼らの運営する店での買い物も脅威の五割引。そして何より無利子、無担保、そして極めつけが限度額無しの借り入れが可能というとんでもない仕様である。


正直そこまでやっても良いのかと疑う内容ばかりのものだが、モーロン曰く特に問題ないとの事。それほどまでにギルドの威光というのは各国に影響を及ぼすことの出来る組織のようだ。


そして、誰もが喉から手が出るような化物じみたカードの説明を受けていたヴァラルもまた、


「あっそ。まあくれるというなら遠慮なく」


既に金銭感覚が麻痺していたのか、あまり興味を示していなかったのだった。





そんなことをぼーっとヴァラルは回想していると、デパン伯爵がいつの間にか現れていた。


「やあヴァラル。元気そうで何よりだ。魔物に襲われなくてほっとしたよ」


形だけは心配してそうなそぶりを見せる伯爵。けれど心のうちでは何を考えているかさっぱり分からなかった。


「……何でお前さんがこんなところにいるんだ?俺はついでといったはずだが?」


先日といっていることがまるで違うデパンにヴァラルは何故この場にいるのかを問いただす。


「いやあ、悪いね。マリウスがすぐにつれて来いって言うからさ。仕方無しに僕が迎えに来たというわけさ」


「……マリウスだか王子だか知らないが、そんなに俺に会いたいのならまずそっちから顔を見せるべきなんじゃないか?」


彼個人としては王子と会うことに対して特に異論はなかった。


何せこの国のトップに近い男だ。彼がどんなことを思い、人々を導いていくのか興味があったのだ。


ただ、上から目線の連中はあまり好かない。デパンを差し向けておいて自分だけ城で待っているのはどこか釈然としないヴァラルであった。


「そういうと思って来てもらったよ。おい、マリウス!」


すると、扉を開かれ、二人の人物がヴァラルの前に現れた。


一人はヴァラル以上の背丈を持つ武人のような大男。そして、


「やあ、君がヴァラルか。私はマリウス、この国の王子をやっている。今後ともよろしく」


服装が違うだけで、顔がデパンと瓜二つの青年が親しげに話しかけてきて、


(デパンが二人……何の冗談だよ……)


一人だけでも相当の曲者なのにそれが二人、しかも片方は王子。


ヴァラルはこれからの旅に安寧の日々はないと改めて悟るのだった。


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