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黄金の時代  作者: 木村 洋平
アルカディア編
1/79

プロローグ

 

 かつて、『黄金の時代』と呼ばれる歴史が存在した。

 知恵を持つ力あるドラゴン、悠久の時を生きるエルフ、叡智を極めた魔の者達。その時代に生きていたありとあらゆる種族はこの世の春を謳歌し、誰もが夢見るユートピアを具現化した世界であった。

 けれど、その理想の世界は唐突に終わりを告げる。

 大災厄。世界全体を巻き込む災いが起こることによって、全てが失われた。

 火山の噴火による環境の変化、地殻変動による大地震、長期にわたる飢饉や疫病。未曾有の災厄により、世界は滅亡の危機に瀕していた。

 それでも世界は滅びることはなかった。一人の男の手によって。




 しんしんと粉雪が降り積もる真夜中の雪原。暗く一面に広がり、木々の一本も残っていない寂れた不毛の大地に、城がそびえたっていた。

 とてつもなく雄大で神秘的な、それでいてどこか懐かしさを感じさせる巨城。命の息吹を感じることのないこの場所に不釣り合いなまでに佇んでいた。

 城の一室には明かりがついている。その部屋は何百人も簡単に入れそうな広い空間だったが、四人の男女が話し合いをする姿があるだけで他には誰もいなかった。 

 「……最後にもう一度だけ確認する。本当にそれで良いのか?」

 漆黒の髪と瞳を持つ中性的な顔立ちの青年ヴァラルが、今にも眠りそうな表情で三人に問いかける。

 「こんな場所にまで付き合ってくれるのは助かる。だが、何もそこまでしてここにいる必要はないんだぞ」

 全身の力を抜き、姿勢を崩したままでの素っ気ない言葉。それほどにまでに疲れていながらも、三人への気遣いが込められていた。

 「主様。私はいつも貴方の傍に居続けます。お気になさらないでください」

 慈愛に満ちた優しげな声。

 腰まで伸びた艶やかな金色の髪に青い瞳のハイエルフ――アイシスが膝の腕に手を乗せ、隣に座るヴァラルという黒髪の青年に礼儀正しく答える。

 「俺もここに残ることに問題はないぜ。アイシスとセランはともかくとしてな。つうか、今更そんな話かよ」

 頭の後ろで両腕を組みながら、精悍な顔つきをした若者がヴァラルに顔を向ける。

 荒々しくも頼もしい声色。群青色の髪と琥珀色の瞳の青年ガルムが、壁に寄りかかりながら何度も同じことを言わせるなとその目で訴えた。

 「ガルムの言う通りですよ、主。私達は勝手について来て勝手にこの場にいるのです。まあここは運が悪かったと思って」

 「……それは追い出しても構わないってことじゃないのか?」

 「さて、それはどうでしょう」

 窓の外を眺めた後こちらへ振り返り、涼しげな声で言葉を返す青年のセラン。深い紫の長髪を持つ彼は理知的な雰囲気を漂わせながらも、ヴァラルとのくだらないやり取りを楽しんでいる。

 そして、とうとうアイシス・ガルム・セランはこの場から退出しようとしなかった。

 ふう、とヴァラルは大きく息を吐くヴァラル。

 「……分かったよ、それなら話を続けさせてもらう。以前にも言った通り、俺はしばらくの間眠る。期間は分からないが、当分の間目覚めることはないと思う」

 彼の言葉に頷く三人。彼らの意志が変わらないことに安堵と不安を同時に覚えながら、ヴァラルは話を再開させた。

 「城にはそれなりの蓄えがある。この場所を拠点にして、今後どうするか身の振り方を改めて考えてくれ……何か聞きたいことはあるか?」

 一旦間を置いて左隣にいるアイシス、中央のガルム、窓際のセランを見渡し、ヴァラルは問いかける。

すると、セランから声が上がった。

 「主、これは仮の話なのですが……もしもこの地に、我らのような者達が辿り着いた場合、如何いかがしますか?」

 「こんな辺鄙へんぴな場所に来る連中がいるのか?流石に考えすぎだと――」

 「私もそう思うことが出来ればよかったんですがねぇ」

 含みを持たせ、ため息をつくセラン。

 こういうことは最初に聞いておくべきだったと思いながら、セランはヴァラルを見返す。

 「……それについては、三人の判断に任せる」

 試すような彼の視線にヴァラルは一瞬考えた後、言葉を発する。

 すると、セラン以外の二人も大きく目を見開いた。

 「……よろしいので?私たちの好きにしても。何かあれば主の命に従いますが」

 「今までと変わらない。もし何かあれば、三人が話し合って決めてくれ。その方がやりやすいだろう」

 「ありがとうございます」

 全面的に信頼を置いてくれるヴァラル。セランは立ち上がり、仰々しくお辞儀をして感謝の言葉を述べる。

 こんなにも簡単に済んでしまうとはとてもありがたい。予想以上に事が上手く運びそうだ。

 ヴァラルに見えないようにしながら、セランはにやりと笑みを浮かべた。

 「……他に何かあるか?」

 何だ、今の対応は。

 普段の彼らしくない行動をとったセランにヴァラルは違和感を覚える。

 感謝という言葉を知らないのではないかと言う程セランはひねくれた性格だったため、こうまでまともに礼を言うこと自体、非常に珍しいことだった。

 「主様っ、この場所に森を造っても良いでしょうかっ!」

 セランに触発されたようにアイシスの声が上がる。

 さっきの言葉が余程心に残ったのか、彼女も立ちあがってヴァラルの下に近寄り、キラキラと目を輝かせた。

 「あ、ああ……問題無い。好きにして良いぞ」

 さっき言ったことがそんなにも重要なことだったのだろうか。

 彼女のいきなりの行動にヴァラルは戸惑う。

 「だが、この場所に造るとなると……時間がかかるぞ?」

 「そこらへんは任せとけ。いざとなればオレやセランがいる」

 「ええ、そうです。アイシス、私達も微力ながらお手伝いさせていただきますよ」

 アイシスをフォローするガルムとセラン。面倒くさがりのガルムがここまで言い切るのも珍しく、やたらと自信満々だ。

 セランも気持ち悪い位に優しげな声で自ら進んで協力を申し出ている。

 「何を考えている……?」

 じっと三人を見据えるヴァラル。アイシスは照れたように、ガルムは口笛を吹くようにしてとぼけ、セランはにやにやと笑うばかりだった。

 「……まあ良い。好きにしろと言ったのは俺だ、今更訂正はしない。ただし、互いに迷惑をかけるような真似はするなよ」

 追及するのをやめる代わりに、これだけは守ってもらうとヴァラルは念を押した。

 「そんな当たり前のことは百も承知ですよ。ねえ、お二人とも」

 「ええ、勿論です」

 「後の事はオレ達に任せろ。つかとっとと休め、もう限界なんだろ?」

 「……」

 セランとアイシスが互いに頷き合い、ガルムに急かされるまま話し合いが終わり、四人は部屋を後にする。

 結局最後まで、三人の真意が分からないヴァラルであった。

 

 


 向かう先は地下深くに作られた小さな部屋。長い城の廊下をいくつも渡り歩き、ついに部屋の前に到着した。

 「……またな」

 薄暗い神秘的な光の灯る地下空間。ヴァラルのまぶたは今にも塞がりそうになり、自力で立っていることがやっとの状態。ガルムに支えられ、憔悴しきった声でヴァラルは言う。

 「ゆっくりお休みください」

 「お疲れさん、また会おうぜ」

 「しっかりと英気を養うことですよ、主。中途半端に起きられるとこっちが困りますから」

 「何が困るんだよ……」

 アイシスの気遣いに感謝し、ガルムと再会の約束を交わす。そして、セランの相変わらず意味が分からない言葉に一体何が困るんだと辟易するヴァラルだった。

 「秘密です。ま、それは起きた後のお楽しみということで」

 「何だか余計な心配ごとが増えたような気がするぞ……」

 ガルムの手を離れ、ここから先は自分一人で行くと示すように正面の扉へ歩み出すヴァラル。それを三人は黙って見守る。

 「じゃあな……」

 ガチャリと扉を開け中に入ろうとした時、背後からは、

 「主様……」

 アイシスの囁くようなか細い声が聞こえたような気がしたのだった。

 



 こうして、一つの時代は終わりを迎えた。

 かつての時代を生きた多くの種族は滅び去り、高度な文明のほとんどが歴史の闇に埋もれ、忘れ去られていった。

 だが、彼らの全てが消えたと言えばそうではない。ごくわずかな僅かな生き残りが、とある辺境の大地を見つけ出し、そこに住まうことで静かに生き延びていた。

 時の流れに身を委ねゆっくりと傷を癒し、再生の時を待つかのように。

 

 そして、幾年の月日が流れることにより、物語は再び始まった。


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