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  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
第一章 3.4
 マックスウェル達がミゼルナ家に入ると、丁度玉の汗を拭いながら部屋から出て来たティコがいた。
「どう?」
 マックスウェルが首を傾げると、ティコは深く溜め息を吐いて、埃の被ったテーブルに腰掛けた。
「覚めない。あれは俺の範疇じゃないね。で。ダンと息子のハースは流行病にやられてる。取りあえず治療はしたが、当分使い物にならないだろう。ダンに関しては、もう仕事場に復帰するのは無理」
「惜しい腕を無くしたな」
 竜王は軽く首を振る。
 マックスウェルは溜め息を吐いた。
「で。女性陣の方は?」
「まあ、健康そのものだけど、ロッシーは精神的に参っているようだね。恐らくキースが引っ捕まった時から寝込んでたんだと思うけど」
 ティコは深く溜め息を吐いた。
「治療は凄い楽だったんだけど、あれを掛けたのが元服もしてない子供ってのが、末恐ろしい」
 エルファンドは首を傾げた。
「あの……」
「なんだ? 具合悪くなったか?」
「いえ。ここに着いてからずっと考えていた事なんですが、ゼベッツ家は分かります。でも、ミゼルナ家は、なんで隠されたりしていたんですか?」
「キースが掴まったからだろ?」
 竜王はエルファンドの疑問に首を傾げた。
「キースが捕まり家族が迫害を受ける可能性があったは分かります。でも、捕まったのは年端もいかないキースですよ。迫害の可能性を考えられたかもしれませんが、家を隠したりするのは、いくらなんでも無理なんじゃ……」
 マックスウェルはエルファンドに苦笑いを浮かべた。
「だから双眸のアメリクサなんだよ。エルファンド、アメリクサって賢石は、何から出来ているか知っている?」
「名高い術士の死後に現れる石だとは聞いていますが」
 マックスウェルは腰袋から小さめの巾着袋を取り出し、巾着を広げると、紫苑色の宝石が現れた。
「これは私の所有するアメリクサの一つ。撫子(なでしこ)さん」
「こんな大きなアメリクサ、初めて見ました」
「そう? まあ、石は初めてかもしれないね。でね、この撫子さんは三人の術士から生まれた石なんだ」
 竜王がアメリクサを手に取ろうとすると、マックスウェルに思いっきり手を(はた)かれた。
「撫子さんが嫌がるだろ!」
 竜王は口の端を軽く上げながら、舌打ちをした。
「なんだよ、触るくらいいいじゃねえか」
「戦士嫌いなんだよ、撫子さん」
 マックスウェルはそう言って、アメリクサを軽く指で撫でた。
 エルファンドは、内から淡い光を放つアメリクサを見詰めていた。
「反応してる」
「そりゃね。元人間だから」
 エルファンドはマックスウェルを見詰めた。
「えーっと、アメリクサは術士の死後に現れる石なんですよね」
「そうだよ。ある術系統はね、後世に力を残す事が出来る。いや、残ってしまうんだ。それが受け継がれずに凝縮されたのが、アメリクサ」
「力を受け継ぐ? そんな事が出来るんですか?」
 マックスウェルはエルファンドに含み笑いを浮かべた。
「何言ってるの。産まれ来る魂は、みんな受け継ぐじゃないか。双親血族の姿形、癖や好み、能力。魂が持つ業、そして、魂が持つ力。これが全て絡まり合わさって、一人の人間を形成している。ただね、アメリクサが生まれる術系統は、受け渡す方が受け渡すか、無理やり奪わなければ、こうやってアメリクサになる」
 エルファンドは唾を飲み込んだ。もし、代々受け継がれていたら、アメリクサは石ではなく、人間そのものになる。
「――し、しかし、キースの家は」
 マックスウェルはエルファンドを一瞥して、アメリクサの撫子さんを指で触る。内から指の当たる個所に光の筋が生まれていた。
「キースはね。キースの魂が受け継いだ口。ようは誰にも自分の力を渡したくなかったんだろうね。普通なら全く特徴が出ないんだけど、あの子は炎の女帝の申し子だからね」
「え。ガイルみたいにキースの母親が炎の女帝なんですか?」
 エルファンドの言葉に、ティコは慌てて首を振った。
「ロッシーもダンも精霊でもなけりゃ、血筋でもない。かなり気に入られてはいるがな」
「ガイル達は、ある意味落胤だけど、キースは女帝が望んで作らせた子供だよ。自分の息子の為にね」
 エルファンドは口を開けざるえなかった。なんでわかるのか、という問い掛けは愚問というものだ。自分よりも遥かに年上の人間を捕まえて、知識の深さを問う事は、自分が愚人であると証明するようなモノだ。
「――アメリクサが人から生まれるのは分かりました。でも、それがなんで、増幅効果があるのか分かりません」
 マックスウェルは一瞬、目を見開いて、大笑いしだした。
「エルファンド、寺子屋の子供でも分かるような事、聞かないでよ! まあ、聞けば一時の恥だしね。足算だよ、足算。簡単なね。まあ、掛け算になる時もあるけど。1+1=2だろ? ただ、それだけさ。撫子さん級になると、また違って来るけどね」
 マックスウェルはアメリクサを手に取り、ポイッと床に投げた。アメリクサは閃光を放ち、撫子色の女性が現れ、その場に跪いた。
「なんなりと」
 エルファンドはその撫子色の女性を、口を開いて見詰めていた。この撫子色の女性を歴史文献で見た事がある。先々代帝王時代、名を馳せた美人術士。
「――聡明の撫子」
 撫子色の美女はエルファンドを一瞥し、マックスウェルに視線を戻した。
「この家に掛かっている術を解いて欲しいんだ、掛かったままを装ってね」
 撫子は周囲を見渡し、爽風のような笑みを浮かべた。
「畏まりました」
 撫子が立ち上がり踊るように軽く足を踏み鳴らすと、空気の感触が変わった。今まで重苦しい止どまったままの空気が、スーッと流れ始める。
 マックスウェルは撫子に微笑んだ。
「ありがとう。で。まだ、僕のモノになりたくないの?」
 撫子はマックスウェルに微笑んだ。
「お断りいたします」
 カランと宝石が床の上に落ちる。マックスウェルはそれを渋々拾い上げた。
「もう。相変わらず意地っ張りなんだから」
 マックスウェルが巾着で宝石を包み、腰袋にしまった。
「なに、ボケッとしてるの? もう気付薬で起こせるはずだよ」
 ティコは慌てて、立ち上がり、部屋を後にする。
 エルファンドは呆然としていた。
 マックスウェルは周囲を見渡し、頷いた。
「うん。気付かれてない」
「で。これからどうするんだ?」
 竜王はエルファンドに軽く蹴りを入れ、マックスウェルを見た。
「取りあえず、親御さん達に事情説明とその当時の状況把握だね」
 マックスウェルは二人に笑い掛けた。



 目を覚ましたミゼルナ一家は、ダンとハース以外、目を白黒させていた。ロッシーに至っては再びベッドに倒れ込んでしまった。
 寝室で一人、話を聞き終えたダンは深い溜め息を吐く。
「――マックスウェル殿や竜王殿が動かざる得ない状況になっているとは」
「うんまあ、成り行きでね。一年経っているとはいえ、直轄区も建て直ってないし、帝国自体やっと立ち直り始めたばかりだからね。それより……」
 マックスウェルはどこから音もなく十数枚の紙を取り出した。
「ミゼルナ殿の子息達の何人かは、帝国戦士だったよね」
 ダンはマックスウェルと竜王、そして、エルファンドの顔を見て、悲しげに口を歪めた。
「バース達の報せですか?」
 マックスウェルは四枚の紙を竜王に差し出した。
 竜王はその四枚に目を通し、ダンを見詰めた。
「――ミゼルナ殿。申し訳ない」
 ダンはその四枚の死亡通知書を手に取り、次男のバース・ミゼルナの名を見詰めた。
「――皆、戦死通知書と同じ紙切れ一枚になっちまったか」
「すまん、ミゼルナ殿」
 竜王は深々と頭を下げた。
「竜王殿。貴方が頭を下げる事じゃない。人災だろうが天災だろうが、流行病は流行病。私もキースが守ってくれなければ、バース達より先に逝っていただろう…… ただ、親より先に逝く子供は、親不孝者だ」
 通知書にバタバタと大粒の水滴が落ちた。
 マックスウェルも竜王も眉間に深く皺を寄せ、肩を震わせるダンを、黙って見詰めていた。エルファンドは下唇をかみ締め、悲愴感に耐えていた。
 ダンは死亡通知書を枕の下に忍ばせ、マックスウェルを見詰めた。
「――して。マックスウェル殿。キースはいかがするおつもりで」
「まずはこれからキースを探しにいく。ガイルは留置場で見たのが最後だね。ミゼルナ殿、キースはまだ留置場にいるの?」
 ミゼルナはマックスウェルの言葉に首を振った。
「私が聞いた限りでは、領警邏の留置場が破壊され、そこでは、危険だということで、隔離房へ移したと……」
 マックスウェルは顎を撫でる。
「隔離房ねえ…… 領警邏は壊滅状態だし、留置場とは別な場所にあるんだろうし…… やっぱり、ガキ大将ガイルの知識が必要か」
 ダンは苦笑いを浮かべた。
「ガイルはこの村の隅々まで知ってますからな。我々が意図して足を向けない場所まで行きますからな、子供達は」
 マックスウェルも竜王も大きく頷いていた。
「そうそう。キツく叱っても、興味本位で覗くから困るんだよね」
 まだ結婚もしておらず子供もいないエルファンドは、黙ってその父親達の会話を聞いていた。
 父親三人はしばらく子供談義に花が咲いた。
 エルファンドは父親になると、誰でも多少は親バカになるんだなと、尊敬する二人の護衛騎士団(かしら)を内心苦笑いをしていた。
「――と、いうこともありますし。キースの事、よろしくお願いします」
 ダンはいきなり深々と頭を下げた。
 エルファンドはいきなり頭を下げたダンの心意が、分からなかった。
 竜王はダンの肩に手を置いた。
「ミゼルナ殿。俺らは最善を尽くすだけ。尽くした結果、最悪な結末になっても、分かって欲しい」
 ダンは顔を上げ、竜王とマックスウェルに頷いた。
「キースを授かる直前、流浪の占い師に言われました。次の子は奔流の一人になる魂だと。そういう運命の始まりなのでしょう。覚悟は出来ています」
「その占い師、他になんか言ってなかった?」
 マックスウェルの質問に、ダンを始め、竜王もエルファンドも不思議そうに首を傾げた。
「マックスウェル。なに、喰らい付いてるんだ」
「いいの、気にしないで。どんな姿形の占い師だった? 女性? 顔は見なかったの? 若いの?」
 マックスウェルは竜王に微笑み、ダンに矢継ぎ早に質問を繰り出した。
「はあ。確か若い女性でしたね。真っ赤な髪の凛々しい顔立ちの綺麗な女性でした。他に言われた事は…… えーっと…… 次の子は奔流の一人で、炎と氷の相容れない力が宿るとかなんとか」
 マックスウェルはニンマリ微笑んだ。
「第一子か」
 三人はますます首を傾げるばかりだった。
 マックスウェルは大きく頷いて立ち上がった。
「ミゼルナ殿、貴重な情報ありがとう。キースは必ず五体満足で、連れて帰ってくるから安心して」
 ダンのたった一言で、マックスウェルの言葉が変わった。ここに来て初めて楽観的な言葉を口にした。
「何事も体が資本だから、十分養生するんだよ」
「ありがとうございます」
 マックスウェルと竜王はダンの手を強く握り、部屋を後にした。
 エルファンドはダンに深く頭を下げ、部屋の扉を閉め、マックスウェルと竜王を見て、ギョッとした。
 二人の眉間に深い皺が刻まれていた。
「気丈な人だ」
「そうだね。僕だったら、話にならなくなるよ。それを言うなら、竜王だって、そうじゃないの?」
 竜王はマックスウェルに苦笑いを浮かべた。
「あの時はキャルが半狂乱だったからな」
 竜王はそう言って歩き出した。
 エルファンドは二人の背中を黙って見詰めた。自分は結婚もしておらず子供もいない。子供を亡くす悲痛さは分からない。兄弟を亡くすより、さらに胸は痛いのだろう。
 エルファンドは扉を振り返った。ダンは四人の息子を亡くし、末っ子のキースもどうなるか分からない。
 エルファンドは決心を新たに扉に大きく頷いた。


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小説『グロッサム』後書き
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