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  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
第二章 3.4
 ガイルは、目の前の現れた惨状に眉を顰めた。
 十数体の屍がそこには転がっている。その内の四人がどうやらルアン達の仲間内だったようだ。だが、五体満足だったはずの身体が三体になったり、二体になったりしている。
「ガイル、立ち止まるなっ!」
 追い抜いていくキースを、ガイルは慌てて追いかけた。
「キース、あれはなんだ!」
「俺にだって分からない! 言える事はアンデッドの一種だ! でも、こんなアンデッド聞いた事ない!」
 キースはそういいながら、下半身が千切れた、熊のような人間のような分別不能な屍を飛び越えた。
「ア、アンデッドだと! なんで昼間っから動いてるんだよ! しかもここは魔界ゲヘナ域も冥界ハデス域も絡んでないぞ!」
 キースは、数体の動いている熊のような人間のような分別不能なアンデッドと対峙している女戦士の前に飛び出した。
助太刀すけだつっ!」
 ガイルはそのまま、アンデッドに斬り込んでいく。
 キースの両手から赤と青が飛び出し、アンデッドを切り刻んだ。
 女戦士はガイルの脇を抜け、森の奥に向かっていく。
 キースは後ろからくる撫子の気配を読み、赤と青を繰り出しながら、アンデッドとやり合っているガイルの脇を通り過ぎた。
「俺はあの女戦士を援護する! ここは任せた!」
「了解!」
 キースはガイルの返事を背で聞き、鈍色にびいろの長髪をなびかせる女戦士を追尾した。
 鈍髪にびかみの女戦士はキースを一瞥し、再び前を見据えた。
 キースは鈍髪の女戦士の横に並び、右掌から剣を出す。
助太刀すけだつ
 鈍髪の女戦士は再びキースを一瞥し、小さく頷き、大きく地面を蹴り上げた。
 目の前に飛び出してきたあの分別不能なアンデッドを飛び斬りする女戦士に、キースは軽く口笛を吹く。一見、力任せに叩き斬っているように見えるが、剣に旋風術が纏わりつくように掛かっていて、アンデッドは風圧で真っ二つに裂かれていく。
 女戦士は硫黄にも似た悪臭を放つ返り血を浴びる事なく、二つに裂かれたアンデッドの間を飛び越え、さらにその後ろにいたアンデッドに斬り掛かっていく。
 キースもその脇に並び、アンデッドに剣を一振りする。
アンデッドは斬殺距離に入ってなかったにも拘わらず、その場で一瞬にして解体された。アンデッドの首は目を見開き、通り過ぎていくキースを、地面に落ちながら見詰める事しか出来なかった。
「――対アンデッド用の術は一応効くみたいだな」
 女戦士はキースを再び一瞥し、森のさらに奥を指差し、走り出した。
「なに」
 女戦士は口を一文字にし、指差す腕に力を入れる。キースは藪の向こうにさらに十数体のアンデッドがいるのに、気が付いた。だが、アンデッドはキース達に背を向けている。
 キースは女戦士の腕を掴み引き止めた。
 女戦士は眉間に皺をキツく刻み込み、キースの横顔を睨み付ける。
「めんどくさいから一掃する」
 キースはアンデッドの後ろ姿に手の照準を合わせ、口の端を上げた。
「赤、いけ!」
 キースがそういい終えるかいなか、赤キースが弾丸のようにキースの掌から飛び出し、標的となったアンデッドを飲み込み紅蓮の猛火と化した。
 その隣りにいたアンデッドは、突然、燃え上がった仲間に驚き、後ろを振り向きつつ立ち上がり、手にしていた物体をキースに投げ付けてきた。
 キースはそれを軽く避け、腕を横に振る。
「赤!」
 そのアンデッドも隣りの炎を被るように、燃え上がる。
 キースはアンデッドが投げ付けてきた物体を見下ろし、全ての動きが止まった。キースの足元に転がるのは華奢な色白だったと思われる腕。まだ、肉が付いている手首には、血色に染まった腕輪が着いていた。
 キースの脳裏に銀色に光る腕輪をした手首を掲げ、嬉しそうに微笑む愛しい顔が浮かんでくる。
 キースの髪が一瞬にして総毛立ち、襲いかかってくる十数体のアンデッドに両掌を向けた。
「っえらあああっ!」
 両掌から紫苑色の光渦が発せられ、アンデッド達は次々と切り刻ざまれ腐敗肉片と化していく。
 隣りにいた女戦士はキースの変貌に慌て、来た道を戻っていった。
 キースは最後のアンデッドが切り刻まれるまで、掌から光渦を出し続けた。
 ベチャとアンデッドだった肉片が腐敗した体液や血液の海に落ちる。
 キースは足元にあった腕を抱き締め、腐敗肉の海を藪と共に飛び越え、その場に散らばる、まだ肉片の付いた骨を掻き集め出した。
「――んで、なんでだよ! なんでなんだよ、アチャル!」
 キースは泥に血みどろなアチャルの頭部を抱き抱え、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
「キース! いったい何があったんだ!」
 藪を飛び越えて来たガイルはその異様な光景に足を止める。骨に囲まれ、背中を丸め座り込んでいるキース。
「な、なにここ!」
 ルアンはガイルの隣りに立ち、辺りを見渡して愕然とした。
 キースの周囲だけではなく、人為的に切り開かれた広場に散らばる無数の骨。中には動物の頭蓋骨もあるが、明らかに頭部の大半は、人間の頭蓋骨や腐敗が始まっている頭だった。
「ちょ! レ、レ、レ、レアン! 警羅に連絡してっ!」
 ルアンが振り返ると同時に、レアンは鈍髪の女戦士に倒れ込んでいた。
「レアン!」
 ガイルはその声で我に返り、女戦士三人を振り返った。
「だ、大丈夫か?」
 鈍髪の女戦士はガイルに頷き、レアンを支え直す。
「キース、いったいどうしたんだよ」
 ガイルはキースの側により、キースの胸元にある頭部を見て、その場に膝を崩した。
「う、ウソだろ…… ウソだって、ウソだって言ってくれよ! なんで! なんで! なんで、アチャルが!」
 ルアンも鈍髪の女戦士も驚いたように、ガイル達を見た。
「ルファーナ…… ガイル、今なんて言った?」
 ルファーナは眉間の皺を深く刻み、ルアンに絶望的な首振りを見せた。
「ウソ、ウソでしょ!」
 ガイルは叫び声に似たルアンの声にバネのように立ち上がり、次の瞬間、ルアンの胸倉を鷲掴みしていた。
「なんでアチャルを一人にした! お前ら、帝国戦士だろ! お前らの所為だ! アチャルを、俺の妹を返せ!」
 ルアンは大粒の涙を流すガイルの瞳を見詰めたまま、何も言い返す事が出来なかった。
「――さい、ガイルさん。ごめんなさい、ガイルさん」
 ガイルの拳に触れる震えた色白の指があった。その瞬間、ガイルの拳はレアンの胸元を捕らえていた。
「お前に謝られたって、アチャルは生き返って来ねえんだよ!」
「ごめんなさい、ガイルさん…… 私達がもっとしっかりしてれば…… 私達がもっと上位戦士だったら…… ごめんなさい、許してとはいいません…… ガイルさんの気が晴れるなら、このまま…… このまま、私を、私を殺して下さい」
 レアンは瞳を閉じ、ガイルの腕に両手を添えた。
 ガイルはレアンの首に手を掛け、親指を内側に絞るように力を掛けた。
「ダメ! レアンは関係ない! 殺るならあたしにしなさいよ!」
 ルアンは泣きながらガイルの腕にしがみついた。
 ガイルはレアンの首から片手を離し、ルアンの首を鷲掴みにする。その途端、勢いよく三人共に叩き飛ばされた。
 ガイルはすぐに起き上がり、鞘ごと剣を振りかぶって、ガイルを睨み付けるルファーナを見た。
「なにすんだ!」
 ルファーナは鞘を振り外し、ガイルに切っ先を突き付ける。
 ガイルも咄嗟に剣を抜こうと構えたが、赤茶色の瞳とコバルトブルーの瞳から大粒の涙が零れているのに気が付いた。
 ルファーナはガイルに首を振り、切っ先をさらに突き付け、口を開いた。だが、ルファーナの口からは何も聞こえてこない。それでもルファーナはガイルに向けて大きく口を開く。
「――ガイルさん、ルファーナは話す事が出来ないんです……」
 レアンは喉元を押さえ少し咳き込みながらゆっくりと体を起こし、ガイルを見上げた。
「え」
「ルファーナは幼い頃、実母に殺されかけて、その時、声を失ったそうなんです…… でも、ルファーナが言いたい事は分かります。たぶん、私達を殺るなら、自分を殺してからにしろって言いたいんだと思います」
 ガイルは黙ってルファーナを見詰めた。
「――ガイル、そんな事してもアチャルは返ってこない」
 ガイル達は慌ててキースを見た。キースは全く微動だにしていなかった。
「キ、キース?」
「アチャルはそんな事望んでない。ルアン達が悪かったら、俺達だって悪い」
 キースはゆっくりと立ち上がり、手を軽く下から振り上げた。キースの前に幼いキースを模した青が飛び出し、首を傾げてキースを見た。
「マックスウェルさん、呼んでこい」
 青はしばらく考え、両手を打ち、大きく頷いた後、青い光になって空に消えていった。
「なんでマックスウェルさんなんだ?」
 キースはガイルを一瞥し、アチャルの頭部を撫でる。
「こんな事例、警羅じゃ困惑して混乱するだけだ。数々の書籍を目にしてきたたけど、あんなアンデッドは見た事も聞いた事もない。ただ、分かったのはあれは意図的に誰かが造り出したって事だけ」
 キースは突然、顔を上げ、森がさらに続いている奥を見詰めた。
「どうした」
 キースは上身の布を切り裂き、アチャルの頭部を優しく包み込んだ。
「ガイル」
 ガイルは慌ててキースの側に行くと、キースはアチャルの頭部を差し出した。
「ちょっと、持っていてくれ」
 ガイルは黙ってアチャルの頭部を受け取る。今すぐにでも目を覚ましそうなアチャルの表情に、ガイルは再び泣けてきた。ガイルはアチャルの頭部を抱き締め、膝を崩す。
「ア、アチャルウゥ!」
 キースはガイルの頭部を見詰め、森の奥へと向かった。
 キースは藪を越えると、突然、腕を下から振り上げ、樹の幹に赤い球体を放った。球体は幹に当り爆ぜ、その箇所に焦げを残す。生木が焦げた青臭い異臭が煙と共に立ち上ぼると、キースはその樹を睨み付けた。
「――出てこいよ」
 周囲にいる生き物全てが息をひそめ、静か過ぎる空間にキースの声だけが響き消えていった。
「出てこいよ。それと、上にいるヤツも降りてこい」
 キースと樹の間をゆっくりと風が、何度か吹き抜けていく。キースはその間も微動だにせずに樹を睨み付けていた。
「――そこにいるのは分かっているんだ、イサ・スドー」
 森が再び静けさを取り戻すと、樹上から溜め息が聞こえ、樹裏から舌打ちが聞こえてきた。
「ばれちゃ仕方ねえな」
 樹裏から肩を竦ませながら、イサ・スドーが出て来た。イサは漆黒の裾の長い服と黒く鈍く光る軽甲冑を身に纏い、両脇に太刀をしている。
「――やはり胡散臭いガキだったな」
 イサの脇に一人の男が飛び下りてきた。肌と白い服以外全て銀色の男。甲冑も木漏れ日に当り銀色に輝いていた。
 銀色男はキースを一瞥し、イサに肩を竦ませた。
「なんだかなあ、こいつ。いきなりつっ掛かってくるガキには用ないんだけどなあ。で。こいつナニモン?」
「何の因果か隣りに越して来たヤツ。魂からして胡散臭いガキ」
 銀色男はキースを見やり険しい表情になった。
「ホントだ。すげえ胡散臭うさんくせえ」
 イサは肩を竦ませ返した。
「まさかこんなのが隣りに引っ越してくるとは、誰も思わないだろ?」
「イサはあれだっけ? 死神ムァウト館だっけ?」
「そう」
 イサは銀色男の表情に苦笑いを浮かべた。
「相変わらず苦手?」
 銀色男は肩を竦ませた。
「遊びに行くにはいいんだけど、仕事ん時は極力行きたくない場所だ。ま、これも律なのかねえ。 ――まあいいや。で、そこのガキ、なんの用だ? 俺達は忙しいから手短によろしく」
 銀色男はキースに口の端を上げた。明らかにキースをバカにした笑みだった。キースの拳がそのふざけた態度に震え始める。
「――お前らは、お前らは、アチャルを見殺しにした」
「アチャル? ああ、あの喰われちゃった女の子か。ありゃ、確かに美味そうな女の子だったな」
 銀色男は再び口の端を上げる。
「美味しそうな身体付きだったし」
 銀色男とイサは咄嗟に左右に飛び分かれる。樹に赤い旋光が当り爆ぜ、さらに大きく焦げ跡を残した。キースの髪が怒りで少し膨らんでいる。
 銀色男は軽く顔の前で手を振り、煙を拡散させる。
「――怖いねえ。俺らをあいつらみたいに燃やそうっての?」
 銀色男はキースに三度口の端を上げた。
「そんなに大事だったなら、肌身離さず抱き締めてりゃ良かったんじゃね?」
「なんで見殺しにした! それでも人間か!」
 イサはキースに苦笑いを浮かべる。
「これでも人間なんだけどな。ただ、こちら側にも事情がいろいろとあってね」
 キースはイサを睨み付ける。
「だからって見殺しにしていいわけがないだろ!」
 銀色男は肩を竦ませた。
「青いねえ、実に青い。俺らは見殺しにしなきゃいけなかったの。助けたりしたら、それこそ俺らが殺られちまう」
 キースの髪がさらにに膨らんだ。
「なに」
「聞こえなかったか? 誰でも自分の命は惜しいだろ? オトナの社会はお前さんが思っている以上に複雑怪奇なんだよ」
 銀色男は肩を竦ませた。
「だからって、見殺しにしていいのか!」
 キースは銀色男の胸倉を掴んだ。銀色男はその腕を避けきれず、目を丸くしたままキースの瞳を見詰めていた。
 イサは口笛を吹く。
「こいつはすげえ。ジークが引っ掴まるとはね」
 イサにジークと呼ばれた男はキースを見詰めたまま、眉間に皺を寄せた。
「――こいつ、双眸のアメリクサかよ。つか、うわ、ヤダねえ、黄金きんの乙女と接触ありじゃん!」
 イサはキースの腕に光る黄金の細いバングルを見詰め、思いっきり溜め息を吐いた。
「骨折り損かよ……」
「ああもう、嫌んなるなあ! あの人が絡むと仕事が遣り辛いんだよ!」
 ジークはキースの腕を掴むと、意図も簡単に自分の胸倉からキースの腕を剥した。
 キースは驚いたように自分の力が入った手を見詰める。無理やり剥されたわけでもない。まるで空気のようにジークの服の感触が掌から消えていったのだ。
 ジークはキースの頭を軽く叩く。
「お前さんが初だぜ。仕事の俺の胸倉掴んだヤツは」
 キースが慌てて顔を上げると、ジークとイサの姿が空気に溶けていく。
「なっ! に、逃げるのか!」
「こういう場合は、逃げるが勝ちさ。悪いが消させてもらうよ」
 ジークがニンマリと口の端を上げた途端、キースの膝が力なく折れ、その場に崩れ落ちた。




↓後書きはこちら!↓
小説『グロッサム』後書き
(剣崎輝のBlogカテゴリーになってます)

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↓キースとガイルの少年時代↓
Be born to something- CHILDHOOD'S END-

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