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黄金の時代  作者: 木村 洋平
トレマルク王国編
12/79

冒険者


(……ん?)


「ああっ!無事だったのか!」


ヴァラルがフェンバルの森の外へ出ると、猪の魔物に襲われていたさっきの男に遭遇した。


あの時からだいぶ時間は経っていたが、彼はヴァラルの身を案じて待っていてくれたようだ。助けてくれたヴァラルに駆け寄り声をかけたその男の顔は驚きと笑顔が入り混じったものだった。


「お前も森の外に出られたんだな」


逃げた後で再び他の魔物に出会ったりしたら元も子もない、ヴァラルもまた男の無事を確認してほっと一安心する。


「さっきは助かった、おかげで命拾いしたよ……それでさっきの魔物はどうした?なにやら凄い音が森の中から聞こえてきたんだが、もしかして何か関係あるのか?」


「……ああ、魔物が大岩にぶつかって勝手に自滅してな。いきなりだったんでこっちも驚いたぞ」


言い訳としては結構苦しい。だがそ知らぬ顔でヴァラルは事実と異なることを言ってのけ、その証拠として魔物の牙の欠片を男に見せた。


彼としては本当のことを言っても良かった。


しかし、


――気絶させるつもりで一発お見舞いしたが、魔物の体には大穴が空いてしまった


こんな突拍子も無い出来事を一から十まで懇切丁寧に説明しても一体誰が信じるだろう?ヴァラル本人でさえあれには驚愕したのだ、いたずらに彼を混乱させるわけにはいかない。また幸いなことに、その現場にこの男はいなかった、いくらでも言いようはある。


というわけで、彼は適当に誤魔化すことにしたのだ。


「そ、そうかっ、まあとにかく無事で何よりだった……そういえば、ヴァラルといったな。このあとはどこかに用事でもあったりするのかい?」


男はヴァラルの言葉に少し疑問を感じていたが、助けてくれたことには変わりはない。しつこく聞いて彼の機嫌を損ねるのもまずいだろう、そのため話題を変えることにした。


「とりあえず、この森の近くにある村に寄る予定だ。もうすぐ日が暮れるようだからな、今日はそこで休もうかと思っている」


時間はちょうど夕暮れ、何とか日が沈まないうちに森から出ることが出来た。外に出たヴァラルは、千年後の人々がどんな生活をしているのか気になっていたのだった。


「ならちょうど良いっ!俺はその村から来たんだ。そういうことならまだ泊まる所は決まってないだろう?今日はうちに招待するよ。……ああっ、自己紹介がまだだったな。俺の名前はカウン、よろしくな」


「それは有難い」


二人は森を後にしてカウンの暮らしている村を目指し歩き出し、その途中に彼がこれから向かう村について色々と教えてくれた。


テトスの村。


トレマルク王国デパン伯爵領にあたるこの村は総勢九十人ほどの小さな村である。


フェンバルの森に程近いこの村は辺境の地として知られ、あまり人が訪れることはなく、稀に来客があったとしてもフェンバルの森に用がある者達がほとんどなのだとか。また、テトスの村の産業は農業を主体としているおり、ここで暮らしているカウンも幾つかの野菜を育てているのだという。


村のことを一通り説明した後、今度は自身を襲った魔物についても解説してくれた。


猪のような魔物はボボルと呼ばれ、その二本の牙によってテトスの村を守っている柵をことごとくなぎ倒し、農作物を荒らし回って、村人から重傷者が出てしまった。


そのため、これ以上被害を大きくさせないため、村一丸となって討伐をしようと計画している最中にカウンは運悪く遭遇してしまったのだ。そして、必需品である薬草を手に入れるためとはいえ、うっかり森の奥まで入り込んだことをしきりに反省していたのだった。


(……しまったな)


一方、ヴァラルはカウンが凶暴な魔物であるボボルについて語っている姿をみて複雑な気持ちになった。


ボボルは人を襲う、そのことは村にとって非常に脅威だったろう。けれど、その一方でフェンバルの森の奥地に入ろうとする者も襲っていたはずだ。つまり、彼らは間接的にではあるがアルカディアを守っていたことになる。そんなことを言っていたらきりがないのだが、それでもヴァラルは殺すつもりの無かった魔物に対してもう一度心の中で謝ったのであった。


◆◆◆


それなりに整備された道を歩くこと一時間、ヴァラル達がテトスの村へついたのは日が丁度沈みきって夜になったときのことで、入り口には防護柵が設けられており、その前には見張りが立っていた。


そして、カウンが見張りの村人に事情を説明し、村へ入る事を許可されたヴァラルはカウンの家に向かった。


「さあ、上がってくれ。とはいっても何もないところだけど」


「邪魔する」


周りの家々に比べると小さなものだったが、きちんと整理整頓されていて小奇麗な印象を与えるものだった。元々几帳面な性格なのだろう、そう思い、ヴァラルは彼の家に上がりこんだ。



「……さて、改めてヴァラルには礼を言うよ、危ないところを助けてくれて本当にありがとう。おかげで命拾いしたよ……それで、ヴァラルはこれからどうするつもりなんだ?良ければ聞かせてくれないか」


その後、ヴァラルはテーブルに座りしばらく待っていると、カウンが薬草を煎じたお茶と野菜を煮込んだスープを振舞ってくれた。どちらも素朴な味だったが、彼に好き嫌いはなく、それらを文句の一つも言わず食べ終えた二人のお腹が程よく膨れたところで、カウンは口を開いた。


「とりあえず数日はこの村に滞在しようと思う。ちょっとこのあたりの自然を見て回ろうかと思ってな」


「へぇ、それじゃあしばらくの間はここにいるんだ……変わってるな」


「そうか?」


「そうだとも。さっきも言ったけど、ここはあんまり人が訪れないところだから、ヴァラルのような冒険者は本当に珍しいんだ」


(……冒険者?)


「その冒険者というのは一体何だ?さっきも言っていたようだが……」


あの聞きなれない単語を再び耳にしたヴァラルはすかさず質問する。この話を聞き逃してはいけない、そう己の直感が働きかけたからだ。


「あれ?違ったのかい?てっきりそう思ったのだけど……まあ、良いか」


カウンは意外だと思いつつも、ヴァラルに冒険者というものについて説明を始めた。


冒険者。


魔物の討伐、未開の地の探索、あるいは魔法道具や魔法薬の素材を入手したりする彼らはアールヴリール大陸において欠かせない存在だ。


冒険者はトレマルク王国が発祥の地とされ、依頼主の様々な要望にあわせて生計を立てている彼らが誕生したのは、この国特有の事情が絡んでいた。


広大な領地と強大な軍隊を持つバルヘリオン帝国、優れた魔法技術によって常に進歩し続ける魔法皇国ライレン、聖女という存在もあり、事実上の中立地域である宗教国家アルン。


けれど、それらに比べて昔のトレマルクは弱小国家であった。バルヘリオン、ライレン、アルンのように何かしらの特色を持たなかったこの国は何とか三ヶ国に追いつこうと、当時の上層部は様々なアイディアを出し合い、そして一つの結論に到達した。


それが冒険者のシステムである。


三百年ほど前から魔物の発生が確認されるようになった各国では、動かすのに時間がかかる軍や当時貴重な存在だった魔法士を導入せず、柔軟な対応を取れる魔物の討伐組織を欲していた。トレマルク王国はそこに目をつけ、武勇に優れるものの特定の国に属さない者たち、つまるところ傭兵のような存在を国を挙げて集めだした。


これが彼らの始まりとも言え、その後ギルドという組合を結成し、各国から要請される魔物の討伐に彼らを派遣して協力すると共に、それ以外にも様々な依頼者からの雑多な依頼をこなしていった。


そして、その利便性が各国で評価され、あっという間に大陸全土へと拡大していったのだった。


とはいえ実際はそんなに甘くない。依頼者とのトラブルが起これば基本的に当事者間で解決を迫られ、依頼の失敗は死を意味することが多々ある。


しかも、このアールヴリール大陸では数多の冒険者が死亡、もしくは再起不能状態となっているのが実状。


つまり、冒険者稼業は自身の持つ実力がそのままステータスになるのだ。


「成る程、ずいぶんと厳しい世界なんだな」


「それでもこの国に限らず、なりたいと思う人は多いみたいだよ」


「何故だ?」


「そりゃまあ憧れる人が多いからさ」


冒険者は今まで積み重ねてきた功績を認められることで、各国から破格の待遇で迎えられたり、それを断って信頼できる仲間と共に冒険の日々に明け暮れることもできる。そのためか、夢の溢れる職業として冒険者というのは人々に認知されていたのであった。


「……そうか」


ヴァラルはカウンの話を聞いているうちに冒険者というものに興味を抱いていた。国々を見てまわり、見聞を深め、かつての仲間や探し人を見つけるためにも自身にうってつけである。そう心の中で考えていたのだった。


「もしかして、冒険者に関心があるのかい?」


「ああ、そうだな。出来ればもう少し詳しい話が聞いてみたい所だ」


「なら、この村にいるローグさんに話を聞いてみるといい。彼は昔、冒険者をやっていたんだ。今はもう引退したらしいが、それなりに有名な人だったらしい」


「丁度いい、そのローグという奴に会わせてくれないか?」


「残念。彼は今出かけていてこの村にはいないんだ。明日の夕方頃には戻ってくるそうだから、そのときに話を聞くといい。ヴァラルはまだこの村にはしばらくいるんだろう?今日からはここで寝泊りをして、その間村を見学したり、自然を見て回ったり、そして彼の話を聞いてきたらどうだ?」


「良いのか?ここにいても?」


この後、泊まる場所を検討し始めたヴァラルにとって有難い提案だったため、ついたずね返していた。


「……何を言っているんだ。ヴァラルがいなければあの魔物にやられていたところだったんだ。これくらいは当然だ」


「分かった、ありがとうな」


こうしてヴァラルはしばらくの間、カウンの自宅に身を寄せることになったのであった。



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