序章
女はモニターを見つめていた。
白を基調とした斬新なデザインの真新しいオフィス内のことである。女は時折足を組み替えながらデスクに設置された最新のパソコンに映し出されたデータを次々とスクロールさせていた。その様子を彼女の後ろに立った一人の男がじっと眺めている。
「この人にするわ」
女は画面に映った人物を指差しながら言った。聞いていた男がパソコンを覗き込みそれに答える。
「ずいぶんと、対照的な方を選ばれるのですね」
「ええ、でもこれくらいの相手じゃないと釣り合わないわ。それに、この人でさえ胸以外で私に勝っている要素はなにひとつないでしょう?」
強気な問いに男は少し戸惑いながらも気になった点を指摘した。
「失礼ながら、身長も彼女のほうが高いように思いますが」
くるりと椅子を回転させて女は男と向き合った。初めて女の顔を正視した男ははっとした。彼女の年齢を事前に知っていたが、目の前に現れた顔はその歳に似つかわしくない幼さだった。
「バカね。女は高ければいいってもんじゃないわ。あなた、『彼女に望む身長ランキング』の一位をご存じ?」
「……いえ、申し訳ありません」
「あら、リサーチ不足ね」
女はやれやれという風に肩をすくめた。
「失礼しました。それでは、いつお会いになりますか?」
一礼したあと男は姿勢を正して訊ねた。
「会わないわ」
男は当惑した。勘違いや聞き違えという可能性は考えられなかった。しかし男は、もう一度確かめるように繰り返した。
「会われないのですか?」
「ええ、そうよ。連絡先だけ教えてちょうだい。いつ決行するかわからないから密に連絡を取りたいの」
そう言うと女はくるりと椅子を回転させてモニターに向き直った。
「わかりました」
男は足早に退席し、封筒を持って戻ってきた。女はそれを受け取るとオフィスから出ていった。入れ違いで別の女が部屋へ入ってくる。女はデスクに手をつきモニターに残された画面を入念に調べた。
「社長、あの方とはいったいどういう関係なのですか?」
「腐れ縁かしら。それより、あなたは彼女を見てどう思った?」
女社長は首だけ男へ振り向いて訊ねた。
「可愛い方だなと思いました。それがなにか?」
「質問を変えるわ。もし彼女に好きと告白されたらどうする?」
「今は彼女がいるので困りますが、いなければ大歓迎です」
女社長は微笑み、そして、男に事の全容を話した。
「……それはほっとけませんね」
「そうね」
動揺している男の肩をぽんっと叩いて、女社長は「万が一のためにフォローするから大丈夫よ」と意地悪な笑みを浮かべて歩き出した。
「驚かせないでくださいよ」
男は女社長の後を追った。 |