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  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
第一章 4.1
「その橋を渡ると右に入る道があって、ずっと行くと三差路があるから、そこをまた右」
 竜王に抱えられたガイルが指を差しながら、マックスウェル達に道を教える。
 マックスウェルは空を見上げ太陽の位置を確認した。
「ガイル。あと、どのくらいで着きそう?」
「俺らの足だと後二刻ぐらいだけど、それより早く着くと思うよ」
 ガイルは隣りを歩くマックスウェルに笑い掛けた。
 後ろを歩いているエルファンドは肩を竦ませた。
「ガイル。少しは敬語勉強しろ」
「狩人には必要ねえし」
 竜王とマックスウェルは道を見詰めるガイルを見た。
「ガイル、帝国戦士は諦めるのか?」
 竜王はガイルの萌葱色の頭を見詰めた。
「諦めないけど、当分直轄区に上がるのは無理。母ちゃん助けなきゃいけないし、弟達も小さいから。あいつらがデカくなってからかな」
 竜王はガイルの頭を撫でた。
「そうか。諦めてないならいい」
 ガイルは頭を捻り、竜王を仰ぎ見、満面の笑みを浮かべた。
「おう! 昨日、夢で父ちゃんが言ってたから! 夢は諦めるなって」
 ガイルは再び道を見詰めた。
「母ちゃんから聞いた。父ちゃんは森なんだって。初めは森だなんて信じらんなかったけど、流行病とやらで死んじゃって、母ちゃんが嘘ついてるのかと思ったけど、俺がどうして助かったのかとか、母ちゃん達がなんで寝てたのかとか聞いてたら、なんとなくその間、父ちゃんがずっとそばにいた様な気がしてさ。父ちゃんは姿が見えなくなったけど、俺らのそばにいるんだなって思った。
すぐ下の弟、マールっていうんだけど、マールも一緒に聞いててさ、父ちゃんみたいな狩人になるって言いだしてさ。マールがそのまんま、父ちゃんみたいになってくれたら、俺も安心して帝国戦士になれるってもんだし」
 竜王は黙ってガイルの頭を撫でた。
「よかったよ。ガイルが諦めてないで」
 マックスウェルは道を見つめながら、頷いていた。
「ガイル。お願いがあるんだ」
 ガイルは首を傾げながら、マックスウェルを見た。
「アバン・ヘルムさんが俺にお願い?」
「そう。ガイルが村を出る時、必ずキースも引っ張り出してほしいんだ」
「キースは行く気満々だったよ」
 マックスウェルはガイルを見つめた。
「キースのお父さん、もう、鍛冶屋として働けないんだよ。
キースのお兄さんのハースも、復帰するまでには時間かかるだろうし。
ハースの腕がどこまであるのか分からないけれど、キースも手伝わざる得なくなる。あの性格からしたら、きっと、夢を押し殺してしまうだろうね。それじゃ、キースはダメなんだよ。あの子には鍛冶の才能はないから」
 ガイルは大きく頷いた。
「よくわかんないけど、俺が村を出る時、必ず連れ出すよ。首根っこに縄つけてでも」
 マックスウェルはガイルに笑いかけた。
「お願いね、ガイル」
「おう! まかせておけ!」
 後ろで黙って会話を聞いていたティコが、ついに噴き出した。
「こいつは本当に大物になりそうな奴だ」
 エルファンドはティコに苦笑いを返した。
「まだ口だけですがね」
 ガイル以外の大人達はエルファンドの言葉に大笑いをしだした。ガイルは口を尖らせる。
「なんだよ! まだ、ガキだけどすぐに追いついてやる!」
「楽しみに待ってるよ。だが、お前らしさを忘れたらいけない。森の申し子としてのお前らしさが一番の強みだ」
 竜王は再びガイルの頭を撫でた。
 ガイルは竜王の言葉を考えてみたが、今一つ理解出来なかった。
「よく分かんねえけど、今のまんまデカくなればいいんだろ?」
「まあ、そんなところだ。だが、敬語は覚えておいて損はない。徐々に覚えておけ」
 ガイルは口を尖らせた。
「わかった。あっ、そこの道を左!」
 ガイルは通り過ぎた小道を指差し、竜王とマックスウェルに苦笑いをした。
 エルファンドとティコは肩をすくめて、小道に入っていく。



 一刻近く森の中を歩くと、突然、マックスウェル達の目の前に岩壁が現れた。
「たぶん、ここが領警邏達が使っていた隔離房だと思う」
 ガイルの言葉にマックスウェルは辺りを見渡し頷いた。
「そうみたいだね。かなり警戒してるなあ」
 マックスウェルは顎に指を当て、しばらく森を見渡していた。
「――竜王、エルファンド。剣は使えない。かなり剣に過剰反応してる。たぶん、キースが剣で脅されたんだろう。ティコ。済まんが、エルファンドを頼んだよ」
 ティコはゴーグルの縁を指で触った。
「ええ。起こせばすむことじゃね?」
「無理やり起こすのは、どうなの? キースで手一杯なのに僕には無理だよ」
 ティコはエルファンドを見て、肩を竦ませた。
「エルファンド。お前、意外と鈍感なんだな」
 エルファンドはティコに苦笑いを浮かべた。
「竜王様達と一緒に行動するようになってから、よく言われます。でも、私なんてまだまだですから」
 竜王はティコに微笑んだ。
「エルファンドは落ち着いているように見えるけど、お前の五分の一も生きちゃいないさ」
 ティコは驚いたようにエルファンドを見た。
「なに! なんでそんなに爺々くさいだ! つか、その歳でシヴァの金かよ! やっぱり子化けだな」
「その子化けってなんですか?」
 ティコは竜王とマックスウェルを見て、二人が苦笑いを浮かべているのに、肩を竦ませた。
「なんか俺、余計なこと言ったみたいだな。この際、知識だけでも教えておけば?」
 竜王はマックスウェルを見た。マックスウェルは肩を竦ませる。
「エルファンド。お前さんはね、氷河の騎士の生まれ変わりなんだよ」
 エルファンドは目を見開いた。
「はあ? 氷河の騎士って、あのフェンリルの息子の氷河の騎士ですか?」
 マックスウェルは大きく頷いた。
「そう。魂的にはキースの異母弟にあたるのかな。
キースの魂も氷神フェンリルが父親だ。
だから、子化け。で、そればかりじゃない。エルファンドは子化けの上に半化けでもあるんだよ。エルファンドの御生母は精霊だね」
 エルファンドは腕輪に指を触れた。
「それは分かりません」
「その腕輪が証拠だよ。子化けっていうのはね、神族や神人族の直子をいうの。神族や神人族の直子は、新しく魂が作られるからね。で、半分神族や魔族、精霊族の人間が半化け。僕達の中での遊び言葉。カッツェの隊にはそういう連中が集まってるから、半化け隊って呼ばれているんだよ」
 エルファンドはガイルを見た。
「もしそうだとしたら、ガイルも半化けですね」
「俺も?」
 ガイルは驚いたように、マックスウェルを見た。
「そうだね。森の帝王は、精霊の中でも地位がかなり高い精霊だからね」
 マックスウェルは大きな伸びをした。
「さて。準備は整った。キースを助けに行くよ」
 竜王はガイルの抱き紐を締め直し、ティコは軽く腕を振った。エルファンドはティコの隣りに立つ。
「――ティコさん、足手纏いですみません」
「昔っから変わらねえなあ」
「昔?」
 ティコは肩の筋肉をほぐしながら頷いた。
「エルファンドがエルファンドになるずーっと昔の事だ。俺達は何度か巡り逢ってるんだよ」
「前世でって事ですね」
「そう。この世界は神族や神人族、魔族、冥族、その他精霊達なんかと人間との境が曖昧なんだよ。他の世界からしてみりゃ、理解不可能だろうけどな」
「他の世界なんてあるんですか?」
 マックスウェルがエルファンドを少し振り返った。
「あるよ。無数の世界がね。今この瞬間に生まれる世界もあれば、役目が終わる世界もある。それこそ、石鹸の泡のように生まれては消えていくの。所詮、どの世界も天帝と創造主の箱庭にしか過ぎないけどね」
 ティコは頷いている。
「世界がどんなにあっても、神界、神世界、魔界(ゲヘナ)冥界(ハデス)だけは、どの世界にも知られているんだよ。恐らく、この四世界が始まりなんだろうね」
 エルファンドは腕を組み、首を傾げた。
「なんか、哲学的な話ですね」
「誰も知ろうとはしないだろうけどな。知り得たところでどうにもならない事だし、証明しろって言われても出来ないだろうしな」
 エルファンドはティコを見た。
「ティコさんは知っているんですか?」
「少なくともエルファンドよりは知っているかな。お前が子化けなら、俺は全化けだろうし」
 ティコは肩を竦め、いきなりエルファンドの前に躍り出た。ティコの両手から蜘蛛が糸を吐き出すかのように、緑色の気を帯びた真っ白い包帯が無数に飛び出す。
 エルファンドは周囲を見て、目を丸くする。
 真っ白い包帯が絡まる人間の形に近い何かがもがいていた。
「気配が……」
 ティコが両手を引くと人型は粉砕する。まさに粉砕という表現が似合う。人型は石が砕け散るように粉々になった。明らかに動植物のような水分を蓄えたモノではなく、無機質な物質の集合体のようだった。
「そりゃ気配なんぞないだろ。キースとやらが作り出した似非物だからな」
 ティコは次々と包帯を繰り出し、人型を粉砕していく。
 エルファンドはマックスウェルと竜王を見た。
マックスウェルが手を軽く払う度に、周囲の人型は弾けるように消えていく。竜王は全く動いている気配がなかった。だが、人型は何かに跳ね返され、塵となり消えていった。
「思っていた以上に強いじゃねえか」
 竜王がマックスウェルを一瞥する。
「二年でこんなに成長してるとはね。ゴーレムを作り出せちゃうとは計算外」
「本当に計算外なのか?」
 竜王の手がやっと動いた。ガイルの目の前で、ゴーレムが粉砕する。
「ひっ!」
 ガイルは短い悲鳴を上げた。
「計算外さ。隔離房に入る前からこれだよ」
 エルファンドはマックスウェルの横顔を見て、マックスウェルが嬉しそうに微笑んでいるのに、肩を竦ませた。マックスウェルの計算外は、嬉しい誤算が大方なのだろう。
「嬉しそうだね」
 ティコがエルファンドの心情を代弁するかのように、苦笑いを浮かべた。
「嬉しい? そんな事ないよ。かなり困っているかな」
 マックスウェルは笑顔でそう言いながら、ゴーレムを砕く。
 ぴったり隣りに付いているエルファンドに、ティコは小声で話し掛けた。
「困っているように見えるか?」
「全く」
「見えないよな、どう見ても」
「ええ」
 エルファンドは頷いた。
「あれ、全く、自分の力、使ってないんだぜ」
 周りにいる最後のゴーレムを砕きながら、ティコは肩を竦ませた。
 マックスウェルは洞窟入口に佇み、中を覗き込んだ。
「ティコ。エルファンドに要らぬ知識を吹き込まないの」
「困ってるなら、少しは開放したっていいんじゃねえ?」
 マックスウェルは眉間に微かな皺が寄った。
「ダメ。暴走してるキースの影響でちょっと不安定だから、なるべく使いたくないの」
「へえ。マックスウェルがそんなに影響される力なのか」
「まっ、マックスウェル!?」
 竜王の言葉にガイルが大声を張り上げた。ガイルの声が洞窟に反響する。
 マックスウェルは竜王を見据えた。
 竜王は慌てて口を塞ぎ、マックスウェルを見下ろしていた。
「竜王……」
 竜王の胸元でガイルはジタバタと体を動かしている。
「マジで! マジで、アバン・ヘルムさんが、あのクラーク・マックスウェルなのか?」
 マックスウェルは大きな溜め息を吐いた。
「竜王、恨むよ」
「すっ、すまん。()ち壊して」
「マジでそうなの?」
 ガイルはマックスウェルを見詰めていた。
 竜王はガイルの頭をグリグリと撫で付けた。
「そうだ、ガイル。そして、俺とお前は、マックスウェルの策を()ち壊した」
 ガイルは慌ててマックスウェルを見た。
「ガイルを共犯に巻き込むのは良くないぜ、竜王」
 ティコが竜王に苦笑いを浮かべた。


↓後書きはこちら!↓
小説『グロッサム』後書き
(剣崎輝のBlogカテゴリーになってます)

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↓キースとガイルの少年時代↓
Be born to something- CHILDHOOD'S END-

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