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無題の物語

作者:キュウ
3分程で読めるミニ短編です。
お茶やコーヒー片手にサクッと読んじゃってください♪
お話としては大した展開は無い、ほんとに軽いものですが、
束の間の休息にお楽しみいただけると幸いです。
 突如として、何の前ぶれも、脈絡も無く、私はその景色の中に居た。
 視界いっぱいに絶え間なく広がる青空と、インキを零したように溶け込んだ軽薄な白の雲。涼しくて心地の良い風が、私の肌を優しく撫でている。まだ、限り無く無いに等しい髪の毛も、水中に潜ったみたいにサワサワと揺れている。
 下を見ても、そこには同様に空が在った。どうも私は、この澄んだ空の中をふわふわと浮かんでいるようなのだ。
 やおら右手を軽く上げる。すると手の平の上に、小動物が愉快にあちこち這うような、ひんやりとした風がやって来た。左手にグッと力を込めると、身体がくるーりと回りだした。そのまま為すすべ無い人形のように風に煽られて、ずっと先まで続いている空へ向かって、無為な移動を始めた。
 ……ああ。私は何故こんなところにいるのか。ここは何処なのか。私は誰なのか。
 身体の浮遊感は心持ちにも及び、心身共に地に足着かずわずかな思考さえも億劫であるように思えてきた。
 なんの目的も持たない無題の私。ただひたすら、眼前の情景に気を寄せる私は、全くもって無の存在? 一切の時と過去の匂いが無いと見える私は、いったい何者なのか。
 出し抜けに背中を撫でられた。……気がした。
 またしても風に吹かれたのだろうかと思ったが、どうもそんな感触ではなかった。不思議なことに、私はその肌触りに訳も無く安堵を覚えた。さらに言うならば、撫でられたというその事実だけで、私は極楽の中に出戻ったような心地に陥った。風であったとしたならば妙に温かい香りの風であった。
 何かにつられるように視線を上げた。当然、空以外に何も在りはしない。それなのに私の瞳は、艱難辛苦の果てに見つけた宝石を、胸の高鳴りに煽られ手にする旅人のように輝いた。大切な何かが、そこに居る。
 ……もう少しで遭えるね。
 耳の奥でそんな声が響いた。穏やかな、女性の声だった。
 ……今までありがとう。これからも、君達二人は、この僕が護ってみせるよ。
 次いで、男性の声が響いた。「君達二人」とは誰のことなのか。このたてつづけに私へ語りかけた二つの声は、いったい何なのか、私にはまるで見当がつかないまま――。
 謎の声の検討もままならないうちに、私は、ずっと空の奥に、霧に包まれたような霞んだ太陽が在ることに気が付いた。さっきまでは無かったはずの陽光が、優しく、私の身体を抱擁するように照らし温めてくれる。
 その淡い光の中から、大きな手の平が私に向かって伸びて来ていた。得体の知れない、奇怪な景色であったが、私はこれっぽっちも恐怖しなかった。それどころかわずかながら高揚感を覚えていたものだ。それはすぐさま膨れ上がり、私は荒涼とした風のゆりかごに乗っかったまま、綺麗な素肌の巨大な親指を握った。
「……!」
 瞬間的に、私は私の存在を把握した。
 ああ。なんて心地の良い景色だったのだろう。ここから――この胎内から、間もなく出て行かなればならないのは、もの悲しく名残惜しいところである。だが私は、ここを出た後にこそ、絶え間ない空間の広がる、様々な香りの風が幾つも吹き付けるものの、高揚も痛みも全てが止めど無く流れる、不思議と愉快な景色が待っているのだと、根拠も無く確信した。
 万一にも不安や、不満や、不足に苛まれ続けるようならば、再びここに帰ってこよう。いやはたして、帰ってこられるのかどうか、私には判らないけれど、たとえ帰ることが叶わなくとも、同様の温もりを持っているはずの「貴方達」のもとへであれば、私は根拠など無用の長物と断じて帰ってこられよう。そうに違いないのだ。
 私が「無題」であったのは、まだ何一つ刻まれていなかったからだ。ならば私は、どのようなモノを、刻むべきなのか。
 それを考えるのは、ひとまず私が名の一つでも授かってからでいいだろうと思い、私は、迫り来る眩しい光に目を細めた。
お疲れ様でした♪
HP(→http://kyunote.blog.fc2.com/)にて
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