ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  Growin'up to something -SECOND BIRTH- 作者:剣崎 輝
 ★お待たせいたしました。『Beborntosomething-CHILDHOOD'SEND-』の続編です。
 ★この作品は不定期連載になります。

 ★この作品はストーリー上、流血表現、グロテスク表現、
  差別表現、性的行為の詳細表現などを用いています。
  上記の表現が苦手な方、不快に思われる方は、ご理解ご容赦いただき、
  ご自身の御判断の上、読む・読まないをお決め下さいませ。
序章
 早春の淡い空を悲しげにのぼる暗灰色の煙。その煙の多さに、街中が霞んでいる。あちらこちらから上り立つ暗灰色の柱に囲まれ、この国を治める帝王の宮殿もどこか悲愴感に包まれていた。
 宮殿内のその窓辺から一つ溜め息が漏れる。
「――こんなに犠牲者が出たのか。僕が寝ている間に」
 薄茶色の髪が左右にゆっくりと揺れた。
「ええ。あなたもダメになってしまうのかと」
 窓辺に立つ細身の肩にガウンが掛かった。男はゆっくり振り返り、後ろに立っていた苔緑色の長髪の女性を抱き締めた。
「僕がソフィアを残して冥界ハデスに旅立つと思う?」
 潤む煌緑の瞳を見つめ、男は優しくその頬に手を当てた。
 ソフィアと呼ばれた女性は首を振り、男に抱き付く。
「あなた」
「心配を掛けたね、ソフィア。ところで、どの位寝ていたんだい?」
 ソフィアは男に顔を上げる。男は頬に伝う涙を指で拭い、もう一度、彼女に問い掛けた。
 ソフィアは首を振る。
「目が覚めたばかりなのだから、まだ養生は必要よ」
 男はソフィアに苦笑いを浮かべる。
「僕が倒れてしまって、上や下やの大騒ぎだっただろうし、上に立つ者がこの非常事態にのんびりと養生しているわけにはいかないよ」
「いんや。この際だ、のんびり休んどけ、マックスウェル」
 扉が開き、灰色の髪で背丈二メートルは確実にある筋肉質な男と、全身真緑で真っ黒いゴーグルを掛けた男が入ってきた。
 護衛騎士団頭クラーク・マックスウェルは、その二人に珍しく苦笑いを浮かべる。
「すまなかったね、竜王、ティコ」
 ソフィアは慌ててマックスウェルから離れようとするが、彼の腕がそうはさせてくれなかった。
 バカデカい男がその腕を一瞥し、片眉を上げる。
「――これ以上近付かない方が身のためか」
 その言葉に、マックスウェルは微笑んだ。
「いいよ、近付いてきても。その方が治りは早いし」
 肌まで真緑の男は肩を竦ませる。
「一応、診察させてくれないと困るんだけど」
「――分かったよ、ティコ」
 全身真緑男、万能医者のティコ・ブラウニーに、マックスウェルは肩を竦ませ返し、ソフィアを離して、寝間着を脱ぎ出した。
 バカデカい男、護衛騎士団頭右、キャリアシェーン・竜王・ガージャリアンは、窓際に移り煙草を吹かし始めた。
 ティコはマックスウェルの全裸を隈無く見つめ、大きく頷いた。
「病原体は死滅してる。あとは三日の養生だけだね」
 マックスウェルは溜め息を吐いた。
「三日も……」
 竜王は窓に紫煙をゆっくりと吹き掛けた。
「お前だから三日なんだろ。他の連中は死の淵から生還しても、一年はベッドから出れねえよ。完治するのに、数年掛かるそうだ」
 マックスウェルはソフィアから新しい寝間着を受け取り、袖を通した。
「そう。それにしても今回の流行病、酷いね。荼毘の煙が無数に立っている。万能医者もお手上げって感じ?」
 死者以外の病気ならなんでも治せると言う万能医者のティコが、肩を竦ませた。
「感染経路が飛沫核ひまつかく感染だったのと、第一次感染者が戦士だったからね」
 マックスウェルは竜王を見て、肩を竦ませた。
「戦士は体力自慢が多いからね。それが仇になったわけか」
「潜伏期間が一週間から十日、発病は三段階突発性。初期段階が感冒と酷似しててさ、初期段階の三日間で治療に掛かりゃ一週間で完治するんだが、第二段階の五日間に免疫治療しないと、致死率九十まで跳ね上がる。第三段階に入ると、もうね…… それこそ、鼬ごっこだよ。治療する側から壊疽してくし。それに今回の卵は無類の男好きな困ったちゃんでさ、手が早いのなんの……」
 ティコは肩を竦ませた。
 竜王も肩を竦ませる。
「最初の十三日間であちゃこちゃにまき散らしてくれた。城下外にもな」
 マックスウェルはベッドに座り、肩を竦ませた。
「ありゃりゃ、後処理が大変だ。で。僕は何日間寝ていたの?」
 竜王は肩を竦ませる。マックスウェルは、この流行病がすでに終結しているのを重々知っているのだ。聞けば恐らく、スラスラッと真実を推理として吐くだろう。
「約三週間」
「十九日間だよ」
 マックスウェルは二人の言葉を聞いて、微笑んだ。
「僕の隊の被害は?」
「死者四十三名、発病者三十八名、感染者六十五名」
 竜王の言葉を聞いて、マックスウェルは肩を落とした。
「これまた随分とやられたもんだ」
「研究所、図書館の連中は、死者六名、発病者八名、感染者十一名だ」
 マックスウェルは苦笑いを浮かべた。
「なるほど。流行病ちゃんはホント戦士がお好きなようで」
「第一次感染者が里帰りから戻ってきたのが、ナイト戦士だったのが幸いしたんだろうね」
 マックスウェルはベッドから窓を見つめた。
「一般区民は?」
「戦禍かって思うくらいに酷かった。喀血して倒れているのが男ばかりだからな」
 マックスウェルは自分の胸に手を当てた。
「肺にくるのか」
「ホント、マックスウェルはある意味医者要らずだよね」
 ティコが苦笑いを浮かべる。
「飼ってるヤツが全部片付けてくれちゃうから」
 マックスウェルはティコに片目を瞑り、笑い掛けた。
「なんならあげようか?」
 ティコは慌てて首を振る。
「いや、遠慮しとく。飼い慣らすのはマックスウェルしか出来ないよ」
 マックスウェルはベッドに横になった。ソフィアがマックスウェルに布団を肩まで掛ける。
「飼い慣らせてなんてないよ。押さえ付けるのに精一杯さ。ソフィア」
 マックスウェルはソフィアの手を握る。ソフィアはティコと竜王を見て、微笑んだ。
「すみません、竜王様、ティコさん。起きているのが限界みたいです」
 竜王とティコはソフィアに頷き、扉に向かった。
「第一次感染者はどこから戻ってきたの?」
 ベッドからマックスウェルの声がした。
「ルリャーダ領ウエウス郷エンボス庄だ」
 竜王が振り返りそう答えたが、マックスウェルからの返事はなかった。
 ベッドの脇に座るソフィアが竜王に苦笑いを浮かべた。
「すみません、竜王様。寝てしまったようです」
 竜王はソフィアに軽く手を上げ、部屋から出ていった。

 深い寝息を発てるマックスウェルの髪を、ソフィアは優しく撫でた。マックスウェルの寝顔は妻であるソフィアでも、滅多に見ることが出来なかった。寝食を共にしているソフィアでさえ、いつ寝ていつ起きているのか分からないくらい、マックスウェルは常に短時間しか寝ない。月に一、二度、九時間睡眠を取るぐらいで、通常は二時間程度寝ればいい方だった。
 ソフィアはその寝顔を愛しそうに見つめ、髪を撫でる。
 長く豊富な睫毛、スッと一本筋の通った高い鼻。薄く形の整った唇。宮殿内や城下の女性達は、その洗礼された顔立ちや優雅な立振舞い、いつも絶やさない微笑みから、王子様と噂する。
 ソフィアはマックスウェルの前髪をゆっくりと掻き上げた。ハラハラと前髪が額に戻っていく。こうやって眠りに付いている時でさえ、マックスウェルは様々な思考を巡らせているのかもしれないと、ソフィアは常々思っていた。病気が完治したら、しばらくは会えない日々が続く。
「こういう時くらい、何も考えずにゆっくりとお休みになって、クラーク」

 四日後、護衛騎士団第三寮の長い廊下を、虹色の飾り外套を靡かせ歩く、完治をしたマックスウェルの後ろ姿があった。



「マックスウェル様!」
 マックスウェルはその声に振り返り、いつものように笑みを浮かべ、手を軽く上げた。
「やあ。心配掛けてすまなかったね、オーパ」
 萌黄色の癖っ毛を弾ませて走りよってきたオーパ・グラグルは、涙を浮かべ思いっきり首を横に振った。
「倒れたと聞いた時には心臓が止まるかと思いましたよ。もう、本当に大丈夫なんですか?」
 マックスウェルはオーパにゆっくりと微笑んだ。
「大丈夫、完治してるよ。オーパこそ大丈夫だったの?」
 オーパはマックスウェルに苦笑いを浮かべ、頭を掻いた。
「ええ、全くと言っていいほど、かかりませんでした。お陰で僕らは血は抜かれるは、他に借り出されるはで、てんてこ舞いでした」
 マックスウェルはオーパを見た。
「僕ら?」
 オーパはマックスウェルに頷いた。
「はい。ヴェルマフマ出身の人間は罹らないみたいです」
 マックスウェルはオーパを見ながら顎を撫で、歩き出した。
「ふうん。ヴェルマフマの風土病が元かもしれないね。ヴェルマフマの連中は免疫があるのか」
 オーパはいつもと同じマックスウェルに、心底安堵し、目に堪った涙を拭った。倒れた直後の玉のような汗を掻く青白い苦悩した表情を目にした時、オーパの体中に戦慄が駆け巡った。このままこの人を亡くしてしまうかもしれないと。
 一日二日と目を覚まさない日数が増えていく事に、二度と隣りを歩く事が出来なくなるのではないかと、暗雲が心を覆いそれを拭いきれなかった。だが、そんな考えを見事に一瞬にして払拭したいつもの微笑み。
「オーパ、置いていくよ?」
 マックスウェルはオーパを振り返り、軽く笑い掛ける。オーパは慌ててマックスウェルの隣りに立ち、共に歩き出した。
「すみません。――あの流行病の症状からして、アマンマ腐肺病かと」
「アマンマ腐肺病か。それはティコに言ってあるよね?」
 オーパは大きく頷いた。
「もちろん、早急にお伝えしました。そうしたら、僕らは血を抜かれましたけど」
「恐らく血清を作るためだろうね。今頃、予防免疫剤も作られてるんだろうなあ」
 マックスウェルは顎を撫でた。
 マックスウェルの一見のんびりとした口調にオーパは笑みを浮かべる。
「で。欠員補充はいかがしますか?」
「もちろん、吟味して選ぶよ」
 オーパは音もなく数枚の紙を手元にび、マックスウェルに差し出した。
「今日現在、動ける人員です」
 マックスウェルは紙束を受け取り、紙束に素早く目を走らせ、オーパに手渡した。
「研究所と図書館はこのまま来期選考で大丈夫そうだね。問題は護衛騎士団だね」
「左様ですね。で、こちらが候補人員です」
 オーパはまた紙束を差し出した。
 マックスウェルは紙束を受け取り、再び紙束を捲り、溜め息を吐いた。
「かなり少ないね」
「はい。元々少ない上に今回の流行病ですから」
 マックスウェルは廊下を曲がり、護衛騎士団寮棟の中庭が臨める廊下に出、窓辺によっていった。
 中庭は第一寮から第五寮にグルッと囲まれている。中庭も他の寮内も慌ただしく戦士達が動いていた。
「一番被害にあったのはどこ?」
「護衛騎士団では竜王様とヨゼフィーナ様の隊で、帝国戦士では、ダーク銀以下がかなり酷いようです」
 マックスウェルは再び歩き出した。
「なるほど、やはり卵ちゃんは大の戦士好きだね。ダーク銀以下はガムシャラだろうしね……」
 マックスウェルはしばらく顎を撫でながら、沈黙を保った。オーパは黙ってその沈黙に付き合っていた。今、マックスウェルの頭脳が推測を繰り返しているのだ。
 マックスウェルは大きく頷き、オーパに微笑んだ。
「オーパ。シヴァだけじゃなくメア以下の隊以外の全帝国術士・術剣士の拾い上げを。術剣士に関しては、可能性のある戦士も忘れずにね。どこの隊所属でもいいから、情報かっ攫ってきて。動ける護衛騎士達に臨時選考会議を開くって、召集掛けて。私はこれから臨時会議だから、閉会後までに全て揃えといて」
 オーパは大きく頷いた。
「畏まりました」
 オーパが一礼をし、走り出す。
 マックスウェルの脇にスッと影が降りてきた。
 マックスウェルは影を一瞥し、笑みを浮かべた。
「ジンシャルも大変だったね」
 真っ白い髪を肩で切り揃えたジンシャル・ネルバーグは、苦笑いを浮かべる。
「マックスウェル様こそ、完治されていらっしゃるのですか?」
「すっかりね。私は血清要らずだから。で。どうなんだ?」
「この流行病はプロトだけではないのようですね。あと我々、策士達には主だった被害ありません」
 マックスウェルはホッとしたように頷いた。
「それは良かった。当分、護衛騎士団に掛かりっきりになるから、そっちはよろしくね」
「畏まりました。では、また、夕刻に報告に参ります」
 ジンシャルは一礼をし、その場から消えていった。
 マックスウェルは窓から臨める灰色に霞んだ空を見上げ、肩を竦ませた。
「しばらくは、荒れそうだ」
 マックスウェルの呟きは、鉄板予測だった。
 この後、数年、著しく治安が悪化した。地域治安を担う警邏は、一般区民と同じように大打撃を受け、体制を整え、一定水準の治安に戻すまで十数年の歳月を要した。


↓後書きはこちら!↓
小説『グロッサム』後書き
(剣崎輝のBlogカテゴリーになってます)

*:.。..。.:*
拍 手
*:.。..。.:*


↓キースとガイルの少年時代↓
Be born to something- CHILDHOOD'S END-

↓剣崎輝のま〜ったりBlog↓
てるてるの小説でDON !!





+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。