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  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
第二章 3.7
 荼毘の炎は夜空を焦がし、明け方に炭と化した。
 ガイルはこの大量な炭の中からどうやって遺骨を取り出すのか全く分からなかったが、マックスウェルやその部下の手で、数分と掛からずに綺麗に()り分けられた。
 布の上に置かれたアチャルの遺骨を見詰めていると、新たな悲しみがガイルの胸を刺してくる。
「ガイル。少しは寝たのか?」
 ガイルが顔を上げると、エルファンドが隣りに座ってきた。
 ガイルはエルファンドの言葉に首を弱く振り、用意されていた木箱にアチャルの遺骨を入れ始めた。
「――やっぱり悔しくて」
「そうか」
 エルファンドはそう呟いたきり、黙ってガイルの作業を見詰めた。
 ガイルは最後の遺骨を箱に収め、ゆっくり蓋をする。バタバタとその蓋に水滴が落ちていった。
 エルファンドはゆっくり立ち上がり、ガイルの震えている髪を見詰める。
今の彼にはそれしか出来る事がないからだ。同情も慰めも役には立たない。亡くした直後の慰めは必要かもしれないが、それ以上はいらぬ世話にしかならない。
「――くそっ! なんで泣けてくるんだよ!」
 ガイルは地面に何度も拳を振り下ろし、湧き続ける悲しみを打ち消そうとしていた。
「――ガイル。支度終わったか?」
 ガイルは何度か腕で顔を擦り、木箱を用意されていた布で包み立ち上がった。
「エルファンドさん。俺、絶対に帝国戦士になる、絶対護衛騎士団になる。アチャルと約束したから」
「そうか」
 ガイルはゆっくり頷き、胸元の木箱を見詰めた。
「ハンターと胸張って言えるまで、リルエルスには戻らない」
「そうか」
 エルファンドはガイルの横顔を一瞥し、出発準備に慌ただしくなっている広場を見詰めた。
「ガイル。マックスウェル様達に挨拶をして、先に立たせてもらおう」
 ガイルは頷きエルファンドと共に、マックスウェルの元に向かった。
 マックスウェルが気配に気が付き、二人に微笑んだ。
「準備は出来た?」
「はい。リルエルスまではかなりの距離なので、先に立たせていただきます」
 マックスウェルはエルファンドの言葉に頷き、ガイルを見た。
「ガイル、挨拶はいいの?」
 ガイルはマックスウェルの言葉に首を傾げた。
「え」
「あの三人の誰か、ガイルの彼女なんでしょ?」
「ち、違います!」
 ガイルは慌てて首を振った。
 マックスウェルは小首を傾げ、顎を軽く撫でた。
「あれ? 違うの? でも、満更でもないんじゃない? ルアンとレアンはハーマン子爵の娘だし、いろいろと美味しいと思うよ?」
「あの二人、ハーマン家の双子なんですか?」
 ガイルではなくエルファンドが反応したのに、マックスウェルを始め、竜王やキャロル、ガイルまで目を丸くした。
「エルファンドさん?」
「エルファンド、ルアンレアンを知っているの?」
 キャロルの言葉にエルファンドは苦笑いを浮かべた。
「いや、知っていると言うと語弊がありますが、名前だけは何度か……」
 マックスウェルはその言葉を聞いて、軽く手を打った。
「ああ。ハーマン殿は向上心だけは人一倍高いからなあ」
 ガイルは首を傾げながら、キャロルの部下と共に動いているルアン達を見た。その視線にキャロルの部下が気が付き、ルアン達に声を掛ける。ルアン達はガイルの出発に気が付き、走り寄ってきた。
「ガイル! もう出発するの?」
 ルアンの言葉にガイルは頷いた。
「リルエルスまでかなり距離があるからな」
「そっか。直轄区には帰ってくるんでしょ?」
 ルアンは腰袋を探りながら、ガイルに問い掛けた。
「ああ。すぐに帰ってくる」
 ルアンは袋から小袋を取り出した。
「あたしらはもう要らないからあげるよ。実家特製の干し肉。小腹空いたら食べなよ」
「あ、ありがとう。つかさ、ルアン達はエルファンドさんの事知ってる?」
 ガイルの問いにルファーナは首を振り、ルアンは首を傾げた。
「エルファンド…… どこかで聞いた事ある名前だなあ」
 レアンもしばらく首を傾げたが、ルアンを突突いた。
「姉さん。ウナルバ伯爵の」
 ルアンは思いっきり柏手を打ち、ガイルを見る。
「ああっ! 知ってる知ってる! 親父が結婚させようとしてるオッサンっ!」
「おっ、オッサン……」
 ルアンの言葉にエルファンドは肩を落とした。
「確かに君達から見たらオッサンな年齢かもしれないけど……」
 ルアンはエルファンドに首を傾げ、ガイルやマックスウェル達を見ると、マックスウェル達は笑いを堪えていた。ガイルにいたっては大笑いをしている。
「な、何がおかしいのよ! 何笑ってんのよ、ガイル!」
「だ、だって、だってよ。エルファンドさんがオッサンって……」
 ガイルは再び吹き出し、笑い出した。
 ルファーナとレアンはガイルの隣りに立つ肩を落としたエルファンドを見て、慌ててルアンの肩を叩いた。
「姉さん、謝って」
「なんで謝らなきゃいけないのよ! そもそも、なんであんな年齢のオッサンと結婚しなきゃいけないわけ? 噂じゃ女なんて興味ない同性愛者だって聞くし、親父と同い年なんだよ! 絶対に親父みたく毛むくじゃらで筋肉馬鹿で、超下品に笑うのよ! しかも見合いもしてないのに、奥さん候補ってなによ! 阿呆も大概にしてほしいわ!」
「女の子大好きなんだけどなあ」
 エルファンドはルアンに苦笑いを浮かべた。
 ルアンはエルファンドを見て、レアンとルファーナを振り返る。
「でしょ! ほら、このシヴァのお兄さんみたいに、女の子大好きなのがふ‥つ…… え」
 ルアンはようやく『謝って』の意味を理解した。
 エルファンドはルアンに笑い掛ける。
「はじめまして、ルアンマーナ・ウエリ・ハーマン嬢」
 ルアンはエルファンドを指差し、二、三歩、後ろに下がった。
「え、え、待って。お兄さんがエルファンド・アルスルーン・ウナルバ伯爵様?」
 エルファンドはルアンに苦笑いを浮かべた。
「そう。筋骨隆々で超下品に笑うオッサンで同性愛者の噂が立っているウナルバ伯爵家当主」
 ルアンは全力で頭を下げた。
「いやあっ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ! ウナルバ様、ゆるしてぇっ!」
 レアンもエルファンドに頭を深々と下げた。
「大変申し訳ございません、ウナルバ様。姉の数々のご無礼、どうかお許し下さい」
 エルファンドは笑いを必死に堪えているマックスウェル達を一瞥し、苦笑いを浮かべた。
「釣書は釣画もない簡単なモノしか出回ってないからね。尾鰭が付いてしまうのは仕方がないよ」
 ルアンは頭を上げ気味に、エルファンドの顔色をうかがっていた。
 エルファンドはルアンに笑い掛ける。
「オッサンはショックだけどね」
「ご、ごめんなさいっ!」
 再び頭を沈めたルアンとレアンの頭を、エルファンドは撫で微笑んだ。
「いいよ」
 ルアンとレアンはほっと胸を撫で下ろし、三度頭を下げた。
「ありがとうございます、ウナルバ様」
 エルファンドはルアン達に手をヒラヒラさせた。
「いいって。それに私がオッサンなら竜王様とマックスウェル様は、完全にお爺さんだしね」
「言ってくれるじゃないか、エルファンド」
 竜王はエルファンドに口の端を上げ、マックスウェルはエルファンドに笑みを浮かべた。
「ウチの平均寿命からいったら、僕はまだまだ青年期なんだけど?」
「私の家系からいっても、まだまだ青年期ですよ、私も」
 エルファンドはマックスウェルに笑い返した。
 ルアン達は顔を上げ、笑い合っているエルファンド達を見て、顔を合わせた。
 二人が知っている貴族は、爵位を笠に踏ん反っているのがほとんどだった。大抵そういう貴族はルアン達の職位を聞き、鼻頭に皺を寄せルアンの嫌いな言葉を口にする。まだ自分達だけを言われているならまだしも、同じ職種の女性達までも否定してくる。
 だが、ここにいる少なくとも爵位を持つエルファンドは違っていた。
 ルアンはレアンとルファーナにニンマリと口を引き上げた。ルファーナとレアンはそんな分かりやすいルアンに肩を竦ませた。
「なあなあ、ルアン。ルアン達の父ちゃんって、エルファンドさんと違ってそんなに熊なのか?」
 ガイルがルアンとレアンに苦笑いを浮かべた。
 ルアンはガイルに思いっきり頷いた。
「もうね、超熊っ! なんであんな熊にお母さんが惚れたのか分からないくらい熊っ!」
「でも、厳しくも優しい父です」
 レアンがガイルに笑い掛ける。ガイルはレアンに頷いた。
「そっか。いい父ちゃんなんだね」
 レアンはガイルの少し寂しげな表情に小首を傾げた。
「ガイルさん?」
「俺、親父死んじまってるからさ。ルアン、有り難く貰ってくよ。エルファンドさん、行きましょう」
 エルファンドはガイルに頷き、改めてマックスウェル達に挨拶をし、ガイルと共にリルエルスに向かった。
 レアンはガイルの背中を見詰め、目を潤ませていた。
「レアン、どうしたの?」
 ルアンがそう声を掛けると、レアンの瞳から雫が零れ落ちた。
「――お父様まで亡くされていたなんて……」
 ルアンはルファーナを見て肩を竦ませる。
 ルファーナはレアンを抱き締め、あやすように背中を軽く叩き始めた。その三人をキャロルの部下達が迎えにくる。
 レアンは涙を拭き、ルアン達と共に再びキャロルの部下達と帰り支度を始めた。
 キャロルは藪に隠れていくガイルの背中を見詰め、軽く息を()いた。
「――諦めてないだろうなあ」
「キャルだって、なかなか諦められなかったでしょ?」
 マックスウェルがキャロルを一瞥し、広場を見ながら口の端を上げた。
 キャロルは苦笑いを浮かべながら、頷いた。
「そうね。でも、ガイルとは敵の質が違うわ。私の敵は一個人の問題で片が付いたけど、ガイルの敵はそうはいかないでしょ?」
 マックスウェルはキャロルに微笑んだ。
「まあね」
「で。キースはどうしたの?」
 マックスウェルはキャロルに微笑み、広場の端を指差した。木の下にジーッと犬座りをしているキースがいる。
「今朝方、僕を襲おうとしたからね。あそこに縛ってある」
 竜王とキャロルは驚いたようにマックスウェルを見た。
「お前を襲う?」
「キースが目を覚ましていれば、そんな事しなかったんだろうけど、今はキースがいう青と赤だけだからね。赤子が乳を欲しがるのと同じさ。大地の記憶によれば、キースはかなり力を使ったからね。
十三体のアンデッドを十数秒で肉片に変えたのはキースだよ。キースが殺ったアンデッドは復活してない。キースが会得していた対アンデッドの術は効くみたいだね」
 キャロルと竜王は犬座りのキースを見た。
「キースの術って」
 マックスウェルはキャロル達に片目を瞑った。
「魔光界直系術。あの子の魂は魔光界直系術しか扱えないんだよ」
 竜王はマックスウェルを見た。
「――それってよ」
 マックスウェルは竜王に微笑んだ。
「なに?」
 竜王はマックスウェルに首を振った。竜王は聞かなくても分かっている事を聞こうとしていたのだ。

 マックスウェルは竜王に微笑み、キースを見詰めた。

「まさかここまで絡んでくるとは思わなかったけどね」



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