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黄金の時代  作者: 木村 洋平
トレマルク王国編
27/79

接触


「グレイン、右の連中を相手にしろ!エーニス、私がオークを引きつける、その間に魔法を打ち込め!」


「おうよ!」


「はい!」


グレインの大剣が唸り、エーニスの魔法が次々と炸裂。そしてセレシアの華麗な剣技の前にオークたちは手も足も出なかった。


エーニスと合流した二人は破竹の勢いでオークたちをなぎ倒していく。先程はグレインが一人で突っ込んでしまったため一時は危なかったが、今ではその遅れを取り戻すかのように彼らを殲滅していった。


一人ひとりでも十分強いのだが、セレシアの的確な指示により彼らはそれ以上の実力を発揮していたのだ。


「!!」


すると、グレインと戦っていたオークの首が突如音を立てて近くの木に突き刺さった。いきなりのことにオークたちの混乱の度合いはさらに増し、恐慌状態に陥っていた。


(これはもしや……)


「ソイルかっ!」


咄嗟にグレインは後ろを振り向く。何も返事が無かったものの、森の茂みの中から何かがいるのを感じ取れた。彼もセレシアの指示通りに動き、一目散に駆けつけてきてくれたようだ。


ソイルは弓の名手だ。長距離からの狙撃は勿論、この距離からの味方への誤射は一度も無い。何よりも正面から勝てないと悟ったオークたちの不意打ちを防ぐという意味で、彼の存在は非常に頼もしかった。


「よし、このまま一気に押し込むぞ!」


彼女は三人を鼓舞するかのような大声を出した。もう残り十体もいない、彼らを倒せばこの依頼は達成することができる。そう思うとセレシアは胸がいっぱいになったが目の前のオークたちを倒すことに集中する。


「わかったぜ!」


グレインが三人を代表するかのように返事をする。気合の入った声だ、これなら大丈夫だろう。


そして四人の猛攻の前にクヴィクトの森にいるオークたちは駆逐された。


セレシアたちが彼らの住処を襲った僅か二十分の出来事であった。



◆◆◆



「やれやれ、ようやく終わったぜ……お!ソイルじゃないか。さっきは助かったぜ、ありがとうな」


森の中から現れたソイルにグレインは礼を述べる。


「相変わらず一人で突っ走っていたようですね。さては、セレシアさんにまた迷惑をかけましたね?」


その顔は怒っているというよりもまたやったのかという呆れが混じったもので彼のもとへ進み出るソイル。


「まあ、結果オーライだからいいじゃないか……ははっ」


「グレインさんっ!もう、心配したんですからねっ!あんなことはもう二度としないでください!」


すると、ソイルに引き続きエーニスからも説教を食らった。結局、自業自得ではあるものの全員からお叱りを受けるグレインであった。


「悪い悪い!次からは……ってもう無いのか。……エーニス、名残惜しいがお前の気持ち確かに受け取った。その言葉を胸にこれからも俺は頑張るぜ!だから……元気でな!」


「何をバカなことをやっているんだあいつは……まだ終わりじゃないぞ。ほら、さっさとするんだ」


セレシアはグレインにモーロンから手渡された袋を配る。要はこの中に魔物の部位を入れろということだ。


「了解~。けど、こればかりは何度やっても慣れないな……」


「そうですね。仕方ないとはいえやはり気が引けます……」


「二人とも、これが最後です。私も苦手ですが早く終わらせましょう」


そうして四人はグレインとソイル、セレシアとエーニスの二組に分かれ、オークの体の一部を回収していった。ギルドにきちんと報告をするためこうした作業は必要不可欠だったが、それでも中々慣れない三人であった。しかも辺りはたくさんの死体の山だ。これほどの数はかつて経験したことの無い量であったため、そこから血の臭いが満ちて、彼らの鼻を曲げさせる。そのため、討伐した後だというのにどこか気分が晴れないでいた。


幾分かの時が流れ、四人は再び集まった。グレインとセレシアの袋にはいっぱいに詰まっており、この場所にたくさんのオークがいたことをうかがわせていたのだった。


「どうでしたか?セレシアさんたちの方は。こちらは大体四十体ほどいました」


「四十五体、似たようなものだな。しかし、これほどたくさんいたとは正直驚いたぞ」


「確かに。この数は少し異常ですね……一体何があったんでしょうか?」


エーニスは首をかしげる。モーロンが彼女達に説明した時点でこの数は少しおかしいものだと感じてはいたのだ。そして実際には八十体も生息していたことで彼女の疑念はさらに深まっていた。


「……私も少し気になるところだが、今回の依頼はあくまでも討伐で調査は二の次だ。いちいち詮索してもはじまらない、とりあえずここを出よう」


「そうだな。さすがにこのままいたら鼻がおかしくなっちまう。さっさと街に帰ろうぜ」


セレシアの意見にグレインも賛同の意を示した。こんな血なまぐさい場所ではなくもっと別のところで考えればいい、彼はとにかくここを一刻も早く出たがっていた。



◆◆◆



そして彼女達はオークの住処を後にする。結果として四人で八十体以上のオークを相手にしたのだ、これほどまでの数と戦ったことがあるのは恐らくセレシアたちだけだろう。四人は疲れた表情をしていたが足取りは軽く、あの不快な場所を離れたのが功を奏したのか心は晴れやかであった。


「しっかしこれでこのパーティも解散か~。何だかんだいって上手くいってたよな、俺達」


大剣を背負いながらグレインは今までのことを振り返る。討伐に限らず、採取や調査など様々な依頼をこなしていたセレシアたち四人はギルドの間でもかなり仲の良いパーティとして知られていた。


Bクラス以上のパーティは基本的に魔法士がリーダーだ。けれど、それ以外のメンバーは魔法を使えないためリーダーとの間で軋轢が生じることが多々あった。


ギルドに所属する魔法士は自分の力を基準にしてしまい、どうしても彼らの力量をうまく測れないものが大勢いた。そんな彼らが仲間達に指示するのは魔物の群れを一人で相手にしろだのといった無茶なものばかりだった。そのため、そんなリーダーに飽き飽きする者達が続出していた。けれど、結果として依頼は成功すると、取り分は少ないものの結構な額をもらえるのでそこを中々抜け出せないというのが現在のBクラス以上のパーティの実情だった。


そんな中、セレシアはリーダーとしての責務をきちんと果たしていた。報酬は四等分、作戦を決める際も一人ひとりの意見を尊重し、自分の得意分野を生かせるよう最大限の配慮をしていた。何よりも、剣の実力だけでなく彼女の力量把握は天性のものがあった。魔法士でもないのにエーニスがどれほどの実力をもっているのかをすぐさま見抜き、彼女が集中して魔法を唱えられるようフォローしたり、グレインのバックアップに回ったりと八面六臂の活躍をこなしていたのだ。


そして、一番の驚くべきところは解散するこの日までメンバーの誰一人死なせていないことだ。


実はセレシアのパーティが注目されていたのはこのことが大いに含まれる。魔法士ならいざ知らず、冒険者が死亡、または瀕死の重傷を負うというのはBクラス、Aクラス共に珍しいことではない。むしろ日常茶飯事だ。そのため、パーティを組んだとしても一年も経たないうちに解散に追い込まれるところも少なくない。一方でセレシアのところはパーティ発足以来、グレインが腕の骨を折るということがあったもののそれ以外は目立った負傷は一切無かった。(そもそも彼の骨折も魔物との戦闘によるものではなく、ソイルとの力比べで起きた本当にしょうもない理由だったが)


「そうですね。色々ありましたけど私はとても楽しかったです。グレインさんは確かこのままトレマルクに残るんですよね?」


「ソイルもな。こいつ、貴族の地位をさりげなく掻っ攫いやがったからな……羨ましいやつめ」


「そう言っておきながらも、あなただって王国戦士長直属の部隊に配属されるみたいじゃないですか。名誉なことじゃないですか、前例が無いって聞きましたよ?」


「ん~そう言われてもな……あまり実感がわかないんだよ」


隣の芝生は青いという言葉があるが、ソイルは実のところグレインのことを感心していた。


彼はその性格が災いしたのか交渉ごとはかなり苦手で、トラブルに巻き込まれるとソイルがいつも仲裁に入っていたのだ。正直、このパーティが解散した後彼がどうするのか心配ではあった。けれど、グレインはひょんなことで王国戦士長と知り合い、彼に気に入られたようだった。


トレマルク王国の戦士長ガナード・モーゲン。質実剛健を表したかのような壮年の男は、厳しいながらも部下からは慕われていることで有名だ。そのため彼の元なら大丈夫だろう、グレインの話を聞いたとき率直に思ったのであった。


「でもグレインさん、早くそのことを意識しないと大変なことになりますよ?なにせ、冒険者のときのような勝手気ままな行動は許されないんですから。最後だから言いますけど、気をつけたほうがいいです」


「私からもだ。臨機応変に対応するのは大切だが、基本的に軍というものは上官の命令には従うものなんだ。今日のことを含めてちゃんと反省しておけよ」


「わかったわかった……あ~ほら、俺のことよりもエーニスのこの後の話とか聞かせてくれよ。ライレンのこととか、たくさんあるだろ?」


「え~!グレインさん、話を逸らさないでください。まだまだ言いたいことがたっぷりあるんですからしっかり聞いてもらわないと!」


「そうだ。それに帰った後は説教だからな。逃げるなよ?グレイン」


「ああ……なんてこった……」


女性陣二人から容赦の無い宣告を受け、へこたれる彼がそこにはいたのだった。



――だが、これでセレシアたちの最後の冒険がこれで終わるはずも無かった。彼女達はこの後パーティ結成以来、最悪の危機に直面するということを誰も知らなかった……



◆◆◆



四人は森の中をひたすら進む。ある程度開拓されているとはいえ、やはり大自然の中に変わりは無い。そして、同じような風景が続いていくうちにさすがの彼女達も先ほどの戦闘による疲労の色を隠せなくなっていた。


「……もうそろそろ休まないか?」


「駄目ですグレイン。まだ森を抜けていません」


ソイルはぴしゃりと黙らせる。彼も少し疲れてきたようで、額には大量の汗をかいており、その言葉にもあまり余裕は感じられなかった。


「でもよ~、さすがにこの辺りにはオーガはいないだろう」


「その油断が命取りだ。荷物が重たいのは分かる。もう少しの辛抱だ、頑張れ」


「私も持ちます。少し貸してください」


「セレシアの姉さんとエーニスに言われちゃあまずいな……悪かった」


ガシャリと音を立てて背負いなおし、彼女達は移動を再開する。


グレインとソイルは彼女達よりも少し大目の荷物を持っていた。今回は中々の大仕事だった。いつもだったらとっくの昔に休んでいたのだが、今回はオーガの目撃情報があったためなるべく早く森の外に出る必要があった。けれどオークの住処からだいぶ離れたはずなのに、いまだこの森には血の臭いが充満していた。そのため、セレシアは少し焦っていたのだった。


(何故だ?私達も多少の返り血を浴びたのは分かる。それでもどんどん臭いが濃くなっているのはどうしてなんだ?)


とにかくこの森はどこかおかしい。気を取り直して不気味に静まりかえる森を彼女は突き進んだ。


だが、不幸にも彼女達は見つけてしまった。



――百体を優に越すオークの死体を



◆◆◆



「これは……何だ……」


セレシアはそう呟くのが精一杯だった。


目の前に広がるのはうず高く積まれたオークの死体の数々。その周囲の木々は竜巻にあったかのようになぎ倒され、死体はどれも絶望に満ちた表情のオークたちだった。しかし、表情を辛うじて読み取れたのはまだいい、それ以外の死体のほとんどが原型をとどめていなかったのだから。


「……」


グレインもまた絶句した。自分達もオークを倒したばかりだということをすっかり忘れ、凄惨な光景を見せ付けられた一人だった。


エーニスの場合は顔色を悪くし辛うじて意識を保っていた。が、さすがに魔法士のことだけあって強靭な精神力を持っていた。こんなもの誰が見たところで通常は胃の中のものを全部吐き出してしまうほど酷いものだったからだ。


「何があったんですか、一体……」


以前ここを通ったときは何も無い森の風景だったのだ。それが短時間でこの有様。


(まさか……)


ソイルの脳裏を何かが掠めた瞬間、四人の間で一斉にゾクリと今までに無い強烈な寒気が走った。


(こちらに何かが近づいてくる!)


彼女たちはすぐに臨戦態勢を取った。荷物を全員かなぐり捨てグレインは鉄で出来た丈夫な大剣を、ソイルは魔物殺しの大弓を、エーニスは彼女愛用の杖を、そしてセレシアはレイピアを構え、全神経を集中させる。


ザザザザッッ!と茂みをかき分けその音が一瞬止んだとき、


森に住む魔物の中でも上位に位置し、数々の冒険者を死に至らしめた、


『オーガ』と呼ばれる存在がセレシアたち四人の前に姿を現したのだった。


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