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▶︎魔王からは絶対に逃げられない! 作者:唐草
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誰だって問題児のリーダーはやりたくない


怒涛の勢いで鍛錬場の整地を終えたあと、再び団員を整列させていた。

「じゃ、部隊分けするぞ。現状隊長とかは成績で決めてるが、頑張れば昇進とかあるから。近いうちに戦争もあるだろうし、頑張れ」

ぱらりと資料をめくり、名前を読み上げて行く。

「まず最初に陸戦部隊隊長ーーライク」
「はい」

動じた様子も無い。予想してたのかね?

「次。陸戦部隊副隊長ーーメイリア」
「ふん」

メイリアは偉そうに無い胸を張っていた。身長はアストよりあるのに胸は無いな……皆無だ。

「ふんじゃねえ、はいと言え」
「……はーい」
「ったく」

こういう時くらいちゃんとして欲しいが。あれか?アメリカ式(詳しくは知らないのでイメージ)にイビった方がいいのか?雨の日に毎回ズカズカ部屋に入って靴を窓の外の泥だまりに放り投げ『一時間後までにpikapikaに磨いておけ!この○○○が!』とか言えばいいのか?

「序列的に隊長と副隊長に分けたが、ライクには近接部隊、メイリアには魔法部隊を率いて貰う。それじゃ、その後の隊員を分けて行くぞ」

その後も力が強い魔族、防御力の強い魔族、また魔力の多い魔族を陸戦部隊に割り振っていった。

「次。空戦部隊な。空戦部隊隊長は……あー、特例的に二名。イルイル、メイメイ」
「うぅう……キャホー!」
「やったーです〜!」

名前を呼び出した途端、列から空中に飛び出したのは、赤髪と青髪の、座布団に乗って手を繋ぎ飛ぶ女の子二人。
妖精と魔族のハーフで、固有魔法持ちらしい。空を飛んでいるのはそれかな?とにかく成績も優秀だし、戦力としても期待できるだろう。
しかし何故ずっと手を繋いでいるんだか。

「落ち着けお前ら。上に立つもの、常に落ち着きを備えなければならんぞよ」
「「はいっ、団長!」」

窘めつつ、偉そうに生えてないカイゼル髭を伸ばすポーズをすると、二人はビシィッ!と敬礼した。ノリいいなこいつら。

「あたしの時と随分対応が違う気がするんだけど?」

メイリアが不満を言うがこれは仕方ない。将来性がある者への投資は必要だ。主に胸において。
アストもあれでカンストだと思うが、俺的にはあのサイズが理想形なので理想形が崩れないように投資している。主に栄養面で。

他にも空戦部隊には石竜(ガーゴイル)族などなど、鳥系統や竜系統のアイキャンフラーイな面々が揃い踏みだ。彼らは所謂補給部隊兼空爆部隊である。
籠に入れたたくさんの物資を運んだり、籠にみっちみちに詰めた《爆発(エクスプロージョン)》の魔鉱石を敵陣に投下したりする。
ちなみにライクは陸戦と空戦で迷ったが、あの防御力だし、ア◯ムが空爆行うのはなんか違う。飛ぶのは魔力消費が激しいようだしな。

「別に魔鉱石投下以外にも空中からの攻撃手段があるならそれやってもいいからな?」
「はーい!」
「はいです〜」
「うむ、良い返事だ」
「やっぱり対応に差つけ過ぎでしょっ!?」

メイリアが五月蝿い。
カルディナと仲良くなれそうだなコイツ。

「で、最後……臨機応変な対応が必要となる遊撃部隊、隊長……」
「「「……」」」
「……」
「「「……」」」
「……」
「「「……」」」
「……」
「いや発表しろよ!」

俺がいつまでも黙っていたもんだからルヒヌスから突っ込まれてしまった。
いや、だってさあ……

「成績的に考えるならミラなんだが……お前らの中で、ミラが隊長でいいと言う自殺志願者、いる?コイツ絶対死地に突っ込んでくよ」
「「「……」」」

返答は無言で示された。
なるほど、つまり……

「無言の肯定、と……」
「やりましたわっ!皆さんの期待に応え」
「「「いや違うから!否定だから!」」」
「そ、そこまで否定……ハァハァ……!」

全員に口を揃えて拒否られて興奮しているミラはスルーし、次の候補を上げる。
変態の姉と来たら無敵の鉄仮面弟である。
ログトス、君に決めた!

「辞退したいです」

断られた。

「……何で?」
「人を纏めるなどの作業は、向いていません」
「……確かし」

お前コミュ力低そうだもんな……
断られたのに無理強いする気はない。やる気がないのに地位に就けても、全体の士気が下がるだけだ。

「あとはシギルは論外として……」

あれ?
シギルから文句が来ない。

「おい、あいつどこいった?」

ざわめき出す団員達、そしてその疑問はハンスが答えてくれた。

「壱号が風呂に投げ入れたままではないのか?」
「……ごめん、取ってきて」

ハンスによって風呂でプカァしていたシギルは回収された。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「で、シギルは論外として」
「あんたそれをわざわざ聞かせる為に俺を連れ戻したのか!?」

帰ってきてまず聞かされた台詞にシギルは怒鳴るがこれは仕方ない。

「説明もなしに外すのもどうかと思ったんだよ。お前リーダーシップは高そうだけど肝心の状況判断とか下手だろ」
「う……ぐ、まあ、確かに」
「だから隊長格は諦めろ。ほらあれだ。特攻隊長をミラと二人でやればいい」
「それ袋叩きにされて死ぬやつ!」

必死に捻り出したフォローは下手だった。
俺は凹むシギルから視線を外し、ルヒヌスを見た。何故だろう、必死に逃げ出そうとしているところを周囲に抑えられている。
俺はルヒヌスにニコッと笑いかけた。
ルヒヌスも笑顔で……幾分引きつっている気もするが、笑った。引きつっているだけな気もするがあれは笑顔なのだ。

「お前隊長な」
「嫌だぁああああ!」
「いやいや、考えろって。お前なんだかんだで頭良いし。なんだかんだでそこそこ強いし、なんだかんだでほら、アストのご機嫌取らなきゃいけないこと忘れてない?俺の口添え次第ってこと忘れてない?」
「全部『なんだかんだで』って付いてる上に後半脅迫じゃねえか!こんな濃過ぎるメンツ俺に纏められるか!過労死するわ!」
「ほらほら、本来のお前の目的にも沿うよ。隊長だよ?高給だよ?モテモテだよ」
「金に寄ってきてるだけだろ!あと誤解を生むからその言い方やめろ!」

その後十五分ほど掛けて説得し、ルヒヌスが遊撃部隊に隊長に就いた。副隊長は権限を振りかざしてミラを止められるようにログトスに任命。仕事ができない分ルヒヌスが忙しくなってしまいそうなので、至急打開策を考えよう。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「帰ったぞー」

一時解散の後、軽く食堂で宴会をすることを伝え、食事の用意をテキパキしていた時だ。
アストとカルディナが、若干の血の匂いを漂わせつつ帰って来た。
俺は全力ダッシュで迎えに行き、アストを思い切り抱き締める。

「お帰りアストー」
「ほわっ!?ちょ、リク、今血が……」

言われてからアストの服を見れば、色んな所に血が付いていた。
む、これはいかん。

「怪我はしてないな?返り血だけだな?」
「う、うむ。リク?その、恥ずかしいのだが……」
「夫婦だから恥ずかしくないもん」
「パンツじゃないからみたいに言うな!」

軽く頬を染めるアストの全身をぺたぺたとボディタッチしながら怪我の有無を確かめる。そう、けしてボディタッチが目的ではない。怪我していないのを知りながらセクハラしてるわけではないのだ。

「つーか、交渉じゃなかったの?何があったんだよ」
「大したことはなかったぞ?交渉しに行ったら出された茶には毒が入ってて暗殺者が山のように襲って来たから鏖殺しただけだ」
「それ結構大したことあるぞ」

まあこの口振りからして首謀者も無事殺したのだろう。ならば今すべきことは一つ。

「そぉい!」
「ひゃあ!?」

俺はアストを抱え上げる。お姫様抱っこで。

「ちょ、リク!」
「こんな血塗れじゃあ宴には出られませんなぁ。俺が風呂で隅々まで洗ってやるよおおおお!」
「待てリク、降ろせ、おい、ちょっとおおおおおお!?」

だが断る!
俺はカルディナとレイユの冷たい視線を背に駆け出した!

「料理の続き私達がやるんですかね……」
「アスト様も口では抵抗しても満更でもなさそうですし、仕方ないでしょ……チッ」

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

『新魔王軍決起会』ってところか。
初めて食堂に沢山の魔族で埋まったのを感慨深く思っていると、ドレスに着替えたアストが帰って来た。
何時もの漆黒ドレスではなく、クリムゾンレッドの生地に金色の装飾が着けられたドレスだ。アストの銀髪と白磁の肌、そして翡翠色の宝石の如き瞳を過度でない程度に煌びやかなドレスが絶妙に引き立てている。綺麗すぎて泣きそう。

「おいリクやめろ、拝むな!流石に人前はやめろ!」

ありがたやありがたや。

「ぐはっ!」

拝み続ける俺の頭を、アストは赤くなってマイク型の魔道具で叩き、撃沈した俺を放って壇上に上がった。

「マスターは着替えなくて宜しかったのですか?」
「たりぃからいい」
「……」

おい何だアルテマ、登場時から一貫して服が変わらねえお前にそんな目で見られる筋合いはねえぞ。半眼になるのやめろ。
アルテマのジト目を振り払い、アストに向き直るとマイクのスイッチを入れたところだった。あとであれも転化しよう。

『あー、こうして全員の前で語るのは初めてになるな。現魔王、アストだ。アレコレ言いたいところではあるが……もう全員に酒は行き渡ってしまっている。なら私がこれ以上喋るのも無粋だろう』

酒がなみなみの木製のコップ片手にうずうずしている団員達にニヤリと笑いかけ、アストはコップを高々と掲げた。

『魔王軍の再編を祝して!乾杯!』
「「「乾杯!!」」」

一斉にコップを掲げ、全員でぐいぐいと飲み干した。予め配膳されていた料理にも手をつけられて行く。

「うっはー!美味え!飯も食うぞ!」
「あっテメ、それ俺が狙ってたやつ!」
「ふふーん、早い者勝ちよ」
「ナニコレうまっ!」

うん、ここまで喜んでもらえると途中まで頑張って準備した甲斐がある。
俺も上座で二杯目をコップに注ごうとして……とんでもないことに気が付いた。
恐る恐る、アストを見遣る。

「アスト……お前、酒飲んだ?」
「む?ああ。……心配するな、流石に一杯や二杯では酔わないぞ?」

そこには思ったよりもけろりとしてコップから口を離したアストがいた。
焦ったー。

「安心し過ぎて腰抜かすところだったわ」
「私にだって学習能力はあるのだぞ?」
「……」

どの口でそれをいうかこの泥酔魔王。

「数日前にスイッチ入って俺を踏みながら放送禁止ワード言いまくったのは誰だっけな〜」
「ぶっ!」

酒を吹いたアストにナフキンを渡すと、じろりと睨まれた。

「その話はもう良いだろう……ほ、ほら。団員と親交を深めてきたらどうだ?」

こいつ、これ以上つつかれるのが怖いから追い出そうとしてやがる。
まあ意図はともかくその言には一理ある。素直に従ってやろう。

「いいかアスト……飲むなよ?」
「分かっている」
「絶対飲むなよ?フリじゃないからな?飲むなよ?」
「分かってるから早く行けえ!」
「はははっ。行ってくるー」

少しぷりぷりしたアストから投げられた酒瓶を手土産に、俺は団員達の元へ突撃した。
宴会回はもう一話続きます。
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