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人間兵器 〜心を知らぬ者たち〜
作:甲斐仁



はじまり


「では、今日からお前にはNO,TUV-2080の世話を頼む」

 呼び出された執務室。
 目の前には、この施設の責任者でもある父が腕を組んでこちらを見ている。

「わかりました」
 
 頷いたライアに、父であるバルドは満足げに頷いた。



 執務室を出たライアは、そのまま開発局へと足を向けた。
 部屋へと足を踏み込むと、ガラス張りになった部屋の向こうに鎖につながれた人の姿がある。ガラスを通して、鎖を解こうとする男を観察する白衣の学者たち。

 ここは、兵器開発施設。
 人の、兵器だ。

 戦える人。強靭な肉体を持つ、命令に絶対服従する都合のいい「ひと」を作るための、施設。

 どのような戦いも、ひとによってきまる。
 核兵器にしても、ボタンを押すのは人であるし、どのような武器も兵器も操るのは、ひと。

 それらを命令ひとつで完璧にやってのけ、自らの死さえもいとわない。
 そんな人物兵器を、ここでは生産している。

「こいつは、自我がありすぎる」
「なぜだ、他のものと同等に…」
「しかし、認識はできていまい」

 話し続ける学者たちの傍を通り、隣の資料室へと向かう。
 資料室には、膨大なデータが収納されており、極秘事項も多々ある。
 この部屋の資料は限られた人物しか閲覧できない。ライアは本来ならば入室も許されないのだが、施設責任者である父の許可で、特別に入室可能となっている。

 ライアは、データの中からNO,TUV-2080のものを探し出し、眼を通した。

「191/82,視力両眼3.5…」
 基本的な情報から、最近の評価までしっかりと読み、頭に叩き込む。
 どうやら、随分と背の高い男らしい。
 中には自我が強く、ここを抜け出そうとするモノもいるので、その場合の対処としてライアでは体格的にも不安が募る。
 とにかく、実際のNO,TUV-2080を見ないわけには、始まらない。


 ライアは父から渡された鍵を片手に、NO,TUV-2080が収容されている部屋へと向かった。

 研究対象となっている数千の実験材料たちは、個別の独房が与えられている。
 分厚い鉄の扉には錠前が二つ。
 扉の向こうは畳3畳ほどの場があり、そのうちの約一畳のスペースを囲むように鉄格子が存在する。
 そこに、実験対象は収容される。

 ライアは、部屋の手前で足を止めた。
 高鳴る心臓を押さえ、大きく息を吐く。


 ここは、何度きても慣れない。
 陰湿な雰囲気で、空気が重い。
 所狭しと並ぶ鉄の扉の奥には、ひとりひとりここで生み出された実験対象がいる。

 実験対象、と皆は呼ぶ。
 ここで作られ、ここで生まれたニンゲンたち。

 遺伝子操作により、より強靭な肉体を得た、人物兵器。
 命令に絶対服従で、与えられた使命を全うするために、存在する。



 初めて、この施設を見学にきたとき。
 ライアは、激しく嘔吐した。

 信じられなかった。
 ここで生まれたというだけで、家畜以下の存在として扱われ。
 ここで作られたというだけで、人々は自らを創造主のように相手を虐げる。

 相手は、生きているのに。



 ライアは大きく息を吸い込んだ。
 この先にいるのは、生きている人なのだ。

 その人物の、自分はこれから世話をする。
 深く関わることになるのだ。


 カチャリと錠前を外すと、意を決して扉を押した。





続きます。しばしば、お付き合いいただけると嬉しいです。











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