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  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
第一章 4.3
 キースは微かに目を開け、口をヘの字に曲げた。
「疲‥ました…… アバン・ヘルム様」
「もう少し待て、キース。まだ準備が出来てない」
「うわっ!」
 ガイルの体が突然浮き、竜王の腕の中に落ちた。
 エルファンドが慌てて振り返ると、ガイルの腰から撫子色の光が飛び出し、キースの側に落ちていく。
「な、撫子さん、どうしたの、いきなり」
 マックスウェルは驚いたように、キースを見詰める撫子を見た。
「――やっと見付けた」
「撫子さん、もしかして、キースを待っていたの?」
 撫子はマックスウェルに微笑んだ。
「ええ。やっと一つになれる。だから、貴方のモノにはなれなかったのよ。私が一つになるから、しばらくは大丈夫でしょ」
 マックスウェルはキースの手足に嵌まる枷を粉砕し、抱き上げた。
 撫子はキースを覗き込んだ。キースは撫子を不思議そうに見詰めていた。
「あなたは誰?」
「そうね…… 貴方にとっては一陣の風かしらね。お疲れ様、ゆっくり休むといいわ」
 キースは撫子に微笑み、目を閉じた。撫子はキースの頭を撫でる。その顔は愛しそうな切なそうな笑みを浮かべていた。
「撫子さん」
 撫子はキースを撫でながら、マックスウェルに口の端を上げた。
「生涯でたった一人、心を許した人よ。やっと見付けたの。だから、邪魔しないで」
「邪魔はしないけど……」
 マックスウェルは口惜しそうに撫子を見た。
「それ以上力を欲しがってどうするの? 息子に同じ道を歩かせたいの?」
 笑顔のマックスウェルの右眉が微かに動いた。撫子はマックスウェルに微笑む。
「貴方なら違う道を作れるでしょ? 古い仕来たりに綻びが生まれているから、こういう事が起きるのよ。古い仕来たりが時代に付いて来れなくなってきている証拠。これは序章に過ぎないわ」
「分かっているよ。最期の助言ありがとう、マリアラード師匠」
 撫子はマックスウェルを見て、微笑んだ。
「最後の生徒が貴方であって嬉しかったわ」
 撫子はマックスウェルにもう一度笑い掛け、マックスウェルとのやり取りを茫然と聞いていたキースに口付けた。
 突然、キースの目が見開き、全身から紫の閃光が(ほとばし)った。
 キースを抱き抱えていたマックスウェルは、紫色の光渦に一瞬にして飲み込まれた。
「撫子さん!」
「マックスウェル様!」
「エルファンド、近付くな!」
 ティコはエルファンドの腕を掴み、紫色の光渦を見詰めた。
「撫子さんの意地悪!」
 紫色の光渦の中からマックスウェルの罵声が、聞こえて来る。
 洞窟内に撫子の高笑いが響いた。
「最期に貴方の困った顔が見たかったのよ。さよなら、私の可愛い、最強の愛弟子よ」
「意地悪過ぎですよ、最期まで!」
 紫色の光渦の中から、マックスウェルの罵声が再び響いてくる。
 その声にエルファンドは胸を撫で下ろした。
「無事のようですね」
「あんな渦の中にいても、平気なのか?」
 ガイルが竜王を見上げた。
 竜王はガイルに抱き紐を掛け、抱え直した。
「マックスウェルにしてみりゃ、湯浴みにしか感じてないだろうな」
「すんげえ! やっぱり凄い人なんだ!」
「だが、ガイルがあの渦に巻き込まれたら、ミンチだ」
 ガイルは目を見開き、竜王を見上げた。
「え。なんで?」
「あれはな、術力の根源とでもいえばいいのか、そういうモンだ。力がない奴があれに巻き込まれたら、全て吸い上げられる。残るのはミンチとまっさらな魂だけだ」
 ガイルは紫の光渦を見詰めた。
「そんな危ないモノだったんだ、赤と青は」
「あれを(うち)に飼っている奴しか制御出来ない。外からは一切手を出せないからな。制御出来るうちはいい。出来なくなったら、その飼っている奴も喰われる。それが魔光界直系術だ」
「マコウカイ直系術? マコウって、レグラスマッドリヴの事だよね。カイってなに?」
「界は簡単にいえば、リヴの事だ。異世界の言語だ」
「ふうん。よくわかんねえや」
 ガイルは渦の中から現れ始めたマックスウェルを見詰め、肩を竦ませた。
 舞い上がっていた髪や服、飾り外套が徐々に戻っていく。
「――本当に意地悪だよ」
 マックスウェルは大きく溜め息を吐き、深い寝息を立てているキースを見下ろした。
 マックスウェルは(おもむろ)に何処からか音もなく抱き帯(スリング)を取り出し、ティコに掛けた。
「はい」
「はい?」
「キースを頼むね」
「ガタイはエルファンドの方がいいぞ」
 マックスウェルはティコに微笑んだ。
「エルファンドはまだ療養中の身。結構無理させたと思うよ?」
 エルファンドは驚いたようにマックスウェルを見た。確かに洞窟に入ってから、浮遊術を使ってから、体力精神力の消耗が激しかった。キースと対峙した辺りから、背中に嫌な油汗をかいていた。呼吸をする度、胸に鈍痛が走るのも確かだった。
「ホントだ。キースに気を取られて気が付かなかったよ」
 ティコがキースを抱き抱えながら、エルファンドに苦笑いを浮かべた。
「帰ったらお前も診てやるから。本来の視察がメインだったら、そこまで無理しないでも行けたもんな。視察も一時中断しろ」
 エルファンドは慌てて首を振った。
「それは出来ません」
「身体も大事だぞ。何をするにも健康が資本だ」
「しかし」
 竜王がいきなりエルファンドの腰を抱き抱えた。
駄弁(だべ)っている暇はなさそうだ」
 洞窟の天井からバラバラと石粒が降り始めていた。
「半刻は持つんじゃなかったの?」
 マックスウェルは首を鳴らしながら、ティコに微笑んだ。
「撫子が吸収された時、一緒に洞窟の力を持ってかれた」
 ティコは肩を竦ませ、突然、地面にキースと共に消えていく。
「先行くよ」
「頼むね」
 マックスウェルは地面に微笑み、竜王と抱えられているエルファンドとガイルにも微笑んだ。
「さて。帰ろう」
 その瞬間、四人の姿が不可視になった。
 エルファンドの目の前が一瞬真っ白になり視界が戻ってくると、洞窟の入口が目の前にあった。
 マックスウェルは振り返り、入口に立っている片手を上げたティコの後ろ姿に微笑んだ。
「脱出完了」
「ほいよ」
 ティコが片手を降ろすと、入口から地響きと共に砂埃が上がり、洞窟が崩れ落ちる。
 エルファンドはその場に座り込んだ。すでに立っているのが辛いほど、胸に鈍痛が走っている。
「大丈夫か?」
「少し休めば」
 ティコがキースを抱えながら、エルファンドの傍らに寄って来て、肩を竦ませた。
「こりゃ予後不良だけじゃねえや。本格的に覚醒融合し始めてやがる」
 マックスウェルがエルファンドを見ると、右目だけがシルバーグリーンになっていた。
「ティコ。エルファンドは右側が酷かったの?」
「右は半分、左は三分の一ってところか。悠長に歩いて帰ってらんねえよ」
 マックスウェルは油汗を流し出したエルファンドに苦笑いを浮かべた。
「ごめんね、エルファンド」
「な、何を謝る事、あるんですか」
 エルファンドは胸を押さえ苦笑いをし返した。
「やっぱり連れてくるべきではなかった。そうしたらもっとゆっくり覚醒して融合出来ただろうに」
 エルファンドの視界がぼやけ始めてきた。エルファンドは思いっきり頭を振り、マックスウェルに笑い返す。
「足手纏いになると分かっていて、自ら付いてきたんです。己の目で見た事じゃないと、ミルーナに詳細を語れない」
 竜王は肩を竦ませた。
「ここにも警邏姫にご執心がいるとはな」
「何言ってるの。エルファンドは同郷で幼馴染み。そいつらより切実だよ」
 マックスウェルの言葉にエルファンドは苦笑いを浮かべた。
「半分以上諦めてますけどね。で。移動する力は戻りましたか?」
 エルファンドはそう言って驚いたように口を押さえた。
 大人三人の視線がエルファンドに注がれた。
「ヤバいね。ここで完全覚醒されたら、堪ったもんじゃねえ」
 ティコの言葉に竜王もマックスウェルも頷いた。
「僕達もモロに影響受けるからね。僕はこれ以上は勘弁かな」
 マックスウェルはそう言って竜王とティコに口の端を上げた。
「俺は兎も角、竜王に影響出ちゃうのは、勘弁だ。ここは一つ、マックスウェルに力を貸そうかね」
 ティコがそう言って、右足四趾の指輪をマックスウェルに投げた。
 マックスウェルはそれを受け取り、口笛を吹く。
「わお! これは凄い!」
 大袈裟に驚いているマックスウェルにティコは肩を竦ませた。
「相変わらず緊張感出さない奴だなあ」
 マックスウェルは口の端を上げた。
「これくらいの危機感で緊張していたら、世の中渡っていけないよ」
 マックスウェルはそう言って、片手を振り上げた。エルファンドと竜王が虹色の球体に覆われ、空へと舞い上がる。
 ティコとマックスウェルはそれを見て、地中に消えていった。



 二人が地中から現れると、丁度虹色の球体が空から舞い降りてきていた。
「計算通り」
 マックスウェルはティコに微笑みながら、指輪を返した。
「いいのか?」
「僕は一旦帰るから」
 虹の球から出てきた竜王が眉間に軽く皺を寄せた。
「そんなに消耗したのか?」
「消耗が激しかったわけじゃなくて、かなり不安定なの。撫子さん失ったからかな。当分ノノちゃん手放せないや。じゃ、そう言う事でまた明日来るよ」
 マックスウェルは側に寄ってきたオーパに微笑み、一瞬にして、姿を消し去った。
 オーパの後からやってきたダニエとハルシは、球から引き摺り出されたエルファンドに驚いた。
「竜王様!」
「心配すんな。取りあえず、寝かせてやってくれ」
 ダニエとハルシはエルファンドの脇を抱え、本部になったガイルの家に運んでいく。
 竜王はその後ろ姿を見送り、隣りに立つティコを見た。
「――どう?」
 ティコは苦笑いを浮かべる。
「――取りあえず、ガイルとキースを寝かせなきゃな。それからだ」
 ティコはガイルの頭を撫でた。
「キースの事は俺に任せて、お前もしっかり養生しろ」
「おう。でも、あれ飲むの嫌だ」
 ガイルは朝飲まされた緑色の不気味な液体を思い出し、思いっきり顔を(しか)めた。
「あれはお前に今一番必要とされる栄養素が詰まった特製栄養剤だ。薬なんだから、黙って飲め」
「ええ! あんなまじいモンもう飲みたくねえ!」
 竜王はガイルの嘆きに苦笑いを浮かべた。
「良薬口に苦しだ。我慢しろ」
「あれは良薬口に悪しだよ! 嫌だ! ぜってー飲みたくねえ!」
 ガイルは足をばたつかせながら、竜王に連れられ、家に入っていった。
 ティコは肩を竦ませ、胸元のキースを見下ろした。
「何処の子供も同じ事を言うんだな。お前も言うのかね」
 キースは深い寝息を返してきた。
 ティコはキースの薄汚れた琥珀色の髪を撫でる。
「起きたら触らせてくれないだろうからな。頑張れ」
 報せを受けて走ってきたキースの姉二人に、ティコは微笑んだ。
「大丈夫。今は眠っているだけだから。このまま運ぶから、部屋に案内して」
 姉のウーイとナーイは、キースの寝顔を見て安堵の涙を浮かべながら、ティコに頷いた。
 ティコはキースの家の脇にある鍛錬場を見て、口の端を上げた。
「――心配しなさんな。お前のガキは強いだろ?」
 ティコはそう独言りキースの家入って行った。


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小説『グロッサム』後書き
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Be born to something- CHILDHOOD'S END-

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