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  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
第二章 1.6
 エルファンドは考え始めた二人を見て、マックスウェルを一瞥した。マックスウェルはエルファンドの表情を見て、苦笑いを浮かべる。
「エルファンド。ミルーナ達に見解を教えてあげれば?」
「しかし……」
「エルファンドが言いたい事分かるよ。でもね、僕もそれしか浮ばない」
 エルファンドは二人の視線を受け、深い溜め息を吐いた。
「なあ、ミルーナ。その同僚達、あの流行病は掛かったのか?」
 ミルーナはダーリを見る。
「どうなの?」
 ダーリはミルーナを不安げに見詰めた。
「――ヤーシャも他の奴も後期感染だった」
 ミルーナはダーリを見詰めた。
「あんたも後期感染だったよね」
 ダーリは少し青ざめた顔でゆっくりと頷いた。
「マックスウェルさん!」
「ダーリがその標的の一人だとすると、時限術の予測は外れだね。もしくはダーリがその標的から外されているかだね」
 ミルーナとダーリは、マックスウェルの言葉にホッと胸を撫で下ろした。
「良かったあ。ダーリが(さら)われたら、エルマになんて言っていいか分かんないよ」
「――でも、今後いつ時限術が掛けられるか、分からないのも確かだけどね」
 そう苦笑いを浮かべたマックスウェルを、ダーリとミルーナは情けない表情で見詰めた。
「マックスウェルさん、そんな事言わないでよ」
「事実だけど? それに防ぎようがないし」
「なんで! 防御壁があるじゃん! マックスウェルさんならお手のモノでしょ?」
 マックスウェルは肩を竦ませた。
「相手が使う術も判明していないのに、後期感染の人間全てに防御壁を張れっていうの? そんな事したら、僕は過労死確実だね」
「あ」
 ミルーナは慌てて口を押さえた。
 ダーリはミルーナに苦笑いを浮かべた。
「ミルーナの気持ちは有り難いけど、マックスウェル様を過労死させたくないし、俺一人贔屓(ひいき)されるのも、警邏として嫌だから」
「でも。ダーリもあたしも術はあんまり得意じゃないし」
 マックスウェルは徐に立ち上がり、机の引き出しを開け、その中から小箱を取り出し、ソファに戻ってきた。
「ダーリ。君は何月生れ?」
「え、えっと、ウィナ月です」
 マックスウェルは小箱を開け、瑠璃色の石が付いた指輪を取り出した。
「ま、誕生日は関係ないんだけどね。今現在、分かっている術は防げると思うよ」
 ダーリはマックスウェルを見詰めた。
「マ、マックスウェル様」
 マックスウェルは苦笑いを浮かべた。
「その代わり、君のこれからの全てを記録させてもらう。その代償だよ。解決の糸口が分かるかもしれないから」
 ダーリはマックスウェルをしばらく見詰め、唾を飲み込んだ。
「全て…… ですか」
「そ。事件が解決すれば、私生活を覗くような事はしないから」
 ダーリは差し出された指輪を受け取り、左人差し指に填めた。填めた時はかなり緩かった指輪が、一瞬にしてピッタリと指に合うように縮まった。
「石に記録するから、定期的…… そうだなあ、三日に一度は研究所に来てね。研究員達には言っておくから」
「分かりました」
 ダーリは大きく頷いた。
 マックスウェルはダーリに微笑み、ミルーナを見た。
「あと、十五〜六人後期感染者を知りたいんだ。体躯も能力も全てバラバラだと、いいんだけど」
「警邏の中でって事だよね」
 ミルーナの言葉にマックスウェルは大きく頷いた。
「もちろん。帝国戦士や一般人にも協力は仰ぐけど、今、事件が表面化しているのは警邏だからね。後で警邏長には言っておくから。ミルーナが選んで欲しい」
 ミルーナはマックスウェルの言葉に首を傾げた。
「え、あたしが選ぶの?」
 マックスウェルはミルーナに頷いた。
「僕はミルーナが適任だと思うけどね。ダーリにも手伝って貰ってもいいけど。エルファンドだと、警邏に口を挟み辛いだろうし、僕は時間を割いている暇がないんだ、これでも」
 ミルーナはエルファンドとマックスウェルに、苦笑いを見せた。
「納得」
 マックスウェルはミルーナに微笑み、立ち上がった。
「じゃ、そういう事で。選抜出来たら、研究所にくるように言って。エルファンド、悪いけど、護衛騎士団頭に伝言を頼みたいからここに残って」
 エルファンドはマックスウェルの顔をジッと見詰め、口の端を上げた。
「なんで、マックスウェル様は邪魔するのかなあ。この後、ミルーナをかっ(さら)うつもりだったのに」
 ミルーナはエルファンドを見て口を尖らせた。
「だから、あたしは任務中! しかも石の候補を選ばなきゃいけないんだから、尚更忙しいの! ったく! どうしてエルファンドは、そう呑気なの! ダーリ行くよ!」
 ミルーナは大股で部屋を出て行った。ダーリは部屋に残るマックスウェルとエルファンドに頭を下げ、慌ててミルーナの後を追った。
「――呑気だったら、マックスウェル様の元に残らないんだけどなあ。ねえ、マックスウェル様」
 エルファンドはマックスウェルに口だけで微笑んだ。
「ヌ・カヤシが気になるんですね」
「ヌ・カヤシも気になるんだけど、ダーリの同僚のヤーシャを(さら)った術、どう見た?」
 エルファンドはマックスウェルを見詰め、肩を竦ませた。
「それは私に聞いているのではなく、私の蓄積された知識に聞いているんですよね?」
 マックスウェルはゆっくりと口の端を上げる。
「もちろん。僕は書籍などでしか過去の知識を得る方法はないけど、エルファンドは生きた知識が蓄積されているからね」
 エルファンドは肩を竦ませ、見た記憶を振り返った。
「――ダーリの同僚に掛かっていた術、古代高度術の亜種のような気がします。誰かが古代高度術を復活させたんじゃないですかね。で、飛ばされた先はプロト外ですね」
 マックスウェルは顎を軽く撫でた。
「――プロトの外は僕も分かっているんだ。もう少し探れない?」
「やってみましょう」
 エルファンドは眼帯を外し、ダーリが座っていた場所に手を触れた。
 エルファンドの髪が微かに揺らめき始め、全身が青白い気にうっすら包まれた。
 マックスウェルはその横顔を黙って見詰めている。
 どんなに術の大家と言われようと、魂の違いは変えられない。エルファンドと己の差は魂の違いだと、マックスウェルはエルファンドみたいな魂に出会う度に、痛感させられる。
 人間の魂は冥界帝ハディスと創造主が造り出すが、神々や神々に近い魂は、天帝や創造主が造り出すと云われている。
「――毎度の事ながらやんなっちゃうね」
 マックスウェルはエルファンドに聞こえないように独り言ちり、窓の外を見た。
 魂の違いは変えられないが、近付く事は出来る。だが、決して同等にはならず、越える事も出来ない。
 エルファンドがいとも簡単に始めた事は、幾つもの高度術を用いらなければ出来ない技だ。
 これが魂の違いがなせる業。
 マックスウェルが再びエルファンドを見ると、エルファンドはマックスウェルを見詰めていた。
「マックスウェル様」
「なに?」
 マックスウェルはエルファンドに微笑んだ。
 エルファンドはマックスウェルの瞳を見詰め、軽く首を振る。
「少し哀しげな表情をしていたので」
「哀しい? 哀しくはないよ、むしろ悔しいかな。で、場所は分かった?」
 エルファンドは、またしばらくマックスウェルを見詰めていたが、軽く息を吐き頷いた。
「――分かりました。ダーリの同僚が連れ去られたのはキクンス・リヴ。キクンス・リヴってどこですか?」
 マックスウェルはエルファンドの言葉に肩を竦ませた。
「キクンス・リヴは、遠い昔、レグラスマッド・リヴ、魔光界に吸収された国だよ」
 エルファンドはマックスウェルを三度、見詰めた。
 マックスウェルは、見開いたエルファンドの碧銀の瞳に微笑み、窓の外に視線を移した。
「どうやら、僕を排除したい連中が、動き出しているようだね」
「楽しそうですね」
「楽しい? そりゃ、楽しいよ。久しぶりに殺り甲斐のある相手だし、なかなか出来ない開放が、久しぶりに出来そうだからね」
 エルファンドは肩を竦ませた。何を開放するのか、考えただけでも身が震える。
 術界・策界の顕形と云われるマックスウェルが開放するといえば、マックスウェルの術の根源しかない。
「と、いうわけで、竜王達に伝言頼むよ。魔光界と行き来が頻繁になるから、よろしくってね」
 マックスウェルはエルファンドに微笑み、部屋を出て行った。
 エルファンドは肩を竦ませ、部屋を出、研究所を後にした。


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