ただ、傍にいたいと願った。
叶わぬことと、知りながら。
「なぁ、俺のことさ、どう思う?」
「馬鹿だと思うよ?」
あっさり言ってのけたコイツは、俺の幼馴染。
今年で、20歳。
「馬鹿って…いや、そういう意味じゃなくてさ。俺のこと」
「うーん、弟かな…」
「あ、そう…」
弟、と口の中で繰り返した。
たしかに、兄弟のように育ったけれど。
でも。
俺は、お前を姉だと思ったことはない。
「なぁ、本当に東京行くの?」
「行くよ」
そんなに、あの恋人が大事か?
あの男を追って、ここを出ていくのか?
「行くなよ」
「行くよ」
そう言って、香奈は笑った。
その笑みは、幸福なもので、俺も笑うしかなかった。
***
「お父さん、ここどこ?」
あれから、もう20年近くたつ。
俺も、結婚した。子どもも、できた。
もうないと思っていた、恋をして。
愛する妻と、子どもがいて。
俺は今、とても幸せだ。
普通のことが、これほど幸福なことだとは。
「ここは、お墓だ」
「お墓?」
「あなた、御花を生けたわ。線香をつけて」
妻が、線香とライターを渡してくれる。
俺は、そっと線香を墓にたてた。
「ねぇ、お母さん。誰のお墓なの?」
「お父さんの、お姉さんよ」
「お父さんに、お姉さんいたの?」
香奈は、死んだ。
東京に出て、2ヵ月後。
自殺、だった。
愛した男に捨てられて。
自ら、死を選んだ。
そっと、俺は墓の前に座り込んだ。
「香奈。なにも、してやれなかったな」
囁くように言うが、返事は勿論なにもない。
けれど。
「その方の分も、幸せになりましょう?」
俺の肩に、手が置かれる。
妻の、暖かな手。
「ああ、そうだな」
俺は、とても幸せで。
これからも、生きていく。
香奈のときは止まってしまったけれど。
ただ傍にいたいと願ったあのころ。
たしかに生きていた、香奈。
香奈。
君も、今の俺のように。
あのころ、幸せだったのだろうか?
俺は、これからも生きる。
愛するものたちと。
香奈。
俺は。
君を、忘れない。
おわり
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