8、新任―1
そこは、ヒトの兵器を作るいわば工場でもある。
量産するべく施設は別にあり、そこは尚優れた兵器を作り出すための、開発施設。
強靭な肉体、優れた身体能力、死さえいとわぬ忠実さ。
生きる兵器、それを創るのが、ここの目的である。
第二能力開発局は、その名の通り。
兵器とされるヒトを、研究開発する局だ。
第一能力開発局のように、モルモットたちの能力測定や毎日の比較など、モルモットたちの日々を監視、研究するのではなく。
特異なモルモット何体かに目標を絞り、脳や筋肉、その他DNAなど研究する機関だ。
必要があれば、生きたままの脳を取り出し、解剖することだってある。
最近ここ、第二能力開発局へ転勤してきたビルは、未だこの局に馴染めないでいた。
もう、転勤してきて3ヶ月になろうとしているのだが、先週からモルモットの世話まで行うことになり、てんてこ舞いな毎日を過ごしていた。
ビルは、パソコンのデータを見つめ、ため息をついた。
ちらちらと周囲を見回すが、皆真面目にパソコンやデータとにらめっこしており、声をかけずらい。
「どうかしたの?」
ふと、気づけば。
見慣れた笑みが、自分を見下ろしていた。
ビルは、慌てて椅子から立ち上がり、ぺこりと頭をさげる。
「副部長、おはようございますっ」
「おはよう。それで、どうしたの?わからないことあった??」
はい、と頷き、ビルは画面に表示されたグラフを指差した。
副部長は、それを真剣に眺めて、ああと頷く。
「これはね・・・」
説明を始めた副部長を見て、思わずポッと頬を染めてしまう。
副部長は、とても優しい。
飛びぬけて綺麗というわけではないが、傍にいてほしいと思わせるような心使いや優しさ、気さくなところもあり、ビルにとっては憧れの女性でもある。
「そういえば」
ふと、思い出したように、副部長が言った。
「ビルって、先週から彼らの世話をしてるのよね」
「彼ら・・・ああ、モルモットのですか?はい、新任なもので」
モルモットの世話は、新任は必ず任される。
新任以外の研究員たちも、ローテーションで世話を行ってるという。
「彼らも、生きているのよ。それを、忘れないでね」
「え?は、はぁ・・・」
そう言って、副部長は笑って去っていった。
突然、何を言い出すのだろうか。
モルモットたちは、ここで作られたのだ。
あちこちにある玩具工場や食料工場のように、量産されただけのヒトツに過ぎない。
命があるから、となんなのだろう。
それをいうなら、養殖と同じだ。
例えば魚など、生きたまま量産して、殺して食べる。
モルモットも、ここで実験のために量産されたに過ぎないのだから。
まるで、人権があるような言い方。
ライア・ラウル副部長は、なぜあんなことを、言うのだろう。
ビルは、昼休みに食堂へ向かった。
研究員専用の食堂で、それなりの値段で定食が食べれる。
「おい、ビルっ」
呼ばれて、振り返ると。
軽く手をあげている友人の姿がみえた。
ビルは、定食のお膳を持ち、友人が座っているテーブルへとつく。
「ダビリス、そっちはどうだよ」
「ってか、マジ怖えぇよ、こっち。そっちはどうよ?」
ダビリスは、同じ職場から転勤してきた、いわば転勤仲間だ。
ビルは第二能力開発局。
ダビリスは、第一能力開発局へと配属された。
「まだ慣れないな。周りは皆真面目でさ。唯一、副部長だけが癒しって感じ」
「いいじゃん!癒しがあって。こっちマジやべぇって。局長も副部長も寡黙なひとだし、そのほかの研究員だって、皆怖過ぎ!」
はぁ、とため息をつくダビリスに、ビルは苦笑する。
あのいつも飄々として、なんでもこなすダビリスがここまで愚痴をいうのは、珍しい。
内心、第二能力開発局でよかったかもしれない、と思った。
「そういえば、お前もモルモットの世話、任されたんだよな」
「おぅ、そう。面倒だよなぁ、朝早くこなきゃなんねーし。研究室まで誘導すんのだって、結構時間くうぜ?」
「だよなー・・・」
ふと。
先ほど、副部長に言われた言葉を思い出した。
―――彼らも、生きているのよ。それを、忘れないで
「・・・俺、ちょっと様子見てくる」
「はぇ?なにを?」
「モルモット」
ビルは、残りの昼食をかきいれ、上着を持って食堂から出た。
ビルが任されたモルモットは、珍しくまだ少年だった。
見た目の年齢は、17歳。
背は低めで、体重も軽い。
容姿は、普通。
いつきても気味の悪い、実験対象が収容されている部屋が並ぶ、廊下を歩く。
コードNO、NO,YAC-303。
それが、ビルが任されたモルモットのNOだった。
がちゃり、と扉を開けて、中を見る。
汚臭のする汚い部屋の奥に、畳一畳弱ほどの鉄格子があり。
その中に、実験対象はいる。
ビルの気配を感じたのか。物音に、反応したのか。
NO,YAC-303は、顔をあげた。
あちこち汚れており、汚らしいが。
至って普通の少年だ。
しかし。
この実験対象には、少々問題があった。
「ぁ・・・た、すけ、て」
少年は、鉄格子を掴むと、真っ直ぐにビルを見て。
そう、言った。
モルモットは基本的に、発語を許されていない。
自らの意思で話すこと、動くこと、全てにおいて出来ないようになっている。
生まれたときから、彼らは研究員たちの奴隷なのだから。
だが、まれに。
こういった、自我を持ちすぎるモノも生まれてしまう。
このNO,YAC-303も、このまま自我が強くのこれば、第二能力開発局の実験対象となるだろう。
「・・・人形でいたほうが、いいんじゃないか」
ぼそり、と呟いて。
ビルは、踵を返した。
実験対象にとって、人間に近づくということは、死を意味する。
永遠に、死ぬまで人形として・・・己の意味さえわからずに死んでいくことの方が、彼らには幸せなのではないのか。
ふと。
そんなことを、思った。
つづく |