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アポリアと人形たち
作:高穂智晴



1‐1:この世界の始まり


 その世界は、大地と空以外何もありませんでした。
 木々も何もなく、さび色の地肌を見せた大地は、風に吹かれ大きなさび色の渦となって世界をおおいました。
 空は雲もなくただ太陽と月を浮かべているだけでした。しかしこの空は、私達が思い描く空とは違います。さび色なのです。そう、風に煽られて空高い渦となった大地の粉が、絶えず空に舞っているのです。

 そんな世界に、アポリアは生まれました。
 生まれた。という表現はあまり適切ではありませんね、訂正しましょう。
 アポリアはその世界に、いつの間にかぽつんと居たのです。
 いつ付いたかわからないシミのように、片付け忘れられたおもちゃのように。ぽつんと一人で居たのです。
 
 アポリアはこの世界について、ほんの少ししか知りませんでした。
 世界は大地と空で出来ている事。絶えず風が吹いている事。この二つだけです。
 風がなぜ吹いているのか、世界はどうして出来たのか、アポリアは知りたいと思いませんでした。アポリアはこの世界と同じように、なんにもなかったからです。感情も、欲求も、なにもかも、アポリアは持ち合わせていなかったのです。
 
 それからしばらくして、アポリアの世界に、一人の人間が迷い込んで来ました。
 アポリアはこの時、初めて自分以外のモノを見ました。
 迷子の人間は赤茶色の土で汚れた、ボロボロの布をまとっていました。カラカラに枯らした喉を精一杯鳴らして、アポリアに何かを伝えようとしていました。
 しかし、言葉は伝わりません。

 アポリアは人間の様子がおかしい事に気付き、そぉーっと、近づきました。
 近寄ってきたアポリアに、何かを求めるような仕草をくり返す人間。
 近づいたものの、何をしていいのかわかりませんでした。アポリアはとりあえず、手を差し伸べる事にしました。
 
 近づいたときと同じように、そぉーっと手を差し伸べました。
 そうして、手が人間ふれた瞬間、アポリアの身体に衝撃が走りました。まるで、電流でも流れたようです。
 さらに、それだけではなく、頭の中さえもおかしくなってしまいました。見たこともない、様々な色と風景が、ぐるぐるぐちゃぐちゃと飛び回っているのです。
 人間のことを心配している場合ではありません。頭が爆発してしまいそうなのです。
 やがて、それらの風景は一つにまとまり、魔女のような服を着た一人の少女に変わりました。それと同時に、頭の中のごちゃごちゃもなくなりました。
 その少女は心配そうにこちらを眺めています。
 人間から手を離すと、風景も、心配そうに眺める少女も、なにもかもが、頭の中から消えました。

 アポリアは様々な力を持っています。
 人の頭の中を覗いたりもできます。
 しかし、残念な事に、今までその事に気付けなかったのです。


 自分の能力に気付いたアポリアは、人間の頭の中を頼りに、たくさんのモノを創りました。
 人間の求めていた、『水』というものも創りました。
 [創る]事もアポリアの能力なのです。

 それから、人間とアポリアは仲良く暮らしました。


[この世界の始まり]冒頭より














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