第二章 2.7
ガイルは前を歩く二人の黒髪の男を見詰め、軽く溜め息を吐いた。
「お? どうした、若いの?」
肩に乗っている小さい老人がガイルの横顔を見た。
「ん? 俺、田舎育ちだからさ、なんていうのかなあ、力のある人に会うのって、少なかったんだよね。竜王さんに推薦もらってさ、すんげえ自信マンマンでここに来たんだけど、なんか……」
老人は顎鬚を撫で、大きく頷いた。
「なるほど。お前さんの自信がグラついてるんじゃな。その選考会とやらは分からんが、あ奴等を見て、グラつくのは変じゃないのか?」
「だってさ、イサさんは絶対に力がある人なのに、ダークの銀なんだぜ。それにハーツさんや竜王さんを見てると、俺なんてぜってー、吹けば飛んじゃうし」
「お前さんは馬鹿だな」
ガイルは老人の言葉に口を尖らせた。
「そりゃキースに比べたら馬鹿だけどさ」
「そもそも、あ奴等とは生きた年数が違うじゃろ。そのダークとやらが力の順位なのか?」
「うーん。精霊にもランクがあるだろ? 精霊の場合だと純粋に力のランクだけどさ。ダークとか護衛騎士団って、戦士の位なんだけど、実力で上がっていくのもそうなんだけど、位を上げるには試験があるんだ。大抵、試験を受けて受かれば、位が上がっていくんだよ」
「じゃあ、あの男は試験を受けないって事なんじゃないのか?」
ガイルはイサの背中を見詰めた。
「あ、そうか、それもあるか。でも、実力があるのに、なんで上がりたがらないのかな」
「お前さんな。人には人の事情ってもんがあるだろうに」
ガイルは老人を見詰めた。
老人は顎鬚を撫でながら、イサの背中を見詰めている。
「上がりたがらない事情?」
「そうじゃ。お前さんはまだ若木のように真っ直ぐ育っているようじゃが、成木になればなるほど、それぞれに事情を抱えるもんじゃて」
ガイルは薄暗くなった森を見渡し、頭を掻いた。
「大人になるって、なんかめんどくさいな」
「そうさの。いきなり成木になるわけじゃない。徐々に育っていくのじゃ。きっとあ奴等も、お前さんぐらいの時はお前さんのようだったはずじゃ」
ガイルは老人の顔を見た。老人はガイルの目が丸くなっているのに、苦笑いを浮かべる。
「目から鱗かい?」
「すんげえ納得した。俺はこのまんまでいいって事だよな?」
「そうじゃ。焦る事はない。成長に必要以上の焦りは禁物じゃ。早く育てようと思ってたくさん水や肥しをやっても、草木が枯れてしまうのと同じじゃ。お前さんはあのショナ様のお子じゃ、自信を持て」
ガイルは驚いたように老人を見た。
「親父が様? 爺さん、親父の事知ってるの?」
老人はフクロウのような笑い声を上げた。
「当たり前じゃ。ショナ様は森林の大精霊中の大精霊じゃ。儂らからすりゃ神と同じじゃ。そのショナ様のお子であるお前さんが、ウジウジしてどうするじゃ」
ガイルは老人を見詰め、慌てたように森を見渡した。
「親父って……」
前でガイル達の会話を聞いていたハーツは肩を竦ませた。
「森の帝王の落し子か」
「落し子は語弊があるな。あの大精霊の正妻は常に人間だ」
イサはハーツに口の端を上げた。
「一つの魂を追いかけてるって事か」
「そういう事。で。なんでお前はここの主に会いたいんだ?」
「剣を取りに行くんだよ」
イサはハーツの言葉に片眉を上げた。
「なに」
「昨日、竜王も模造じゃなく正真正銘の黄龍王剣を呼び出していた。俺も手近に置いておこうかなって思ってさ」
イサは肩を竦ませた。
「そんな深刻なのか?」
ハーツはイサを一瞥して、口の端を上げた。
「惚けるな。お前達が活発に動き出しているのが、なによりの証拠じゃねえか」
「なんの事だ? ダークの俺らにはなんも伝わって来てないぜ。まあ、日に日に実戦鍛練が増えて来てるから、なんだかの動きがあるのは分かっているけどな」
イサはハーツにニンマリと口角を上げる。
ハーツはイサの表情に舌打ちをした。
「絶対お前はその口だと思うのにさ。ホント、口が強固だよな」
「口が硬いのはお互い様じゃね?」
ハーツはイサをしばらく見詰め、溜め息を吐いた。
「――なんで、プロトに来たんだよ」
「お前と違って天涯孤独になったからな」
ハーツは驚いたように、イサを見た。
「え」
「流行病で一族全滅さ。プロトとは違い、ダークには万能医者なんていないからな。当分ダークからの侵略はねえんじゃね? プロトより酷いから、流行病の被害」
イサは藪の向こうに泉境を見て、ガイルを振り返った。
「着いたぞ」
ガイルはイサとハーツを走り抜け、藪を軽く飛び越えて行った。ハーツはその身の熟しに軽く口笛を鳴らす。
「身軽だねえ」
「森産まれの森育ちらしいからな。あれでウバルナ一の剣の腕があるんだと」
「ウバルナ? 良質な戦士を輩出する領一の腕か。さすがエルファンドの領だけはあるな」
「ウバルナ伯爵の嫡子だっけ? シヴァの金の」
ハーツはイサに頷いた。
「今は爵位継いで伯爵だけどな。ただ、エルファンドに年が離れた弟がいるんだが、そいつはダメだ」
ハーツはエルファンドの弟、ヨシャルナ・バルハン・ウナルバを思い出し、思いっきり肩を竦ませた。
「出来のいい兄に出来の悪い弟か。どう出来が悪いんだ?」
「典型的な貴族の馬鹿ガキ。ナイト一級だが、実力で上がった口じゃねえのがバレバレ」
「で。その馬鹿ガキがなぜかお前の下にいると」
ハーツは頷いた。
「抱き合わせで付いて来たんだよ。俺には歯向かわないが、エルファンドより下位の上司だと、途端らしい」
「精神的井の中の蛙か。よっぽど、溺愛されて育ったんだな」
イサが藪を越えると、泉際で呆然しているガイルに目が止まった。泉の中央には全て流水から成り立つ、美しい彫刻のような女性がガイルを見下ろしている。
その女性がイサとハーツに気が付き、眉尻を下げた。
「私、何か変かしら?」
イサもハーツも軽く首を振った。
「相も変わらず見目麗しい姿ですよ、森の女帝フォラール」
イサがそう微笑むと、フォラールはゆっくり笑みを浮かべた。
「ありがとう、イサ、嬉しいわ。ハーツ、剣を取りにいらしたのですね」
「そう。フォラールも感じているとは思うが、念を入れておかなければならない状況になってね」
フォラールが手を前に掲げると、水面が盛り上がり、水柱に支えられた黒光りする太剣が現れた。
フォラールはその太剣を両手に持ち、縁に立つハーツに差し出した。
「また不要になったら何時でもお持ちになって」
「ありがとう」
ハーツは太剣を受け取り、その石突でガイルの肩を小突いた。
「いつまで呆けているんだ」
ガイルは我に返り、イサとハーツに苦笑いを浮かべた。
「てっきり男が出てくると思ってたから…… まさか、こんな綺麗な人が出てくるとは思ってなくて」
フォラールはその言葉を聞いて、頬に両手を当てた。
「まあ。あの無愛想なショナの子とは思えない素直さね。お前は一番我々の血を色濃く継いでいるようね」
フォラールはガイルの顎下に手を触れた。
ガイルはフォラールを黙って見詰めている。いや、フォラールの気に当られ、またもや呆然としているようだ。
「そんな小さな身体に、我々の壮大な力を閉じ込めて……」
フォラールがガイルに口付けをすると、突然、ガイルの周囲に緑色の気が噴き出した。緑色の気は荒れ狂うように森を揺らした。
イサとハーツは気が発する突風に、慌てて後ろに大きく飛び退く。飛び退いたハーツの顔にガイルの気で飛ばされた小さな老人が勢い良くへばり付いてきた。
「ぶふっ! 爺さん、いきなり飛んでくるな!」
「好きで飛んだんじゃないわい、飛ばされたんじゃ!」
フォラールはそんなガイルをゆっくりと抱き締める。
「ああ、辛かったでしょう。こんな壮大で不安定な力を内に秘めたまま、生きてきたのでは」
「フォラール、それはない。辛かったのはここ数日だけだろう。ガイルはずっと森の帝王の膝元で暮らしてきたんだ。だから、お前に会いに来たんだ。お前に会わせたんだ」
イサはフォラールに口の端を上げた。
「濡羽のイサ、よく連れてきてくれました。今日会わなかったら、この大切な森が枯渇していたでしょう」
ハーツと小さな老人はフォラールの言葉に驚いた。
「フォラール様、その若いのは」
フォラールは小さな老人に頷いた。
「グァヴァークルの幼生よ」
小さな老人はハーツの顔にしがみつき、全身を小刻みに揺らし出した。
ハーツは小さな老人を顔から剥がし、フォラールを訝しげに見詰める。
「グァヴァークルってなんだ?」
「我々のもっとも恐れている同胞。グァヴァークルになった同胞は、我々の命を糧とし、その胃袋は底がない。この子はまだ幼くて助かった」
ハーツの眉間に皺が寄った。
「ミュウと同じなのか」
そう呟いたハーツは慌てて口を塞いだが、出た言葉は森に消えていった。ハーツの足元にピタッと引っ付く人肌の温かさがある。
額に手を当て、首を振るハーツに、イサは苦笑いを浮かべた。
「ここで名を口にしたのが間違いだな」
「にょほ。ハーチュ、間違いだな」
ハーツは自分の足元にいるあの紫の小鬼ミュウを見下ろした。
「名前言ったくらいで来るな」
ミュウはハーツにニンマリ口の端を広げた。
「ハーチュがミュウの名前を言うからいけない。ねえ、イサ」
「そうだな。ミュウ、おいで」
屈んで軽く手を広げているイサに、ミュウは抱き付いた。
イサはそのままミュウを抱き抱え、立ち上がる。
「ミュウ。あれは同胞じゃないよな」
ミュウはガイルを見て、首を振る。
「あれは草食。あたしは肉食」
イサはミュウの言葉に吹き出した。
「言い得て妙だ」
「でも、あれはまだ成り掛けだよ。だから、フォラールが必要なんでしょ?」
ミュウはフォラールにニカッと笑い掛けた。
「そうですね」
ハーツは首を捻った。
「成り掛けだとどうにか出来るのか?」
「この子はまだ胃袋に底がある。それにただ貯める事だけしか知らない子。糧を力にする方法を知らない。それにこの子は人間として生を受けた。それが幸いでした。ショナはよほどこの子を救いたかったのでしょう」
フォラールは髪が逆立ったままのガイルの頬を撫でた。全ての気を吐き出したガイルはゆっくりとフォラールに向かって倒れていく。
フォラールはガイルをその胸に抱き抱える。
「濡羽のイサ、双眸のアメリクサに伝えて。この子を一晩預かると」
イサはフォラールに頷いた。
「あいつなら伝えなくとも分かっているとは思うがな」
ハーツはイサを見た。
「なに。こいつの他にも面白いのがいるのか?」
イサは肩を竦ませた。
「ハーツ的に面白いかどうかは分からん。マックスウェルの唾付きが、ガイルのダチ」
ハーツはマックスウェルの名前を聞いて途端興味が失せた。
「なんだ、術士かよ。それは用ねえや」
「言うと思った。かなり力のある奴なのは間違いないが、そいつもいろいろと問題抱えてるみたいだったよ」
「脛にキズ持ち?」
ハーツの言葉にイサは顎を撫でた。
「うーん…… 過去のキズを引き摺っているタイプかな」
ハーツは実体になったフォラールに手を上げた。
「じゃ、フォラール。ここには火の粉は飛んでこないと思うけど、しばらく騒がしくなるかもしれん」
フォラールはハーツに微笑んだ。
「自然は人間達のいざこざには興味ないわ。でも、神々の御加護がありますよう」
「神々の御加護ね。あるように祈っててよ」
ハーツはフォラールに笑い掛け、森の小道に消えていった。
「あ! ハーチュ待て!」
イサの腕からミュウが飛び出し、その後を疾風のように追っていく。
「ミュウ! へばり付くな!」
森の奥からハーツの怒鳴り声が聞こえてきた。
イサはその声に口を歪ませ、泉境に座り、ガイルの頭を撫でるフォラールを見た。
「フォラール。ガイルに何をする」
フォラールはイサを見て、再び、ガイルに視線を落とした。
「身体に正しい糧の得方と力の使い方を教えるのよ。イサが帰れば分かるでしょう。この子が抱き付いた大木は、今頃立ち枯れているわ」
「どうやって教える」
フォラールはガイルを見詰めたまま、イサにゆっくりと口角を上げた。
「交わるの」
イサは肩を竦ませた。
「なるほど。で、俺に用とは?」
フォラールはイサをしばらく見詰め、視線をガイルに落し溜め息を吐いた。
「――久しぶりに顔が見たかったと言ったら迷惑かしら?」
イサは苦笑いを浮かべる。
「それくらいなら迷惑でもなんでもない。だが、いくら待っても、俺からの答は同じだ」
フォラールは哀しげに微笑み、ガイルの頭を撫でる。
「――そう。最近、色が変わったから少し期待していたんだけど、私ではないようね」
イサはフォラールの言葉を否定するように首を振った。
「この仕事に就いた時、そういうモノは作らないときつく心に決めた。何かの間違いではないのか?」
フォラールも軽く首を振る。
「決めたとしても、縁はそれより強いモノよ。私と貴方には縁がなかったようね」
イサは口の端を歪め、目をゆっくり閉じた。
「――縁ね。確かにフォラールとは縁があるようだ。情愛の縁はなかったとしても、友人としての縁は残っているだろう。自然は大切な隣人であり朋友だからな」
フォラールはイサの言葉に苦笑いを返した。
「――そうね」
イサはふと顔を上げ、ハーツが消えた方向を見詰め、フォラールに背を向けた。
「明け方に迎えに来る」
フォラールもその方向を見て、肩を軽く竦ませた。
「――お呼びのようね」
イサは肩を竦ませ、手を上げた。
「万年人手不足だからな」
フォラールは瞬時に姿を消すイサを見詰め、ガイルの頭を撫でた。
「行ってしまったわよ」
ガイルはパチッと目を開ける。
「バレてた?」
フォラールは、自分に悪戯少年のような笑みを見せるガイルの頭を撫で続けた。
「ええ。イサは気が付かなかったようだけどね」
ガイルは身体に力を入れ起き上がろうとするが、全く体に力が入らなかった。
「いや、あの人は絶対気が付いてるよ。――起きれねえ。なんかしたのか?」
フォラールはガイルに口の端を上げた。
「貴方が貯めに貯めていた気を一時的に開放したのよ」
「貯めてた気?」
フォラールはガイルの結い髪を解く。月夜に照らされた地面に萌葱色が添えられる。朽葉色の地面に、若々しい芽が一瞬にして芽吹いたようだった。
「ガイル。貴方は一度瀕死になったわね」
ガイルはしばらく起き上がろうともがいていたが、溜め息を吐き、フォラールを見詰め頷いた。
「七年前、後ろから剣で一突きされた」
ガイルはそう言って、傷の全くない胸の中央左に手を置いた。
「多分、瀕死じゃなくてほぼ即死だったんじゃね? 今なら分かるけど、心臓やられてたはずだから」
「ショナが何をしたのか、分かっている?」
フォラールはガイルの脇に軽く横になり、再び、ガイルの頭を撫でる。
ガイルは首を即座に振った。
「知らない。刺された瞬間から一年間記憶が全くないから。でも、親父、俺になんかしたんだよな? だから、親父が人形になれなくなったんだよな?」
フォラールは溜め息を吐いた。
「本当に貴方を救うのに必死だったのね。簡単にいうと、ショナは貴方をもう一度作り直したのよ」
ガイルは目を丸くした。
「は? 作り直した?」
「そう。瀕死の貴方を身体に取り込み、全身全霊を掛けて傷を癒し、貴方を生み落とした」
ガイルは首を捻るばかりだった。
「親父が俺を生み落とす? 親父は男だぜ?」
「生み落とすと言っても、人間の女性のように生み落とすわけじゃないわ。喩えよ。ショナは確かに男性ね。でも、貴方の身体には、貴方のお母様の性も含まれているの。だから、作り直す事が出来るのだけれど、それで貴方が捩れてしまったの」
「俺が捩れる?」
「そうよ。ショナは危殆な賭けに出たの。森の精霊は木々や大地、水、光などを糧にして生まれてくる。
その原種を作るのが私とショナが一緒に行う共同作業の一つ。その原種の片割れを人間の血が流れている貴方に使った。まれに片割れだけで生まれ落ちる精霊もいるんだけど、それは我々が恐れている天敵になってしまうの」
「天敵?」
ガイルはフォラールの方を見て、目の前にある裸の胸に驚いた。
「な、なんで裸っ!」
フォラールはガイルに口の端を上げる。
「本来、精霊は素っ裸よ。服をいつも着ているのは神々や人間だけ。精霊が服を着るのは、神々や人間の真似をしているだけよ」
ガイルは慌てて顔を背け、フォラール側の手を自分の胸に置いたと同時に、思いっきり首を持ち上げた。
「な! ふっ、服は!」
「邪魔だから脱がさせて貰ったわ」
ガイルは泡喰って股間を両手で隠した。
「じゃ、邪魔ってなんだよ!」
「全裸の男女が寄り添い、する事といえば、一つでしょ?」
ガイルは覆い被さってきたフォラールを見詰め、首を振った。
「俺にはその気は全くない」
「ガイルになくても、私にはあるのよ。それに交わらなければ、この森どころか、この地の森が枯れ果てる」
ガイルはフォラールの言葉を考え、再び、フォラールの瞳を見詰めた。
「それって俺が天敵になったって事?」
「ショナは賭けに負けたのよ。私の原種の片割れを人間の血で代用した。でも、片割れとしては不十分だったの。貴方は七年前、我々の天敵、グァヴァークルの幼生に生まれ変わった」
ガイルはフォラールの言葉にかなりショックを受けた。
「――なんだよ。なんでそんな危険な賭」
ガイルの言葉はフォラールの唇によって、遮られた。ガイルの目が見開き、目の前にある泉と全く同じ色の瞳を見詰める事しか出来なかった。いくらする気がないと言っても、本能の赴くままに心拍数は上がる。
フォラールはガイルから唇を少しだけ離し、ガイルを見詰めたまま、口を開いた。
「ショナにとって貴方は掛替えのない大切なモノ。ショナはいつもそう。大精霊のくせにいつも人間の妻を娶り、妻子をなによりも大事にする。でもね、ガイルを見ていると触れていると、ショナの気持ちが少し分かる気がするわ」
「親父の気持ち?」
フォラールはガイルに短いキスを繰り返す。
「んむ、だから、なんで、親父、の、きも、ちが、わかるん、だ?」
「そうね…… ショナだけじゃなく、人間を愛する精霊や神々の気持ちかしら。脆く愚かだけれど、物凄く愛しいわ。その愛しさがなによりも増してみえるの」
ガイルはふと、背中に感じていた土の感触がないのに気が付いた。手で地面の感触を確かめようとすると、生暖かい液体の中で手を動かしているような感触が伝わってきた。その手の動きによって出来た波動がガイルの全身を舐める。
フォラールはガイルに口の端を上げた。
「気が付いちゃったみたいね」
ガイルは胸元を見て、慌てて辺りを見渡した。ガイルの肩周辺とフォラールの胸元周辺だけが空洞になり、全て水のような液体に囲まれていた。
「な」
「精霊は元々形などない。人形に模するのも服を着るのも神々や人間と意思疎通を計るため。この森全てが私」
ガイルはフォラールを唖然と見詰めるしか出来なかった。
「貴方は産まれて今までショナの中で生きてきたようなもの。ショナもこうやって貴方を取り込んだはずよ」
「ま、まった。フォラールは」
フォラールはガイルに唇を落とすと同時に、全て本来の姿に戻った。ガイルの身体が硬直し、水色の底に沈んでいった。
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小説『グロッサム』後書き
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