第一章 3.3
マックスウェルが手を上げて、エルファンド達を止める。
「ガイル。ガイルの家はどこ?」
ガイルは顔を上げ、目を見開いた。
「な! 家がない! キースん家もない! あそこに俺ん家とキースの家があったのに!」
エルファンドはガイルが指差す前方を見ると、そこから森が続いていた。
「なんで、なんでだよ!」
マックスウェルはいきなり両手を強く合わせた。まさにパンっという音共に、森だったはずの場所に家が二軒現れた。
ガイルは呆然と家を見詰めてしまう。
「家だ」
「オーパ」
マックスウェルがオーパの名前を呼ぶと、マックスウェルが選出した数人の術士とオーパ、竜王が選出した数人の戦士が動き出した。
ガイルは動かないエルファンドやマックスウェル、竜王の顔を不思議そうに見る。
エルファンドはその視線に気が付き、微笑んだ。
「なんだ、ガイル」
「あ、うん。どうしてオーパさん達が先に行ったの?」
「状況把握のためだよ。なんでガイルとキースの家が隠されていたのか、理由が分からないだろ?」
ガイルは自分の家を見詰めた。
「うん」
戦士とオーパが走って帰ってきた。戦士は竜王に耳打ちし、そのまま、広場に走り去る。オーパはマックスウェルに頷いた。
マックスウェルはオーパに頷き返し顎を撫で、周囲を見渡す。
「――うーん。これじゃ探しようがないんだよね。入り乱れちゃってるし、残像が多過ぎちゃって。家人が起きるのを待つしかないかな」
マックスウェルはガイルに苦笑いを浮かべた。
「ガイル。家族は無事だよ。ただね、ガイルのように寝かされているから、ティコに診察をしてもらって、起こしてもらおうね」
ガイルはホッとしたように、体の力を抜いた。
「良かった」
ティコに因って、目を覚ましたガイルの家族は、ガイルの無事を喜び、一年の月日が経っているのに、母親のニルハは驚いていた。
エルファンドはガイルを部屋に運び、ベッドに寝かせようとすると、ガイルは頑なに首を横に振った。
「俺も一緒にキースを探す!」
エルファンドは苦笑いをし、ガイルの頭を撫でた。
「お前の気持ちは分かるよ。でもね、今お前の体は養生が一番必要なんだ」
「でも、キースは俺が死んだと絶対に思ってる。アバン・ヘルムさんやエルファンドさんが生きてるって言ったって、あいつは信じないよ!」
エルファンドはガイルの言葉に顎を撫でた。ガイルの言葉も一理ある。だが、ガイルの身体には十分な栄養と休息が必要だ。
万能医者のティコが、こうなった至った経緯を探ったらしい。エルファンドは探る術に疑問を持ったが、企業秘密と片目を瞑り答えられたら、流すほかなかった。
『そのキースとやらが発した紫色の閃光で目をやられ、吹っ飛ばされたんだろうな、森に。で、森の帝王に助けられた。だが、森の帝王もあそこまでが限界だったんだろうな。普通だったら、ガイルは死んでたはずだから』
ガイルの受けた刺し傷は、背骨を砕き、脊髄を切断し、心臓を一突きだった。
『ガイルを命を救う為に、大半の力を使ってしまったんだろうね、森の帝王は』
エルファンドはガイルを見ると、ガイルはエルファンドを力強い瞳で見詰めていた。
エルファンドは溜め息を吐き、ガイルの頭を撫でた。
「――私だけの一存では決められない。でも、約束しよう。キースを探しに行く時、黙ってはいかない。連れて行けるかどうかは分からないけど、黙ってはいかないよ。だから、取りあえずは寝なさい」
「約束だからな。絶対だからな」
「分かったから、早く寝てくれ。じゃないと話にいけない」
エルファンドはガイルの頭を撫でる。ガイルは慌てて目を瞑った。家に帰ってきた安心感と衰弱しきった体は、すぐにガイルを夢の世界に連れていった。
エルファンドはガイルの頭を一撫でし、部屋を出、マックスウェル達がいるであろう応接室に向かった。
エルファンドが応接室に入ると、ニルハが顔に前掛けを当て、咽び泣いていた。
「どうしたんですか?」
「ガイルの話をしたんだ」
マックスウェルは肩を竦ませる。
「――知らなかったみたい」
「何をですか?」
「ガイルの父親の事」
エルファンドは首を傾げた。
竜王は溜め息を吐いた。
「エルファンドも意外と鈍感だな。察知しているのかと思ったよ」
「え。ガイルの父親は森の帝王と呼ばれている精霊ですよね…… あ」
エルファンドは慌てて口を塞ぎ、顔を上げたニルハを見詰めた。
「――取り乱したりして、申し訳ありませんでした。今こうして考えてみると、ショナは不思議な人でした」
ニルハは窓の外に見える森を見詰め、溜め息を吐いた。
「――子供達になんといえば、いいのでしょう」
「本当の事を話された方がいいと思いますよ。特に分別のつくガイルには」
ニルハはエルファンドの言葉に苦笑いを浮かべた。
「そうですね…… でも、ガイルの夢を壊してしまうかもしれません」
「それはガイルが決める事です。ガイルはまだ元服も迎えてない子供です。元服したとしても、まだまだ成長していきます。今、夢が叶わないからと投げ出す人間は、帝国戦士にはいりませんので。もしガイルがそうであれば、私の見込み違いですね」
マックスウェルはニルハに微笑んだ。
ニルハは不思議そうにマックスウェルを見た。
「見込み違いとは……」
「ガイルとキースの秘めた能力を見込んで、親御さん達に帝国軍入りを薦めたのは、僕ですから」
ニルハは目を見開いて、慌てて平伏した。
「はっ、初めてお目にかかります、わっ、私、ガイルの母、ニルハ・ゼベッツと申します。ガイルの事、どうかどうか、よしなに」
マックスウェルはニルハの手を取り、椅子に座らせた。
「そんな畏まらないで下さい。職位はありますが、貴方と同じ平民ですから」
ニルハはどう答えていいか分からなかった。
「取りあえず、ガイルには話した方がいいでしょう。で、エルファンド、なに?」
エルファンドは肩を竦ませ、ガイルの話をした。
「そう」
エルファンドの話を聞き終えたマックスウェルは竜王を一瞥した。竜王は溜め息を吐き、エルファンドを見る。
「抜きで話そうと思っていたんだが、そうもいかなそうだな」
エルファンドはマックスウェルと竜王を見た。
「私も抜きでって事ですよね」
竜王は頷き、ニルハを見た。
「すまんが、この場を借りる事は可能か?」
ニルハは竜王に微笑んだ。
「もし、今日のお宿をお決めではないのでしたら、どうぞお使い下さいませ。何もお構い出来ませんが……」
「助かります。外に我々の部下がいますので、なんなりと申し付けて下さい。オーパ、お前達は野営の準備とニルハさんのお手伝いを」
オーパはマックスウェルに頷き、ニルハに微笑んだ。
「畏まりました。なんなりと申し付けて下さい」
ニルハは慌てて手を振った。
「そんな、お手を煩わすような事はありませんよ。薪もたくさんありますし…… ああ、それは一年前の話ですね……」
「では、まず薪割からいたしましょう」
オーパはニルハに微笑みながら、部屋の外へと連れ出していく。
扉が閉まると、エルファンドは竜王とマックスウェルを見据えた。
「私を抜きにとはどういう事ですか」
「キースを知っているからだよ」
マックスウェルはエルファンドに微笑んだ。
「最悪、キースとやらを殺らなきゃならん」
エルファンドは竜王の言葉で、黙ってマックスウェルを見詰めた。
「僕だって手遅れじゃないことを祈っているけど、もし、キース自身が喰われてしまっていたら、僕にも助ける事が出来ない」
エルファンドは目を瞑り、再び、マックスウェルと竜王を見た。
「もし、そんな事が起きていたら、私に命を」
「だからね、エルファンドとガイル抜きで探したかったんだ。一瞬の隙が命取りになるから。絶対にお前はためらうし」
マックスウェルはエルファンドを見詰めたまま、一呼吸置いた。
「でもね。中途半端だった場合、エルファンドとガイルはかなり役に立つ。竜王、抱き抱えて、剣を振るのは可能?」
竜王は肩を竦ませた。
「エルファンドは守れんが、ガイルぐらいはいける」
エルファンドはその言葉にギョッとした。
マックスウェルはエルファンドに微笑んだ。
「僕が見込んだ双眸のアメリクサだよ。ある意味手負いのドラゴンより強敵さ。キースを探しにいくのは、僕、竜王、エルファンドにガイル。そして、ティコの五人だけだ」
「え。万能医者もですか?」
エルファンドは意外な顔をした。
「そうだよ。ティコはああ見えても、護衛騎士団より強いから安心して。一番問題なのはエルファンドなんだから」
「わっ、私ですか?」
「そう。僕達は自分の事で手一杯になるはずだから、自分の身は自分で守ってね」
「わ、分かりました」
エルファンドは内心、マックスウェル達の帰りを待った方が得策だと思った。だが、ミルーナとの約束がそれでは果たせない。
万が一、キースがマックスウェル達の手に掛かり死んだ場合、同行していなければミルーナに説明出来ない。
キース自身が喰われる。誰に? 何に?
エルファンドは聞き流していた疑問に気が付いた。
「マックスウェル様、キースは何に喰われるのですか?」
マックスウェルはエルファンドにクスリと笑い掛けた。
「あれ、気が付いちゃったの? 流しておけばいいのに。だから、キース自身にだよ」
「えーっと、キース自身とは……」
「キースが大の仲良しで飼っていると表現されている赤と青にだよ。あれもキース自身。まあ、厳密にいえばキース自身ではないんだけど、キースが死ねば赤と青も死ぬ。キースが苦しめば、赤と青も苦しい。まさに一心同体」
「赤と青とはなんでしょう?」
マックスウェルは含み笑いをした。
「エルファンドが他人の事を知ってどうするの? 自分自身も分かっていないのに」
エルファンドは腕輪を咄嗟に触れた。
「えーっと…… 他人から見た方が自分が良く分かるというじゃないですか」
「まあ、それも一理あるかな。質が違うけど、内なるモノを抱えているのは、キースもエルファンドも同じだからね。赤と青は力の根源だよ。ただ、この手の根源が厄介でね。下手したら宿主の魂までも喰らってしまうんだ。魂を喰らわれてしまったら、キースはキースであるけれど、キースではない。人間を脅かす化け物になるんだよ」
エルファンドは黙ってマックスウェルを見詰めていた。
「ちなみにエルファンドは自分の魂が全く分かってない状態。エルファンドの御生母様は力があった人なんだね。多分、その血筋の人なのかな」
「その血筋とは?」
マックスウェルは徐に立ち上がった。
「エルファンドを産める血筋だよ。さてと、取りあえず、ミゼルナ家の様子見てこようか」
竜王も頷いた。
「ティコが向こう行ってだいぶ経つしな。エルファンド、行くぞ」
「あ、はい」
エルファンドは我に返り、竜王とマックスウェルの後を追った。
↓後書きはこちら!↓
小説『グロッサム』後書き
(剣崎輝のBlogカテゴリーになってます)
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。