旅立ち
「ねえヴァラル……どうしてそんなことを言うの?」
アイシス・ガルム・セランの気持ちを代弁するかのごとく、リリスは問いかける。
夜が深まりながらも、未だに明かりの消えないビフレスト。屋敷の外では大賑わいだというのに、五人のいるこの場だけが不思議と静寂に包まれている。
「折角、これから楽しい毎日が続くのにどうしてそんなことを気にするの?」
「リリス、もうその辺にしておいたら? 主様はただ聞いてみただけ、深い意味は無いと思うわ」
アイシスはやんわりと彼女をなだめる。
「……外の世界は、主様の気にかけるようなことは何も起こっていません。さっ、主様。もっと他の事を――」
そして、彼女は他の話へ逸らそうとした。
「やっぱり何かあるんだな。教えてくれ」
「主様っ!」
しかし、ヴァラルは変わらない態度で再び繰り返した。
「……ま、気になるもんは気になるか。でもなあ、聞いても大したことはないし、つまらないと思うぞ」
「私もアイシスやガルムと同じ考えですが、主。貴方はそれでも聞きますか?」
「ああ、頼む」
「分かりました」
この際、事実を知ってもらった方が早いかもしれない。彼を誤魔化すのは無理だと判断したセランは、重々しく口を開いた。
「主がこの地で眠りについてから千年経ちましたが、外では相変わらず争いの歴史が続いています。懲りないですねえ、全く」
「三百年前からは分からないけど、多分今でも続いているはず」
リリスによると、最後に外の世界から帰ってきたのが三百年ほど前の出来事であり、それ以降、外の世界への行き来を完全に閉ざしていたようだった。
「三百年、か。どうしてそんな時期になった?」
「色々と事情はありますが、まあ、最大の理由を言えば何となく理解できるかと」
セランはそう言って、隣にいるリリスに答えを促した。
「アルカディアを外界から隔離する結界が完成したから。そのおかげで、外の世界と関わりを持たなくてもよくなったのよ」
「……成る程。そういう訳か」
先ほどリリスが花火を消した際に見せた以上の、遥かに高度な機構がアルカディア全域を覆い、構築されているのか。
静かな星空を眺め、ビフレストの二人の説明にどことなく納得したヴァラル。
しかし、その説明が却ってヴァラルの決意を固めたことをまだ誰も予期してはいなかった。
「言ったろ? 聞いてもつまんないって。ラルがそんなことを気にする必要が無いからこそ、俺達は黙ってたんだ」
難しい顔をして語るアイシスに、外の出来事などどうでも良さげに口にするガルム。四人は共通して、外の世界に対する関心が失われているようだった。
「そうか……なら俺が――」
そして、そんな彼らを見てヴァラルは決断した。
「アルカディアの外に、行ってくる」
彼らに代わって、外の世界へ旅立つことを。
「……何故、そう思ったのです?」
「そうだ、理由を言え」
ヴァラルの言葉を聞いた瞬間、呆れたような、非難するような口調でセランとガルムの目がつりあがる。
「俺は俺の出来ることをやるだけだ。薄々は分かっているんだろう?」
先ほどの四人の話を統括すれば、この場所で自分にできることは何一つないらしい。
彼らの純然たる善意が、皮肉にもヴァラルの主導者としての立場を奪った。
「アルカディアのために力を尽くすと俺は誓った。だからこそ、俺は行く」
このような素晴らしい場所だからこそ、日々をのうのうと過ごす訳にはいかない。誓いを反故にしないためにも、何かをするべきなのだ。
アルカディアの未来のために外の世界を見て回る必要があると考えたヴァラルだった。
そんなヴァラルの話を黙ってガルムは聞き入れる。腕を組み、ヴァラルをじっと眺める彼の周りには、想像もできない程の緊迫した空気が漂っていた。
大気が歪み、金縛りに遭うかのごとく放たれるガルムの気迫。しかしそんな状況でも、ヴァラルは全く動じようとしなかった。
「……なあラル。それがお前の本心なのか? 誰かから入れ知恵されたりしないで、真剣に考えての結論なんだろうな?」
「ああ。これは俺自身の意志だ」
「……そっか」
彼の黒く澄んだ瞳を見て、自然に何かを察したドラゴンの青年。
「なら行って来い、ラル。気の済むまでな」
その彼はやれやれと肩を竦め、賛同した。
「ガルム、貴方まで……」
「……何を考えてるのよ」
瞬間、二人の女性陣から一斉に反発を受ける。
「だってよ~、こいつ全然俺にビビらなかったんだぜ? その時点で俺の負けのようなもんだ」
三人のように弁が立つわけでもない彼は、脅しをかけることで彼の真意を計ろうとした。
けれど、ヴァラルの決意は自身が思っている以上に固い。これはもう、自分が説得する意味が無いことを自然と理解したガルムだった。
「そうやって一人で納得しないで下さいっ」
「ヴァラルがいなくなっても良いの!?」
ガルムの裏切りとも呼べる行為に、とことんまくし立てるアイシスとリリス。
「いなくなるつっても、今までだって似たようなものだろうが。こいつ、今まで寝てたし」
ヴァラルの頭をガシガシと撫でるガルムは、二人の追及をかわそうとどこか白々しい。
「それに、ラルがここまで言ってるんだ。それを信じて送り出すってのが、本当の仲間ってもんじゃあないのか?」
しかしその瞬間、ガルムの瞳と言葉に力が宿り、さっきと同じような緊迫した空気が再び流れる。そのせいか、アイシスとリリスは一瞬言葉に詰まった。
「セランはどうなんだ? やっぱり反対か?」
「俺に構わず、はっきりと言ってくれ」
こうして自らの我が儘に付き合わせていることにヴァラルは申し訳ないと思いつつ、静かに目を閉じ続けるセランに意見を促した。
「そうですねえ……なら私は、条件付きで賛成しますよ」
すると、彼は落ち着いた様子で己の考えを口に出した。
「……信じられない」
「セラン……からかうのもいい加減にしてくれない? そんなに私を怒らせたいの?」
条件付きという言葉に引っかかりを覚えたヴァラルだったが、ショックを受けたのは何よりも女性陣の方だった。
「からかうも何も、さっき私はこう言いました。主の望みに最大限協力すると」
「それとこれとは話が別でしょう? なんで話を額面通りに受け取ってるのよ。セランらしくない」
「こっちの台詞ですよ、リリス。貴方は主のこととなると直ぐに感情的になる。良くない傾向ですよ、それ」
感情的になって何が悪い、それがどうしたとリリスは睨みつける。しかし、彼女のあしらい方を心得ているセランは表情を崩すことなく受け流した。
「それで? アイシスとリリスは主の考えをどのように考えているのですか?」
答えは分かり切っているのに、わざわざ質問するセラン。
「決まっているでしょう?」
「当然、反対よ」
三対二。数の上では勝っているが、それでもアイシスとリリスを納得させることはできなかった。
複雑な感情を持てあます二人。自分を慕ってくれている彼女たちにどうやって納得してもらえるか、非常に気難しい思いをするヴァラルだった。
ヘスターの屋敷にある、一人ではとても使い切れない大きさの風呂から上がった後、ヴァラルは用意された部屋に向かう。
扉を開けた先の広々とした部屋で真っ先に目についたのは、大の大人数人が思い切り体を伸ばしてもまだ余裕のある特大サイズのベッド。屋敷にしても風呂にしてもそうだが、ここの家族は何でもかんでも豪華にしすぎだ。ご丁寧に天蓋まで備え付けられたベッドに、寝るまでが大変だと思いつつ、ヴァラルは横になる。
明かりが消え、徐々にやってくるまどろみに身を委ねるヴァラル。しかしそのとき、入口の扉がゆっくりと音を立てて開かれた。
「こんばんは、主様……」
「そっち、いくね」
そこには、小さな声で語りかけるアイシスとリリスがいた。
細やかな刺繍を施したガーターベルトとストッキングに、気品漂う白い下着を身に付け、恥ずかしそうに頬を染めるアイシス。
精緻なピンクのレースを施した黒い扇情的な下着。その上に透けたベビードールを身に付けるリリスは髪を下ろし、うっとりとした表情で見つめている。
スラリとした脚を見せつけるようにしてヴァラルへ近づく二人。月の光に照らされたアイシスとリリスは触れるのもおこがましい位美しい。そのままヴァラルの上体に寄りかかり、ベッドに押し倒した。
彼女たちの美貌が彼の瞳に映り込み、下着越しに彼女たちの艶めかしい肢体がヴァラルに迫る。
それをヴァラルは、
「で、こんな時間に何の用だ?」
むくりと起き上がり、怪訝な目つきで訊ねた。
「さっきの続き」
「まだ話は終わっていません、主様」
「……分かった」
そう言って、彼はベッドの両端をポンポンと叩き、彼女たちを招きよせる。二人は嬉しそうにして、もぞもぞとベッドの中に入り込んだ。
「考え直してくれないの? 外の世界へ行くこと」
「……ああ、もう決めた事だ」
「どうして主様が行かなくてはならないのですか? もしかして、アルカディアを嫌いになってしまったのですか?」
だから、彼は外の世界に行きたがるのか。
右隣のアイシスがヴァラルの腕をきゅっと掴み、物悲しく訴える。
「そうじゃない。逆なんだアイシス。アルカディアがあるからこそ、俺は行けるんだ」
もしも目覚めた先が千年前と同じ雪に覆われ、氷に閉ざされた世界だったなら、恐らくずっと城の中で過ごしてきただろう。
けれど、彼女たちの造りだしたアルカディアはまさしく自分にとって安らぎの世界。おかげで心の持ちようが大きく広がり、何よりもありがたいことだった。
仰向けになって天蓋を眺めるヴァラル。その声はいつもの無愛想な感じではなく、泣き腫らした子供をあやすかのように、優しく穏やかだった。
「でも、外の世界はアルカディアみたいに平和な所じゃない。もしかして誰かが、ヴァラルに危害を加えようとするかもしれないのよ? そうなったら私――」
何をするかわからない。
リリスはそんな世界に彼を行かせてしまうのが、一番嫌だった。
「そのときはそのときでなんとかする。黙ってやられる程、俺はお人よしじゃない……ま、いざという時の話だけどな」
自ら進んで喧嘩を売り、恨みを買うような真似をするつもりは毛頭ない。けれど害意を向け、直接の手段として訴えてくるのなら話は別だ。
それ相応に対処し、時には命を奪うこともやむを得ないと覚悟するヴァラルだった。
「とにかく俺は、外の世界の現状を自分の目で確かめたい。見て聞いて、ありのままを感じたいんだ。前はそんなことを考えることすらしなかったからな」
それに、いつまでもアルカディアに閉じこもっている訳にいかない。あの黄金時代を本当の意味で取り戻すためにも、外の世界と何かしらの接点を持ち続けなければならないことは、二人も心の奥底で分かっているはずだった。
「……本当、ヴァラルっていつもいつも、私たちの事ばかりを考えているのね」
「自分の事は二の次三の次で、いつも後回し。見ているだけで疲れます」
「俺には還る場所があるんだ、そのためなら何でもする」
そのとき、ヴァラルの腕をつかむアイシスとリリスの力が不意に弱まる。
他者のために自らを差し出す自己犠牲の精神。それはつまり、自分がどうなっても構わないということ。
ヴァラルのあまりにも高潔な心を意識した彼女たちの心に複雑な想いがよぎる。その一方で、最後には必ずここへ還ってくるというヴァラルの約束が何よりも心地よく、安心感を与えた。
再び腕を掴み、ヴァラルへ密着するアイシスとリリス。
二人が穏やかな寝息を立てて眠りにつくまで、ヴァラルは彼女たちの髪を梳き、なだめ続けた。
ヴァラルが目覚めたことで、命を吹き込まれたかの如く荘厳にそびえ立つローレン城。
以前はヴァラルが眠る不可侵の場ということで厳しく出入りが制限され、限られた人物しか訪れることが出来なかった。
けれども、式典後は三区画全体に影響を及ぼす主要な政策決定の場として改められ、徐々に住人達が行き交いしつつあった。
「で、あの二人から無事に許可がもらえたと」
「時間をかけて話しをするつもりだったんだけどな、分かってくれて助かった」
「私が説得に回る必要も無かったようですね。よくやりますよ、主は」
「だな。ラルってそういうところ、ほんと律儀。俺には絶対無理だ」
迷宮のように入り組むヴァラルの居城で響き渡る、三人の特徴的な足音。ガルムとセランは、ヴァラルがアイシスとリリスを説き伏せたことに大いに感心していた。
「こういうのは自分できっちり伝えないと駄目だ、それが筋ってものだろう……ところで、話って何だ?」
話を変え、自身の一歩前を歩く二人に向かって訊ねるヴァラル。
「私は、主が外へ旅立つに当たって条件を提示しました。覚えておいでですか?」
「ああ、覚えてる。でも条件って結局何なんだ?」
条件と言われてもピンとこない。それに、全面的に賛成であったはずのガルムまでついて来ている。
セラン達が何をさせるのか気になるヴァラル。すると、彼の疑問に答えるようにセランは言った。
「特訓です」
「……特訓?」
「おい、何か――」
セランの言葉に怪訝な表情を向けるヴァラルと、話が違うぞとでも言いたそうなガルムがそこにいた。
「主にもしものことがあっては大変ですし、外の世界では何が起こるか分かりません。幸いこの場所は人材が豊富。私たちを含め、彼らの助力を得ると良いでしょう」
「分かった……分かったから、そう顔を近づけるな」
振り向いてずずいと顔を近づけるセランをヴァラルは押し戻す。
彼の言い分をまとめれば、しっかりと準備をしてから旅立てということなのだろう。
着の身着のまま飛び出そうとしたヴァラルにとって、ここの住人の力を借りられるのは思わぬ朗報だった。
黒い地味な服を着たヴァラルは二人に連れられて、待合室の扉を開いた。
するとそこには、
「……多いな」
「主の人望のなせる業ですねえ」
「アイシスとリリスは用事があるっていないけどな」
ユグドラシルからは、妖精王セイラム、幻狼フェンリル、海獣フィリス。更にアイシスの代役を務めるハイエルフ達。ウトガルドは黒龍のマルサスとドワーフのエド。そしてビフレストのヴァルズリンクを率いるヘスター夫妻。
まるであの式典が再び行われたような、アルカディアのそうそうたる顔ぶれが集まっていた。
メクビリス山脈から乾いた風が吹き付けるウトガルド。その一角に白く綺麗に舗装された不思議な平地がある。
ここはヴァラルが旅立つために用意された転移門。地面に描かれた複雑な模様がいくつも重なり合っており、その中心にはヴァラルを見送る様々な人物がいた。
「どうじゃ、違和感はないか?」
「全く感じない。凄く良いぞ」
ヴァラルが両手を何度も閉じては開く動作を繰り返し、満足そうにしてエドに礼を述べる。
鞘に収まった剣を腰に備え、清潔な黒い服装の上に鎧を身に付けたヴァラル。剣と鎧は一見すると古びた印象を与えるが、見てくれを気にしないヴァラルにとっては何の問題も無く、非常に心強い武具だった。
「お主からこうやって感謝されるだけでも、作った甲斐があったわい」
「よかったなあマルサス。褒められてるぞ」
「ガルムさんに協力しろって言われた時は大変だったけれど、とりあえず気に入ってくれたようで良かった」
蒼髪のドラゴンの青年は赤髪のドラゴンの青年の肩を組み、苦笑しながら赤髪の青年が良い様にされている。
「ああそうそう。主、これをどうぞ」
「ん? なんだこれは?」
セランから突然、黒々と光る宝石をヴァラルは手渡された。
「旅の途中、困った事態に遭遇したら使ってください」
中々便利ですよと付け加え、暗紫髪の悪魔がくくくと笑う。
「……まあ、一応受け取っておく」
何とも怪しげなものだ。けれど、彼が便利だと言うのだからきっとそうなのだろう。
ヴァラルは腰元にある、妖精たちの作った革袋の中にしまい込んだ。
「ヘスターにエイミア、それに他の皆も色々と工面してくれて助かったよ。ありがとうな」
「何、これ位当然のことです」
「ヴァラルさん、ご武運を」
ヘスター夫妻に、奥に控えているセイラム、フェンリル、フィリスやハイエルフ達一同にヴァラルは頭を下げて、礼を言う。
彼らのサポートのおかげで、これからの旅はだいぶ楽になりそうだった。
そして――
「主様、これを」
「気を付けてね」
「……っ!」
アイシスとリリスから差し出された、壮麗で神秘的な雰囲気を醸し出す長杖にヴァラルは目を大きく見開いた。
『ケリュケイオン』
金属と樹木が幾何学的に融合したその杖は、かつての頃ヴァラルが世界をさ迷い歩いた際に使用していたもの。
「……直したのか? これを?」
「とても時間がかかりました、とても」
「何とか間に合ってよかった」
とっくに壊れて使い物にならなくなっていたはずなのだが、彼女たちが少しずつ時間をかけて元通りに復元したようだ。
「まさかもう一度見るとは思わなかった……凄いな二人は」
杖を握った途端、走馬灯のように駆け巡る過去の情景。ヴァラルはしっかりと受け止め、己の中に取り込んでいく。
そして、腰元の革袋よりもだいぶ大きな妖精の大袋へヴァラルは大切にしまい込んだ。
するとその直後、ヴァラルの足元が白く輝き始める。転移魔法陣が本格的に起動し始め、彼を外の世界へ送り出そうとしていた。
「行ってくる」
「お気をつけて。吉報をお待ちしています」
「留守は任せて」
アイシスとリリスがそう言ってヴァラルと抱擁を交わし、そっと離れる。
「必ず戻ってくるっ! それまで元気でな!」
辺り一面に広がるまばゆい光。ヴァラルの姿は確認できず、声でしか判別できない。
そして強烈な光が満ち、徐々に収まりアイシスとリリスが再び目を開けた時、
ヴァラルはその場から消えていた。
「行ったな」
「行きましたね」
ガルムとセランが事実を認識するように確かめ合う。だが、アイシスとリリスには声をかけなかった。
これから二人はヴァラルがいなくなったことに落ち込むはず。ならば彼女たちには慰めの言葉をかけるよりも、しばらくはそっとしておいて気持ちの整理をつけさせよう。そして向こうから声をかけてきたときには、いつも通り明るく振舞おうと心がけるガルムだった。
「ところでセラン。俺は一つ気になっていることがある」
だがその前に、己の疑問を正す必要がある。
「はて、何でしょう」
「ヴァラルに特訓させる意味なんてあったのか? 事前にお前から条件のことを聞き出した時、俺達は武具や道具の準備をするはずだったろ? それなのにどうしてあんな特訓までさせたんだよ?」
勘を取り戻すための基礎的なトレーニングはまだしも、過剰ともいえる多種多様な武器を使った徹底的な技術指導や、原始的な火おこしの仕方等、とにかく口を挟みたくなるような内容が盛りだくさんであった。
外の世界はそんなことを学ばざるを得ない程、危なかっただろうか?
ガルムの指摘は尤もだと、アイシスとリリス以外を除く様々な人物の眼差しが悪魔の彼に注がれる。
するとセランが不敵な笑みを浮かべ、こう言った。
「何を言ってるのですか、そう言う無駄な技術を学ばざるを得ない程、外の世界が進歩していないのですよ」
「……もう一度言ってくれ、よく分からん」
ああそう言うことかと周りが口々に納得する一方、ドラゴンの青年は頭を抑え、もう一度訊ねた。
「つまりです。主の持つ力があまりにも強すぎるので、外の世界に合わせた指導を行ったわけです。分かりましたか?」
「ああっ! なるほどなっ!」
ガルムはポン、と閃くように相槌を打ち、やれやれと肩をすくめるセラン。とりあえず三百年前の外の世界の技術を教えたが、果たして彼が外の世界の実状を知った時、一体何を思うか中々に見ものだった。
「それに、忘れていませんか?」
セランは一旦言葉を区切り、
――大体外の世界の連中が、主に勝てるわけないでしょう?
ふん、とせせら笑うように、セランは至極当たり前の事実を告げた。
世界を救った救世主にして、自分たちが千年かけて造り上げた理想郷の主導者。その彼が旅立つことで、新たな時代の風が巻き起ころうとしていた。