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  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
第二章 3.3
 キースとガイルが帝王領バルファム郷の宿場街道に着くと、何か騒がしかった。
「なんだ? 喧嘩か?」
 ガイルが首を傾げながら、人だかりに寄っていく。キースは肩を竦ませ、その後を追っていった。
 ガイルが野次馬越しに人だかりの中心を見ると、情報掲示板があった。
「えーっとなになに。バッグフィート郷ジレン庄からの街道筋にて、行方不明事件多発中。早朝夕方夜間の通行は特に危険。注意されたし」
 ガイルはキースを慌てて振り返った。キースも眉間に皺を寄せ、ガイルを見詰めていた。
「キース」
「まだ日が高い。行けるとこまで行ってみよう」
 二人は人だかりから足早に離れ、バルファム郷からさらにウバルナ領バッグフィート郷に向かった。



 二人が宿場街道から離れ、領境に広がる森の街道に入ると、前から若い女戦士が二人走ってきた。
「ちょっと、あんた達、バルファムから来た?」
 ガイルはその焦っている女戦士達に首を傾げ、頷いた。
「そうだけど」
 赤茶色の髪を頭の天辺から結った女戦士は、後に続いていた薄茶色の長い三つ編みを肩に垂らした女戦士を振り返った。三つ編みの女戦士は赤茶色の髪の女戦士に水晶玉を軽く投げ渡す。
 赤茶髪の女戦士はその水晶玉をガイル達に見せた。
「この子、見掛けなかった?」
 ガイルとキースは水晶玉を覗き込み、慌てて顔を上げた。
「アチャルがどうかしたのか!」
 ガイルが口を開こうとしたより早く、キースが女戦士に言葉を投げ付けていた。ガイルはその一瞬のキースの感情の起伏に目を(しばたた)かせ、それと同時にアチャルの兄として、キースの反応が嬉しくもあった。キースが確かにアチャルに惚れている。その反応でさらにはっきりしたからだ。
 赤茶髪の女戦士は水晶玉を三つ編みの戦士に返し、拳を腰に当て、ガイルとキースを見た。
「あんた達知り合い?」
 キースは息を軽く吐き、赤茶髪の女戦士に苦笑いを浮かべた。
「取り乱してすまない。俺はキース、こいつはガイル。水晶玉に映っていた女の子アチャル・ゼベッツは、俺の恋人で、ガイルの妹だ」
 赤茶髪の女戦士と三つ編みの女戦士は顔を見合わせ、再び、二人を見た。
「あたしはルアン、連れはレアン。ジンレの旅籠でアチャルちゃんと知り合って、途中まで一緒に来てたんだけど、戻ってこないんだよ」
 赤茶髪の女戦士ルアンは眉間に皺を寄せた。
 ガイルは首を捻る。
「戻ってこない?」
 三つ編みの女戦士レアンが頷き、ガイルを見た。
「ええ。一応声を掛けて森に入って行ったのですが、もう一刻も戻ってこなくて……」
 ガイルとキースは顔を見合わせた。ガイル兄弟の連絡手段でもあるフクロウは、親しい人間以外には姿を見せない。
 特にアチャルはフクロウと意思疎通が出来る。それがゆえに、偏見の目を嫌っていたアチャルは、特に人目を憚るようにしていた。
「バッホか」
 キースの言葉にガイルは頷いた。
「だな」
「とにかく、アチャルちゃんと別れた場所に仲間待たせてるから、一緒に来て」
 キースとガイルは顔を見合わせ、走り出した女戦士達の後を追い、すぐに追いつき並走した。
 ルアンはガイルとキースを一瞥し口をヘの字に歪める。
「なんかむかつく」
 ガイルはルアンを驚いたように見た。
「は?」
「帝王戦士でもないヤツに追い付かれるなんて、屈辱だわ!」
 ガイルはキースを振り返った。
 キースは肩を竦ませ、隣りを走るレアンを見た。
「帝国戦士なの?」
「はい。私はナイト一級術士、姉はナイト一級剣士です」
 ガイルはルアンの横顔を見た。
「姉?」
「悪いか! レアンとは似てないけど双子なんだよ!」
「別に悪かあないけど」
 キースは口に拳を当てがい笑いを堪えていた。レアンはキースを横目で見て肩を竦ませた。
「姉は殿方に負けるのが嫌みたいで」
「――だろうね。そんな感じがする。ルアン‥って呼んでいいかな」
 ルアンはキースを少し振り返るが、ガイルから一〜二歩遅れをとったのに気が付き、さらに足を上げガイルに並んだ。
「勝手にどうぞ!」
「じゃあ、遠慮なくそう呼ばせてもらうよ。ルアンの隣りを走っているガイルは狩人だ。走る事に関していえば、かなり早いよ。ヴァムスや鹿を追いかけるのが日常だったからね」
 ルアンはガイルを一瞥して、口の端を下げた。
「やっぱりむかつく。アチャルちゃんの兄貴って事は推薦枠で試験受けるんでしょ?」
「え、まあ、そうだけど」
「竜王様から推薦貰ってるんでしょ?」
 ガイルはルアンの不機嫌な横顔を見詰めた。
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
「あんた、知らないんだろうけど、竜王様はめったに推薦しない人なんだよ。護衛騎士団頭が推薦した連中は試験なんてあってないようなもの。入隊しても何かと目を掛けられるし、一般入隊者とは一線画されてるんだよ」
 ガイルはルアンの言葉を聞いて、肩を竦ませた。
「うえ…… それ、嫌だなあ」
 ルアンは驚いたようにガイルを見た。
「は? あんた馬鹿じゃないの! 入隊前から目を掛けてもらって、何が嫌なのよ!」
 ガイルはルアンに笑い掛けた。
「俺的には腕一本でガシガシ上がって行きたかったんだよねえ。そんな目を掛けられてたら、面白くないじゃん」
 ルアンはガイルの言葉で不機嫌さが飛び、声を上げて笑い出した。
「あんた、面白いね! 護衛騎士団の推薦を受けたヤツは知らないけど、他の推薦枠の連中って鼻持ちならないのが多くて、うんざりしてたんだけど、あんたは違うや!」
 ガイルはルアンに笑い掛けた。
「そう? でも、推薦貰っているけど、俺の腕なんてまだまだだしさ。あ、そうだ、ルアン!」
 ガイルはルアンの前に飛び出し、後ろ向きに走り出した。
「直轄区に帰ったらさ、手合わせしてくれよ!」
 ルアンはガイルをしばらく見詰め、首を振った。
「コケるよ」
 ガイルはルアンの横に並び、首を傾げる。
「なあ、いいだろ?」
「嫌だ」
「なんでだよ」
 ルアンは再び悔しそうに口を歪めた。
「改めてあんたを見たけど、あたしの方が弱い」
「それはどうかな」
 キースがルアンの背中に声を掛けた。
 レアンは不思議そうにキースを見上げる。
「私も姉の方が弱いと思うのですが」
 キースはレアンに微笑み、答えを待っているルアンの背中を見た。
「ルアンは仮にもナイトって位を持つ帝国戦士だ。入隊してナイトになるまでに会得した戦闘術がある。戦争になれば女戦士は大多数男戦士とやり合わなきゃいけないわけだろ? 確かに力じゃ敵わないかもしれないけど、戦術があるじゃないか」
「なるほど。それは一理ありますね」
 レアンは納得したように頷いた。
 ルアンがガイルを見ると、ガイルはニッと口を広げた。
「な。俺だって勝てると思っちゃいねえよ。剣術なんてほとんど自己流だし、基本は寺子屋の道場で習っただけだし」
 ルアンは肩を竦ませた。
「分かったよ。でも、やっぱり、あたしの方が弱いと思う。なんとなくそんな気がするだよね」
「そうかあ? それよりナイトって普段どんな事してるんだ?」
 ルアンは再び肩を竦ませ、ナイトの平均的な日常を話出した。
 レアンはルアンの顔を見て胸を撫で下ろした。
「良かった」
「何が?」
 キースはレアンを一瞥し、話が弾んでいる二人を見た。
「レアンって呼んでいいかな?」
「ええ。皆さん、そう呼んで下さいますし。それに多分、年齢も近いでしょうし」
 レアンはキースに笑い掛けた。
「で、何が良かったの?」
「姉の機嫌が直ったからかしら。殿方には本気で負けたくないようで、つっ掛かっていくんです。見てる私はいつも冷や冷やさせられます」
 キースは自分と少し距離が開いたルアンの背中を見て、苦笑いを浮かべた。
「なるほど。で、レアン達は貴族だね?」
 レアンは驚いたようにキースを見た。
「なんで分かるのですか?」
 キースは苦笑いをしながら、レアンを指差した。
「服がね、仕立てが良さげだし、軽甲冑もいい物つけてるしね。それより、ルアンに合わせて走るの辛くない?」
 レアンは苦笑いを浮かべたまま、黙って頷いた。
 キースは指を軽く鳴らす。その瞬間、レアンの足元に風が舞い、レアンが浮かび上がった。
「それに乗っていれば大丈夫」
 レアンは足元に不可視な板があるように思え、次の瞬間、キースを慌てて見上げた。
「こ、これって風圧系浮遊移動術の一種じゃ」
「そう。でもね、レアンとは術系統が違うから教えられない」
 レアンは再び足元を見て、溜め息を吐いた。
「術陣を書いたり術文を唱えたりせずに、こんなに高度な術を使えるなんて羨ましいです」
「そう? それよりアチャルが消えたトコロって、森は深いの?」
 レアンは首を傾げた。
「えーっと、この辺と同じくらいな感じに木は生えてました」
 キースは街道脇に広がる森を見て、眉間に皺を寄せた。森に何か違和感がある。
 キースは立ち止まり、街道脇の森を振り返った。その違和感は振り返った先にあった脇道から始まっていた。
「――なんか変だ。ガイル!」
 ガイルは振り返り、キースの視線の先を見て、ガイルも眉間に皺を寄せた。
「なんだ? 森の気が変だ」
「いきなり止まらないでよ! どうしたの?」
 ルアンは三人に近寄ってきた。
「森が(ざわ)ついてるんだよ」
「森が(ざわ)つく? レアン、分かる?」
 ルアンはレアンに同意を求めると、レアンも首を傾げた。
「私、地はあんまり得意じゃないから」
「どうしたのよ、二人とも。もう少し行ったら、仲間がいる所だから」
 森から一陣の風が吹いてきた。その風に生臭い匂いが乗ってくる。
 ガイルの鼻がヒクついた。
「――血の匂い」
 ルアンも眉間に皺を寄せる。
「――これ、ルファーナの風術だわ!」
「え!」
 レアンが驚いたようにルアンを見た。
 その瞬間、キースとガイルが森に飛び込んでいく。
「あんた達!」
「そのルファーナとかいうヤツ、襲われてる!」
 ルアンとレアンは顔を見合わせ、慌ててキース達の後を追った。
 キースは距離が徐々に離れていくルアン達を一瞥し、指を鳴らした。突然、ルアンの身体が浮き上がる。
「な、なに!」
「撫子さん、頼んだ!」
「はいはい。ホント、女の子には甘いんだから」
 ルアンは背後の声に驚き、慌てて振り返った。そこに全身撫子色に透けた女性が立っていた。
「な、なに!」
「初めまして、お嬢様方。あるじに貴女方の援護を仰せつかりました、撫子と申します」
 レアンはマリアラードを呆然と見つめている。ルアンはレアンを一瞥し、歩いていないのに辺りが動いているのを見て肩を竦ませた。
「やっぱりむかつく」
「男とまるっきり同等になろうなんて考え、捨てた方がいいわよ。男には男にしか出来ない事があり、女には女にしか出来ない事がある。それが自然の条理。剣術も幻魔術も同じ事がいえるわ」
 ルアンはマリアラードを見て、口の端を下げた。
「でも、悔しい。あたしは血反吐吐いてここまで上がって来たのに、あの二人は絶対に軽々上がってくる」
 マリアラードはルアンの頭を撫でた。
「それはないわね。個々の才能が高かったとしても、集団で動く基礎を習わなければ、そんな才能は無いに等しいわ。ダークハンターに上がるまではみんなドングリの背比べよ」
 ルアンはマリアラードの言葉を反芻し、大きく頷いた。
「なるほど。で、お姉さんはいきなり現れたけど、何?」
「魔光界宮廷術士の祖、マリアラード・ハイリッシュ魔術大師。またの名を聡明の撫子」
 レアンがマリアラードを見詰めながら、マリアラードの生前を口にした。
 マリアラードはレアンに笑い掛ける。
「良く勉強してるわね、半分正解よ。今は身体が朽ち、紆余曲折があって、キースに吸収されたただのアメリクサにしか過ぎないわ」
 レアンは森を飛ぶように走るキースの背中を見た。
「アメリクサを吸収する? 彼は魔光界直系術士って事ですね」
 ルアンは肩を竦ませた。
「良く分かんないけど、キースは才能に溢れてるんだ。お姉さんみたいなすごい人をこき使えるんだから」
 マリアラードはルアンの言葉に肩を竦ませた。
「あなたには分からない事かもしれないわね。こき使う使わないの問題ではなく、私は彼の一部なのよ」
 ルアンは再び肩を竦ませた。
「いいの、別に理解しようと思ってないから。キースがすごいってだけ分かれば私はそれでいい。多分、あのガイルもそれ相応の力を秘めてるんでしょ?」
 マリアラードはキースと共に走るガイルの背中を見た。
「そうね。簡単にいうなら、ガイルは血が違い、キースは魂の生まれが違うっていえば、いいかしら」
 ルアンは二人の背中を見て、大きく肩を竦ませた。
「やっぱりね。普通の人間じゃないんだ」
「姉さん。その言い方失礼だわ」
 レアンはルアンをキツく睨み付けた。レアンはマリアラードとルアンを見て、今度は首を竦ませた。
「悪気あって言ったつもりはないんだけど……」
「それは悪気がなくても言ってはいけない事。姉さんだって散々嫌な思いしてきてるでしょ、子爵の娘だからって。姉さんは同じような事を口にしたのよ」
 ルアンはレアンの言葉を神妙な面持ちで、頷いた。
「ごめん、レアン。気を付けるよ」
 レアンはルアンに頷き、笑みを浮かべた。
「うん。分かってくれたならいいの」
 ルアンがレアンに苦笑いを浮かべると、また、突風が森の樹々を大きく揺らした。
 マリアラードは二人の背後から手を前に延ばす。レアンとルアンの周囲で、青白い光がさざ波のように揺らめいた。
「なっなに!」
 ルアンは辺りを見渡し、マリアラードを振り返った。
「何が起きたの?」
「斬旋風術を防いだだけよ。この術使っている子、魔術剣士ね」
 ルアンもレアンも首を傾げる。
「うーん…… ルファーナは確かに術も使える剣士だけど、剣士登録だよね?」
 ルアンはレアンに同意を求めるように小首を傾げた。レアンは頷き、マリアラードを振り返る。
「ハイリッシュ様。ルファーナは確かに術は使えますけど剣士登録です。それに術を術として意識して使っているのではないようなんですよ」
 マリアラードはレアンに苦笑いを浮かべた。
「その名は身体が朽ちた時に捨てたわ。マリアラードか撫子と呼んで。――そう、本能的に術を使っているのね。で、自分では制御出来ていないって事か。取りあえず、戦闘体制になりなさい、二人とも。敵は近いわ」
 ルアンはレアンの斜め前に出、抜剣し、身体の前に構えた。レアンは空間から杖頭に乳白色の輝石が付いたロッドを喚び出し、両手で持ち構え、前方のキース達を見詰める。
「ガイルさん、キースさん! 微力ながら魔術援護します!」
 キースの腕が軽く上り、レアンの声に答えた。
 マリアラードは進行速度を早め、キース達の後ろにルアンとレアンを運んだ。
「ガイル、キース。二人を気にせず、思いっきりやっちゃいなさい」
「撫子さん、了解!」
 ガイルは藪を飛び越えた。


↓後書きはこちら!↓
小説『グロッサム』後書き
(剣崎輝のBlogカテゴリーになってます)

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↓キースとガイルの少年時代↓
Be born to something- CHILDHOOD'S END-

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