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  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
第二章 2.5
 ガイル達が店の前に着くと、直轄区内を碁盤目のように走っている用水路の木陰にキースが立っていた。
「キース」
 キースはそのガイルの声に顔を上げ、微かに口の端を上げた。
「巧く(まけ)けたみたいだな」
「竜王さん撒いてどうすんだよ」
「会いたくないからに決まってるだろ」
 キースはそう言いながら、店に入った。が、足を入口で止める。続いていたガイルとマルラも足を止めざるえなかった。
「キース進めよ」
「そうよ、突っ立ってないでお入りなさい」
 ガイルは聞いた事のない高く澄んだ声に首を傾げ、キースの頭向こうを見た。そこには金塊をそのまま髪色にしたような、見事なまでに輝く黄金の髪が見えた。
 ガイルはキースの背中を鞘の石突で突っ突く。
「ほれ、入れ入れ」
 キースは仕方なしに店に入り、壁際へと移動する。
 ガイルは一歩足を踏み出し、キースと同じように足を止めた。
黄金の髪を持つその人が、ガイルに微笑んだのだ。
透けるような色白のきめ細かな柔肌に、大きな薄茶色の瞳。小さめで筋の通った鼻に薄紅の唇。ガイルが今まで見て来た女性とは、全く次元が違う女性だった。
「あれ?」
 マルラがガイルの脇をすり抜け、その黄金の髪の女性に近寄って行く。
 その黄金の長髪の女性は、マルラに笑い掛けた。
「こんにちは、マルラ」
「こんにちは、ムーン様。今日はどうされたんですか?」
「月決算の報告を聞きに来たのよ」
 ガイルはその名前を聞き、慌ててキースの側に寄っていった。
「キ、キ、キ、キース!」
「マルラさんから聞いたのか?」
 鼻息荒いガイルにキースは片眉を(しか)めた。ガイルは思いっきり(かぶり)を何度も振り、伝説の現人神(あらひとがみ)に出会った興奮も一緒に伝えていた。
 キースは溜め息を吐き、ガイルを見据えた。
「少し落ち着け」
 ガイルはキースの鼻先まで顔を近付け、小声でしゃべり出した。
「乙女だぞ、お・と・めっ! あそこに座っているのが、本物の黄金(きん)の乙女なんだぞ! 現人神なんだぞ! 興奮しないお前の方がどうかしてる!」
 キースは肩を竦ませたと同時に、ガイルの肩越しにムーンと目が合った。
 ムーンはガイルを一瞥して、キースに口の端をゆっくり上げ、マルラを見る。
「マルラ。あの二人はお客様?」
「はい。ガイル・ゼベッツさんとキース・ミゼルナさんです。ゼベッツさん、ミゼルナさん。こちらが家主のムーン・シティ様」
 マルラは微笑み、二人にムーンを紹介した。
「ムーン様、ムーン様の下宿に入る事になった二人じゃ」
 イクナ(おう)はティーを啜りながら、キースとガイルを見た。
 ムーンは会釈をする二人を見詰め、マルラに微笑んだ。
「へえ、二人ともかなりいい男じゃない。一晩一緒に過ごすなら、マルラはどっちが好み?」
 ガイルはその言葉に目を丸くした。伝説の女神といわれる女性が、俗的な言葉を口にした。高潔なイメージを描いていたガイルは、その言葉に物凄いショックを受けた。
 キースはガイルの表情を一瞥し、マルラに微笑んでいるムーンを見詰め、軽く肩を竦ませた。
 マルラも目を丸くして、ムーンを見詰め返している。
「ム、ムーン様?」
「冗談よ。マルラは好きな人いるんでしょ?」
 ムーンの言葉にマルラは顔を赤くした。
「ムーン様。悪い冗談はやめて下さいよ」
「そう? いい男は目の保養になるからいいじゃない」
 ムーンは再びキースとガイルを一瞥して、イクナ嫗に微笑んだ。
「イクナ婆々(ばあば)、この二人はあれ? 推薦組?」
「そうじゃ」
「やっぱりね。竜王とマックスウェルの唾付いてるから、そうかなあって思ったのよ。で、貴方ね、ウチを覗きに来たの」
 ムーンはそう言って、キースに微笑んだ。キースは口の端を微かに上げる。
「気付いたんですか?」
「ウチの娘とミュウが一番始めかしら」
「わざと下世話な事を口にしましたね」
 キースは隣りでまだ(ほう)けているガイルを見て、ムーンに笑い掛けた。
 ムーンもガイルを一瞥して、キースにゆっくり口の端を上げる。
「あたり。女神である前に、生きた人間だからね。普段から高潔に見られちゃうのは、ちょっと息苦しいのよ」
 ガイルはその言葉を聞いて、苦笑いを浮かべた。
「すみません……」
「いいのよ。素直に謝ってくれる君みたいな人ばかりだと、私も嬉しいんだけどね」
 ムーンは再びキースを見詰めた。
「貴方は私を知っているようだけど、私は貴方を知らないの。私が貴方に何をしたか知らないけど、そんな毛嫌いしないで欲しいな」
 キースはその言葉に頭を掻いた。
「――毛嫌いなんてしてませんよ。でも、覗くような事をしてすみませんでした」
「いいのよ。でも、なんで覗いたりしたの? 何か後ろめたい事でもあるの?」
 首を傾げるムーンをキースは見詰め、軽く首を振った。
「いえ、後ろ暗い事なんてありません。ただ、接触を極力避けたかっただけで…… 少し考えが浅はかでした」
「マックスウェルと?」
 キースはムーンの言葉に頷いた。
 ムーンはキースの眉間の皺に微笑む。
「マックスウェルだけじゃなく、私やその周りの力が強い連中と接触したくなかったようね。接触すればするほど、今のままじゃ、内なる育ち盛りの力が暴れるんでしょ?」
 キースはムーンの言葉に目を少し見開き、黙ってゆっくりと頷いた。
 ガイルは慌てて、キースを見詰めた。
「キース、なんで言ってくれないんだよ」
「言ったって分からないだろ」
「そりゃそうだけど……」
 ムーンが(おもむろ)に立ち上がり、二人の前に立つ。
「あら。随分と背が高いのね、二人とも」
 ムーンは二人に笑い掛け、両手首から一輪の細いバングルを取り、キースに有無も言わせずに手首に()めた。
「これ、あげるわ。少しは制御利くと思うよ」
 キースはその髪と同じように黄金に輝くバングルを見詰め、溜め息を()いた。
「――いつも貴女はそうですね」
 ムーンはキースの言葉に口を尖らせる。
「だから、私は私。過去は過去、前世は前世よ」
 表情豊かなムーンに目を白黒させているガイルをキースは一瞥し、ムーンに苦笑いを浮かべた。
「いつの時代も貴女は変わらない。寛大で母性溢れる人です」
 ムーンはその言葉を聞き、キースに微笑んだ。
「そう? バングル、(かせ)だなんて思わないでね。ホント、微々たるモノだと思うから」
 ムーンはキースにもう一度微笑み、ガイルに笑い掛けた。
「いつか、ウチの館に遊びにいらっしゃい」
「は、はい」
 ムーンはイクナ嫗とマルラと挨拶を交わし、店を出ていった。ムーンが入口を出るとムーンの背後に、二人の男が現れる。
 ガイルは咄嗟に身構えたが、キースがガイルの腕に手を添え制止した。
「やめとけ」
「なんで止めるんだよ!」
「あれは乙女の守護神『八獅子』だ」
 二人の男は、キースとガイルを軽く振り返り、そのまま、何もなかったのように、ムーンの後を付いて消えていった。
 キースはしばらく入口を見詰め、軽く息を吐くと共に、壁に寄り掛かった。
「――死ぬかと思った」
「はあ? なんで、黄金の乙女に会っただけで死ぬんだよ! 乙女達は幸運の女神だろ?」
 ガイルは呆れたようにキースを見た。
 黄金(きん)の乙女、蒼銀(ぎん)の乙女は、吉兆の女神と云われている。この現人神達を手に入れれば、世界の覇者になれると云う。その他、手にすれば、幸運に恵まれる、望みが叶うとも、云われていた。
 キースはガイルの言葉に溜め息を吐き、軽く首を振った。
「お前が八獅子に楯突こうとしたのもだ。それに、もし、言い伝えが本当だとしたら、今頃、統一国家が出来てなきゃおかしいよな。乙女達には常に鬼や守護神が付いてまわる。ま、乙女達に選ばれれば、確かに幸せかもしれないけど」
 ガイルはキースの言葉に反論しようにも反論出来なかった。確かに八獅子とは知らずに楯突こうとした。古くから伝わる話なのに、誰一人、世界の覇者になった者はいない。
「そうだけどさ…… でも、いくらなんでも死にはしないだろ」
 キースはガイルに笑い掛けた。
「乙女、特に黄金の乙女に付いて廻るもう一つの言い伝えがあるのは、知ってるか?」
「知らねえよ。俺は本の虫じゃないからな」
 キースは苦笑いを浮かべる。
「本の虫じゃなくたって、誰でも知ってるさ。天帝の愛娘であり寵妃の話」
「それってあれだろ? 人の律を狂わせ死を呼ぶ女神、天邪妃(てんじゃき)ってヤツだろ?」
「そう。黄金の乙女も天帝の寵妃って話だ。それと、天邪妃も見紛(みまご)うばかり黄金の髪なんだぜ」
「でも、金髪なんていっぱいいそうじゃね? 特に神界とかは」
 キースはガイルの言葉に口の端を上げた。
「天帝に『無二無双の金髪』と云われている寵妃が二人か? ちなみに無二無双って二つとない比べるモノがない事を指す言葉な」
 キースはガイルに笑い掛け、イクナ嫗の前に座った。
「婆さん、リョクフウ荘が気に入った。あそこの部屋を借りたい」
 イクナ嫗は片眉を上げながら、マルラを見た。
「マルラ。緑風荘も連れていったのか?」
 マルラは少し眉尻を下げ、首を竦ませた。
「白翼荘も金華荘も周りに緑がないから、ミゼルナさんもゼベッツさんも難色を示して……」
 (ほう)けていたガイルは慌ててキースの隣りに座り、イクナ嫗に顔を近付けた。
「婆さん、マルラさんが悪いわけじゃねえ。俺が狩人だから、緑がないと不安なのを伝えなかったのが、悪いんだ」
 イクナ嫗はガイルの瞳を見詰め、ティーをゆっくり(すす)った。
「――お前さんもなかなか面白いの。マルラ、緑風荘の契約書を出してやれ。お前さん達は同羽じゃな」
「どうう?」
 ガイルは首を傾げた。
 キースは肩を軽く竦ませる。
「同じ羽を持つ鳥は集まる。似たような人間が集まり易いって意味だよ。類は友を呼ぶとも言うけどな」
「類友なら知ってる。つか、キースと俺が同じだっていうのかよ、婆さん」
 ガイルは慌てたようにイクナ嫗を見た。イクナ嫗は、顔を皺くちゃにし、拍子木を打つような声をしばらく上げていた。
 ガイルはキースに肘打ちをし、小声を掛ける。
「わ、笑ってんだよな」
「お前が大笑いされてる」
 キースは口の端を微かに上げる。
「この婆さん。聖眼の持ち主だ。多分、マルラさんもね。マルラさんはまだ育ちきってないんだろうけど」
「せいがん? なんだそれ」
 ガイルが首を傾げたと同時に、イクナ嫗の笑い声が止まった。
「聖眼とはな、正体を見極める事が簡単に出来る目の事じゃ。お前さんは普通の生い立ちなんじゃろうが、血は違う。双眸のアメリクサのお前さんは、血は普通じゃが、魂が違う」
 ガイルはイクナ嫗の瞳を見詰めた。
 イクナ嫗は再び顔を皺だらけにした。
「見たってわかりゃせん。聖眼とはそういうモノじゃ。お前さん達も直轄区の方が生きやすいと思うぞ。直轄区には偏見があまりないからの」
「ないんじゃなくて、そういう輩がウヨウヨいるから、みんな慣れているの間違いじゃないの?」
 キースがかったるそうに、イスの背凭れに寄り掛かった。
「そうかもしれんの。田舎に引籠って暮らすも良し、直轄区で暮らすも良し、この滞在期間で考えてみなされ」
 キースはイクナ嫗の言葉に肩を竦ませた。
「俺は帰るよ」
 マルラから書類を受け取っていたガイルは、マルラとイクナ嫗に向かって肩を竦ませた。マルラはガイルに苦笑いを浮かべ、キースの前に書類を差し出した。
「こちらが契約書類です。契約内容を良く読んで、契約者名の箇所に署名を」
 キースとガイルは書類に目を通し、傍らに準備されていた羽ペンを墨壺に浸し、名前を記した。



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小説『グロッサム』後書き
(剣崎輝のBlogカテゴリーになってます)

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↓キースとガイルの少年時代↓
Be born to something- CHILDHOOD'S END-

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