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  氷室研究所 作者:優楽
006 カミングアウト
 三崎君のお母さんは、住所と携帯電話の番号とアドレスを交換して帰っていった。

「マッキー今日はこれから何するつもり?」

「何って…。」

 一瞬私の方をチラッと見た気がした。

「パソコンの本体を持って帰ろうと思って。」

「そんなのどうするの?」

「先生の事だから、ここ以外にもデータのバックアップはあるだろうし、持ち帰って調べてみようと思ってさ。」

「そのパスワード知ってるの?」

「まぁ…。」

「じゃ、ここで良くない?」

「ゆっくり落ち着いて見たいから家でやるよ。」

「そうなの?」

「……。本当は保険の意味合いが強いけどね。」

「保険?」

「色々考えられるだろ?先生の親戚の田丸さんの前で言うのもなんだけど、俺らが先生に裏切られる事だって考えられるし…、」

 裏切る?

「もし先生がバックアップデータ持ってなかったら、その時はウチらの方が有利なるし。」

「まさか…。」

 さっきチラッと見たのはこのせいか…。

「私なら気にしないで下さい。親戚といっても遠縁で、私には教授の記憶はなくて、顔すら分からないですから。」

「そうなの?」

「はい。」

「そう…。マッキー他は?なんか持って帰るものある?」

「今んとこは無いかな…。」

「そう…。ねぇ、マッキー。」

「何?」

「言っておきたい事あるんだけど…。」

「どうした改まって?」

「実は私ね…、このままの体でいいかなって…。」

「男のままって事?」

「そう…。」

 はぁ?何だ?葵は何を言い出したんだ?

「実は私…、」

「性同一性障害?」

「…。」

「図星?」

「気付いてたの?」

「まあな。人を見る目が他の子と違うよ。男を見る目も女を見る目も…。それに2年間一緒にいて、スカート姿を見た事がない。」

「だからさ…。」

「構わねんじゃね?お前がそのままでいたいなら…。」

「マッキー…。」

「ウチの先生の研究に興味ある奴は、多かれ少なかれそんなもんさ。冷やかしも含めてな。」

「あの…、質問してもいいですか?」

「何?」

「教授は何を研究なさってたんですか?」

「えっ?田丸さんは何も知らないで来たの?」

「はぁ…。」

「あー、じゃあ、田丸さんはカクレクマノミって知ってる?」

「はぁ…。あのちょっと前にアニメ映画になったやつですよね?」

「そう。じゃ…、あの魚って自ら性転換するの知ってる?」

「へ〜っ、そうなんですか?」

 ん?

「群れの1番大きいメスだけが、子供を産む事が出来るんだ。群れの中で次に大きい奴だけがオスで、あとは全部メスなんだ。」

「はぁ…。」

「そのボスメスが死んだ時、群れの2番目に大きな体の奴がボスになれるんだが、次に大きいのは?」

「オス…?」

「そう。そいつがメスに性転換してメスになり、次にでかい奴がオスになる。」

「へ〜っ。えっ?つ、つまり先生は…?」

「性転換の研究さ。あと自然界では、植物や魚類、海老の一部でもその現象は見られるらしいよ。」

「つまり…、」

「研究は一応成功してたって事かな。今のとこ後遺症っていうか、弊害もないし人間に投与しても平気そうだし。」

「でも許可なく人体実験したら…、」

「今回は事故だよ。それにこんなの今の日本で許可が下りるわけがない。」

 確かに…。

「でもこんな薬が世間に出回ったら、人権的に…、いや、人道的にダメじゃないですか?」

「葵みたい子にはありがたい薬さ。」

「それは…。」

「体にメスを入れなくてすむし、生殖機能だってもしかしたら、変化後の体通りに機能するかもしれない。」

「…。」

「ホルモン剤を投与することによる体の負担もなくなる。いい事の方が多くない?」

「そっか…、でも悪用される可能性だって…。」

「確かに…。でも氷室教授が見つけなくても、いづれ誰かが発見する。いつか誰かが発表して良かれ悪しかれ世の中に出るなら、少しでも早く出た方がいいでしょ!苦しんでる人の為になった方が良くない?」

 見方を変えれば、どっちも正解なのかもしれない…。でも私達レベルで議論されるべき問題ではない気がする…。


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